ナギナ島奪回作戦~敵前上陸~

「突撃銃と魔術で弾幕を張れ!!魔術は、銃撃を阻害しないように後方の敵を狙うのだ!!」


「上陸急げ!!もたもたしてるとおかわりがくるぞ!」


「前衛部隊は盾を構えろ!敵の接近を阻むだけでいい!!後は銃が黙らせる!!」





「おーおー、派手にドンパチやってるねぇ」


「ドンパチ?」


 俺とフィーは、敵前上陸を果たさんとする軍船の群れを見ながら、高みの見物を決め込んでいた。


 前方からは、叫び声と発砲音、それに炸裂音しか聞こえてこない。


「異世界では、ああいう戦いの事をドンパチと表現するらしい」


「へぇ。あたしも早く、この拳銃っていうのを実戦で試したい!」


 焦れるフィーの左の太ももには、以前はなかったベルトが捲かれていて、付属のホルダーには拳銃が収まっている。右手は必ず短剣を握っているので、左側に装着しているらしい。余談になるが、剥き出しの褐色がかった太ももにアクセントとしてベルトが加わったことにより、健康的な色気がより増している。思わずそそられるという野郎も多そうだ。


 ・・・セクハラされそうになったら俺が止めないと・・・!まあ、彼女の方が気配察知とかは得意なんだけどね。邪な感情を抱いて近づこうものなら、その魅力的なおみ足で蹴飛ばされるに違いない。


「どうやら、上陸を開始したようですな。動きから察するに、まずは橋頭保を作るつもりでしょう」


「定石だな。面白みはないが、確実だ。俺達には有難いかな?」


 マストの見張り台から降りてきたリュッセルの報告に、あえて問いを返す。理由?やることなくて暇だから。


「そうですな。海岸付近で陣を張れば、背後については安全ですから」


「背水の陣っていう、異世界の格言があってな」


「どのような意味ですかな?」


「退路をあえて絶つことで、死に物狂いで戦うしかない状況を作るって意味だ」


「士気向上を狙っているのは分かりますが、いささかやりすぎな気も致しますな」


「追い詰められた挙句の自暴自棄としてなら、ありかもしれんがね」


「そうならないように手を打っておくのが、指揮官の務めでありましょう」


「違いない。なんにせよ、無駄死には御免だ。戦況を常に確認して、無理押しや突出は避けるとしようか」


「再度、皆にも伝えておきます」


「ああ、頼む。全員、そろそろ聞き飽きてるだろうけどな」


「違いありませんな」


 うまくまとまったところで、リュッセルが船室へと入っていく。今回は、野良の冒険者を加えていない、ギルド直属のみの構成となっている。





 理由は二つ。


 一つは、危険度が段違いであり、統率に難がある野良の冒険者を入れたくはなかった。


 二つは、軍の精鋭が各所から引き抜かれることによる、依頼の増加への対処。


 無駄な犠牲を出すのは好かないし、こちらも直属戦力を引き抜いている分、フォローに回れる人員は薄い。まあ、そんな理由からギルド直属のみの出撃にしたわけだ。ちなみに、ユズとライム、それにクライスはお留守番だ。


 ライムには、フィゼリナと協力して緊急依頼に適切な人員を割り振ってもらう事を頼み、ユズには緊急依頼対応の為に残ってもらっている。クライスは前回の一件がある為、変に戦場で暴走する可能性を考慮して、残ってもらうことにした。ライムと共に、人員の配分やギルド内の警備をしてくれているはずだ。


「あの銃ってやつの音を聞いてると、体がムズムズするねえ。背中を蹴飛ばされる感じって言うかさあ」


「まさに発破をかけるってやつか?異世界の格言も、結構的を射てるのかもな」


 船室から出てきたノルノが、新品のハルバードを弄びながら甲板へと出てきた。どうやら、身体を動かしていないと気が済まないらしい。以前愛用していたハルバードは、湖の底に沈んだらしい。


「あー、出番はまだかねえ・・・!」


「もうしばしの辛抱だ。それに、今回俺達は正面切って戦闘する気はない。あの島にいるであろう魔族の大軍と、がっぷり四つに組みあっての戦闘なんぞした日には、命がいくつあっても足りやしねえ」


「はん!それこそ望むところさ!バケモノでもゲテモノでもかかってきなよ!あたしの新調したハルバードでなぎ倒してやるさ」


「指示は守ってくれよ?単騎掛けとかなしだからな?俺は、お前に死んでほしくはないからな」


 冗談めかしてそう言うと、ノルノは一瞬呆けた顔をした後に大笑いし始めた。


「あっはっは!大将はとんだすけこましだねえ!そこらの女なら、今のさりげない一言でコロッとオチちまうところだ!」


「マスターって、時々ずるいよね」


「そうかい?」


「そうさね!」「そうよ!」


「・・・」


 僅かに不満を表明するフィー、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべるノルノ。俺は、妙に居心地が悪くて、二人から目を逸らした。

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