第14話 塔の上のブルーローズ(1)



 誰も居ない休憩室に着地した。


 着地に失敗して尻餅をついたレッドが立ち上がり、辺りを見回し、また責めるような目であたしを見てきた。


「……何よ。大丈夫だって言ってるでしょ」

「僕のした行動は間違ってましたか?」

「……よろしくない行動だったのは確かよ」

「でも、あいつは呪われてたし、テリーさんは逃げてた」

「ええ。助けようとしてくれてありがとう。それは本当に感謝してる」

「テリーさんだって自分の妹を助けてた」

「あいつは別」

「なんで? 妹は助けてよくて、どうしてテリーさんを助けたら駄目なの?」

「なんでって言われても……」

「救世主になれって言ったのはテリーさんだ。僕はテリーさんの言う通り、テリーさんを助けようとしただけだ! どうして殴られなきゃいけないの!?」

「レッド」

「僕、何も悪いことしてない!!」


 ――レッドを両手で捕まえ、抱きしめて押さえ込む。レッドが嫌がった。それでも離さない。あたしの腕から出ようとした。あたしはしっかりとレッドを捕まえる。レッドが大人しくなった。あたしはレッドの頭を撫でた。レッドが頬を膨らませた。あたしはレッドの背中を撫でた。レッドがあたしの胸に顔を埋めた。


「大人っていつもそうだ……。言うこと聞かないと、殴ってくるんだ……」

「……あたしが、言うこと聞かないと殴る大人に見える?」

「……」

「レッド、いい? よく聞いて」


 体を屈ませ、レッドと目を見合わせる。


「時間軸を移動すること自体、あってはいけないことなの。でも、あたしにはやらなければいけないことがあって、偶然レッドも連れてきてしまった。レッドのことも、自分のことも守らないといけない。ちゃんとあんたを元の時間軸の家に戻すためにも、踏み込んでいいところと、駄目なところは決めなければいけない。さっきのはどうだった? 自分の頭で考えてみて。確かに、中毒者がいたわね。でも、あたしはレッドに、あの時間軸のあたしを助けてってお願いした?」

「……」

「あんたすごく良い子よ。リトルルビィはきっとあんたを見て育ったんだって、すぐにわかる。でもね、いい? 決める権限はあたしにある。家に帰りたいなら、あたしの言うことを守って」

「……」

「ごめんなさいは?」

「……僕、悪いことしてない……」


 レッドが目をそらした。


「テリーさんを守ろうとしただけだもん」


 頬を風船のように膨らませる。


(……やっぱりリトルルビィのお兄ちゃんね。すねた動作まで全く一緒)


「謝りません。僕は正しいことをした」

「はいはい。そう思うならそれでいいわ。でもね、この先はちゃんとあたしの言うことを聞いて。自分の家に帰る為よ。いい? 忘れないで。あんたの帰りをリトルルビィが待ってるのよ」

「……」

「あんたがいた時間軸のリトルルビィが、あんたを待ってる。いい? 絶対忘れちゃ駄目よ。過去のあたしがどうなろうが、ね、あんたの目の前にあたしがいるってことは、どうにかなってる一番の証拠なの。感情に流されないで。あんたの悪いところよ」

「……」

「わかった。助けてくれてありがとう。それは本当に感謝してる。でも、だからってそれらが全て正しいことだとは思わないで。自分で自分の首を絞める必要性は全くないのよ。いいわね?」

「……」

「返事くらいしなさい。全くもう」


 杖が当たったこめかみを優しく撫でる。


「痛かった?」

「……」

「でもね、あんたが悪いのよ。あたしがやめろって言ったらやめるの。わかった?」

「……」

「気を緩ませること、または注意を怠ることを油断と呼ぶの。油断したらどうなるの?」

「……足元をすくわれる?」

「そうよ。だから足元に注意して。貴方はあたしの救世主」

「……貴女は僕の救世主」

「おいで。レッド。殴ってごめんね」


 両手を広げると、レッドがむくれたまま、再びあたしの胸に顔を埋めた。


「お互いを守る為なの。理解できなくても、今だけわかったと言って」

「……わかった」

「ん。良い子ね。さて、仲直りしたところで……」


 暗い休憩室を見回す。


「昼間じゃなくて良かったわ」

「……ここ、知ってる場所?」

「ええ。見覚えがある。すごくね」


 ――マールス小宮殿。使用人達の休憩室。


(マールス小宮殿に魔法使いがいる? まさか、オズって言わないでしょうね?)


