この素晴らしいぴょんぴょんの日に祝福を!

灼凪

第1話

11月11日。もうすぐくる冬の冷たい空気の匂いを感じながら、私は起きた。

今日は久しぶりにカズマ達とクエストを受けに行きたい気分だ。

体を震えさせながら1階に降りると、アクアとダクネスが既に起きていた。

カズマはまた昼まで寝てるつもりのようだった。

3人で朝食をとった後、カズマが起きてくる時間を待っていた。

アクアはゼル帝の世話をしていた。

私とダクネスは庭に冬になる野菜の種を庭に蒔いていた。


「そういえばカズマは、最初はキャベツがモンスターとしてあの時期に飛ぶなんてありえなーい!と言っていたな」

「そういう事もありましたね。"俺のいたニホンの国ではキャベツは普通冬に獲れる野菜で〜"なんて力説されて、頭がはてなだらけになりましたよ。まぁその後カズマにこの世界の常識的なことを色々私が教えてあげました」

玉ねぎとじゃが芋の種をまきながら、初めて4人編成で揃ったカズマパーティーメンバーとのキャベツ討伐クエストの時のことを思い出しながらダクネスと喋っていた。


「うぅ、ちょっと肌寒くなってきたわね。もうそろそろお昼時だし、先に行ってお昼ご飯作ってくるわね!」

ゼル帝の小屋の前で水やりやら掃除やれをし終えたアクアがぶるっと体を震わせると、悴んだ手をさすりながらそそくさと家の中へ入っていった。


冷たいとも言える秋風がふく中、種蒔きを終えると私とダクネスも屋敷の中に戻った。


用意された昼食をみて、私はちょっと固まった顔で呆れる。

「またツナマヨのおにぎりだけですか…?冷凍庫に冷凍した秋刀魚があるので、それも焼いて食べましょう!」

「ちょっとめぐみん私の料理の何がいけないのよ!って言われる前に文句言われたわ…」

台所に向かうと、カズマの作った火をつける道具で秋刀魚を炙ってみる。うん。なかなかいい感じだ。


私が料理をしていると、やっとカズマが二階から降りてきた。


「うむ。秋刀魚のこの芳ばしい匂いが食欲をそそるな」

「そうでしょうそうでしょう。ダクネスもようやく素直に褒められるようになってきましたね!」

ダクネスが私の作った焼き秋刀魚を褒めちぎり、ニコニコと二人で和気藹々してる中、カズマが話に入るかのように口を開いた。

「はよー。なんだ?アクアの作った?ツナマヨだけじゃ午後のクエストに身が入らないと思って追加で秋刀魚の塩焼きを用意したのか?めぐみん?」

視覚と嗅覚だけでそこまで理解してしまうとは、カズマ、恐ろしい子…!どれだけカズマは私のことが好きなんだろう。というかこの察しがいいところは、普段のいい雰囲気の時の空間でも発揮してほしい。

