攻勢計画

「おかえりなさいませ。・・・いかがでしたか?銃と言う武器の性能の程は」


 地下から執務室へ帰ってくると、フィゼリナが机の上に書類を積んでいるところだった。


「拳銃の方は、大きさも手頃で重量も許容範囲だな。冒険者のサブウェポンとしては悪くない」


「突撃銃というのはいかがでしたか?」


「メインウェポンとしては強力だが・・・あれはどちらかというと、数を揃えて面の制圧に使う方が向いているだろう。冒険者の中で好むものは少ないかもしれん。統制のとりやすい軍の方が向いていそうだな」


「では拳銃のみ残して、突撃銃は軍へとお返しになられては?」


「却下。一度貰ったからには、もうあれらはギルドのものだ。いずれ、何かに使えるかもしれんしな」


「貧乏性ですか?」


「収集家とでも言ってくれ」


 フィゼリナの軽口を受け流し、椅子に座る。目の前に積まれた書類の山に溜息を一つ。


「そういえば、フィーちゃんも一緒に連れていってませんでしたか?」


「ああ、あいつなら拳銃の射撃訓練をしてるよ。実戦でも使う気満々らしい」


「短刀に拳銃・・・ですか。以前よりバランスのいい戦闘スタイルになるのでは?」


「まあ、元からスローイングダガーとかは使ってたしな」


「そうでしたね」


 フィゼリナが、自分のついでに入れてくれた茶を一啜り。


「・・・さて、本題に入ろうか。なにか厄介事だろう?」


 普段から忙しくしているフィゼリナが、のんびりと茶を共にするとは思えない。ということは、腰を落ち着けて話す必要のある案件が生じたという事だろう。


「ええ・・・実は、軍から協力要請が届いていまして」


「こっちが毎日クソ忙しいのを知ってて言ってるのかねえ。キールスが帰り次第、すぐにお断りさせにいかせるとしよう」


「それが、今回の案件は今までと毛色の違うものでして」


「毛色も髪色もねえよ。人手が欲しいのはこっちだ。断じてお断り・・・」


「提供された銃火器を主力とし、ナギナ島の奪回を行うとのことです」


 俺が毒を吐くのに割り込んで、フィゼリナが強引に内容を告げた。


「・・・つまり、銃火器の力を使って、攻勢に出ると?」


 一つ一つ確認する様にフィゼリナへと問いかける。


「そのようです」


「軍の上層部は正気か?」


「どうやら、皇帝陛下から厳しいお言葉を頂いたようで・・・」


「ちっ、あの皇帝もろくな事しねえな。ギルド設立を認めたこと以外、肯定できる部分がありゃしねえ」


「間違っても、そういう話を他の冒険者の前でしないでくださいよ?讒言の元になりますから。あと、面白くないです」


 ナギナ島というのは、かつて人間が住んでおり、今は魔物のみが住んでいる小さめの島だ。


 確かに反撃の初手とするには悪くないが・・・。


「わざわざこのタイミングでやることもないだろうよ。ただでさえ、魔物による被害があちこちで発生していて、人が足りてない状況だというのに」


「軍のお歴々は、受け身の姿勢であり続けていることを幾度となく陛下から叱責されていましたからね。新兵器に期待して、このあたりで皇帝陛下の失望を食い止めたいと考えたのでしょう」


「そんな裏の事情は、ご講義を頂くまでもなく把握しているさ。とはいえ、俺が毒を吐きたくなる気持ちもわからなくはあるまい?」


「ええ、それはまあ」


「大体、名誉回復が望みだってんなら、自分達だけでやりやがれ。善良な民間組織を巻き込むんじゃねえよ」


「先方は、新武器を提供した貸しを返せとも仰ってますが?」


「貸し付けている額はこちらの方が多いと思うがね。若者を訓練する事による国家の戦力の増強に、軍では手が回らない地方の問題を、依頼という形で尻拭い。挙句、事ある毎に協力までしてるのによ」


「正論ではありますが、それらはギルド発足に際しての、皇帝陛下との約定でもあります」


「ああ、まったく正論だ。つまり、皇帝を肯定できる材料は、これで完全に無くなったというわけだ。トップがあれじゃあ、軍だってろくなもんにならねえわな」


「それら条件を先に交渉材料として提供したのは、盟主であると伺っていますが?」


 フィゼリナが、困ったような微笑みを浮かべている。俺的には、フィゼリナに一番似合う笑い方はこれだと思っている。・・・俺がそんな表情を頻繁にさせているからかもしれないが。ホントすみません、こんな甘ったれでガキなのがトップで。・・・あれ?もしかして俺、皇帝をとやかく言う資格ない?


「まあ、フィゼリナを相手に文句を言っていても仕方ない。詳しい内容を見せてくれるか?」


「こちらに」


 差し出された封書を開き、中の内容を確かめる。


「・・・少しは気を遣ってくれているらしいな。決行は、一か月後を予定だそうだ。これなら、多少はスケジュールを調整することもできるだろう。おそらく、向こうでも銃の訓練に時間が欲しいんだろうけどな」


 書状をフィゼリナにも見せる。こういう書状は、宛名の本人以外には見せないことが不文律だが、俺はキールスとフィゼリナ、場合によってはリュッセルあたりにも閲覧させている。口頭で伝えるよりも、情報の誤認等のリスクを減らすことができるからだ。


「・・・帝国軍からは二百名もの兵士が参加ですか。現在の帝国軍の総数が二千名を超える程度なので、およそ一割に当たる数ですね。本気度が窺えますね」


「その分、兵士を引き抜かれた地域からのこちらへの依頼が増えるだろうな。今のうちに、備えておいてくれるか?」


「差し当たっては、内部についてはスタッフへの伝達と勤務シフトの調整ですかね」


「直属冒険者の駐留数も増やしておくことにしよう。それと、一般の冒険者にも情報を流しておいてくれ。稼ぎ時だってな」


「承知しました」


「それと、リュッセルをこっちに呼んでくれるか。日時はそちらで指定して良い、都合のいい日を選んでくれと伝えてもらいたい」


「とすると、今回はリュッセルさんを指揮官に?」


「そうしたいところだが、今回は俺が出向いたほうがいいだろう。なにせ、今までと違って反抗作戦だからな。戦況や引き際を見誤ると、大損害の元だ。それに、そういった場面に陥った時に、リュッセルの立場では軍の指揮官に強く出られないだろうしな」


「その辺りは考えてらっしゃるんですね」


「・・・なかなか辛辣な嫌味をさらりと言うな、我が片腕は」


「お褒めに与りまして。冗談として聞き流していただければ幸いにございます、盟主殿」


 お互いに茶目っ気たっぷりに言葉を交換し、俺達はどちらともなく、くすりと笑った

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