 星の杖を振る前に、突然――電話が鳴り響いた。あたしとレッドが驚いて、同時に肩をすくみあがらせ――電話の音で誰かが来ることを恐れたあたしは、慌てて受話器を持った。


「テリーさん!」

(声さえ出さなければ平気よ! 一体誰よ! こんな夜遅くに!)


 受話器を耳にあてると――向こうから声が聞こえた。




『……こんばんは。ロザリーです』




 あたしは、息を止めた。



『ロップイさんですか?』


 あたしは目をレッドに向けた。レッドが眉をひそめ、冷や汗を流すあたしを見た。あたしは人差し指をレッドの側にある石に向け、口だけを動かす。


 ――レッド、それ、叩いて。


 レッドが石を掴んで、叩く仕草をして、これであってるか確認をする。あたしが頷くと、レッドが石と石を当てて叩いた。それを聞いた電話の主は、言葉を続けた。


『ロップイさん、クレア姫様が少し体調を崩してしまって、面倒を見なければいけず、今夜は塔に泊まることになりました』

「……」

『メニーが心配すると思うので、伝えてもらっていいですか?』


 あたしが指で合図すると、レッドが石と石を当てて叩いた。電話の主は言葉をつづけた。


『それでは、お願いします。……お疲れ様です』


 レッドが石と石を叩かせて返事をした。電話が切れた。受話器を置き――その場であたしの腰が抜けた。レッドが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!? テリーさん!」

「……あたし覚えてる……。そうよ……。妙に静かだったから……変だと思ったのよ……。ロップイさんじゃなかったんだ……。あれ……あたし達だったんだ……!」

「今の、テリーさんの声でしたよね……?」

「そうよ……。電話したのよ……。塔に泊まるから……メニーが心配するだろうからって……はあ……ひい……なんてこと……!」

「……それで、この時間軸では、どこに行けばいいですか?」

「ああ……そうだった。待って。はあ。まじで……終わったかと思った……」

「水飲みます?」

「……飲む」


 レッドがグラスに水を注ぎ、あたしに渡した。あたしはそれを飲み、ゆっくりと立ち上がる。


(導いて。あたし達はどこに行けばいい?)


 星の杖を振ると、薄い緑の光が線となって現れる。手を差し出すと、レッドが握って来た。


「行くわよ。静かにね」

「はい」


 レッドと線を辿っていく。廊下には見張りの兵士が立っていたが、みんな眠そうにあくびをしていたので、あたし達に気づく兵士は一人もいなかった。レッドは初めて見る宮殿をじっくりと観察し、あたしと一緒に歩いていった。



(*'ω'*)



