その後の裏話
「やれやれ。久々に戦場以外でシリアスをやったから、どっと疲れたぜ」
クライスが扉前から去ったのを確認して、俺は椅子にどっかりと腰かけた。
「お疲れ様」
そう言って、ユズがお茶を入れて持ってきてくれた。お返しに、フード越しだが頭を撫でてやる。猫耳部分の感触が心地いい。
「今のマスターの話は本心から?それともクライスを納得させるために、理屈で武装しただけの綺麗事?」
「さあてな。フィーの好きなように取ってくれればいいよ。俺も衝動に駆られて喋った部分が多いからな」
「それって、ほぼ本心ってことじゃないの?」
フィーがニヤついた顔で見つめてくるので、気恥ずかしくなって目を逸らす。
「マスターってば、照れ隠しに誤魔化そうとするなんて、かーわいーっ」
「言うな!心に刺さるっ!!」
半分は演技で、残り半分は衝動に駆られて、俺は机に突っ伏した。背中や脇腹を、フィーとユズがツンツンと指で突いてくる。やめてくれ、これ以上俺に追撃しないでくれ。
そんな心の声が聞こえたのか、ユズがつつくのをやめて真面目な声で言った。・・・いや、元々抑揚がないから、違いなんて勘でしかわからないんだが。
「でも、主は意外と気配りしてる」
「気配り?」
突っ伏したままのくぐもった声で相槌を打つ。ちなみに、ユズが俺を主と呼ぶのは仕事モードの時、ご主人様と呼ぶのはプライベートな時らしい。厳密な使い分けはされていないようだが、気持ちを切り替える方法としてそう定めているのかもしれない。
「そうだね。候補生だった人が正式に採用になった時、相手が若い人なら必ず親御さんの元まで挨拶に伺ってるもんねぇ」
フィーが、ユズと反対の方向からねっとりと絡んでくる。まだ嗜虐モードらしい。だが、今はそこよりも追求したい点があった。
「・・・ちょっと待て!?お前、俺がこっそりそういう事してたの、知ってたのか!?」
思わず体を起こして声を上げてしまった。
「ユズも知ってるよ。以前、マスターが何も告げずに外出した時に、一緒に後付けたから」
「全然気づかなかった・・・」
「後でフィゼリナさんに聞いたら、こっそり教えてくれたよ?若い人、特に未成年の人を採用する時には、当人の希望とは別に両親にも承諾を得るようにしてるって。ギルド直属となれば、厳しい戦闘も多くなるし危険も大きいけど、それでもお子様を預からせてもらってもいいんですかって」
「フィゼリナ・・・余計な事を・・・」
とりあえず、仕返しに今度からかってやろうと心の復讐ノートに書き留めておく。
「マスターって、努力は人に見せないタイプ?」
「そう言われればそうかもしれない。特に、指摘されると恥ずかしい類の事はな」
「ふぅん。あたし、影でコツコツ努力する人は好きだよ?」
「そりゃどうも。ところで、今夜三人で夕食を食べに行くと約束した件だが・・・」
「皆まで言わなくていいよ。いずれ、埋め合わせはしてね?」
フィーがウインク付きでそう言い、ユズは無言で頷く。
「悪いな。貸し一つってことにしておいてくれ」
そう告げて、俺は外行き用のジャケットを羽織る。
「どこかいくの?クライスの所?」
「いや、あいつには俺の言葉を咀嚼して、その上で考える時間が必要だろう。今はそっとしておくさ」
「ならどこに?」
「今回犠牲になった二人の親御さんたちに会いに行く。報告も兼ねてな」
「・・・キツイ仕事だね」
フィーが無理に作ったようなぎこちない笑顔でそう言い、ユズは俯いたまま無言で俺の左手を握ってくれた。その手の温かさに、ちょっと涙が出そうだ。
「息子や娘を失った親御さんたちに比べれば、大したことないさ。俺を憎むことで、哀しみを和らげたりすることができるのなら、それでもいいしな」
正直、気乗りはしない。足も心も重い。不謹慎だが、溜息をつくくらいは許してもらいたい。
それでも、これは俺が果たすべき責任だ。そう自分に言い聞かせて、俺はドアノブに手をかけた。
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