第11話 決戦

 オズが杖を振ると、あたしに結界が貼られた。


 驚いて悲鳴を上げ、触れてみると、火に触れるように熱かった。周りを見ると、全員一人ずつ結界が貼られていたようだった。


 しかし、キッドだけが抜け出した。


 剣で結界を壊し、転がり、オズに剣を向ける。あたしは頭の中で集中し――十人の魔法使い達に助けを求めた。


「どうしたらいい!? 熱くて壊せないの!」

「落ち着きなさいな。テリー・ベックス。そんなんじゃ、金と銀を選んでしまうわよ?」

「こりゃ厄介な錠がついてるね」

「オズはね、この勝負に勝ちたいの。どうしても邪魔されるわけにはいかないのよ」

「魔法のヴァイオリンでもこいつは効きゃしねえな」

「大丈夫。一つずつ壊していけば、君はこの結界を壊し、外へ抜け出せる。オズは足元をすくおうとしているんだ。パニックになったら、それこそ君の終わりだ」

「テリー、よく聞いて。私達が力を貸してあげる」

「まずは一つ目の錠だ」

「我が子よ。貴女はベックスの子孫。きっとやり遂げるわ」

「海を取られたのは私だけじゃないってことがわかった。協力するからもう絶対私を虐めないでよね。トゥエリー」

「貴女は黄金のリンゴを実らせた。大丈夫。自分を信じて」


 オズがもう一度杖を振ると、一人しかいなかったオズが十人に増えた。キッドの周りをくるくる回り、キッドの目は本物を捜し出す。そこでソフィアが結界を壊した。魔法の笛が届いた。強風が吹くと、オズが一人に戻った。そのチャンスをキッドが見逃さない。自らの魔力を利用し、壁を走って反対側に飛び込み、オズに斬り込んだ。しかし、オズが後ろに下がったことにより、剣は当たらなかった。


「さあ、テリー!」


 水の魔法使いは湖から物を取り出した。


「貴女が望んでいるものは、金の鍵? それとも銀の鍵? それとも、この古ぼけた錆びた鍵?」


 あたしは錆びた錠を見て、錆びた鍵を指差した。


「え、本当にこれでいいの? ほら、綺麗な金の鍵や、銀の鍵もあるのよ?」


 あたしは首を振り、錆びた鍵だけを指差した。


「貴女、良い子になったわね。はい、どうぞ」


 水の女神から鍵を受け取ったあたしは、オズが閉めた錆びた錠に鍵を挿した。錠が開き、地面に落ちた。


 オズが杖を振ると、キッドに向かって紫の光が降って来た。キッドがそれを華麗に避け、そこから土人形が現れる。ソフィアが笛を吹いて現れた土人形達を吹き飛ばした。邪魔だと思ったのだろう。オズが指を鳴らすと、ソフィアが壁まで吹き飛ばされた。ソフィアが唸り、地面に落ちた。しかし、すぐに起き上がり、黄金の目を光らせてオズを睨んだ。オズがまた指を鳴らそうとすると、リオンが結界から抜け出し、ジャックがオズの影を掴んだ。オズが悪夢に引っ張り出そうとしているジャックを見て、足で蹴飛ばした。リオンが目を開け、鼻血を出すが、男らしくソフィアの前に立ち、剣を構えた。とてもたくましい姿であった。


「ほら、そこ退きな」


 あたしが退くと、黒の魔法使いが火のついた木の板を錠の下に置いた。


「燃え尽きな。でないと、お前を木の板にしちまうよ」


 怯えた錠が燃え尽きた。


「ありがとう」

「今度丸太を切りに来な。冬用にね、沢山の木の板が必要なんだ」

「ええ。必ず」


 オズが杖を振ると、大量の水が落ちてきた。このままでは溺れるだろう。動きを鈍くした状態でオズがキッドに光を撃った。キッドが水の中に潜ると、スイッチを切り替えた。ソフィアの黄金の目が光った。人魚になったクレアが魚達に助けを求めると、ウンディーネの親友であったクジラが水の中から現れ、クレアをオズの元まで運んでくれた。スイッチが切り替わり、キッドがクジラを蹴り、オズに斬りかかった。オズが避けようとしたが、そこでリトルルビィとレッドの結界が壊れた。二人の兄妹が自らの手でオズを押さえこみ、動きを止めたところをキッドが斬り込んだ。初めてオズが斬られた。すぐにリトルルビィとレッドが手を離し、その勢いで地面に穴を開けた。水が穴から流れていった。オズが憤慨し、大きく叫んだ。


「なぞなぞよ。ある人が一人も殺さずに十二人殺した。どうして?」

「犯人はカラス。貴女の毒で死んだ馬から肉をとって食べ、それで死んだのよ」

「それだとカラスが死んでるじゃない。死んだのは十二人よ」

「だから、そのカラスを十二人が食べたのよ。貴女の毒は最強だもの。黒の魔法使いが暖炉を楽しむための木の板で燃やしたって、毒はずっと残ってる。だから死んだのよ」

「ご名答。そうよ。それくらい私の毒は最強なの。つまり」


 毒の魔法使いが錠に毒をかけた。


「こんな錠、私の前ではただの鉄」


 毒にまみれた錠が溶けていった。


 オズが地面に下りた。杖が剣になっている。クレアに向かって突いてきた。しかしクレアは踊るように避け、スイッチを切り替えた。キッドが剣を構え、オズに振った。オズがキッドの剣に乗り、そこから剣で突き刺そうとしてきたが、ソフィアが銃で撃つことで邪魔をした。怒ったオズが地団太を踏むと、一瞬地面が揺れ、キッド以外の全員に再び結界が貼られた。オズがキッドを刺そうと剣を向けるが、キッドが剣を蹴飛ばし、起き上がり、オズに剣を構えた。


「ルンペル、あんたの出番よ! 今こそ本気を出すの!」

「調子がいいぜ。散々俺様のこと雑に扱ってきたくせに」

「だって……乙女だもの。かっこいいと思う相手に、素直になれるわけないでしょう?」


 あたしが言うと、ルンペルシュティルツヒェンがはっとした。


「え? かっこいい? 今、かっこいいって言った?」

「えー何よー。気づいてなかったのー? あんたがいない間、女たちはみんなあんたの話をしてたのよー?」

「な、な、なんだってー!?」

「あんたを巡って、決戦前に喧嘩になりかけたんだからー」

「そ、そんなに!?」

「本当は……もっと素直になりたかったけど……」


 あたしはルンペルシュティルツヒェンに背を向けた。


「なれない乙女の気持ち……わかるでしょう?」


 ルンペルシュティルツヒェンがもっとかっこいいところを見せようとして、錠を壊し始めた。


「頑張れ。頑張れ。ルンペルシュティルツヒェン。かっこいいとこ見てみたーい」

「うおりゃあああああ!!!!」


 ルンペルシュティルツヒェンが錠を壊した。にっこにこしてあたしに振り返る。


「テリーちゃん! 俺様とセックス……」

「はい、ありがとう」

「へぶっ!」


 ルンペルシュティルツヒェンの顔面に狙いを定めて膝蹴りした。くたばれ。


 メニーの結界が壊れた。メニーが手を叩くと、オズの足元が爆発した。オズが舌打ちし、メニーの前にトゥエリーに似た土人形を出した。高笑いした土人形にメニーが水をプレゼントした。土人形が溶けた。オズがメニーを壁に突き飛ばしたが、結界を壊したリトルルビィがメニーを受け止めた。オズに威嚇すると、オズが威嚇し、クレアが銃を構えた。オズがクレアに光を当てた。クレアが避けた。メニーが手を叩いた。オズがメニーに光を当てた。クレアに光をぶつけた。メニーが全ての光を破壊した。


「さあ、これで大丈夫」

「私も完璧」

「助かったわ。ロカトール、デイジー」

「テリー、しっかりやるんだ。足元をすくわれないように」

「貴女なら大丈夫。ローランドと応援してるからね!」


 灰の魔法使いがあたしの中に入って来た。


「……哀れだな。オズ」


 剣と剣が火花を散らせ、紫の目があたしを見た。


「ウンディーネはお前を好きだと言っていた。とても優しい天使だから。魚達に恵みを与えてくれたと。でも今のお前はどうだ。恨みに燃え、世界を終わらせようとしている」


 口角が上がる。


「世界が終わって、大罪を抱え、お前は本当に、主の元へ帰れるのか?」


 オズが結界の中にいるあたしを吹き飛ばした。壁が熱くて背中に火傷をしたが、今のあたしは巨人だから、何も痛みを感じない。巨人は呆れた目でオズを見つめ、瞼を閉じ、結界につけられた錠を壊した。


 メニーが手を叩いてあたしの結界を壊そうとしたが、錠が一つ壊れただけだった。メニーがあたしに近づき、呼びかける。


「テリー!」

「不安がることはない」


 グリンダの指があたしの火傷した背中をなで、傷が残らないように再生した。


「ベックスは、どんな時でも私に忠実だった。彼は良い働きをしてくれた。知恵が回って、行動力がある。素晴らしい人だった。我が子よ、怖がらずに行きなさい。貴女が前に進むなら、私はいつだって力を貸しましょう」


 グリンダが津波を起こし、錠を壊した。グリンダがもう一つの錠を青の魔法使いに渡した。


「さあ、腕の見せ所よ。ハゥフル。もし上手くやってくれたら、今までのことを水の泡に流してあげても良いわよ?」

「本当!? グリンダ! やるやる! 全力でやる!」


 ハゥフルが鳥に姿を変え、くちばしでつつくと錠が壊れた。


 レッドが結界を壊した。リオンが結界を壊した。オズの魔力が二人を吹き飛ばした。ソフィアが結界を壊した。リトルルビィが突っ込んだ。オズの魔力が二人を吹き飛ばした。メニーが手を叩いた。オズが裏切り者と叫びながら光を飛ばした。キッドが剣を振った。オズが杖を振った。


「お願い。テリー」


 アメリアヌが言った。


「オズを止めて」


 大きなリンゴが降ってきて、錠を壊した。しかし、錠はあと二つ残っている。緑と紫。


「大丈夫」


 あたしの両肩を抱くドロシーが囁いた。


「忘れないで。君の中にはボクがいる」


 あたしは杖を向けた。


「今度こそ、止めるんだ」


 錠を壊した。




 ――結界が壊れた。




 あたしは杖を構えた。オズが迷うことなくあたしに光を飛ばした。あたしは星を飛ばして光を跳ね返した。クレアが避けた。オズが光をあたしに飛ばした。あたしは星を飛ばして跳ね返した。オズが飛ばした。あたしが返した。飛ばした。跳ね返す。飛ばす。跳ね返す。飛ばす。跳ね返す。飛ばそうとしてメニーが手を叩いた。爆発した。オズに癇癪が起きた。激しく地団太し、所かまわず光をぶつけた。壁に跳ね返ってリオンが寸でで避け、リトルルビィが飛び、ソフィアが笛を吹き、レッドがコウモリになってオズの視界を遮った。オズが高い声で叫んだ。超音波のような声にレッドとリトルルビィが怯んだ。オズが二人に狙いを定めて光を飛ばした。しかしキッドが斬り、メニーが溶かした。オズがもう一度結界を貼ろうとしたが、メニーが手を叩いて阻止した。怒ったオズが姿を消し、一瞬でメニーの目の前に現れ、――メニーを殴り飛ばした。


「っ」


 メニーが倒れ、オズが杖を剣にし、メニーを刺そうとしたところを――あたしが星をぶん投げた。オズに当たった。オズがあたしに振り返った。あたしは杖でオズを殴ろうとした。オズが剣で受け止めた。あたしはオズを蹴った。オズが避け、あたしに剣を刺そうとした。あたしは杖を振り回す。オズが剣を引かせ、突いた。


 あたしの腕に刺さった。


「ふぐっ!?」


 一気に抜かれ、痛みで悲鳴を上げた。リトルルビィがオズの首に噛みつこうとしたが、オズの魔力がリトルルビィを吹き飛ばした。レッドが突っ込んだ。オズが吹き飛ばした。ソフィアが笛を吹いた。無効化になる。ジャックがオズの影を掴んだ。無効化になる。彼女は神だ。あたしは杖を構えた。頭に浮かべた文字を読んだ。


