第11話 おかしの国のハイ・ジャック(1)


 とあるところに姉妹がおりました。


 一人は意地悪で醜い娘。もう一人は善良で美しい娘。

 意地悪で醜い娘は母親の実の娘だったので、とても可愛がられて育てられました。一方、善良で美しい娘は継娘だったので、嫌われてました。


 ある時、継娘が綺麗なエプロンをもっていたところ、もう一人の娘がとても欲しかったので、妬ましくなり、母親にそのエプロンを絶対欲しいと言いました。


「しっ! 静かにおし! 私の可愛いハニー。もちろん、お前に持たせてやるとも。お前の姉さんはとっくに死んで当然だったのだよ。今夜眠っている時、お前たちの部屋に行って、お前の姉さんの頭を切り落としてやるさ。お前は気をつけてベッドの向こう側にいるようにして、前の方にお前の姉さんを押すんだよ。わかったね?」


 と母親は言いました。

 可哀想な娘は、ちょうどその時隅にいて二人の会話を聞いていなかったものなら、お終いだったでしょう。可哀想な娘は二人にバレないように泣きました。どんなに意地悪されていても、二人を家族だと思って愛していたからです。ですが、母親と妹のこの会話で、自分は殺されるものだとわかったのです。


(でも……ひょっとすると……考え直してくれるかもしれない。お母さんは私を拾ってくださった。そして私はそんなお母さんのために、家のことをしてきたもの。お母さんはきっと私を殺さないでいてくださるはずだわ)


 一日中、娘はあえて外出しませんでした。


 そして寝る時間がやってきました。


 意地悪で醜い娘は遠い側に寝るため先にベッドに入りました。しかし、寝入ると美しい娘は妹を前に優しく押して、自分は壁に近く、後ろの位置に寝ました。


 夜中に――足音が聞こえました。美しい娘の胸はドキドキしていました。母親が部屋に忍び入って来ました。その右手には斧を持ち、左手で外側に誰が寝ているか確かめます。


 それから両手で斧を握ると――頭を切り落としたのです。



(*'ω'*)



 瞼を上げると、真っ暗なところに立っていた。


(……どこ、ここ。レッドは?)

「テリーさん」


 レッドがあたしの腰に掴まった。


「ここ、なんか不気味……」

「……? 外はどこかしら?」

「風は向こうから感じる。多分、あっちの道に……」


 ――奥の部屋から悲鳴が聞こえ、あたしとレッドが固まった。


「「……」」


 あたしは星の杖を出し、先に明かりをつけた。辺りが少し明るくなる。


(水車……ぼろぼろの通路……何よ……不気味な場所ね……)

「テリーさん、あの……」

「行くわよ。レッド」

「でも、あの……あそこに……」


 レッドが指を差した。


「腕が……」


 光を向けると、女の両腕が置かれていた。


(……腕……?)

「テリーさん、僕怖い……」

「離れちゃ駄目よ。レッド」


 あたしは固唾を呑み、ゆっくりと近づいた。腕を跨ごうと足を開くと――あたしの足と、レッドの足が掴まれた。


「ぎゃーーーーーーーー!!」

「わーーーーーーー!!」


 あたしとレッドが見事な悲鳴をあげ、腕を蹴り飛ばし、全力で走り出す。


「レッド! 振り向いちゃ駄目!」

「はい! テリーさん!」

「娘を渡せぇえええええ!!」

「ぎゃぁあああああ!!」

「私を許しておくれぇえええ!!」

「うわぁああああ!!」

「私の運命の人はどこぉおおおおお!!」

「「いやああああああああああ!!!!」」


 あたしとレッドが外へと飛びだした。明るい太陽があたし達を照らし、クラッカーが鳴らされた。


「お疲れ様でしたー!」

「手無し娘にはお会い出来ましたかー?」

「さあ、ゴールした勇気あるお姉さんとボクにはこの飴をあげましょう!」

「合言葉はー!?」

「トリック・オア・トリート!!」


 あたしとレッドに景品の飴が渡された。呆然と立ち尽くすあたし達を人々が横切る。


「ジャック、ジャック、切り裂きジャック」

「切り裂きジャックを知ってるかい?」


 子供たちの歌声。お面。仮装。ハロウィン。すげえ前夜祭と書かれた看板。


(……なるほど。テロ事件前の城下町ね。くそったれ)


