莨第?譎る俣 孤独悩みの中で


 孤独な闇の中で、あたしの意識だけが残っている。


 熱も冷たさも感じない。

 風がなければ空気もない。

 まるで海の底のように暗闇が続いている。


 唯一、わかることがある。


 あたしはこの闇の中、闇の奥、闇の底へと沈んでいるということ。


 落ちているのだ。

 真っ逆さまに。


 ゆっくりと、じわじわと。いつまでも。延々と。



(՞ټ՞



 孤独な闇の中、あたしは悟る。

 ここをどこだかあたしは知っている。


 ここは生と死の狭間。

 世界が壊れた後の世界。


 あたしが残っているのはそのためだ。


 生の世界は存在しない。

 でもあたしは生きている。

 だから死の世界にはいけない。


 あたしはここを漂い、さまよい、落ちていくだけ。


 皮肉なものね。生に執着していたら、こんなことになった。

 メニーめ、最後の最後で、あたしをざまあする気だったってわけ?

 はいはい。ざまあ。ざまあ。クソ女め。


 今なら、アルテの気持ちがよくわかる。あの呪われた城にいた人々も、こんな状態だったに違いない。

 足掻きたいけど足掻けない。

 落ち続けるしかない。


 ドロシーなら今のあたしを見て、こう言うでしょうね。

 ざまあみろ。

 相変わらず嫌な奴。ふん。



(՞ټ՞



 孤独な闇の中、星でもあればクレアと眺めて楽しむこともできただろう。

 だけど、それはできない。

 だってクレアは、あたしの目の前で刺された。


 懐かしい顔だったわ。


 あたしをかばった時の貴女、死んだ時と全く同じ顔をしていた。

 結局運命は変わらなかった。

 リオンの言う通り、彼女は刃物で刺される運命を持っていた。


 生きてるかもしれないなんて、そんな淡い希望は抱かない。

 抱いた分、いざ、彼女の死体を見たら、あたしは絶望の地面に落とされることになる。


 おとぎ話であれば、作られた物語であれば、きっと様々な奮闘の末、待ち受ける運命を回避し、幸せになることもできただろう。


 しかし、現実は違う。


 現実はことごとくあたし達を切り裂いて、ズタズタにして、なおかつそれでも生きるのか、あたし達に問う。


 夢なんてない。

 希望なんてない。

 抱いた夢は現実が打ち砕く。


 辛く苦しいことが次々に起こって、ようやく幸せを掴んだと思ったら、それを待っていたかのようにまた切り裂いて――。


 あたしたちは運命には逆らえなかった。

 ええ。そうよ。


 今度こそ、間違いなく彼女は――。


 あたしは、見ることしかできなかった。

 彼女を助けることはできなかった。

 クレアだけじゃない。

 ソフィアも。リトルルビィも。リオンも。そして、メニーはあたしをここへ突き飛ばして、一人残って、あの女は――。


 なんて哀れな女なのかしら。


 あたしを生かすために自分を犠牲にするなんて。

 だから嫌いなのよ。お前なんて。


 お前が死んだら――あたしは誰を恨めばいいのよ。


 あたしの中に渦巻く憎しみを、誰のせいにしたらいいのよ。


 もう、誰も憎めず、あたしは自分の中で自問自答するしかなくなる。



(՞ټ՞



 孤独悩みの果てに思い出す。


 レッドに謝らないと。

 リトルルビィを守ることができなかった。


 二人はちゃんと天国で会えたかしら。


 ソフィアはご両親に会えたかしら。


 クレアはリオンと再会して、ふざけて笑ってそう。

 なんだ、貴様も死んだのかって。


 メニーは、ドロシーが迎えに行ってることだろう。


 あたしを一人置いて、みんな、楽園へと行ったのだろう。



(՞ټ՞