「そそそそうですよ!それだけ判断してしまうあなたって人は流石このパーティーメンバーをわかっているだけはありますね!ささ!冷めないうちに食べちゃいましょう!」

「そうだな!俺ももう腹ペコペコだよ」

素っ気ない態度だけど、みんなの前だしもういいか。


「あー寒いしお腹もいっぱいだしやっぱりクエストに行くのはやめましょ」

「ああ、そうだなー」

お腹いっぱいだから行きたくないとは、さっきの本領発揮はどうしたのか。

「いい加減にしてください!カズマ!今日はクエストに行くと約束したでしょう!!うう、でないとギルドの柱にまたカズマのサインを真似て落書きしてやりますからね!」

お昼ご飯を食べ終わってゴロゴロしている二人を、私はソファーと絨毯からひっぺがした。


私はカズマの手を引いて、ダクネスはつれないアクアの手を引いてギルドに行った。

「川に突如現れたペンタグルスを討伐せよ!賞金800万エリス…これにしよう」

カズマがてきとーに選んだクエストに、私達も無難かなと納得する。


広がる平原のちょっと行った先に、森が広がっている。森の中を歩いていたら、早速川をみつけた。

私はザリガニがいないか大きいでも小さいでもない中川程の透き通った川の中を見つめていた。

ブーツとニーソを脱ぐと川の淵に腰かけて足をばしゃばしゃさせている。

「めぐみん、寒くないか?」

とダクネスが尋ねてくる。私は愛想笑いを向けながら、

「ええ、平気ですよ!むしろ、ダクネスも冷んやりした水の中に浸かってみるがいいです!気持ちいいかもしれませんね!」

「き、気持ちいいのか?では私も足を…ンンッ!この臨場感、クセになるな!」

ドMのダクネスが意気投合した。

「おいアクアー!お前水に入れるだろぉー!川に入ってペンタグルスとかいうイカを探してきてくれよー!」

「いやよ!いくらなんでもこの時期は寒いもの!それなら体温高いめぐみんとかが適役だと思うわ!」

カズマとアクアが会話していたかと思えば、とんでもないことを私に振ってきた。

「はぁ!?私はアークウィザードなので潜れませんよ!」

とツッコミを入れた。


その瞬間、待っていたかのようにそれは現れた。100メートル程ある巨大なイカは、ばしゃーと水飛沫をあげ、頭と顔と、出てきた触手で威嚇する。


「めぐみぃぃぃん!とりあえず距離をとっての爆裂魔法は森だから危険だ!詠唱やめて一旦下がれ!」

ちょっと川から距離のある木に登っていたカズマが叫ぶ。

「分かってますよそんなことぐらい!でも撃たなきゃ私達が触手に捕まってしまいますよ!?」

走っていた私は右足首をイカの触手にすくわれた。

いきなりで杖を地面に落としてしまい、逆立ちの状態でプランとなる。パ、パンツが!

「ちょ…あっ!」

というか、足が攣った。

「狙撃!狙撃!狙撃!」

そんなことを思っていると、遠くからカズマの狙撃スキルを使ってる声が聞こえる。イカの目でも狙っているんだろうか。そう思ってるとカズマの矢が触手によって弾き飛ばされていた。

「めぐみんー!今、助けに行くから…」

私の方に走ってきたダクネスも触手に捕まった。ダクネスに関しては、わざと捕まりたかったんじゃないだろうか?

ひょいと重力に逆らった私を右足を掴みながら正すと、7本中、もう1本の触手が私の左足、お尻、腰を支えるように巻き付いてくる。ダクネスも重いからだろうか、同じように巻きつかれていた。

「んん…吸盤が気持ち悪いです」

先程伸びてきた触手が私の肩にまでかかり、服の中まで入ろうかと先っちょをチラチラしている。ダクネスはというと、

「はぁ、はぁ、この触手…なかなか気に入った…」

息を荒げていた。吸盤以前にねちょねちょの粘液が服や肌に既に張り付いて気持ち悪いのだが。

アクアはどうしたんだろうと思って川にいるイカの方をみるとゴットブローでも効かないやらと騒いでいた。水棲系のモンスターならカズマのバインド、フリーズで固めたらいいのでは?とも思ったけどこの大きさじゃ無理そうだ。となると雷系の魔法か。ゆんゆんはここにいないし…。