 振り返ると、おんぼろのお化け屋敷会場の横に、古びた木がある。


(ハロー。デクの木さん。あんたの枝に、まだリオンの帽子は絡まってないみたいね)


 風変わりの兄妹はまだ来ていないようだ。レッドが胸をなでおろした。


「ああ……怖かった……。なんだったんですかね? あそこ」

「お化け屋敷よ」

「お化け屋敷? へえ。あれがそうだったんだ。お化け屋敷って、怖いって話は聞いてたけど、本当に怖いんですね!」

「ええ。ここは異常なほど怖かった記憶があるわ。レッド。あたしの分の飴もあげる」

「これは流石に呪われないよね?」

「レッド。何が何でも呪われると思っているなら、それは間違いだと教えておくわ。なぜなら飴は、本来美味しくて甘くて、一口舐めたら天国。あんたみたいな子供は絶対に幸せになれるものなのだから。ピエロだってそうよ。ピエロは本来で言うところの道化師。お馬鹿そうに見えて実はすごい技を沢山持っているの。殺人なんてするような犯罪組織のメンバーなんかじゃないのよ。本当はみんな、子供の笑顔が見たいだけの、子供の味方なんだから。悪い奴が来たら、ピエロはとんでもない技であんたを助けてくれる。ロカトールが良い例だわ。それとあたし」

「テリーさんはピエロじゃないよ。魔法使いだ」

「そうじゃなくて、あたしの、めちゃくちゃ良い子なのに皆から嫌われてるところがそっくり」

「僕は……テリーさんが好きです」

「ありがとう。あんたが良い子だから幸せになれるおまじないをかけておいたわ。おまじないは魔法じゃないから舐めても大丈夫。はい、どうぞ」

「やった。ありがとう! テリーさん! いただきます!」

(さて、どうしてこの時間軸に連れてきたのか、教えてもらいましょうか?)


 星の杖を構えると、緑の光が道標として姿を現した。飴を舐めてるレッドの手を引き、ゆっくりと歩き出す。


(油断は禁物。あの小人みたいな質の悪いのが待ってるかもしれない)


 光を辿っていくと、一人の男の背中に向けられていた。


(……一般人?)

「失礼。あの、恋人を捜していて……あの、すみません……」


 人々は男を無視して祭を楽しむ。青い顔の男は一人、その場でうなだれた。


「どうしよう……」

「こんにちは」


 顔を覗き込むと、男が驚いた顔をして後ずさり、奇妙な姿のあたしとレッドを観察する。レッドが男を睨んだので、ジャックの仮面を店から盗み、レッドの顔に被せた。レッドが驚いて仮面を外した。


