◇茜色の空

 空が茜色に染まっている。


 わたしはわたしの中の『赤』という色のアルバムを、そっと閉じた。


 食卓のテーブルにうつ伏せて夕陽に照らされながら、うつらうつらといつの間にか、うたた寝をしていたらしい。

 夕焼け空はいつも、わたしを懐かしいような頼りなく切ないような気持ちにさせる。


 帰ってこない日々や人達や想い出は何処までも美しい。

 二度と逢えないからこそ、今は手に入らないその美しさと想い出に囚われるのかもしれないと思ったりもする。


 切なく胸を締め付けるような甘やかに懐かしい沢山の情景。

 でも、それはそっと頬に触れられるような、穏やかさと優しさに満ちている。



 想い出す、ということ。

 記憶の底にある扉は不意に開けられる。

 開けられて思い出す度に、思い出すには切なすぎるものも、いつか浄化されていく。

 そして愛しさに包まれて仕舞われていたものと共に、また静かな眠りにつく。


 いつか、懐かしさだけで満たされた想い出の扉を開ける時、それはわたし自身が一緒に長い長い眠りにつく時かもしれない。


 ── そんなことを想いながら


 夕焼けの空は、その茜色のトーンをまた少し暗くしていた。

 少しずつ紺と混じり合い、夜へと向かうまでの束の間のその空は、決して同じものでなくて日々違っている。


 だからこそ、この日々を愛おしんで生きたいとそう思う。


 日が暮れていく。

 もう、空の中に沈んでいこうとしている茜色は、それでも美しかった。


(了)



次回

【あとがき】~わたしと『赤』の想い出~

に続きます。


 ◇


【茜色】

 茜色(あかねいろ)とは、薬用・染料植物であるアカネの根で染めた、沈んだ赤色のこと。暗赤色。夕暮れ時の空の形容などに良く用いる。

 *****『Wikipedia』より引用


【夕焼け】

 夕焼け(ゆうやけ)は、日没の頃、西の地平線に近い空が赤く見える現象。


 夕焼けの状態の空を夕焼け空、夕焼けで赤く染まった雲を“夕焼け雲”と称する。日の出の頃に東の空が同様に見えるのは朝焼け(あさやけ)という。

 *****『Wikipedia』より引用

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