 ノックが鳴った。メイドが扉を開けた。廊下には誰もいなかった。不思議に思ったメイドは部屋に振り向いた。


「ドロシー、ここにいて」


 猫が走ってきたが、メイドが扉を閉めてしまった。かりかりと猫の爪が扉をひっかく音が響く。メイドはそれを無視して、廊下を歩いた。


「……誰?」


 影が見える。


「お姉ちゃん?」


 裸足の足が石の上を歩く。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


 影が角を曲がった。


「お姉ちゃん」


 影が角を曲がった。


「……」


 メイドの足が一瞬止まり、辺りを見回した。誰もいない。


「……」


 大声を呼ぼうか。そうすれば友人の吸血鬼が来てくれるだろう。


「……」


 このまま行けば、どうなるかは予想がついた。

 メイドは考えた。そうだ。このまま進んでしまおう。


 だって、そしたら彼女は、嫌でもあたしを追いかけなくてはいけなくなる。彼女が嫌でも、周りがそうさせるだろう。そして、嫌がることなんて出来ない彼女は、心配するふりをして、私を迎えに来てくれることだろう。今夜はどこに行ってるの? どうせまたあの塔でしょ。お姫様のお部屋にまた泊まってるんだ。もう何度目なの? もういい加減にして。私がここまであなたを想っているのにあなたは全く鈍感で、私の気持ちになんか気付いてくれない。か弱いふりをしても、従順な妹のふりをしても、あなたは私を妹としか見てくれない。どんなに笑顔を振りまいても、どんなに側で支えても、どんなにあなたを抱きしめても、どんなにあなたにキスをしても、どんなにあなたに触れても、あなたは姉。私は妹。あの時もそうだった。あなたは私を妹として見ていた。あの時もだ。あなたは私を可愛い妹として、あの時も、あなたは、あの時も、妹として、あの時も、私の気持ちに、あの時も、あなたは、あの時も、ねえ、あの時も、メニー、あなたは、


 ――二人で田舎に行くの。

 ――ママもアメリもたどり着けない、遠くに行くのよ。

 ――そこで、二人で生活するの。

 ――牛の乳を絞って、お婆さんに届けてね、

 ――近所には神父様がいて、毎日お祈りをしに行くのよ。

 ――メニーとあたしは美人姉妹で有名でね、

 ――村の男の子達にモテモテなの。

 ――これが計画書よ。

 ――いい? メニー。

 ――これは二人だけの、トラブルバスターズであるあたしたちだけの、秘密だからね!


 私の気持ちに気付かない。

 だったら、いっそのこと、


 困らせてしまえ。





「えへへ」




 足が角を曲がった




 ――瞬間、大量のコウモリがメニーの前に現れた。メニーが驚いて、思わず後ずさる。その背後から、メニーの肩を掴むと、メニーの閉じてた瞼が開かれた。


「酷いことするじゃない。メニーちゃん」


 メニーの青い目が、『あたし』を知っている目であった。


「そうやってあたしを困らせて、楽しい?」

「……テリーが悪いんだよ」


 メニーがあたしを見つめたまま言う。


「テリーが、あのお姫様とばかり一緒にいるから。困らせてるのはテリーだよ」

「誰を困らせてるの?」

「私を、嫉妬の海に溺れさせて、悩ませて、困らせてる」

「少し頭を冷やした方が良いわね」


 あたしは天井を見上げた。


「レッド、コウモリの状態ならリトルルビィに会いに行っても良いわよ。声はかけちゃ駄目。わかった?」


 レッドが廊下の奥へと飛んでいく。メニーがあたしに振り返ると、そこにはメイド姿のあたしがいた。


「散歩しましょう。……行方不明者が出ないための見回りよ」

「……うん」


 手を差し出すと、メニーが恥ずかしそうにあたしの手を握った。何よ。手なんか握り慣れてるでしょ。そういう「私慣れてないんです」っていう仕草もお前の嫌いなポイントの一つなの気づいてくれる? このビッチ。


 赤い絨毯の廊下を二人で歩く。行方不明者が出ているにも関わらず、夜空には綺麗な星が並んでいた。メニーが足元を見て歩き続ける。あたしはため息混じりに声をかけた。


「メニー」

「構ってくれないテリーが悪いんだよ」

「構ってるじゃない。お前の我儘を聞いて、部屋に戻った時を覚えてる。でしょ? あったでしょ?」

「それだけでいいと思ってるの? 部屋に戻れば、私が満足すると思ってるんだ?」

「あのねー」

「折角二度目の世界になったのに、テリーはまるで私に振り向かない。愛してるって言ってくれない」

「言ってるじゃない」

「口だけ」

「誰が死刑にした女に愛してるって言うと思ってんの?」

「事情があったんだもん」

「知ってる」


 メニーがきょとんとして、あたしを見た。


「全部聞いた。リオンからも、あんたからも」

「……」

「でもね、メニー、諦めた方が良いわよ。どうあがいたって、あたしの時間軸ではあんたはあたしの妹だし、あたしはそれ以上の関係でお前を見ようなんて思わない。お前なんか出会った頃から嫌いだし、それが好きに変わる事は無い」

