3
「首都では小型化した大砲が出回ってるって話はホントだったのね。実物は初めて見たわ」
女だ。
カウンター席から滑り降りた女が片眉を上げて笑っていたのだ。銃を目の前にしその威力を見せつけられても、その顔には余裕が張り付いて剥がれない。隣の男もそうだ、冷ややかな目でこちらを見つめている。それが赤マスクの神経を逆撫でた。
「初めてか。ならもっと近くで見せてやるよ、嬢ちゃん!」
赤マスクは男の前に立つと、煙昇る銃口をその額に押し付けた。
女の顔が僅かに歪んだ。
少しながらの優越感を覚え、強盗は口元を歪ませる。
「おい、何手間どってんだ」
ピリついた声を上げたのは、人質の見張りをしていた緑マスクを被った男。銃を発砲しても、突きつけられても平常心を保つ2人の異様さに気づいたのだろう。見張りを仲間の一人に任せ、赤マスクの元へと近付こうと1歩踏み出した。
その瞬間、女のオリーブ色の瞳がキッと鋭くなり、叫ぶ。
「アレン、プランB!!」
「いつもそう仰る」
男が返事をした頃にはもう女は駆け出していて、赤マスクの横を通り抜けていた。
向かう先は人質の方か。
タチの悪いな正義感を持ち合わせてるらしい。
「なめやがって!」赤マスクは振り返る。
そして女の背中に標準を合わせた瞬間、
「うっ」
痛みと衝撃で、手元から銃が滑り落ちた。
男に腕を蹴りあげられたのだと悟った時には、後ろ手に捉えられていて、冷たい何かで手首を拘束されている。肩を蹴飛ばされると、受け身すら取れずに惨めに倒れ込むしか無かった。
「まさかお前…」
銃をスーツの胸ポケットにしまい込む男は、冷ややかな目で男を見下ろすと、女の元へと向かっていった。
一方、赤マスクなんて振り返りもせずに走り出した女、基 ナターシャはパンツスーツのベルトに刺していた折り畳み警棒を抜き取る。走りながらそれをめいっぱい伸ばすと、目の前の緑マスクが銃を向けるよりも早くその横腹にめいっぱい打ち込んだ。
「ぐはっ!」
腹を押え胃液を吐いた男を捨ておき、ナターシャは勢いを緩めない。残るはたった1人、人質の見張りをしている青色の覆面男だ。
ヒールで床を穿ち、ナターシャは高く跳躍する。自分の身長の倍の高さまで軽々飛び、こちらを見下ろす彼女の瞳は金色に輝いた様に、青マスクには見えた。
飛んで一気に距離を詰めた彼女は、長い警棒を振り上げる。そして、
彼女が着地した時には、青マスクもまた床に崩れ落ちていた。
アレンが拘束した赤マスク。
ナターシャが警棒を打ち込んだ緑マスク、
彼女の足元に転がる青マスク。
たったの数十秒で地に倒れた強盗団に、ナターシャはフンッと鼻を鳴らした。
「銃持っててもこのザマなんてね」
一拍おいて、わあっと拍手が。
人質は皆、思いもしない救いを大いに喜び、喝采と安堵が店を包み込む。
ふふん、と得意げに笑ったナターシャの後ろで、
「ナターシャさ、っ伏せ!」
アレンが切羽詰まった声を上げた。
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