第15話 塔の上のブルーローズ(2)



 次の時間軸に行く前に、あたしとレッドがとある部屋に到着した。レッドが辺りを見回す。その部屋は、エリアごとに分かれていた。色が変われば玩具部屋。色が変われば寝室。色が変われば公園。色が変わればリビング。色が変われば……。


「テリーさん、ここは……」

「リトルルビィには会えた?」

「……うん。何となくだけど……多分、……短い髪の……赤いリボンを巻いた……女の子だと思う」

「正解」

「身長が……高くなってた。テリーさんの言う通り」

「……レッド、すぐ移動するから、少しの間、ソファーで休んでなさい」


 寝息が聞こえるベッドから離れる。


「大きな音出したら駄目よ」

「うん。わかった」


 レッドがソファーに座った。……あまりに心地が良かったのか、レッドの瞼が一瞬でとろけ、閉じられた。疲れていたらしい。


(さて、魔法を打ち砕く方法が載った本、どこかしらね。いざっていう時のために見ておかないと)


 微かな光を杖から出し、クレアの交換日記が入っていた本棚を調べてみる。


(……魔法を打ち砕く方法が載った……本……)


 あたしは眉を潜ませる。


(どこ?)

「そこ」

「っ!」


 慌てて後ずさると、ネグリジェを着たクレアがあたしを眺めていて、すぐに本棚に指を差した。


「そのノート」

「……」


 あたしはじっと本棚を観察し、細いその本に手を伸ばした。その本の背表紙は――どこか、見たことのあるものだった。


(ん?)


 本棚から取ってみる。


(え、これ)


 あたしは本の表紙を見た。


(あれ、これ)






 四つ葉のクローバーのノートだった。






「……」



 あたしはノートを開いてみた。そこには、あたしの字でこう書かれていた。



 あたし 10歳

 メニー 8歳


 ・メニーの父親が亡くなる。

 ・メニーが屋敷のことをするようになる。使用人同然の扱いを受ける。

 ・屋敷から使用人がいなくなる。


 回避する手段

 ・メニーを大切にする。

 ・もうとにかくメニーを守る。

 ・使用人には良い顔しておけ。あたしの笑顔は世界一。



 アメリアヌが誘拐された。ママは疲れきってる。

 今日は記憶を頼りにアメリアヌを捜しに行く。

 ドロシーに何か役に立つ魔法はないか聞いてみる。



【罪滅ぼし活動ミッションクリア記録】

(これを記録していけば今後の動きがわかって、死刑回避が実現するかもしれない。あたし、がんば★)


 ・前に誘拐された場所に行ってキッドに会う。

 ・婚約者になれと言われて、承諾。(ここだけ字が歪んでいる。)

 ・あたしを囮にする作戦Dを決行。最初は作戦Aをやる予定だったみたいだけど、どんな内容だったのかは知らない。

 ・地下室に来た犯人が変形して現れる。相手は切られてもすぐに再生した。その姿は人間ではなかった。キッドは、相手に再生能力が追い付かない速さで肉片を斬りつけてから、とどめを刺した。

 ・犯人はずっと「ぱぱ」と叫んでいた。父親関係に何かあった? 子供が愛しくて、楽園だとも言っていた。青いひげを生やした、杖を持った男。恐ろしくて今でも忘れられない。キッドはもう大丈夫って言ってたから、あたしはもう忘れよう。あいつが全部処理してくれるだろう。あたしはメニーのことだけを考えたらいい。


 キッドとメニーの絵が描かれたらくがきが、貼られていた。



「……」


 あたしは次のページを開いた。



 あたし 11歳 

 メニー 8歳


 ・月経が始まる。

 ・ヴァイオリンを習い始める。

 ・家庭教師が来る。


 回避する手段

 ・月経に回避なんてない。今のうちに大量の鎮痛剤を用意しておこう。サリアに言っておかないと。

 ・ヴァイオリンは習わない。

 ・もう少ししたらクロシェ・ローズ・リヴェが来る。あの人はあたしの人生の中で一番の先生だった。クロシェ先生は変死体で発見された。今回は変死体にさせるわけにはいかない。彼女はこのベックス家にとって大切な人材よ。絶対失ってはいけない。