 孤独な闇の中で考える。


 あたしは生に執着していた。

 生きることこそ目標であり、あたしの全てだった。

 だけど、こうして闇が永遠と続いて、誰もいなくて、何もないんじゃ、生きてても仕方ないのではないだろうか。


 あたしはどうしてそこまで生に執着していたのだろう。

 答えは簡単だ。


 あたしは幸せになりたかったのだ。


 好きな人に囲まれて、愛されて、愛して、仕事をして、好きなことをして、笑って、日々を過ごしたかっただけ。


 パパと過ごした日々を思い出す。

 ばあばと過ごした日々を思い出す。

 島を駆けていたばかりの頃を思い出す。

 ママとアメリとメニーと食卓を囲んだことを思い出す。

 思い出して、ただ、ひたすら、その記憶を忘れないようにあたしは抱き締める。

 大切な家族との思い出を、時を止めたようにそのシーンを抱きしめて、放さない。

 放してしまったら、寂しくなるじゃない。

 だからあたしは思い出す。

 記憶の一つ一つを。



(՞ټ՞



 レッド、

 最後まであたしを守ってくれてありがとう。


 貴方は最後まで、あたしの救世主だった。

 でもやっぱり、あたしは貴方の救世主にはなれなかった。


 あんなに小さかったのに、あんなに大きくなるなんて。

 でもね、どんなに大きくなっても、あたしにとってレッドは、いつまでも可愛いレッドのままなのよ。


 手だって握るし、頭だって撫でたくなるの。

 だって、あんた、すごく喜んでたじゃない。


 あーあ、あんなに良い男になるなら、もっと優しくしとくべきだった。

 そしたらあんた、ちょっとくらいあたしのこと、女として見てくれたかもしれないのに。


 勿体ないことしたわね。全く。


 ふふっ。


 ……救世主になれなくて、ごめんなさい。



(՞ټ՞



 お兄ちゃん、

 って、もっと言っておけばよかった?


 あのね、あたしが言ったって、何も萌えないのよ。可愛くないのよ。


 メニーみたいに可愛い声だったらきゅんとくるんじゃない?

 まだ純粋だった頃のリトルルビィに言われたらぎゅん! ってくるんじゃない?

 ソフィアに言われたら勃起もの。

 クレアに言われたらにやけが止まらなくなる。


 ね、リオン。あたしよ?

 あたしの声で、お兄ちゃん。


 お前ね、頭おかしいのよ。

 病気持ちなのよ。

 だからちゃんと治療しなさいって言ってたのよ。


 いっつもあたしに会う度にニヤニヤして、せっかく整えた頭を撫でようとしてきて、うざくてたまらない。

 お前そんなんじゃなかったでしょ。

 きりっとしたかっこいい王子様だったじゃない。


 いや、でもね、まあ、正直……あたしは今のあんたの方が、あんたらしくて嫌いじゃないの。


 あの頃のお前を見たらびっくりするわよ。目の下にクマがあって、どんよりしてて、いっつも眠そうにしてて。なのに、今のあんたは目を輝かせて、ミックスマックスだミックスマックスだ、ミックスマックスだって、本当にうるさくて。


 敵わない。


 お兄ちゃん。


 もっと呼んでいればよかった。



(՞ټ՞



 ねえ、ソフィア。

 すごいわよね。

 あたし、元々あんたのファンだったのよ。


 ほら、あたし、昔は相当な馬鹿で、のろまで、立ち向かえないくせに、口答えなんか出来ない弱虫だったのに、妙に「正義」というものに憧れをもっていたの。


 多分、屋敷にいた、使えない義妹のせいね。

 お前が貧乏人を助ける正義の怪盗だと聞いた時、とても胸が熱くなったの。あの頃は、新聞を欠かさず見て、お前の記事を切って、壁に貼っていたわ。お前の写真を見てはうっとりして、キスまでした。


 ああ、バカバカ。本当に恥ずかしい。

 お前がまさか、顔も心も綺麗な美人だとも知らずに。

 本当に恥ずかしい。

 後悔しかない。


 お前なんかに関わらなきゃよかった。

 そしたらお前はあたしに恋をすることもなかった。

 あたしを庇う事もなかった。

 あたしを助ける事もなかった。


 こんな場所で目を潰されることもなかった。


 痛かったでしょうね。


 だから言ったのよ。早く恋人作れって。

 お前ね、自分が思ってるよりも綺麗な心を持ってるのよ。

 貴族に騙されたくせに、まだ人を信じようとしてる。

 キッドの側にいながら、まだ人を好きでいる。

 だから人が寄ってくる。

 お前の魅力的な笑顔と、心に魅了されて。


 目じゃないのよ。

 呪いの副作用じゃないのよ。


 お前は魅力的なのよ。

 だから男女問わず、みんなお前に惚れるのよ。


 ああ、ムカつく。


 あんな女がこの世にいるなんて。

 外見も中身も良いなんて、あたしはどこで勝てばいいのよ。

 最低。


 お前なんか大嫌い。


 だから早く幸せになりなさい。

 お前は、幸せになる権利がある。

 絶対幸せになれたのに。


 何度も願ったのに、やっぱり、あたしの願いは叶わなかった。



(՞ټ՞



 可愛い可愛いあたしのルビィ。

 荒んだあたしの心に現れた小さな天使。


 テリーテリーと犬のように呼んできて、あたしの顔を見たらびっくりするくらい喜んで、跳ね飛んで、抱っこしてと両手を広げた可愛いルビィ。


 いつの間にやら大きくなって、あたしの身長を抜かして、気が付いたら、耳にピアスが空いていて、とんでもない反抗期が来て、あたしにまで口答えする始末。


 ああ、成長とは悲しきものなり。

 赤が好きなのは変わらないけど、昔大好きだったリボンはどこに行ったの?

 昔のあんたの部屋は、それはそれは可愛かったわ。

 ベッドも小さくて、テーブルも小さくて、全部がミニマムサイズで、まるで小人の家にやってきたようだった。

 クッキーを届けに行ったら笑顔で迎えてくれたのに、今は無表情で見下ろしてくるじゃない。


 部屋にはロックバンドのレコードが保管されていて、小さかったベッドは大きくなっていて、カーテンがボロボロになっていて、ロックバンドのなんかメイクが濃いだけの男のポスターが貼られていて、ギターがかっこよく飾られていて、違うのよ!!


 あんたはね、もっとふわふわ~ってしてて!

 もっとふきゅ~って感じで!

 違うの! あたしの理想のリトルルビィじゃないの!!


 だからね、まさかこんなにたくましくなるとは思ってなかったのよ。

 強かったわ。確かにあんたは強かった。

 でもね、チワワが、シベリアンハスキーになったら、あんた、驚くでしょ?

 あんたはね、そういう成長を遂げたの。もう、あたしは、びっくりよ。お手上げよ。


 メニーと一緒にふわふわ~って育っていくかと思ったら、番犬になるなんて、誰が予想がつく?


 本当、強くなったわよね。

 心も、体も。


 違和感のあった義手は、生まれた時からあったんじゃないかって思うほど馴染んでいて、何度もあたしを守ってくれた。


 あんたの良いところよね。

 恩を必ず返すところ。


 クレアが大好きだったのね。

 だからクレアが刺されたのを見て、真っ先に飛び込んだのよね。


 かっこよかったわよ。リトルルビィ。


 あんたは間違いなく、人を守る、優秀な騎士よ。



(՞ټ՞



 ……。


 メニー。


 ……。


 メニーね。


 ……。


 本当、――イラつく女だったわ。


 いつも優しくて、温かくて、あたしが欲しいと思うものを全部持ってる、嫌な女だったわ。


 世界で一番よ。間違いなくトップ。


 大嫌い。


 ……。


 今だけ、昔を思い出す。

 今だけ、あたしは昔になる。

 今だけ、あたしは正直になる。


 大好きだった。


 メニーと出会った時、妹が出来た時、確かにあたしの世界は変わった。

 白黒の世界は彩られ、花は舞い、心は踊る。

 手を繋いで、笑えば反応する。

 手を繋いで、優しくすれば反応する。

 もっと優しくして、愛して、可愛がれば、あの子がとても嬉しそうに笑うから。

 髪を結んであげただけで、幸せそうに笑うから。


 時を戻せるならば、

 あたしがメニーを憎む前に戻れるならば、

 この記憶を持ったまま戻れるならば、


 メニーの父親が死んだあの日、あたしはメニーの手を掴んで、ベックスの屋敷から出ていく事だろう。


 ママがメニーを嫌いなら会わせなければいい。

 縁を切ったって構わない。

 カドリング島に行き、サリアも連れて、三人で暮らす。


 屋敷じゃなくて、狭い小屋みたいな家を用意するの。

 メニーはどちらかというと、そっちの方が暮らしやすいと思う。


 それでいい。


 あの子が幸せならば、それでいい。

 あの子が灰を被らず笑顔でいてくれるなら、それでいい。


 だが、そんな現実は来ない。

 あたしはあいつを憎んでる。

 あいつのために家を用意して一緒に暮らすなんてとんでもない。

 あり得ない。

 だからこそ、思う。


 もっと環境が違ったら、

 もっとあたしが強ければ、

 もっと側にいられたら、




 あの子を失わずに済んだのに。




 メニー。


 あたしの妹。


 たった一人の妹。


 守れなかった最愛の人。


 血の繋がりはないけれど、それでも家族だった。


 メニー。


 心から憎んでる。

 心から愛してる。



(՞ټ՞



 あたしのクリスタル。


 クレア。


 愛してる。


 血にまみれた貴女も美しかった。


 あたしの運命の人。


 あたしのたった一つの宝石。


 クリスタル。


 もういない、あたしの想い人。


 庇ってくれてありがとう。


 貴女も、ちゃんとあたしを愛してくれていたのね。


 貴女が刺された瞬間、あたしはとても愛を感じたわ。


 だって、こんなにあたしを愛してくれる人なんて、誰もいなかったの。

 こんなに大切にされたことなんてなかった。


 貴女だけだった。


 しつこく愛をくれて、

 執拗に愛をくれて、

 嫌になるほど愛をくれて、

 本当、うんざり!


 でも本当は嬉しかった。


 あたし、面倒くさい女でしょ? ごめんあそばせ。こういうところが、あたしの魅力的なところなの。おほほほ。


 ……。


 ああ……。


 あたしの涙を、もう拭ってはくれないのね。


 助けられなくてごめんなさい。

 守れなくてごめんなさい。


 貴女が刺されるのを、黙って見ていることしか出来なくてごめんなさい。


 だけどね、あたし、それでも愛してるの。


 クレア。


 クレア。クレア。クレア。クレア。


 あたしが、愛されたいと、愛したいと願った人。


 愛してる。クレア。

 あたしのクリスタル。


 ああ、触れたい。抱きしめたい。


 クレア。寂しいの。

 クレア。会いたいの。

 クレア。守ってよ。


 いつもみたく、ボディーガードしてよ。


 ねえ、助けてよ。


 あたしを助けに来てよ。




 ――誰も来ない――。




(՞ټ՞




 孤独な闇の中で、

 孤独悩みの中で、


 あたしは膝を抱えて、ただひたすら落ちていく。

 誰も居ない闇の中で、


 ただひたすら、

 孤独、

 闇、

 孤独、

 悩み、

 溺れて、

 沈んで、

 落ちて、

 落ちて、

 落ちて、

 落ちて、



 アリス、



 気持ちが分かった。





 あたしもいきたい。




 楽になりたい。
























「だーめ」


















 後ろから、囁かれた。



「ロザリっちには、まだ早いよ」



 彼女はあたしを抱きしめたまま、笑った。



「もう少ししたら、また冒険に行こうね」

「もう少しって、いつ?」

「もう少し」

「あたしもう疲れた」

「そうよね。ロザリっちはずっと走ってるもんね」

「どうしてあたしばかりが走らなければいけないの?」

「それはね、ロザリっちが走らなければいけないから、ロザリっちは走ってるんだよ」

「もう走りたくない。止まりたい」

「よしよし」

「もう眠りたいわ」

「駄目」

「クレアに会いたい」

「惚気どうも」

「疲れたの。だって、もう十分落ちたじゃない。ねえ、落ちたら後は上がるだけって言った奴はどこの誰? あたしがぶん殴ってやるわ。見てみなさいよ。ここまで落ちても、まだ底が見えないの。上を見てごらんなさい。全く光が見えない。ここは闇の中。あたしは落ちるだけ。上がる? どうやって上がるのよ。梯子はどこにもない。じゃあ何? あんたが上から手を差し伸べてくれるの? 差し伸べてごらんなさいよ! あたしを引っ張り出してごらんなさいよ! 嘘つき! 出来ないくせに余計なこと言わないでよ!!」

「よしよし」

「まだ落ちてるのよ。どんどん落ちてるのよ。ねえ、上げてよ! あたしを抱きかかえて、上に上げてよ! まだ落ちてるの! まだ底が見えないの! あたしは一人で落ちてるの! もう嫌よ! もう嫌なのよ!!」


 下へ落ちるあたしの涙が上へと上がる。


「クレアに会わせて……。抱きしめさせて……。愛してると言わせて……。もう耐えられない……。愛することを知ってしまったの……。嬉しくて、胸が温かくなって、幸せだなって思うことを、あたしはね、知ってしまったの。だから余計に辛いのよ。苦しいのよ! 何よ! あたしばかりが悪いの!? ママとアメリが、メニーを虐めたんじゃない! 止められなかったあたしばかりを責めるのは、お門違いよ!!」

「深呼吸して。ロザリっち」

「アルテ……」


 彼女の腕を抱きしめる。


「寂しい……辛い……苦しい……痛い……痛い……痛い……!」

「わかるよ。愛を知って、幸せだなって日々を知って、ずっと続くと思っていたのに、突然失って、全ての責任が自分に圧し掛かるの」

「痛い、痛い……痛い……!」

「そうなの。痛くて、重くて、苦しくて、溺れてしまいそうになる」


 アルテの手が、あたしの両眼を隠した。


「特別に教えてあげる。ふひひ。そんな時はね、こうして目を閉じるの。そうすれば音だけが聞こえるようになる」


 ――あたしの耳にはアルテの声が聞こえる。


「耳をすませてごらん」


 ――糸車の音が聞こえる。


「とてもいい音色」


 ――草が擦れる音が聞こえる。


「そろそろかな?」


 ――竜巻の音が聞こえる。


「さあ、到着」


 ――あたしの足が、地面に触れた。びくっとして、そっと、足を下ろす。


「振り向いちゃ駄目だよ。お化けがいるから」


 あたしはその手を握りしめた。


「大丈夫。信じて前に進んで」

「進んだら、どうなるの?」

「ロザリっちは、まだやらなきゃいけないことがあるみたい。だから、進むしかないの」

「ねえ、こうしない? あたしが振り返ったら、お化けがあたしを襲って、あの世へ連れていくと思うの。そこで、二人で七不思議に行くのよ」

「つまんなそ。絶対嫌だね。わては断るよ」

「……意地悪」

「わてが背中を押してあげる。だからいくらでも足を止めていいよ。その度に、わてが何度でも、ロザリっちの背中を叩くから。お尻の方が良い?」

「背中でお願い」

「ふひひ!」

「この先に進めばいいの?」

「そう。真っすぐ」

「何も見えないわ」

「大丈夫。銀の靴が導くから」

「この靴なんなの?」

「わたくしが生きていた頃から伝わる魔法の靴。さあさ」


 ターリアが、あたしの背中を叩いた。


「行って。真っすぐ」


 あたしの足が動き出した。振り返らずに、真っすぐ進む。


「そう。それでいいの」


 あたしのボロボロの足が、前に進んでいく。


「もうひと踏ん張り。……頑張って。テリー」








 闇が――光が――あたしを包んだ。





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