第4話 部内戦 後編

土俵上には美月と真が蹲踞そんきょの姿勢で向かい合っていた。

美月は、部内戦最初の一番を迎えていた。

真帆が「構えて」2人は立ち美月は「部内戦最初の一番は勝ちたいな」と思いながら、両手で頬をパン!と一発叩いて気合いを入れる。

一方、真の方も前の一番、香織に負けているので「この一番は勝ちたい」と思いながら太ももをパンパンと叩いて気合いを入れ、2人は戻った。

真帆が「手をついて、待ったなし」2人は仕切り線に手を付き真帆が「はっけよい」と叫ぶと美月は低い姿勢で真に当たろうするが真の姿は無かった。

真は立ち合いの後、体を開き美月の背中を叩き、美月はそのまま土俵に手を付いた。

真帆が「勝負あり」と告げると美月は手に付いた土を払いながら土俵のふちに移動した。

2人が土俵のふちに立つと一礼し、真は勝ち名乗りを受け、美月は土俵の外に出た。

春が美月の所に来て「美月ドンマイ!ドンマイ!次だよ、次!」と美月をはげます。


美:「ありがとう春ちゃん」


美:「真ちゃん変化だった」


春:「うん、真は稽古の時も引き技を使ってたから得意技なんだと思う変化が」


春:「真との一番は変化を注意して取ってみるよ」

美月は「うん」と頷いた。

真帆が「次、東に三神!西に空次うつぎ」と告げると春と香織は土俵に向かっていった。

部内戦は進み、春は香織に得意な上手投げで勝利し、その次の真との一番でも真の変化に上手く対応し押し出して勝利した。

一方、美月は優香との一番で優香に両まわしを取られ持ち上げられてしまい、何も出来ずしで負けてしまう。次の香織との一番も押し込まれって土俵際どひょうぎわで粘るもののそのまま押し切られ、押し倒しで負けてしまった。

美月は少し焦っていた、「このままだと私だけ全敗で終わってしまう」と。美月はその焦る気持ちを抑えながら春との一番を待っていた。

春は黙々と四股を踏み汗を流しながら、美月との一番を待っていた。

そして、部内戦は最後の一番を迎えていた。

真帆が「最後、東に天ノ宮!西に三神!」と告げると春はタオルで汗拭き、少しスポーツドリンクを飲み、「はい」と返事をし土俵に向かった。

美月は深呼吸をし頬を叩き、気合いを入れ「はい」と返事をし土俵に向かった。

2人は土俵のふちに立ち一礼し土俵の中に入った。2人は蹲踞そんきょをし向かい合った。土俵上には緊張感が凄く張り詰めた空気がピーンと張っていて、すでに相撲を取り終わった優香達ややよいが固唾かたずを呑んで見ていた。真帆が「構えて」2人は少し立ちそのまま戻った。真帆が「手を付いて、待ったなし」2人は仕切り線に手を付き真帆が「はっけよい」と叫ぶと2人は同時にぶつかり合う。春は美月の当たりが予想以上に強く少しバランスを崩し後退してしまう。

美月はその勢いのまま押し続け春を土俵際まで追い込むが、春も押し返し土俵の中央まで返された。2人はまわし引き四つに組んだ。春はまわし引き付寄る、美月は寄りに対きれず土俵際まで後退してしまう。このまま寄りで詰める春だったが粘る美月を見て、投げに転ずる。春は上手投げを繰り出した。美月はその投げに対応出来ず土俵を転がった。

真帆が「勝負あり」と告げると春は美月に手を差し伸べると美月はその手を取り立ち上がった。春は美月に「今朝と一緒だね」とつぶやくと美月は「そうだね」とつぶやく。2人は土俵のふちに立ち一礼し春は勝ち名乗りを受け、美月は土俵の外に出た。美月は息を整えながら「負けた」と呟いた。そして相撲を取り終えた1年生5人は土俵上に整列する。

真帆が「今日はお疲れ様。いきなりの部内戦で申し訳なかったけど、皆さんの熱い取り組みを観れて良かったと思います」と総括そうかつをして、真帆は続けて「今後は6月の末に大会があります。まずはこの大会で良い成績を取れるように頑張って稽古をして行きましょう」と今後の予定を話した。

最後にやよい部長が1年生一人づつに今日の部内戦の感想やアドバイスをした。

最後が美月のようだ。やよいは美月の前に立ち「まずは、お疲れ様」と言うと美月は「はい」と返した。そしてやよいは「稽古をなさい、このままじゃあ団体戦どころか個人戦にも出れないわよ」と美月に言い放った。美月はその言葉を聞いて涙ぐんだ。

真帆が間髪かんぱつ入れず「はい、今日は解散!シャワーを浴びて制服に着替えて帰りなさい」1年生5人は更衣室に向かった。


更衣室

美月は更衣室にあるベンチに座りロッカーに寄りかかりタオルを顔に当て、顔を上げていた。その姿を見た春は美月に話し掛けようと側に行こうとするが優香に止められた。

「春、今はそっとしといた方がいいよ」と言うと春は「分かった」と言い、2人はシャワー室に入った。

2人がシャワー室から出ようと部屋から出る所で美月とすれ違いになり、春が話し掛けた。


春:「あ美月、大丈夫?」


美:「春ちゃんありがとう、私は大丈夫だよ」


春:「じゃあ、今日一緒に帰ろう」


美:「ごめん春ちゃん、今日は1人で帰りたいんだ」


春:「分かった」と返し美月はシャワー室入り春と優香は制服に着替えて道場を後にした。そして美月も制服に着替えて2人の少し後に道場を出た。


今回の部内戦の結果は以下の通りだ。

    水瀬 優香  全勝

    三神 春   3勝1敗

    空次 香織  2勝2敗

    雨音 真   1勝3敗

   天ノ宮 美月  全敗

という結果に終わった。

美月にとって最初の部内戦は苦しい結果で幕を下ろした。

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