「……テリーの時間軸では、誰を選んだの?」

「ガラスの靴を履いた相手」

「私?」

「違う。お前は履けなかった」

「ガラスの靴は、私のものだよ?」

「そうね。パーティーではそうだった。でも、……あたしの時間軸のお前には、少し早かったみたい」

「じゃあ、成長したらわからないね。可能性は無限大にある。私がまたリオンと結婚して、テリーを牢屋に閉じ込める未来だってまだ残ってる」

「ないわよ。キッドがいるんだから」

「キッドさんに国外追放されて、ベックス家で逃げる未来も存在する」

「ないわよ。キッドの狂い具合見てるでしょ? あたしがあいつを振ったらどうなると思う? それこそ、どこかに閉じ込められるだけよ」

「テリー」

「ん」

「私以外を選んだの?」

「……選んだわけじゃない。会った時に一目惚れした相手がいたの。その相手と……偶然そういう関係になれただけで……」

「誰?」

「教えたらお前殺すでしょ」

「殺さないよ? どんな人か見に行くだけ」

「普通は見に行かない」

「約束したよね?」

「口約束なら忘れた」

「テリー」

「これ以上未来のことを喋るのはよした方がよさそう。とにかく」


 バルコニーに出たあたしとメニーが向かい合う。


「あまり困らせないで。……言っても、どうせあんたはあたしを困らせるんだろうけど」

「……だって」

「だって、何よ」

「構ってほしいんだもん」

「トラブルに遭ったら、あたしが迎えに来る?」

「……去年ありがとう。テリーの言ってた通り、アリスちゃんと一緒にいたテリーと合流できた」

「そうよ。責任を感じてお前を迎えに行ってやったの。忘れもしないわ」

「一つだけ教えて」

「嫌よ」

「どうしたら愛してくれる?」

「そうね。一度目の世界に戻って、あたしの死刑を取りやめたら? そしたら考えてあげない事もないかも」

「事情聞いたんだっけ? 出来たと思う?」

「……ええ、そうね。……良い判断だったわ。オズの隙を作るためにあたしを死刑にする。あたしがあんたの立場だったとしても、構わずやったと思う。そうね。だったら……あたしなんかを好きになる理由がない。嫌いになってよ」


 メニーが近づいた。


「そうすれば全部解決す……」


 あたしの唇と、メニーの唇が重なった。あたしは冷ややかな目でメニーを見る。メニーは熱のある目であたしを見てくる。唇が離れる。彼女は、間違いなく、あたしの知ってるメニーだった。


「愛してる。テリー」


 あたしに抱き着く。


「嫌いになんか、なれるはずない」

「……あ、そう。……あんたならイケメンの男捕まえられるでしょ。それで付き合って、結婚して、幸せになればいいじゃない」

「テリーじゃないと幸せになれない」

「そんなことはない」

「そんなことあるもん」

「ちょっと、愛してるって言ってる割にはあたしの言ってること否定するじゃない」

「愛してる人が間違ったことを言ってたら正すよ。当然でしょ?」

「やっぱりあたし達、相性が悪いわね。メニーちゃん。あたしはね、否定されるのが大嫌いなの」

「知ってるよ。テリーのことならなんでも知ってる」

「じゃあ肯定してよ」

「テリーこそ、私の愛を肯定してよ」

「それは駄目」

「どうして?」

「妹だから」


 メニーが不満そうにあたしを睨んだ。


「むくれない。すねない。このブス」

「……」

「なんでかしらね。杖がお前に光を飛ばしてる。こんな話をしたって終わりが見えないのはわかり切ってるのに。……そうだ。記憶があるうちに訊いてもいい?」

「……何?」

「一度目の世界を終わらせた時って、魔法使いは何人いたの?」

「私含めて十三人」

「お前も含めるの?」

「金の魔法使いがいたらしいんだけど、一度目の世界では殺されちゃったって、ドロシーが言ってた。でも、私の魔力がそれに値するらしかったから……それで」

「……じゃあ、メニーと、ドロシーと……あとは?」

「赤の魔法使い。青の魔法使い。黄の魔法使い。白の魔法使い。黒の魔法使い。灰の魔法使い。土の魔法使い。毒の魔法使い。桃の魔法使い。水の魔法使い。……それと、私とドロシー」