などと考えを張り巡らせていると、カズマがいつの間にか木から下りて私達の元に走ってきた。

「めぐみん!ダクネース!助けにきたからな今…。おお…」

カズマが鼻の下を伸ばして呆然と私達を見上げている。

「カズマ!見惚れてないで早くちゅんちゅん丸で助けてください!」

私はダクネスとは別の意味で赤面しながら言った。

「私は、このままでも構わないのだが」


「ライトオブセイバー!」

すると、私達のいる川岸の反対側の方で誰かが魔法を放つ音が聞こえた。

「ビギャーーー!!」

程なくして、触手が解けると同時に私とダクネスは地面に落下した。

ダクネスは立ち上がると、アクアの方へ向かった。


そういえば私、足が攣ったんだった。

粘液だらけでキモいと駆け寄ってきてくれたカズマは、心配そうに覗き込んできた。

「大丈夫か?なんか立てそうにない感じがするけど」

「あの、カズマ、足が痺れて立てないのでもうちょっとだけここにいてくれませんか?」

「しょうがないな。ちょっとだけだぞ」

なんとか足を横にして座り直した私は、カズマに隣に座るよう手招きして促した後、ローブもこの通りだしと思い、

「…では、カズマー!失礼しますよ!」

カズマに哀れな私の醜態を見せたくないと思って、思いっきりカズマを抱きしめた。カズマを雑巾代わりにしたのだ。

「ぐおお!こんなに嬉しくない抱擁パート2だぁああ!めぐみーん!俺までぬちょぬちょにするなぁあああああ!気持ち悪いー!」

「ごめんなさい!もう少しだけこうさせて下さい!」

実は物凄く恥かしがりながら、そう、もう少しだけ。


「きゃー!めぐみん…その!もしかしてお取り込み中だったりする…?」

アクアとダクネスを引き連れてゆんゆんが顔を両手で覆いながら話しかけてくる。

「みんなの前でそれは如何なものかと…」

「あらやだー!二人ったら森の中で逢い引きごっこ!?カズマさんってばえっち大明神ね!」

案の定ダクネスはツッコミを入れたがアクアにはからかわれた。まぁ私たちがホの字ということは気づいているような顔だが。

「ちちちちちち違うますよ!?これは、そう!初めてゆんゆんと会った時の討伐の時みたいに、ぬるぬるの粘液を移しているんですよ!」

「後めぐみんは足が攣って動けなかったと、たまたま動いた拍子にこけて覆いかぶさってきただけだからな!」

カズマの方っぽの太ももに跨って抱き直すと自分の太ももに何かを感じながら、ねちょねちょと体ごと抽送する。

「カ、カズマさんがこのままだとぬるぬる塗れになっちゃうじゃない!めぐみんやめなさいよー!」

意を決したように私の腰に手を回そうとしたゆんゆんが、後1センチのところで躊躇している。

アクアは眉をつり上げてジト目を送りながら、

「二人ともえんがちょよ!ばっちいから私の花鳥風月でもかけてあげようかしら?」

と鼻を抑えながら言ってきた。

恐らく時間が経って粘液が異臭を放ち始めたのだろう。

「アクアさん待って!今、この二人に水をかけたら寒いから風邪ひいちゃうと思います」

と、ゆんゆんのツッコミが冴え渡る。アクアの聖水をかけてもらっても臭いは落ちないだろう。

「ダクネスは構わないと思っているようですが…多分臭いはお湯とかじゃないと落ちないと思います」

と私が言った瞬間、ぐぅとお腹の音が鳴る。頬を苺色に染めていたカズマにだけはきこえてしまったようだ。

「お前、腹減ったならそう言えよ!俺も早く帰りたい!」

私はようやくばっとカズマから離れる。怒った私は頬を赤らめローブをくんくんしながら、

「しょうがないじゃないですか!私だって早く帰りたいです!…にしても、カズマのアレみたいな臭いがしますね」

とデリカシーもないしいつも雰囲気ぶち壊すカズマに、反撃してみる。

「アレってなんだよ?」

「先程私に当たっていたものですよ」

私はカズマの片耳に手を当ててそっと囁く。