 追記

 ・キッドに会わないようにしばらく街に近づかない。ま、口約束だし、向こうも覚えてないでしょうけど。自然消滅さえしてしまえばこっちのものよ。婚約なんて、あたし知らない。



 キッドくたばれ! お尻が痛いじゃない! てめえもお尻痛くしやがれ! ばーか!!(……見つかった時に書いたものだわ。そうよ。確か書いたのよ。憂さ晴らしに)



 来るはずだった二人の家庭教師を蹴飛ばして、予定よりも早くクロシェ先生が来た。これは歴史が変わってる証拠かしら。ドロシーも危ないって言ってた。あまり歴史を変えるようなことはしない方がいいわね。……ま、メニーがメイド服を着てない時点で、もうおかしくなってるんだろうけど。


 とにかく、変死体にさえしなければいいのよ。大丈夫よ。あたし、スーパーエリートテリーちゃんだもの。なんかあったらドロシーに頼ればいい。あたし、がんば★



【罪滅ぼし活動ミッションクリア記録】


 ・歴史通り、クロシェ先生がいなくなる。あと、メニーもいなくなった。

 ・キッドに助けを求める。……悔しいけど、あの時のあいつはスーパーヒーローに見えたわ。一瞬だけどね! ああ、イライラしてきた。一旦お菓子食べよう。

 ・クロシェ先生とメニーを襲ったのは、紹介所にクレーマーを入れてきたおかしな男だった。キッドが言うには、呪いの影響でおかしくなっていたとか。

 ・その後、馬車で移動中、襲われる。彼女の名前はルビィ・ピープル。赤い目と、赤いスカートを穿いた女の子。彼女は呪いの影響で吸血鬼になっていた。男の血は飲めない。女の血だけを飲む。そのせいで女性の変死体の事件が起きていたらしい。

 ・キッドは最低野郎。あたし達が乗った馬車を囮に使ってルビィを誘い込ませた。助けてくれたことには感謝してるけど、助けてくれたのは手柄が欲しいため。あいつはやっぱり信用できない。

 ・最初にルビィはあたしを森に誘拐した。それをメニーが追いかけてきた。しばらくやりとりがあった末に、ルビィの呪い?が体を変形させた。小さな体が大きく膨らんで、オオカミのようになった。でも、可愛い感じで、内股で走ってくるの。腕は女の子用に肘をまげてくねくねしてた。遠くから見てれば可愛い走り方だけど、あの姿であんな風に追いかけられたら、あたしが全力でキッドの名前を叫んで、助けてっていうのも誰が聞いても理解することだと思うの。案の上キッドはすぐに助けに来て、ルビィの右腕を斬り落とし、そのまま剣で色んな所を斬りつけた。ルビィは再生が追い付かなくなって、右腕は失ったまま、まあ、説得して、わかってくれて、気絶した。キッドは彼女を保護したみたい。あとは、彼女が回復するのを待つだけ。正気になってるといいけど。


 追記

 ・ルビィが回復したらしい。キッドがあたしをあのおんぼろ家に呼んだから、会ってきた。あたしにとても懐いてくれてた。今度お菓子を持っていこうと思う。

 ・ルビィはキッドに右腕を斬られ、彼女の右腕は義手となった。

 ・メニーと友達になったらしい。庭で一緒に遊んでた。


 あの子とっても可愛い。犬みたい。あたし、気に入ったわ。あの子になら、パパのオルゴールを聞かせてあげてもいいかも。



 リトルルビィの絵が描かれたらくがきが、貼られていた。



「……」



 あたしは次のページを開いた。




 あたし 12歳

 メニー 9歳(二月で10歳)


 ・家庭教師が一週間ごとに変わる。誰一人信用せず勉強を怠る。

 ・家族仲は最悪で、反発して一人で街へ出かけることが多くなる。

 ・冬に期間限定でスケートリンクが城下町に建てられ、スケートの才能のなさを実感する。

 ・美味しい美味しいベーコンチーズパンが流行り出す。

 ・この時期の冬は地震が多い。


 回避する手段

 ・クロシェ先生は生きている。もう大丈夫。彼女から生きるための術を学んでいこう。

 ・家族仲はなんとかなってる気がする。ママも……まあ、だいぶ丸くなった方だろうし。アメリアヌとメニーは仲良くなってる。ありがたいわ。あたしが面倒ごとに巻き込まれなくて済む。ジェフとの交流関係は築いておきたいから、一人でお出かけは続けよう。一人でないと紹介所に行けないわ!

