第二十六話 親友の結婚式
冬が厳しくなる前に新居はほぼ出来ていた。結局隣り合わせの二階の夫婦の寝室の真上をルイの部屋にし、彼の部屋から下の階の二人の部屋のどちらにも行ける隠し扉を設けた。夫婦の寝室の間にある柱の一本は中が空洞でそこが通路になっている仕組みだった。
婚礼衣装やその他の準備も着々と進んでいる。ソニアの婚礼衣装については本人よりも双方の母親の方が色々と意見を出している。ソニアは母親と義理母の意見に素直に従った。
ルイはもちろん仕立屋についてくることは出来なかったが、彼にも希望はあるらしい。デザイン画を見てはソニアに注文をつけてくるのだった。
「普通男性は女性の髪型や化粧、お洒落全般に疎いものなのに、貴方たちは何をそんなに熱くなっているの?」
「逆にソニアはもっとお洒落に興味を持ってもいいよね。全く、美的感覚を疑うよ。君一人にドレスは選ばせられない」
「酷い言われようね。私はコルセットをぎゅうぎゅうに閉めなくてもいいドレスがいいの。それに自分の体重の半分はあるような重いドレスも肩が凝りそうで嫌なのよ」
「そんなの母親二人に即却下されるに決まっているだろ」
「私だって仕立屋には同行できませんが、貴女の花嫁衣装は私が脱がせるのですから色々注文を付けたくなるのは当然です。露出は少なめ、ボタンの数も無駄に多く、スカートもやたら広がっていて下に嵩張るペチコートがあるものを希望します」
「やたら具体的だね」
「でも脱がせる前に着衣のままするのもいいですね。最中で幾重にも重なるスカートやペチコートを途中で引き裂きたくなる難攻不落なドレスが燃えます」
ソニアは自分の衣装のことなのにもうついて行けなかった。
「俺の衣装もルイが脱がしてくれないと嫌だ」
「……あのね、式当日の夜、私は疲れ果てているだろうから、貴方たち二人でよろしくヤッてよ。私はゆっくり休ませてもらいたいわ」
「どうしてソニアはそんな色気も何もないことをおっしゃるのですか? 折角の初夜ですよ。先にソニアのお相手をして、次にベンでよろしいですよね?」
「どうせだから手っ取り早く三人でヤらない?」
「時々感心するわ。ルイ、貴方ってどうしてそんなに元気なの? あ、それから私は三人は遠慮しますから」
「初夜ですよ、ソニア。私達三人の門出の記念日ですよ」
「記念日なのは確かね。でも、初夜というのはね、カトリーヌの所みたいに結婚までお預けのカップルが祝うものでしょう? 私たちも貴方たちも今まで散々ヤりまくっているのだから関係ないわ」
「えっ、ティエリーって式まで本当に我慢しているの?」
「私が思うにはね。カトリーヌは結構信心深いからガニョンさんが遠慮しているのではないかしら」
「ガニョン様が少々気の毒になってきました」
「気の毒って言ってもね、結婚前は第二章に入らなくても第一章だけで楽しめばいいのよ。そうしたら初夜がとても良い思い出になるのではなくて?」
「はいはい、他人のことは今どうでもいいの」
「とにかく、式の夜はソニアが先で決定ですよ」
「ちょっとルイ本当に大丈夫なの? 貴方だって裏方で忙しいのに」
「俺達のルイは絶倫だからさ。それに翌日は休んでいいよ」
「お二人を悦ばせるために努力します」
「何だか気の毒になってきたわ。私達二人から精を吸い取られるルイが……」
「ソニアちゃん、露骨でエロいねその言い方。だから三人で同時にするとルイの負担も少ないから。串刺しとかやってみたくない?」
「みたくないですし、この三人では成立しないのでは?」
「そこは色々工夫をすればさ」
「お二人共、もうそのくらいにして下さい」
「ルイはいつも良い子ぶっているけれど、本当は俺達二人同時に相手したいって思っているに決まっているよ」
「発言控えさせていただきます」
付添人を務める友人の結婚式に自分たちの結婚式が立て続けにあって、冬の終わりから春にかけては大忙しだったソニアたちだった。新居の建築もほぼ終わり、少しずつ荷物を運び込んでいる。
まずはカトリーヌとティエリーの式の日がやってきた。カトリーヌの花嫁姿は言葉にならないくらい美しかった。新郎のティエリーは非常に嬉しそうで花嫁にデレデレである。
こんな一点の曇りもない結婚式を迎えられたカトリーヌが羨ましくないと言えば嘘になるが、ソニアは親友のために心から嬉しかった。カトリーヌは愛してやまない人と幸せになる権利がある。
「ソニア、今日は付添人を務めてくれてありがとう」
「お礼を言うのは私の方だわ。名誉ある付添人役に指名してくれてありがとう」
「私たち二人共幸せになりましょうね、ソニア」
式に出る前からソニアはベンジャミンにきつく言い聞かせていた。
「新婦のお父さま以上に泣き崩れたり、奇怪な行動に出たりはやめて下さいね、ベン。私の親友の晴れ舞台なのですから」
「おお、怖い怖い。もう少しリラックスして楽しめよ。俺だって親友ティエリーの一生に一度の式をぶち壊すわけがないだろ?」
「ティエリーさんの方は絶対親友だと思っていないわよねぇ」
「ソニアちゃん、最近益々毒舌に磨きがかかってない?」
「そうでしょうか? 貴方と何でもポンポン言い合えるのが楽しいだけですわ」
大聖堂での式の後はガニョン伯爵家での晩餐会だった。食事の後は新郎新婦のダンスから始まる。その後、それぞれが両親と踊り、付添人のソニアとベンジャミンは二人で踊った後は新郎新婦と相手を入れ替えるのだった。
ソニアはティエリーと踊っている時に、改めて彼から礼を言われた。
「カトリーヌとこれからも仲良くしてやって下さい。今までも、特に学生時代は彼女がお世話になりました。貴女が居なかったと思うと……」
「それはお互い様ですわ。私も彼女のお陰で留年せずに卒業も出来たし、この貴族社会で頑張れました。ところでガニョンさんはあの魔笛だけでなく、カトリーヌのために色々手回しや根回しをされたのでしょう? 彼女が知らないだけで、あのジョゼの解雇とか王宮の野外通路の灯り設置とか」
「え、どうしてそれを?」
「本宮から女性用の宿舎への灯り設置計画はあの事件があった後すぐに寮母さんから聞いたのです。それからロクデナシ左遷事件はカトリーヌが学生時代にお世話になっていた食堂のおばさんから。誰が働きかけたのか、すぐに分かりました。私が貴方だったら同じことをしたと思います。私はコネもツテもないですけれどね」
「貴女には敵わないなぁ……」
「うふふ……」
「貴方達三人のお幸せも夫婦二人で願っていますよ」
「ええ、私たちだって普通とは違う形だけれど、幸せになる権利はありますもの」
***ひとこと***
やはり三人から色々と言われているティエリーさんでした。「溺愛」の方ではカトリーヌとの結婚式の場面を書きませんでしたが、こちらで少し触れてみました。カトリーヌと無事に結婚できて良かったね、ティエリーさん。
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