「すいませんでしたぁぁぁああああああ!」

綺麗に土下座を決めてみせた。


私はゆんゆんと別れた後、家に帰る前にアクア達と3人で大衆浴場に行ってねちゃねちゃの粘液を落としてきた。

以前のようにカズマと一緒にお風呂に入るという手段は、今入ると身の危険を感じたのでこうしてかき消された。

そういう都合のいい女だと思われないようにするためでもある。

今頃カズマは討伐賞金をお持ち帰りして家でお風呂に入っている頃だろう。


「11月11日!そう!今日はポッキーの日らしいのよ!」

突如夕飯中にアクアが言ってきた。ニホンでいうところの行事みたいなものだろうか。私はご飯を口いっぱいに頬張りながら聞いていた。

「ポッキーとは何だ?なんか巷で売れているという細くて長いお菓子のニョッキーと名前が似てるな」

ダクネスが興味を持ってアクアに言うと、どうやらカズマのいた国にある「ポッキー」というお菓子はこの世界のお菓子だと「ニョッキー」というお菓子にあたるらしい。あんなペンタグルス討伐任務があった後だけど今日はニョッキーを使って遊ぼうと提案してきた。アクアなりの心遣いだったのかもしれない。


すると、アクアが妙なことを口足した。

「で、今日はいい夫婦の日でもあるらしいのよ!」

カズマが神妙な顔で答えてくれる。

「待て。履き違えてるぞ。10日先の11月22日だぞ駄女神!」

「あれ!?間違えてたわね!って、今駄女神って言った!折角いい空気だったのに駄女神って言った!!」

「お前がバカな話を言ってきたんだろうが!」

アクアが変なことを口走ったせいで、「カズマさん謝って!」と一人で怒っている。もちろん下らないボケが原因でカズマは喧嘩したりしなかった。ダクネスが怒ったアクアを宥めていた。


「俺は疲れたからもう寝るわ」

カズマが自室に戻ろうとすると。

「ご馳走さまでした。私も、なんだかアクアを見てると疲れてきました。今日は早めに休ませてもらいますね!では」

私もそんな感じで平静を装いながらお互いの部屋に戻った。だが急がば回れだ。


しん、と屋敷が静まり返る中、アクアの部屋にダクネスが何やらお菓子を持って行くのを確認してから、部屋でベッドに座っていた私はこの前ハロウィンの時に貰ったお菓子の袋を物色する。

そういえば、ニョッキーも貰ってたっけ。やっぱりあった。

私はお目当てのお菓子を探し出して手に取ると、誰から貰ったんだろうと考えつつもカズマの部屋に向かう。



こんこんこん、と三回ノックする。返事はない。私はドア越しに「カズマぁー!」と声を張り上げてみせた。

するとトトトト…と足音が聴こえて、がちゃりと鍵を開ける音がする。

「よう、その、あまり寝付けなくってな」

「ふふふ、カズマからドアを開けてくれるなんて珍しいこともあるんですね!明日は雨じゃなくて雪が降りそうですね」

ぱあっと明るい表情を見せながらカズマの部屋にお邪魔した。最近は何の躊躇いもなく部屋に入ることができる。

「そうしたら炬燵を出さなきゃいけないな。ん?その…土下座した俺が言うのも言いにくいんだけどね、“当たってますよ”ってめぐみんが俺に言ったじゃん?」

「い、言いましたけど…」

「…その、あの…その前に…めぐみんの色々なところが当たってて股間とか俺も大変だったということを思い出した…!」

頭を掻きながら一つ一つ言葉を出すようにカズマは応える。

「あーーーーーーーーーー!でもそれでカズマがああなってしまっていたのですね…。私にも非があったことは謝ります!ごめんなさい!ですが、言い訳させてください悪気があったわけじゃないんです」

「恐悦至極に存じます」

え?とカズマの返事に一旦固まったが、粘液が貼りついててあらぬ私の姿を見せられまいと思って抱きついたのだが、まさか返ってカズマを喜ばせて興奮させてしまったとは。それを言うなら醜悪至極じゃないか。私の一生の不覚だ。