 ・スケートなんか二度とするもんか。あたしはね、お尻と氷が当たったあの瞬間が、すごく嫌なのよ。別に嫌いってわけじゃないの。苦手でもないの。ただ、嫌ってだけなの。もしスケートをデートに誘ってくる殿方がいるのならば、あたしは拳を握ってスーパーハイパーすごいパンチをお見舞いしてやるわ。

 ・ベーコンチーズパン。恋しいわ。早く食べたい。

 ・地震は多いけど、春になれば収まるから大丈夫。何も問題はない。



 今日、あいつに会った。駄目だ。やっぱり名前が思い出せない。寒い。ココアでも飲もう。



 ニクスだ。

 思い出した。

 よくも約束を破ってくれたわね。ニクス。

 絶対後悔させてやる。




【罪滅ぼし活動ミッションクリア記録】


 ・地震の原因は雪の王。魔法の鏡に囚われて、呪われたらしい。

 ・キッドから魔法の鏡には鏡を見せるよう言われた。なんでも、鏡は映すもの。映された自分を見ているうちに鏡に魅了されてしまう。つまり、魅了の呪いがついているのかもしれない。だから、魅了する鏡を鏡で反射させて、鏡自体を魅了させ、その隙に壊してしまえ、とのことだった。結局あの鏡は何を映し出すものだったんだろう? 額縁も消えて、残った破片を集めるのが大変そうだった。

 ・雪の王はとても大きいから、キッドが小型飛行機を呼び出し、空から熱湯をかけた。あたしとリトルルビィは傘をさしてその様子を見てた。氷が解けて中身が出てくると、キッドは銃や剣で攻撃をした。でも氷は頑丈だったから、トンカチを使ってた。

 ・雪のワルツは確かに綺麗だった。

 ・ニクスは、あたしの女の子の親友だった。


 あたし、ニクスに手紙を書くの。使ってなかった便せんが山ほどあるから、沢山書いて、使い切らないと。



 笑顔のニクスの絵が描かれたらくがきが、貼られていた。



「……」



 あたしは次のページを開いた。





 あたし 13歳 

 メニー 10歳


 ・様々なパーティーに招待される。彼氏は出来ない。

 ・唄遊びが流行りだす。

 ・図書館が新しく建てられる。

 ・怪盗パストリル事件。事件が100件を超えた時に現れなくなる。

 ・仮面舞踏会が開催される。



 回避する手段

 ・パーティーに行ったって、やることは一緒。あたしはメニーを全力で守り、良き姉としてメニーの側に居続ける。ただ、それだけ。

 ・唄遊びの一番の遊び方は、事前にネタを考えておくことよ。メモ帳を用意しましょう。即興で唄ってみろと言われても大丈夫なように。キッドなら絶対に言ってくる。女神様! どうかキッドの唄のセンスが乏しいくらいありませんように!!

 ・図書館が建てられたらメニーが通いそう。クロシェ先生も、よく言ってるわね。月に10冊は本を読め。そんなに読んでどうするの? 教科書の文章を見るだけでも眠くなるのに、ごめんだわ!

 ・ああ、パストリル様。お会いしたいわ♡ うっとり♡

 ・仮面舞踏会は出席しないとママにどやされる未来が見える。そこであたしは考えたわ。仮病を使うのはどうかしら。頭が痛いの。うーんうーんって可愛らしく言えば、きっとママだってわかってくれるわ。大丈夫、上手くやるのよ。あたし。



 畜生!! よくもあたしの髪をおかっぱにしてくれたわね! 全部メニーが悪いのよ!!



 畜生!! キッドに馬鹿にされた! あいつ絶対許さない!!!!!



