第二十二話 共有する秘密
ベンジャミンは以前から言っていたように、侯爵位を継ぐ代わりに彼の提示する条件を全てポワリエ侯爵に呑ませた。
ルイを始め、新ポワリエ侯爵家の使用人はベンジャミンが選ぶこと、現ポワリエ家の屋敷に新侯爵夫妻は移り住まず新居を建てること、などである。
ペンジャミンとソニアがどこに住むことになろうが、使用人のルイは何も口を挟まないだろう。しかし、昔母親が働いていたポワリエ侯爵家に住むことはルイにとって大きな抵抗があるのでは、と二人は考えたのである。
そういう理由で、もしポワリエ侯爵が田舎の領地に引っ越して王都のポワリエの屋敷が空くとしても、ルイのためにも彼ら自身のためにも新しい屋敷を建てたかった。
結局ペンジャミンとソニアは王都郊外の静かな場所に土地を買い、新居の建設を始めることにした。
「俺達の生活に合わせた新居にしようね。使用人に分からないように三人が行き来できる間取りにしよう」
「私と貴方は行き来できなくてもいいじゃないの」
「けど表向きは夫婦なのだから続き部屋にしていないと、いくらなんでも使用人が不審に思うじゃないか」
「私の部屋をご夫婦の真上に持ってくるのはどうでしょうか?」
「そうね。何にしても三人鉢合わせ、なんて事態は避けたいわ」
「どうして? その時は三人で楽しめばいいじゃないか」
「ちょ、ちょっとベン! 貴方は何を言い出すのよ」
「ベン、今は家の設計の話を真面目にしているのですよ」
「ルイ、何一人良い子ぶってんだよ。実は好きだろう、そう言うの」
「……」
ルイは少々顔が赤くなっている。無言ということは肯定なのだろうかとソニアは疑った。
「わ、私はお断りよ」
「ソニア、君はまだ若いしね、経験を積んでマンネリ化してくるとそのうちもっと刺激が欲しくなるに決まっているよ」
「はい?」
それからしばらくの間、ソニアは魔術院でもベンジャミンに
「やあ、3Pに抵抗のあるソニアちゃん」
「ここ職場なのですけれど、セクハラ発言やめて下さい」
「だって君の反応が面白くて、つい」
「私、貴方に裸を見られたくないですし」
思わずまともに相手をしてしまうソニアだった。
「俺は構わないよ、君に全て
「アーソーデスカ」
「じゃあ君は脱がなかったらいいじゃない。着衣プレイでさ」
「ですから! 職場に相応しくない会話はやめて下さいって言っています!」
ソニアはベンジャミンに聞こえるように大きなため息をついた。こうしてお互いポンポンと何でも言い合えるのが楽しくないと言えば嘘になる。
「何だかね、ルイとの秘密の関係について話せる相手が出来たのがすごく嬉しい。彼との事、誰かに
ベンジャミンも同じことを考えていたらしい。
「それは私も同じです。でも私の方がルイとは付き合い始めたばかりだから、貴方たち二人よりもまだラブラブでアツアツよ。惚気なら負けていないわよ」
「俺達もう付き合い長いから、まあラブラブな時期は通り過ぎたけれど安定の仲の良さよ。お互いのことは知り尽くしているもんね。それこそ体の隅々まで……」
「これ以上下品な話題になるなら私、退室します」
「だって俺達同じ穴の
「うわっ、もう貴方ってサイテー!」
こうしてお互い本音で話し合える相手が出来たことでソニアもベンジャミンも精神的に余裕が出来た気がしていた。ソニアにとってカトリーヌは親友だが、片やベンジャミンは同じ目的に向かって進む同志と言える。
魔術院の同僚たちはこの二人が話している内容はもちろん知らない。二人の仲の良さをただ微笑ましく思っているようだった。特に婚約以来ベンジャミンに笑顔が増えたことはビアンカだけでなく魔術塔の全員が気付いていた。
新居の建設も着実に進んでいた。ある日ソニアはずっと気になっていたことを二人の男性の前で口にした。
「私たちこうして三人で意見も合って、仲違いしないうちは上手くやっていけると思うのよ。けれど人生何が起こるか分からないでしょう? 結婚するベンと私は法的に守られるけれど、ルイは口約束だけだから……」
「別に契約で縛らなくても私は構いませんが」
「ルイは縄で物理的に体を縛る方が好きだからだろ」
「ちょっとベンは黙っていてよ! それでは駄目なのよ、ルイ。正式に結婚する私たちと違って貴方は法的保護が全く受けられないのですから」
「私は金銭が欲しいわけではありませんよ。それにもし私達の関係が破綻することがあっても誰も恨みません」
「けれど……貴方はそれで職を失うかもしれないのに……」
「俺がルイを首にするわけないだろ。それにもし俺達の三角関係にひびが入っても従兄弟であることには変わらないし」
「将来のことは誰にも分かりません。それに私達がこの秘密の協定を結ぶのは損得勘定からではなく、それぞれの思いが一致するからですよね。少なくとも私は契約など交わす必要はないと思います」
「いや、ソニアの言い分が正しいよ。俺だって契約書より縄で縛られる方が好きだけどさ」
「貴方、一々話の腰を折らないで!」
「ソニア、君もそのうち緊縛プレイに目覚めると思うけどね」
「ベン、ですからその……」
ソニアはベンジャミンの言葉はもう無視している。
「もしルイと私の間に子供が出来てもその子たちは私とベンの子供として育てられて、ルイには法的に何の権利もないのよ」
「よし、三人それぞれの権利と責任を明確にするためにも文書にしたためよう」
「誰か法に詳しい人間に書かせるのがいいわね」
「うん。信頼できる適任者が居るよ」
「ティエリー・ガニョンさんですか?」
「私達の秘密もご存じなのですか、彼は。けれど協力してくれるでしょうか?」
「ティエリーは……俺に借りがあるから大丈夫だ」
「借りですか?」
「ガニョンさんが昨年末に魔術塔に来られたの。なんでもね、愛しい彼女のために魔法具を作ってくれってベンに頼みにいらしたのよ。それでベンは立場を利用して魔法具製作を上に頼む見返りにガニョンさんに肉体関係を迫ったの」
「いや、それは……だから、未遂に終わったしさ……冗談だってば」
たじたじするベンジャミンである。
「へぇ、そんなことがあったとは初耳ですね」
「まあとにかく、ガニョンさんがいくら貴方の好みでも、彼の目にはカトリーヌしか入っていないのだから」
「だから分かっているって。ティエリーのことはちょっと
「ベンには後でお仕置きが必要ですね」
「何言っているのよ、ルイ。この人にはお仕置きがご褒美になるから意味ないじゃない? お預けなら十分罰になるでしょ?」
「おいっ!」
「ははは、ソニアには敵いませんね」
***ひとこと***
こんな経緯でティエリーさんはベンジャミン氏から逃れられないのでした。
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