第二十八話 貴女と貴方との初夜


 ソニアは自分の寝室に入ると、綺麗に結い上げられた黒髪をほどくのだけ侍女に手伝わせた後は下がらせた。


「旦那さまがもう一度だけ私の婚礼衣装姿をご覧になりたいそうですから、後は自分たちで大丈夫よ」


「まあ、そうでございましたか。お休みなさいませ、奥さま」


 侍女は何の疑いも持っていないような微笑みを浮かべて退室した。


「もうすぐ脱げると思うと尚更苦しく感じられるわ、このコルセットという物体は! ルイのバカァ! この針金だらけのペティコートも脱いだら駄目なのよね……」


 ソニアは靴と靴下くらいはいいだろうとそれらを脱ぎ捨て、寝台に倒れ込んだ。




 ベンジャミンの言った通り、ルイはすぐに現れた。


 ソニアとベンジャミンの部屋の間にある柱は空洞で、掛けてある姿見の後ろが秘密の入口になっているのである。ベンジャミンの側にも同じ仕掛けがある。ソニアは侍女を下がらせてから既に隠し扉を開けておいた。


「ソニア、ああ今日のこの日がどんなに待ち遠しかったことか……ベンの為に花嫁衣裳を着た貴女を犯すことを何度も夢に見ていました」


 ルイはソニアをきつく抱きしめてすぐに寝台に押し倒し、彼女の唇を奪った。余りに激しいキスにソニアは息をするのも忘れそうだった。


「ルイ、ああルイ……」


 そしてソニアの唇を解放すると彼女をうつ伏せに寝かし、長い髪を脇によけて背中のボタンを一つずつ外し始める。


「コルセットを少し緩めて差し上げましょう。けれどドレスは着たままで私を受け入れて下さい……」


 ルイはソニアの花嫁衣裳の上半身を中途半端に脱がし、大きく広がったスカートをめくっている。


「ええ……貴方も脱がずに礼服のままで……お願いよ早く……」


「貴女という人は……先程大聖堂でベンへの永遠の愛を誓ったその口で他の男のモノをねだる言葉を紡ぐのですか……」


 ルイは何層もの布地の中にやっとソニアの下着を見つけ、それに手を掛けた。


「ルイ……あぁっ……」


「そしてその男に身をゆだねてよがっているなんてね……」


「意地悪……ああん、もっと……」



***



 その後、ルイはぐったりしているソニアの婚礼衣装を脱がせ、風呂に入れた。ソニアは素直に体を彼に預けている。


「ルイ、ありがとう。素敵な初夜にしてくれて。こうして貴方とゆっくりしたいところだけれど、ベンの所に早く行ってあげて」


「分かりました。お休みなさい、私の愛しいひと


 ソニアの体を優しく拭き、寝台に寝かせると最後に優しく彼女の唇をんで、ルイは隣の部屋へ繋がる扉を開けた。




「ベン、起きていますか? 扉を叩いても返事がなかったので、勝手に入ってきましたが」


「あ、ああ。ルイか。うとうとしていた、ごめん」


 ベンは既に寝間着姿で寝台の真ん中に座っていた。


「お疲れなのですね。初夜でなければこのまま寝かして差し上げたところですけれども」


「でも風呂に入ってうたた寝したら少し元気になった。この新しい屋敷で折角自由に行き来出来るようになったのだから、いつでも来ていいよ。ソニアと俺の部屋の間の扉だって、よほどのことがない限り鍵を掛けなくてもいいし」


「ソニアの方で鍵を掛けそうですね」


「はは、そうだね。さて今晩は君が既に散々ソニアに奉仕させられてもう精根尽きたっていうのなら別にこのまま何もしなくてもいいよ、一緒に寝よう」


 ベンジャミンは体をずらしてルイの場所を空けている。


「本当にそれでいいのですか?」


 ルイは意地悪そうな笑みを浮かべて、寝台に上がりベンジャミンの隣に滑り込んだ。


「本音を言うとルイが欲しくてたまらない」


「正直におねだりできた貴方にはご希望のことをして差し上げましょう」


「じゃあルイ、最初は君が……」


かしこまりました」



***



 二人は寝台で気だるい体を寄り添わせている。


「流石に疲れたろう、ルイ?」


「はい。けれど、今晩は私達三人にとって特別な夜にしたかったのです」


「十分してもらったよ。俺は幸せ者だ」


「晴れて妻帯者になったご気分はどうですか?」


「悪くないね」


「仲良くやっていけそうで良かったです」


「俺の奥さんは生意気で俺の言うことなすこと一々突っ掛かってくるし、彼女のせいで君と過ごせる時間が半減するし……」


「ははは……」


「でも彼女以外、偽装結婚して上手くいくだろうと思えた女なんて居なかったし、これからも現れないだろうね」


「それについては私も全く同意見です」




 新婚のソニアとベンジャミンにルイも加えた三人の生活は至って平和に楽しく過ぎていった。


 ソニアはこのような三角関係などすぐに仲違いや嫉妬で修復不可能なまでにこじれる可能性も予想していた。今のところ夫婦二人はお互いを尊重して、ルイの立場も考えて、本当に結婚して良かったと言えた。


 ねやについてはソニアの体の周期に合わせることとなった。妊娠しやすい週は基本的に毎夜ソニアの元にルイは訪れ、ソニアに月のものが来ている週には彼はベンジャミンの元へ通うことになった。それ以外の日々はルイが選ぶことにしている。ルイはなるべく二人交互に平等に通うようにした。


「私は結婚してルイに毎日会えるようになったのが嬉しいわ」


「私もですよ。隠れてこそこそしなくても良くなりましたからね」


「俺も君達が満足ならそれでいい」


「それにしてもルイは大変ね、私たち二人に代わる代わる、精を残らず吸い取られて」


 ソニアのその言葉に男性二人は呆れて目を見開いた。


「は、はい? 非常に誤解を招くような表現ですね」


「へぇ、俺がそんなこと言うと下品だって叱られるのに、ソニアも俺の会話に段々慣れてきた証拠かな」


「も、ものの例えよ! どうして貴方はいつもそんな品のない勘繰りをするのよ! ベンだけでなくてルイまで!」


「だって本当なんだろ? ソニア、最後の一滴まで飲み干すの?」


「なっ……ベンッ! これ以上言うと私退席しますから!」


「で、どうなのルイ?」


「私は発言控えさせていただきます」




 ソニアとベンジャミン夫婦は職場でもよく二人で食事をし、通勤も帰宅もほぼ毎日一緒だった。たまに別々に出勤したり、片方だけ残業したりすると周りから夫婦喧嘩でもしたの、と聞かれた。


 婚約を発表した時に不安な顔をしていたビアンカも夫婦の仲の良さに安堵の表情を見せていた。


「ベンは婚約してから笑顔が増えたような気がするわ。ソニアさんのお陰ね」


 ベンジャミン自身も気付いていなかったのか、彼女の言葉には驚いていた。確かにソニアとベンジャミンは二人で同じ秘密を共有しているし、本音で何でも語り合えるし、お互いに側に居て心地良いと思えるのだった。




***ひとこと***

あまり過激なことは書けない作者です。このくらいでご勘弁を。

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