顔を真っ赤にしながら慌ててる私とは裏腹に、カズマは、だらしなくベッドに腰かけていた。


この空気を変えるために、私は言う。

「あ、あのっ!そういえば部屋のお菓子を漁っていたらニョッキーを見つけましてね!」

「お、おう!じゃあ早速一緒に食おうぜー!」

ずっと前に罰ゲームでやったニョッキーゲームをしようと誘う前に、カズマが遮ってしまった。

「どうしてそうなるんですか!?一緒にニョッキーゲームをしようと誘っておいてそれはないんじゃないですか!?私はかなりの勇気を出して言ったのにカズマのヘタレチキン南蛮野郎です!」

「俺はニョッキーゲームなんぞそんな恥かしいリア充限定イベントなんかに屈しない!絶対やらないからな!…ってなんでハロウィンの時に貰ったお菓子っぽいのに、まだ食べないでとっといたんだ?めぐみん何かすぐ食べ切りそうなのに」

泣きそうになっていた私に、すぐ不意打ちをかけられる。私ってば、どうしてこういう殺し文句?でもないのに惑わされるんだろう。

「あなたと一緒にニョッキーゲームをするためですよ?あ!“俺のためにとっておいたんだ、可愛いところあるじゃないか”的な顔してますよー!?」

「うううるせぇ!お前はどうして俺の考えてることが分かるんだ!?」

赤くなったカズマの顔をみて考えを読み取っただけなんだが。


「それじゃあカズマ!ニョッキーゲームといほうじゃはいか!」

私は早速クッキーの部分を咥える。カズマはおろおろ焦りつつもチョコレートの上の部分を咥えてみせた。

かじかじかじかじ。

「はむはむはむはむはむはむ」

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

ポリポリポリ…、と少しずつ私は齧ってゆく。途中で距離を縮める速度を早めるとともに、カズマの進み具合が遅いと気づいた。

心拍数ですらどんどん早くなっていってるのに。やってみたはいいものの以前よりも正直ドキドキする。

「ひんしょく遅いでふよかふま」

段々とカズマとの距離が近づく度に胸の鼓動もおっきくなってるのを感じる。その内色んなメロディーに変わりそうだ。

後、10センチメートル。

「カズマー!なんかニョッキーゲームって私達の柄に…ってあれ、ひょっとしてなくてもカズマさんとめぐみんはニョッキーゲームやってたの!?」

どたどたと勢いよくドアを開けてきたのは、アクアだった。

その音がした途端、私とカズマはビックリしてポキッとニョッキーが折れる。

おしい、後、数センチのところだったのに!

「あらごめん!お邪魔したわ!!というわけでじゃね」

アクアはそう言うと、バタン!と勢いよく扉を閉めて出て行った。

「アクアは早速ダクネスに吹聴しているでしょうけど…他の人には言いませんかね…?」

「ていうかむしろ羨ましそうな顔してたぞ?少しアクアの部屋に行ってくる」

カズマはそう言って立ち上がると部屋をそそくさと出て行った。アクアはそんなにこのゲームで遊びたかったのだろうか。


夜ももうすぐてっぺんだという頃。

「ダクネスー!カズマさんとめぐみんがねー!ニョッキーゲームをしてたのよー!」

「うるさいぞ何時だと思ってるんだ。そんなにポッキーゲームとやらがしたいなら、ゆんゆんとやったらどうだ?」

「不憫ゆんゆんとやれっていうの!?そんな言い草ないじゃない!!大体ね!私達の性に合わないと思うの!別にやりたいとか思ってないわよ!」

「お前らホントにうるさいぞ!早く寝ろスリーーーーーープ!」

カズマがお邪魔虫2匹を倒した。


「ーとまあ、全力で2人にはスリープしかけてきたから、問題はない。まだ余ってることだし、さっきの続きするか?」

「最初からそうすれば良かったんじゃないですか!…誰にも邪魔されないと分かった途端、しようとも思いましたけど、やっぱり、いいです。心臓が持たなくなってしまうので、いいです」

