第16話 塔の上のブルーローズ(3)

 あたし 15歳

 メニー 12歳


 ・王妃様が自殺する。

 ・葬式のため、ゴーテル様の弟一家が城下町にやってくる。

 ・城が閉鎖される。

 ・弟一家、外国へ亡命。


 回避する手段

 ・リオンに策があるみたい。これに関してはもうリオンを信じて任せるしかない。あたしはメニーとの関係を守るだけ。スノウ様さえ死ななければゴーテル様が狂う事は無い。頼むわよ。リオン。全てはお前の手のうちよ。



(走り書きになっている。きっと衝動的に書いたのだろう)

 なんでキッドはあたしのことが好きだと言うの? 女は他にも沢山いるじゃない! 確かに声も顔もあたしの好みよ。でもね、なんか、キッドって……どこか、演技かかってる時があるように見えるのよね。別にそういう奴なんだろうけど、なんか、どこか、なんていうか、違和感があるというか……。


 あいつとは四年ちょっと一緒にいるけど、それでもやっぱりわからない。キッドのことを知ろうとすればするほど、あいつから遠ざかってるように思える。見られたくないものがあるみたいに。


 隠し事が多い王子様なんかと結婚なんかしたくない。だからあたしは逃げるわ。

 ニクスと待ち合わせしてるの。家族のみんな、さようなら。騒ぎが収まったら帰るわ。



 ロザリー・エブラリッチ(あたしの名前よ。絶対忘れちゃ駄目!)



 ニクス♡テリー

 アリス♡テリー

 テリー♡ルビィ



 クレア姫とは?

 ・美人

 ・我儘

 ・傲慢

 ・キッドの双子の姉


 攻略方法

 ・機嫌を取る

 ・甘やかさない

 ・屁理屈言って来たらスルーする

 ・イチゴケーキはあまり食べさせない方が良い。あれだけ綺麗なのに太るし、肌にも悪い。仕事中イライラしてたし、外に連れ出してみるか。クレアは仕事をサボる為なら素直に従いそう。



 リトルルビィはわかる。ソフィアもわかる。メニーが来たんだけどどういうこと? キッドはどこよ。リオン、早く帰って来なさい。可愛い妹の対応はもう疲れたわ。



 テリー、このノートが大事なら開きっぱなしで置いていくものじゃないよ。ニクスが見る前にしまっておいたから、今後気を付けるように。ああ、ボクって優しいね!(肉球の跡)



 ドロシー、ノートを見たわね。これメモ代わりにも使ってるのよ。くたばれ。人のノートは見ちゃいけないのよ。まじでくたばれ。



 ニクスがいなくなった。

 クレアやコネッドが言うには、前からマールス小宮殿では行方不明者が出ていたらしい。

 だから履歴書破られたのね。証拠隠滅用に。

 とにかく何とかしないと。

 ニクス、無事でいて。



 ニクス、まずは日記を読んでごめんなさい。でもね、この場合仕方ないと思うのよ。どうか許してね。ニクスの日記にはブルーローズって書かれてた。青い薔薇がどうかしたのかしら。明日クレアに聞いてみよう。何か知ってるかも。



 いつか、クレアをカドリング島に連れていく。



 クレアっていい名前よね。

 よく見たら仕草も可愛いのよ。あいつ気づいてないだろうけど、温かいものを食べる時に、熱いから、一回ぱくっと食べてから、しばらく間を置いてもぐもぐするの。ちょっと可愛いのよ。それからロザリー人形を腕に抱いてる時の彼女は、どこにでもいる普通の女の子に見える。


 あたしもクレアみたいな美人になりたかった。

 そうすればメニーが隣に来たって気にしなかったのに。

 羨ましい。



 セーラを見てると過去の自分を思い出す。悪い子じゃないのよね。きっと。サリア、あなたならあの時、正直に言った? あたしは酷だと思って嘘をついた。でもセーラは何となく状況がわかってるみたいだった。早くみんなを見つけないと。