「……十二人じゃない?」

「人数は十二人。だけど、魔力は十三人分。一番大きかったのはオズの魔力」

「オズを説得したの?」

「まさか。ドロシーだよ。ドロシーはね、オズの魔力も持ってるの」

「……どういうこと? 待って。話が見えない」

「聞いてない?」

「それは……聞いてない」

「……教えた方が良い?」

「知ってるなら」

「抱きしめてくれるなら教えてあげる」

「このクソ我儘娘が」


 メニーを抱きしめると、メニーが笑みを浮かべ、あたしの肩に顔を埋めた。


「ドロシーはね、昔、オズの魔力の半分と、もう一人の魔法使いの魔力の全てを授かったの。だから、オズは確かに存在する。だけど、オズが協力しなくても、オズの魔力の半分はドロシーが持ってるものだから、一人足りないところで、そこを補うくらいは出来たんだよ」

「ドロシーの他に……別に魔法使いがいたってこと?」

「らしいよ」

「ドロシーは元々魔法使いじゃなかった?」

「昔のことは教えてくれなかった。だけど、そうなんだって」

「あいつも隠し事が多い奴よね」

「テリーの時間軸のドロシーに訊いてみたら?」

「……この時間軸ではどこにいるの?」

「部屋にいるよ」

「直接聞いた方が早いわね」


 メニーと体を離し、手を引っ張る。


「部屋こっちだっけ?」

「連れてってあげる。あっちだよ」


 メニーに案内してもらい部屋に戻ると、緑色の猫はどこにもいなかった。


「あれ、いない」

「……」

「部屋から出る前は……いたんだけど……」

(……あいつ、どこにいる?)


 杖に訊いてみる。ドロシーはどこ? けれど、星の杖はメニーに光を差していた。


(不良品)

「……ね、テリー。この光、どうして私に向いてるの?」

「あんた」


 星の杖を差し出す。


「これに魔力注げる?」

「……注げばいいの?」

「ええ」

「うん。それなら……」


 金の魔法使いが息を吹いた。誰にも負けない輝きを放つ黄金色の魔力が星の杖を囲んだ。そして中に浸透していき……杖が温かくなった……気がした。――気分がだいぶ、良くなった。


(他に反応はない。……ここでもドロシーには会えないみたいね)


 ならば、もうここに用はない。


「そろそろ行くわ」

「……もう?」

「レッド! そろそろ行くわよ!」


 聞こえているはずだ。あたしは部屋の窓を開け、コウモリを待った。


「テリー」

「止めたって、どうせ行くんでしょ」

「……」

「大丈夫よ。どうせ迎えに行くのはあたしなんだから」


 指を差す。


「だけど、限度ってものを考えなさい。わかった?」

「……」

「……メニー」


 メニーの手に手を重ねると、メニーがあたしを見上げた。


「怪我をしたらどうするの? 誰が治療するの? あたしは、迎えには行けるけど、それまでお前の側にいないのよ」

「……」

「ニクスによろしく」


 コウモリの羽の音が聞こえてきた。


「それじゃあね」


 大量のコウモリに包まれ、メニーが目を閉じた。そっと瞼を上げると、部屋には静けさだけが残り、コウモリはどこにもいなかった。









「……あれ?」


 メニーが瞬きをした。


「どうして窓開いてるんだろう?」


 メニーが窓を閉めた。


「ドロシー?」

「にゃー」

「あれ、そんなところで何してるの?」


 ベッドの下に転がったドロシーを発見する。


「おかしいな。なんだか頭がぼうっとする」

「にゃあ」

「お姉ちゃん……戻ってこないね。……ちょっと心配だから、様子見てくる」


 メニーがベッドから離れた。


「廊下にいるかもしれない。ドロシー、危ないからここにいてね」


 記憶を失ったメニーが笑顔で部屋から出ていった。




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