緊張と恥ずかしさでどうにかなってしまうと考えたからだ。心臓の辺りをぎゅっと片手で抑える。

「俺も初めはそう思ってたけど。そうだよなぁ!俺も手汗だらけだし心底そう思ってたわ!」

自分で誘っておいてこれはないんじゃないかと思っていたが、どうやらカズマも同じ気持ちのようだ。

「そういえば、なんで足なんか攣ってたんだ?」

カズマはベッドの端に座ってニョッキーをぽりぽり食べている私の隣に座って話しかける。

「常日頃クエストに行かないパーティーの運動不足の結果だと思います」

「運動不足なら、毎日の爆裂散歩の時に解消してるだろ?」

「帰ってきたら私はすぐ寝ちゃうじゃないですか。それなのに急に久しぶりにクエストに出て全力で走ったら足は動かないですよ」

そう答えを聞きながらカズマは私の持つニョッキーの袋の中からひょいと一本ずつ取って食べ始めた。

「あ!後キャベツも空を飛ぶ異世界だから全然気づかないふりをしてたんだけどさ、すげー疑問に思うことがあった!あのイカってなんで川にいたの?」

何の前触れもなく、カズマが違和感に思っている疑問であろうイカのことを口に出してきた。

「後から聞いてどうするのかと思えば…。川には天敵のタコとかがいないからです。この世はタコとイカは敵対しているのです。弱肉強食の世界ですし。まぁ宿敵とも言われているので、私とゆんゆんみたいな感じですかね?それと、天敵がいないので雌のイカが産卵に川へ上ってくるとも言われています」

「へー。色々な諸説があるんだな」

「ほら、今日行った川もあまり大きな魚とかはいなかったでしょう?」

「言われてみれば確かに」

そんな他愛ない話をしていた。


「そういえば、いい夫婦の日って何ですか?アクアが先程言っていましたけど」

さっきから気になっていたことを、いきなりカズマに問いてみた。急な閑話休題にカズマはびっくりしている。

「そそ、それがどうかしたか?俺の世界では22日がその日ってことになってるんだよ」

「いえ、どんな日なんだろう…、と、気になり…まして」

「それ以上でもそれ以下でもない!ただ良い夫婦の日と言われてるだけだ」

声が震えているのを見て、微妙に狼狽えてるカズマがバレバレだった。

頭に疑問符が消えないまま、私は、意を決して、

「でもい、い良い夫婦の日って、10日後なんでしょう?私は、付き合ったばかりで、夫というのも妻というのも、まだはっきりどういうものなのかとはわかりませんが、将来私達も、良い夫婦になれるといいですね。と、前倒しして言ってみました」

