第20話 望んだ呪い
あたしは、飴を見つめる。
飴は、とても綺麗に輝いている。
「……」
この飴は、願いを叶えてくれる飴だ。
どんな願いでも叶うのだ。
この世界には、オズがいた。
けれど、いなくなった。
でもいたのだ。
魔法は確かに存在したのだ。
ドロシーはいない。
だから最後に手渡した。
あたしの願いを叶えてくれる、最後の魔法を残した。
「……」
この飴を舐めたら、あたしはどんな願いでも叶うことがわかった。
だからね、例えば……そう。例えばの話。
もうクレアと結婚したから、この世界を終わらせて、新しい世界にすることもできるの。
そこで新しいクレアと出会って、またオズと戦って、またクレアと恋に落ちることもできる。
でも、クレアでなくて、相手を変えることもできる。
例えば、
リトルルビィとか、
ソフィアとか、
メニーとか、
ニクスとか、
アリスとか、
サリアとか、
ドロシーとか、ね?
世界をまるっと変えて、歴史を全く別物にして、あたしは自分で選択して戻った世界を壊したことすら全部忘れて、テリーとして別の世界を生きていくの。
その世界では、あたしは貴族じゃないかもしれない。
ただのお金持ちのお嬢様かもしれない。
それで、
キッドと恋愛するの。
クレアと恋に落ちるの。
リトルルビィと愛を楽しむの。
ソフィアにメロメロなあたしがいるの。
メニーに振り回されるあたしがいて、
ニクスに片思いしたり、
アリスに寄り添ったり、
サリアといけない関係になったり、
ドロシーと冒険にいく選択をした世界線に行けたり、
この飴は、なんでも願いを叶えてくれる。
これこそが最後の魔法。
最後の、あたしを幸せな道へ導く光。
「……」
あたしはよく考える。
これを今舐めないと、永遠に消えてしまう気がした。
だから、きっと、これが最後のチャンス。
ドロシーは最後に狂気を残してくれた。
あたしにとんでもない爆弾を残した。
あたしは欲望に満ち溢れている。
飴はそれを叶えようとしてくれている。
なんて良い子ちゃんなのかしら。
さあ、テリー。考えて。
これが最後の魔法だ。
呪いを受けよう。
あたしの両手が上がっていく。
ゆっくりと、飴が転がった。
あたしの唇に触れる。
両手が上がった。
飴が、あたしの口の中へ入った。
あたしは願った。
どうか、これからもずっと、愛しいクレアと共にいられますように。
飴が、溶けて、消えた。
「……ん……」
クレアが唸った。
「んー……」
クレアがもぞもぞ! と動き――あたしの胸に顔を埋めた。
「……ん……」
落ち着いて、動きを止める。
「……ダーリン……」
優しくクレアを抱きしめると、クレアもあたしに抱き着いた。
「ダーリン……」
「……クレア、まだ起きる時間じゃないみたい」
「んー……」
「一緒に寝ましょう」
魔女は、愛しい人に囁く。
「幸せな夢を、共に見ましょう」
朝が来れば、絶対に遅刻できない結婚式。きっと気が滅入るし、疲れるし、良い事は無い。
けれど、彼女といる為なら、あたしはきっと胸を張って言える。
この選択は、正しいのだと。
「……テリー」
「ん?」
「愛してる」
「……」
「むにゃ……」
「……ええ。あたしも愛してる。クレア」
クレアと一緒なら、あたしはきっと正しい道を歩いていける。
穏やかな日々を、きっと、過ごしていける――。
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