【罪滅ぼし活動ミッションクリア記録】

 ・クレアから、ニクスから貰った金の帽子がついたアンクレットに呪文を唱えて天使様を呼び出すように言われた。

 ・(呪文が書かれたメモがノートの端に貼られている)

 ・これを唱えたらクレアの頭に地図が生まれたらしく、塔の下に向かうことになった。犯人は下水道に落ちた人を誘拐して、塔の下にある町に隠していたらしい。

 ・あたしが下水道で襲われた時はカエルだったけど、次現れた時はトカゲの姿だった。首は人間の男の顔で体はトカゲ。すごく大きかった。あと舌が長かった。クレアは背中に回りこもうとして走ると、中毒者は舌を伸ばしてきたり、目から眩しい光を出してきたりした。でもクレアはサングラスをして回避してた。舌が伸びた時に舌に乗って上からヒールで滑っていくと、長い舌は血を出して、その痛さに悶えている間にクレアが後ろに回って銃を撃ってた。後ろが弱かったみたい。かなり血を出してた。一旦引くために水の中へ潜っていった。

 ・次に亀の姿になって現れた。リトルルビィを狙ってたみたいだから、リトルルビィが相手になってた。リトルルビィはそれはそれは勇敢だったわ。亀の甲羅は出るはずのない血管が浮き出ていて、リトルルビィはそれを爪でひっかいた。ちゃんと中毒の血は飲まないように唇は閉じたまま。中毒者はまた水の中に戻ろうとしたみたいだけど、ソフィアが笛を吹いて土の壁を作ったものだから、中毒者は水の中に戻れないでいた。リトルルビィはその間の時間を使ってまた甲羅に浮き出た血管を引っ掻いてた。

 ・次に蛇の姿になった。目は人間の目。唇は人間の唇。それ以外は全てヘビ。まがいもののようだったわ。クレア、リトルルビィ、ソフィアが三人係で一体の蛇を攻撃して挑発してた。その姿は卑怯の何物でもなかった。中毒者は明らかにクレアを狙ってた。何度もクレアを呑み込もうと挑戦したけど、やっぱり一人の男が三人の女に勝とうなんて無理なのよ。男はハーレム好きだけど、殺気立つ女に囲まれたら縮こまるものなんだから。クレアは見事に口の中に弾を入れた。脂肪がくっつきあう中毒者の姿は本当に気味が悪かった。

 ・次に可愛いクマの姿になった。お腹にはトカゲの口。背中には血管の浮き出た甲羅。手はカエルの形。口からは蛇のように長細い舌が出た。わかる? 可愛いっていうのは皮肉よ。一番気味が悪かった。でもクレアは構わず撃ってた。クマがどれだけ地震を起こしたり、相撲の真似をしてみせたところで、ルールの知らないクレアはそれを避けて自分がやりやすい攻撃を仕掛けてくるものだから、クマはどんどん追い詰められていった。クレアは彼を追い詰めた。やがて中毒者は元の老人の姿に戻った。

 ・犯人は使用人のゴールド。彼は若者の青年ではない。既に老いた老人。政治のやり方が気に入らず、議員が沢山いる小宮殿に紛れ込もうとして、飴を舐めたらしい。クレアが無表情で彼を拳で殴ってた。正直、ちょっとすっきりした。殺さないためにも、彼に注射を打ってた。


 クレアに、「動物を理由に文句を言ってくる老人」と、「既に問題に向き合っているあたくし」、どちらが正しいと思うか聞かれた。答えられないから濁したけど、政策が上手くいってないから文句が生まれるわけであって、でも政策が始まってるならそれで結果を出さないといけないわけであって、結果が出てないから文句がでてくるわけであって、政治って難しいわ。少なくとも、政策の結果を待ってあげるくらいはしてあげても良いと思うけどね。今後王族になる予定のないあたしには関係ないけど。


 メニーもニクスも見つかったことだし、明日は早いわ。もう寝ましょう。



 ク レ ア



 クレア♡テリー

 テリー♡クレア


 クレアらぶ


 あたしのクリスタル


 キラキラ~




 へへ。



【追記記録①】

(順番に整理して書くから箇条書きになるわ。でも誰も見ないし、いいわよね)

 ・今回の事件の犯人はゴールド一人ではない。そもそも、地下の町に人々を閉じ込めた理由は実験だった。人の体内にある何かを吸い取ると、青い薔薇が出来上がるらしい。何を吸い取ってるのかはわからないけど、そうだってスペード博士が言ってた。

 ・ロザリー人形襲来。ロザリー人形が動き出してマールス小宮殿にいる人達に種を撒き、水をそそぐ。すると青い薔薇が出来上がる。だからロザリー人形がみんなに種を撒いて、青い薔薇を咲かせてた。

 ・時空が歪んでいたらしく、メニーをクローゼットに隠したら消えていた。あたしは一人で行動することになった。まじであいつ、魔力があるくせに役立たず。

 ・リトルルビィとソフィアがあたしをかばって囮になってくれた。

 ・セーラが取り残されていたから、一緒に行動する。

 ・GPSでクレアの位置を把握。最上階に行くと、キッドになった人形がいて、危うく結婚式が行われるところだった。

 ・クレアが神父に化けていて、ロザリー人形たちを撃退した。

 ・マールス小宮殿の屋根に大きな蕾があった。あれはなんだったんだろう。つぼみが開くと、全部を呑み込んだ気がしたけど、天使様の導きによって、あたし達は犯人の場所へとたどり着くことに成功した。

 ・犯人はスペード博士。青い薔薇の研究をするため、人々を利用した。

 ・彼は自分で開発したロボットにゴールドを入れ、それを源にしてロボットを起動させた。


(以下、ドロシーから聞いた情報。あたしは塔の階段で苦戦してて、見てないから)


 ・第一形態:ロボットは足がいっぱいあって、蜘蛛のような動きをする。でもリトルルビィがなんとかしてたらしい。

 ・第二形態:腕がロケットになる。でもロケットよりリトルルビィの方が速いから、なんとかなってたらしい。

 ・第三形態:顔中からビームを出す。でもリトルルビィの方が頭が良いの。ロボットの頭に上って、ロケットになる腕で殴られる前に避けて、ロケット自身にダメージを食らわせてたんですって。流石リトルルビィ。

 ・第四形態:ロボットがドレスを着る。踊り舞って青い薔薇の種を撒き散らすけれど、ソフィアがリトルルビィに催眠をかけたお陰で全てを避ける。その隙を使ってソフィアが笛で突風を吹かせて、砂が入り込んでロボットが故障したらしい。

 ・第五形態:二本の蔓が生える。ロボットの相手はソフィアが。蔓の相手はリトルルビィ。蔓を掴んでロボットをぐるぐる回した後、運転席部分をリトルルビィが蹴飛ばしたことによって、ガラスの窓が割れたの。博士は気づいてなかったけど、クレアが一生懸命上ってたらしい。

 ・第六形態:可愛い羽が生えた。宙から種を撒いて、棘のあるツルで叩いてきて、顔からはビームを出して、両腕からはロケットを出す。なんか色々とすごかったから、ソフィアとリトルルビィは傘を差して傍観を始めたって。

 ・最後はクレアがロボットのボタンを押しまくって壊して、ロボットから避難。リトルルビィがロボットを蹴飛ばして、塔から落として終わり。

 ・クレアも言ってたけど、スペード博士は優秀な研究者だったと思う。クラブさんが引き継ぐって言ってたけど、あの人も相当な変人だ。大丈夫かしら。


【追記記録②】

 ・紫の魔法使いの名前はオズ。

 ・中毒者事件は、彼女が全ての元凶。

 ・彼女の魔法はドロシーよりも強くて、全ての攻撃を無効化してしまう。

 ・クレアでは攻撃も全て無理だった。

 ・キッドは唯一攻撃できる。だから、オズに立ち向かうならキッドじゃないと無理なんだと思う。キッドは救世主って呼ばれてた。

 ・ドロシーはオズについて、あまり教えてくれなかった。



 今日はクレアがあの家に帰ってるらしいから会いに行ってくるの。記者に気を付けて行かないと。


 クレア♡


 へへっ。



 美化されたクレアの絵が描かれた落書きが貼られていた。






「あたくしが見えるのはそこまでだ」




 あたしは次のページを読んでみた。あたしの目では確認できる。


「一年ごとに少しずつ字が浮かび上がる。きっとそういう魔法をかけられているのだと思う」


 クレアが指を差した。


「こことか、この部分とか、何が書かれているか、あたくしの目では定かではない。ぼやけて見える」


【クレア♡テリー】の部分だった。


「でも、全てが終わった時に読み返すと、全くその通りのことが起きている。必要な部分は文字が浮かび上がる。でも、そうじゃない部分は後から真相がわかったりもする。あたくしは完全に先のことが読めるわけではない。けれど、これがあれば中毒者が現れた時、どのように対策していいのかがわかる」


 魔法を打ち砕く方法が載った本。


「貴様に言っても知ってる様子はなかった。だから、この先で何かがあるのだろう」


 クレアに振り返ると、クレアが真っすぐあたしを見ていた。


「貴様、テリー・ベックスだろう」

「……」

「でも、あやつが魔力を持ってる様子はない。メニーは持っているけれど、まだ持っていないということか」


 あたしは黙ってノートを元の位置に戻した。


「力になれることはあるか」

「ない」

「そうか。残念だ」

「もう寝なさい。寝る時間よ」

「一つ教えていただきたい。魔法使い殿」

「何?」

「中毒者はこの先も現れるのか?」

「ええ」

「そうか。ふむ。ではより鍛えておかないとな」


 ソファーで眠るレッドの元へ歩いていく。


「安心せよ。貴様がここにいることはあたくしの夢ということにしておいてやる。感謝しろ」

「ええ。どうもありがとう」

「もう一つ聞きたい」

「あまり答えられないの。そろそろ行くわ」

「今の貴様は幸せか?」


 ――月の光にあてられたクレアを見る。


「そういう話をしてた。この時代の貴様と」

「……ごめんなさい。答えられない。だけど」


 言えるとするならば。


「希望があるからこそ、動かなければいけない自分がいる。今のあたしには、それしかない」

「やはり何かあったようだな」

「ええ。面白くないことがね」

「ほう。どのようなことが起きたのか、どうせこの先でわかることだ。楽しみに待つことにしよう」

「ベッドに戻ってくれる? ……この子がびっくりしてしまうだろうから」


 クレアがレッドを見ると、素直に頷いた。


「わかった。そうしよう。これはあたくしの夢なのだから。だが、その前に」

「ん?」

「あの箱に、貴様が必要とするものがあるだろう」


 クレアが宝箱を指差した。


「ではおやすみなさい。魔法使い様」


 クレアが過去のあたしの眠っているベッドに戻った。あたしは宝箱を開けてみると――リトルルビィがよく飲んでいる血と同じ成分が入ったドリンクが入っていた。


(……恐ろしい奴ね。レッドを一目見て吸血鬼だってわかったっての?)


 ドリンクに杖を振ると宝箱から消えた。蓋を静かに閉じ、ようやくレッドの肩を叩く。


「レッド、起きて」

「……ん……」

「疲れてるみたいね。次の時間軸で少し休みましょう。ここは、いてはいけないから」





 ――静かになったと思ってクレアが振り返ると、既に二人はいなかった。


「……キッド……」


 クレアが振り向くと、そこには自分のメイドが眠っている。


「てめえ……まじでくたばれ……」

「……面白くないことがあっても、希望はあるらしいぞ。良かったな」


 クレアが笑みを浮かべ、そのまま瞼を閉じた。


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