もみ上げを左手で弄り右手を胸に添えて、噛みながら宣言してみた。まぁさっきから顔は紅くなりっぱなしなんだが。

段々と尻すぼみになっていった言葉に、

「なななれるといいな!」

とカズマが私より顔を梅干し色に染めて慌てふためいて返した。


「…あ、最後の一本になっちゃいましたね」

食べ終えたら寝ようかなと思っていた時、ニョッキーは唯一つ残されていた。

最後の一本になったニョッキー。さあどうしようか。

「めぐみんが食べろよ!」

いやいやカズマが食べて下さいよ、と揉み合っていると私を壁の方に追いやった。当然、そのまま押されると私の背中が壁に激突する。

カズマはニョッキーを袋の中から取り出し言った。

「めぐみんが最後の一本になったら俺とリベンジしようと推測した考えを汲み取ったまでだ。先にこっちから仕掛けてやった」

「計りましたねこの男!もうかかってくるがいいですよ!しかもあのカズマなのに壁ドンでというのもなかなか…。今日は本当に雪が降りそうです////」

お互いに照れつつも、ニョッキーゲーム再チャレンジである。

今度はカズマがクッキー部分、私がチョコレートの端っこを咥えている。

あぁカズマが先程手汗だらけだと言ってたからクッキー部分をとったのか。

ぱくぱく、もぐもぐ、と無言で咀嚼音だけが部屋に響く。

カズマも私も、顔が近づく度に、息がくすぐったくあたってくるのを感じる。

チョコが溶けていくのに気づいたのだろう、私も速度を早めた。

「「んぐ!?」」

唇と唇があたり、壁ドンイズニョッキーゲームは終わりを迎える。

「ん〜…ちゅ…ちゅ…はぁ」

カズマの唇が柔らかい。あったかい。口腔内にカズマの舌が侵入して、私も舌を絡めた。

「っ…ちゅ…ちゅっちゅく…っ。ぷは!」

長い間絡めあった後、口を放すと、甘い唾液のブリッジを引かせた。溶けたのはチョコだけではない。私の心もとろとろに溶けた。

次はカズマを温める番だとでも言うかのように、ぎゅっと彼を抱きしめた。

こうしているだけで心が満たされていくのを感じる。

寒さなんて吹っ飛ばしてしまいそうだ。

すると、真っ赤な顔のカズマを見上げて言った。

「あ、の…先程寝つけなかったのって…つまり…////」

抱きしめた時に当たっていたものに気づき、私が流し目をした後カズマも流し目をした。

「まだ、固いままですか?」


今夜の月はまだまだ輝いていた。


まだ日が昇る前の早朝、なんだかやけに肌寒いなと思った私は、カズマより先に起きた。

そして服を着ていないことに気がつくと、自分の体を触った後、

「あっあれ!?下着しかつけてません…」

バッと布団を捲り、私より肌色の多いカズマをみては、そっとかけ布団をかけた。


いやいやいやいや、気にしない方がおかしいでしょう!凄く気になりますよ!!


このままだとカズマが風邪を引いてしまう、私がパンツを履かせてあげようかと、床にスティール対応策として着ていた私のタンクトップと一緒に落ちていたカズマのパンツを見やる。

そんな風に戸惑っていると、

「ふあああぁ…おはよう。めぐみん」

カズマが起きてしまう。私は包み隠さず耳元まで真っ赤になっている顔を向けた。

「おはようございます!…は!」

カズマの首筋辺りに虫に刺されたような跡を発見して昨日のことを思い出そうとする。カズマが私の目線に気づいたようだ。

「お前、昨日のこと…覚えてないのか?」

脳が蒸発しそうな私は今思い出したかのように首を横にぶんぶんとふって、押し黙ってしまった。

「昨日は俺とニョッキーゲームをして嬉しかった癖にー?その後久しぶりにめぐみんにご奉仕されて、めぐみんも俺に印をつけられて何だかんだ言っときながら満更でもなかった癖に?今更何をしおらしくなっちゃってるのかねぇめぐみんや腹と鎖骨にぐへっ!」

調子に乗ってニヤニヤしているカズマを私はCQC術で首を絞めた。

「普段からかっている側ですが、逆にからかわれると慣れてないせいか口より先に手が出てしまいますね!実力行使でいかせてもらいますよ!後、そんな事思っても他の人の前で絶対に言わないでくださいね!?」

私は彼の首を少し息の根を止めるか止めないまできつく絞めた後アイアンクローをでっちあげた。

相変わらず恥かしいやりとりをしていると我ながら思う。

「あのさめぐみん、当たってたんだが」

「当ててたんですよ!早く服を着てください!…それと。今、絆創膏持ってきてあげますから待ってて下さいね」

そそくさと服を着終えた私は冷たい床に落ちていたカズマのパンツも拾い上げると、いででと素で呻いている彼に投げつけて部屋を出て行った。


寿命が少し縮んだ気がした。


良い夫婦の日も前倒ししましたからね?22日は何もないですよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この素晴らしいぴょんぴょんの日に祝福を! 灼凪 @hitujiusagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