ギルド経営者の日常1
「・・・それで、ロドウズ氏が言っていた件だけど、調査は済んだか?」
世間話が一段落ついたところで、俺は頼りになる側近の男に訊ねた。
その男はキールスという名で、ギルド経営者たる俺の右腕と言っていい存在だ。
主に彼は、外に出たがらない俺の代わりに、宮廷のお偉いさん方を始めとする”外”の対応業務をお願いしている。本来なら俺が出向かなければならない案件を丸投げしても、苦笑一つで引き受けてくれる人格者だ。
「終わってるぜい。ブラッドミューカスは、依頼を出した時点では見かけなかったらしい。嘘もついていないように見えたな」
「了解した。その村長には、依頼を出した後に状況が変化した場合、報告することを念押ししてくれ」
「既にそう伝えてあるさ。ついでに、ロドウズ氏に追加の謝礼を出すように頼んだら、承知してくれたよ」
「なら、それはあの沸点の低い大男に届けてやってくれ。もしも心からの謝罪があれば、再びの出入りも許可していい。判断は任せる」
「うい、りょーかい。他に、めぼしい用事はあるかい?ついでに寄ってきてもいいが」
「・・・いや特にないかな」
気の利く側近の言葉に、少し記憶を精査した後に返事をする。
「なら、ちょっぱやでいってくらぁ」
そう言うと、キールスは窓を開けて外へと飛び降りた。・・・ここは四階なんですが?まあ、いつものことだ。
開けっ放しの窓を閉め、ソファに寝転がってくつろごうとしたところで、扉がノックされる。そして、俺の返事を待たずに開かれる。
「盟主殿。入りますよ」
「もう入ってるだろうに」
入ってきたのは、麗しの女性秘書官。こちらは俺の左腕と言っていい存在だ。
名前はフィゼリナ。こちらは、ギルド内部の運営の手伝いをしてくれている女性だ。いつもスーツ姿で、一見すると堅物にも思えるが、意外と茶目っ気もある。そのギャップで、俺はもちろんの事、職員たちからも親しまれ、慕われている。
俺が出した大雑把な方針を彼女なりに斟酌し、それを効率よく実現するためのプロセスを組み立てる。そして、それを実行するために職員達へと適切な指示を出すのが彼女の役目だ。
キールスもそうだが、ギルドの運営になくてはならない人材だ。
ちなみに、盟主という呼び名は、このギルドの古参の職員のみが使う呼称だ。
実は、冒険者ギルドというのは意図的に広めさせた通称で、本来の呼称は冒険者連盟という。それ故の、盟主呼びである。
「新しく、”漂流物”を買い取る部署を新設するという件ですが、その為のスペースは地下に確保できました」
「ご苦労様。後は、キールスが”漂流物”の売買を専門としている商人を引き抜いてきてくれれば、準備は完了だな」
「はい。・・・次ですが、昨日盟主殿が変装して、ギルドの運営状態を内密に査察した際に気付いた問題についてですが」
「やはり、出入り口に案内の人間が欲しいと言った件だな。どうだろうか?」
「今の職員の数では、そちらに人を割くのは難しいかと」
「となると、新たに雇用しなければならないか」
「そうなります。先の件で商人を数人雇う事となりますので、それに加えてとなると人件費が大きく増えることになるかと。様子を見られるのであれば、”漂流物”売買の方が軌道に乗ってからでもよろしいかと思われますが」
「了解した。とりあえず、新規雇用は保留としようか。・・・そうだ!巡回班が、常に見張りとして出入り口に張っているだろう?とりあえずは、あいつらにやってもらうことにしよう」
「では、そのように伝えておきましょうか」
「いや、いいさ。どうせ話したいこともあったし、明日の夜にでも全員を呼び出すことにするさ。ついでに、飯でも奢ってやるとしよう」
「・・・。ギルドの予備費からこっそり抜かないでくださいね?」
「読まれてた!?」
「前科がありますからね」
「・・・ポケットマネーで奢ってやるさ」
頬杖を着いて投げやりに言う俺を見て、フィゼリナがくすくすと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます