十二章 おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい

蜊∽コ檎ォ? 孤独な闇の中で

 物語というものはハッピーエンドで終わるものだ。


 毎日灰を被って家のことをしていた娘は、美しさから王子様と結ばれ、幸せになった。


 お婆さんのお見舞いに出かけた赤ずきんちゃん。悪い狼に食べられたけど、胃に穴を開けたらお婆さんと一緒に出てきて、悪い狼を懲らしめた。


 氷の女王に親友をさらわれた女の子。彼女のあたたかな心に親友の呪いが溶け、凍りきった心には春が訪れた。二人は笑顔で帰宅した。


 ネズミを追い払うため雇われた笛吹き。しかしお金を払われなかったため、町の子供をさらっていった。村人は笛吹きの行いにとても反省をした。


 不思議の国にさまよいこんだ女の子。いかれた住人に導かれ、不思議な夢を見て、最後は夢オチエンド。ああ、夢で良かったわ!


 塔の上の髪長姫。悪い魔女からの束縛から解け、王子様と結ばれた。盲目となった王子様に涙を落とせば、たちまち怪我は治って二人は幸せに生涯を過ごした。


 異世界からやってきた女の子。家に帰るため、仲間を連れてエメラルドの都までやってきた。様々な冒険で成長した女の子は、魔法の力を使って笑顔で家に帰った。


 海のお姫様。声を犠牲に足を手に入れた。想いは叶わず、溶けゆく体。しかし、彼女は信じ抜く愛を見つけた。どんなことがあっても彼女は想い人を愛してる。愛を知った彼女は笑顔で海へと消えた。


 狼が村へ来ると嘘を付く少年。しかし、ある日本当に狼がやってきて、ヤギを全員食べられてしまった。少年は深く反省し、もう二度と嘘をつくもんかと思った。


 呪いにかけられて眠る姫。しかし想い人である王子様のキスで眠りから覚める。

 そう。キスは世界を救う魔法なの。



 でも、現実は違う。

 涙で盲目は治らないし、キスで呪いは解けない。呪われたら最後。死ぬまでつきまとう。キスで世界を救えたら戦争なんてものは起きない。街中みんなそこらじゅうでキスをしまくっていることだろう。キスをしても血は止まらない。涙をいくら落としても穴は塞がらない。


 死んだ者は戻らない。

 ドロシーは戻らない。


 みんな死んでいく。


 消えていく。




 落ちていく。





 あたしはそれを、孤独な闇の中で考える。











 さあ、最後の魔法だ。



 呪いを受けよう。


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