「「無効」」


 オズがあたしの手を払った。杖が遠くに転がり、あたしの首に剣の刃が向けられた。


「忘れたか? お前の魔力はわらわのものだ」


 魔力の効果はオズが決められる。


「やっと殺せる」


 メニーが手を叩いた。無効。ジャックが悪夢に引きずり込む。無効。リトルルビィが飛びついた。無効。ソフィアが黄金の目を輝かせた。無効。レッドがコウモリになった。無効。あたしは唱えた。無効。


「やっと終わる」


 オズが剣を刺した。





 あたしを突き飛ばしたクレアに刺さった。





「……」


 クレアの口から血が吐き出された。


「……、……」


 オズが剣を抜いた。スイッチを切り替えた。キッドが振り返ったと同時に、オズの――心臓に剣を刺した。


「っ!」


 オズが胸に刺された剣を見た。確実に心臓に刺さっている。


「……あたくしの……勝ち……」


 クレアが笑みを浮かべた。


「ざまあ……みろ……」


 ――クレアが倒れた。穴の開いた体が、大量の血を流した。

 ――心臓を刺されたオズが怒り狂った。叫び、怒鳴り散らす。


 それ以上に怒り狂ったリトルルビィがオズに襲い掛かった。全力でオズに噛みつくが、オズの魔力がリトルルビィの心臓を破裂させた。その瞬間、リトルルビィが地面に倒れた。


 ソフィアが笛で吹いたが、オズの魔力がソフィアの目を破裂させた。突然の衝撃に驚いた心臓が止まった。ソフィアが地面に倒れた。


 レオが走り、ジャックが永遠に悪夢の世界へを引きずり込もうとした。だが、オズの魔力がジャックを通じ、レオの脳に到達した。脳が壊された。リオンが地面に倒れた。


 レッドがあたしの前に立った。しかし、オズの魔力によって首の骨を折られた。レッドがその場に倒れた。


 魔力が飛んできた。メニーが手を叩いて破壊した。魔力が飛んできた。あたしが星を飛ばして破壊した。


 オズが雄叫びを上げると、視界いっぱい、隙間がないほどの光が現れた。あたしは頭の中で集中したが――オズに無効化されたようだ。文字が浮かんでこない。


「……メニー」


 メニーがあたしを見た。


「まだ走れるわね?」


 あたしは強い魔力を杖から出した。扉に小さな穴が開いた。


「逃げなさい」


 メニーがあたしを見つめる。


「行きなさい」

「……駄目だよ。テリー」


 メニーが首を振った。


「私が行っても意味がないの」

「ここにいて、一緒に死ぬつもり? メニー、一人でも生き残りがいた方が良い」

「テリー。わたしは行けない」

「大丈夫よ。あんたは強い子だもの。あたしには出来ないけど、あんたならここから出る事だって出来るでしょ?」


 振り返らないまま、メニーの腕を叩く。


「セーラをお願い」

「わたしが行ったら、負けちゃうの」

「何?」

「テリーじゃないといけないの」

「あたしはもう無理よ。魔法が使えないの」


 救世主もいない。


「オズは倒せない。止められない。どんなに手を尽くそうとも、あの魔法使いを止める方法はないわ」

「大丈夫」

「こんな状況でよく大丈夫だなんて言えるわね」

「大丈夫だよ。テリー」


 メニーがあたしの頬にキスをした。


「ドロシーを信じて」

「え?」


 オズの叫びで、光が降って来た。あたし達に一気に落ちてくる――



 ――前に、メニーがあたしを突き飛ばした。



「えっ」



 リトルルビィとレッドが開けた地面の穴に、あたし一人を落とした。



「メニ……」



 手を伸ばす。メニーは笑顔だ。



「メニー」



 光が、一斉にメニーに落ちた。



「メニー!」



 メニーが光に潰された。




「っ」





 あたしの声が空気に溶ける。

 メニーの血が、赤と緑に混じって、穴へと落ちた。

 闇が待っている。

 あたしは落ちていく。





 闇の中に、一人、落ちていく。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る