 メニーがパストリル様に誘拐された。やっぱり誰でもメニーを選ぶのね。

 明日、タナトスに行ってくる。

 大丈夫。ドロシーからは最強の魔法を受け取ってるし、サリアが側に居る。

 必ずメニーを見つけ出すのよ。そして、二度とキッドに関わらないのよ。


 あのクソ野郎。絶対許さない。



【罪滅ぼし活動ミッションクリア記録】

(思い出したくないけど書くわ。まじでしんどい……)


 ・メニーが誘拐され、あたしとサリアはタナトスへと向かった。キッドに先を越されるわけにはいかなかった。当時のあたしは、復讐心に燃えていたのよ。

 ・タナトスではその時、カーニバルが開かれていて、丁度仮面舞踏会が開かれるタイミングだった。あたしとサリアはそこへ向かい、パストリルを捜した。結果、あたしはパストリルと踊ることに成功したんだけど……いや、いいわ。順番に書いていく。

 ・キッドは手下の力を使ったのか、それとも自分のご実家の力を使ったのか、もちろん何もかもお見通し。仮面舞踏会にはキッドもいた。あいつ、謝罪はしないくせに言い訳だけは一丁前。だから嫌いなのよ。ああ、せっかくの記録が愚痴だらけになりそう。愚痴を書くのはよくないってクロシェ先生が言ってたわ。あたし、落ち着いて。あたし、今日も美しいわ。

 ・キッドくたばれ!!!!!

 ・結局、パストリルとキッドは剣できんこんかんこんやった後、パストリルの目にキッドがやられた。パストリルは中毒者。彼女は……ソフィア・コートニーという女性だ。貴族に借金があると騙され続け、追い詰められ、自殺する直前、呪いを受けたらしい。黄金の目は魅了する。魔法の笛は全てを吹き飛ばす。キッドはその目にやられた。キッドが動けないでいる間、キッド殿下の婚約者であるあたしはパストリルに誘拐され、隠れ家へ連れていかれた。

 ・そこには正気じゃないメニーがいた。

 ・中毒者は、呪いを受けると感覚が麻痺するらしい。リトルルビィは気温や体温。ソフィアは味覚だった。お陰で味のないシチューを飲まされた。おまけに着せ替え人形にされて、銃で撃たれかけた。全部キッドとメニーのせいだ。そうに違いない。

 ・危機一髪のところで、キッドがあたしを助けに来た。ルビィがあたしの血を飲んでいたから、隠れ家の場所をキッドに案内できたらしい。

 ・でも、ほら、キッドはパストリルの黄金の目にやられてたはずなの。でもね、あいつ、それを暗示で解いたのよ。確か、この魔法にはかかってしまうけど、5分後には平気な顔して起きるって、自己暗示をかけたんですって。とんでもない奴よ。きっと変な宗教に入ってるんだわ。可哀想な奴。

 ・それからキッドは、キッド殿下の婚約者のあたしの命を狙うパストリルを消毒するため、あたしを餌にして隠れ家を走り回りやがった。パストリルは骨を体内から出して、宙を飛んでた。天井がすごく高くて、追いつかれそうになったらキッドが上手いこと避けてた。で、中毒には中毒が効くとかで、リトルルビィの血を塗った剣でパストリルの腕をめがけて斬り込んでた。羽は骨だもの。硬くて斬れないわよね。何度か再生してたけど、それでも斬り込んでたらいずれパストリルは弱っていった。とどめに注射して、おしまい。

 ・その後のことは記憶から消したわ。あれはね、忘れていい記憶なの。なぜならキッドは恋する乙女の心を踏みにじる恋泥棒だから。くたばればいいのよ。あいつなんか。



 それにしても……仮面舞踏会で、美しい人に会ったわ。

 まるでクリスタルのように美しい人だった。


 ……住んでる場所を聞けばよかった。手紙を書けたのに。


 ……本当に綺麗な人だった。




 ソフィアと、目が隠されたお姫様の絵が描かれたらくがきが貼られていた。



「……」



 あたしは次のページをめくった。



 あたし14歳 

 メニー11歳


 ・リオン王子のファンクラブが出来る。

 ・人生一番の反抗期になる。

 ・ブランド、ミックスマックス

 ・切り裂きジャック

 ・アリーチェ・ラビッツ・クロック



 回避する手段

 ・リオン殿下なんかに関わらない。これが一番だわ。あたし、もう彼に未練はないの。

 ・イライラするけど、笑顔を忘れずに。さあ、鏡を見て。今日のあたしも最高に美しい!

 ・ミックスマックスについてはどうでもいいわ。特に関わることもないだろうし。

 ・今年のハロウィンは旅行に出るつもりよ。10月28日にとんでもないことが起きるんだから、わざわざ城下にいる必要がない。あの何もないカドリング島に行くのもありかもね。



 メニーの奴、今回という今回は、あたし絶対許さないんだから!!! 絶対!!! 許してなるものか!!!!!! こんな状況になったのは、あいつのせいよ!!!! 全部あいつのせいよ!!!!



 誰かレオって奴をどうにかして。あいつ、まじで頭おかしい……。ミックスマックスのキーホルダーを強制的にリュックにつけられたわ……。どうしよう……。恥ずかしくてこのリュック使えない……。



 アリーチェを見つけた。ドロシーに言わないと。それから、今後の動きについても相談しないと。



 あたしなりの考えを整理するために書くけど……キッドとリオンは水と油みたい。絶対に近づかせてはいけない兄弟。あんなことになるなんて。……リオンの顔が忘れられない。


 明日、いつもの公園に行ってみよう。



 ジャックが見つかった。



【罪滅ぼし活動ミッションクリア記録】

 ・10月22日から国全体が悪夢に悩まされることになる。それは切り裂きジャックが原因。彼の正体はリオンだ。キッドの弟であり、正真正銘の第二王子。彼はキッドにとてつもない劣等感を持っていた。13歳から精神病を患ったことを知らずに、あたしは彼の側に居た。ミックスマックス本店の店長曰く、あたしはいつ彼に暴力を振るわれてもおかしくない立場だった。

 ・キッドは精神病院に手下たち、ルビィ、ソフィア、あたしに、メニー。メニーはどうしてか……お守り? になるとかで連れていったみたい。

 ・リオンはあたし達を悪夢の世界に誘うために、まずはあたし達を眠らせた。それから……言葉で表すとするならば、それは悪夢。不思議の国が現れた。リオンはジャックとなって、ジャックは鬼となって、キッドに襲い掛かった。だけど、全部の攻撃を見事にかわされて、物凄く怒ってた。そんな彼を見たキッドがサッカーボールを取り出して、ジャックが守るゴールにサッカーボールを蹴飛ばした。点数を入れられたジャックは少し可哀想だった。でも皆がお菓子をくれるから、笑顔だった。あたしにはガラスの靴をくれたけど、あたしはガラスの靴を履けないから、代わりにミックスマックスのグッズを詰めることにしたの。リオンは嬉しそうだった。でも、やっぱり正気じゃなかった。その隙にキッドはお菓子にまぎれこませた薬を投げて、ジャックに飲ませた。薬を飲んだジャックは内側から浄化されて、溶けていった。

 ・リオンはジャックの存在を認めた。二人で罪を背負うんだと、ジャックを受け入れた。レオとジャックは、リオンとなった。

 ・これで終わると思ったら今度はアリーチェ。忘れもしない。10月28日。あれは……悔しいけど、キッドにお礼を言うべきね。何があったかはここに書くのをやめておくわ。別の日記に書いたから、もうそれで十分よ。ただ一つ言えるのは、あたしはアリスを受け止める。キッドがそれでいいって言ってたから、そうする。

 ・今度こそハロウィン祭って思ったら……10月29日。あたし、一日間違えたのよ。テロ事件は10月29日だった。あたし、どうかしてた。日付を間違えるなんて。犯人はアリーチェの姉、カトレアと婚約しているダイアンという男。彼も中毒者だった。冒険心が忘れられなくて、結婚前にナイーブになったらしい。そこをつけ狙われたのか、彼も呪いの飴を舐めた。でも、平気よ。悪夢の世界でキッドやジャックが助けてくれた。だけど、もうあんな悪夢を見るのはまっぴらごめん。あんな怖い一ヶ月、本当に二度と経験したくない。


 でも、いい経験も出来たわ。商店街の人達や、アリスと出会えたことは、あたしの人生の宝物だもの。


 これからアリスには沢山帽子を作ってもらわないと。

 また今度、お店に顔を出しに行こう。客としてじゃなくて、アリスの友達として。


 ……リオンから連絡が入った。さて、どうやってミックスマックスイベントの誘いを断ろうかしら。あいつ、しつこいのよね。



 笑顔のアリスと、ブサイクに書かれたリオンと、つぶらな瞳のジャックの絵が描かれたらくがきが貼られていた。



「……」



 あたしは次のページを開いた。



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