「ハッピーハロウィン。楽しい楽しいすげえ前夜祭が開かれてる中、浮かない顔をなされているものだからお困り事かと思って。落とし物でも?」

「ああ、実は、その、恋人を捜してまして」

「迷い人なら、放送してもらった方がお早くってよ?」

「そういうわけにもいかないのです。俺達は……ああ、実は……どうかお静かに。追われてます」

「誰に?」

「魔女に」


 レッドが再び仮面を被った。気に入ったようだ。


「はぐれてしまって。名前はデイジー」


 男が懐から写真を取り出した。笑顔の女と目の前にいる男が立っている。


「彼女から連絡があって、安全なところに避難するつもりだった。でも、彼女の育て親の魔女が……追ってきて、殺そうとするものだから、人混みに紛れようとしたが……」

「この人の量だもの。はぐれたって不思議ではないわ」

「魔女が彼女を追ってる。早くデイジーを見つけないと」

「わかった、そんなに近付かないで。彼女持ちの男とキスをする趣味はないわ」

「あ……すみません」


 熱くなって近づいてきていた男が3歩下がった。


「この子はレッド。あたしはロザリー。貴方は?」

「ロザリー?」

「ローランド」

「ローランド、ここにいて。捜してくるから。ここにいることは間違いないのね」

「僕も行こう」

「見つけた時に貴方がいなければ、どうやって彼女と貴方を会わせるわけ? それとも永遠のお別れがしたいの?」

「君はわかってない。あの魔女は……本物の魔法使いなんだ」

「……」

「信じられないだろ。でも本当さ。兵士や警察に言ったって無駄さ。魔法使いはね、人間が太刀打ちできる相手じゃない。デイジーは……何年もあの女の娘として酷い扱いをされてきた。見てないならいい。君達を巻き込むわけにはいかない。どうもありがとう。大丈夫。きっと見つかるさ」


 ローランドがそう言い残し、人混みの中へと歩いていった。レッドが仮面越しからあたしを見ている。


「テリーさん、あの人は知り合い?」

「知り合いなら声をかけない」

「でも、さっきの時間軸では……女の人に声をかけてました」

「伝える必要があったの。そうしないと、あの素直で馬鹿な女は間違った道に行くことになるから」

「どうしてロザリーって名乗ったの? テリーさんは……本当はロザリーって名前なんですか?」

「伝えるのを忘れてたわ。レッド」


 星の杖をくるんと回すと、思った通り緑色の光が現れた。レッドの手を引き、光を辿っていく。


「あたし達は別の時間軸から来てる。いわば、今いる世界に存在しない部外者よ。部外者はね、別の時間軸の人間に干渉してはいけない。必要以上に近づいてはいけない。そもそも存在していないのだから。何が言いたいかわかる?」

「あまり喋っちゃいけない?」

「顔を知ってる人には特にね。未来や過去を変えることになりかねない。そうなったらどうなるかわかる?」

「どうなるの?」

「元の時間軸の世界に戻れなくなる」

「……どうして?」

「さあね。でも、あたしが時間軸を歩き回ることになった時、魔法使いにそう言われた」

「つまり、自分にも会っちゃいけないんだ」

「自分はもっと駄目ね。だから……気を付けて。レッド。自分と……自分を知る人と……リトルルビィに会わないように。そして、別の時間軸の人間と必要以上に関わらないように。どうしても必要なら、一回相談してくれる?」

「わかりました。どうしても必要なら、テリーさんに相談します」

「良い子ね。レッド。リトルルビィに似て、理解が早くて助かるわ」

「リトルルビィは……素直で良い子だもん」

「あんたも良い子よ。本当に。大人になったら、良い男になって、女の子にモテまくるでしょうね」


 生きていたら、の話だけれど。


(さて、どこにいるの? デイジー)


 母親の話が気になるわね。


(本当に本物の魔法使いなら……ここに飛ばされた理由がわかる)


 緑の光が導く場所に辿り着いた。足を止め、あたしとレッドが眉をひそめる。そこにあったのは地面に植えられ、風で揺れる一凛の美しい花のみであった。レッドがしゃがみ、花の匂いを嗅いだ。


「テリーさん、この花、何かおかしい」

「おかしいって、何が?」

「女の人の匂いがする」

「……は?」

「んー」


 レッドが花を覗き込んだ。


「青だ」


 レッドの目玉が動く。


「心臓が動いてる」


 レッドがあたしに振り向いた。


「生きてる。ただの花じゃない」

「……どういうこと?」

「わからない。でも、心臓が動いてて、女の人の匂いがする。どこかで血も流れてる。場所はわからないけど」

「まさか、デイジーって娘が花に化けてるんじゃないでしょうね?」


 あたしは星の杖を花に向けた。魔力を杖に込めると……何かが杖からあたしの指に辿ってきた。


(ん?)


 そして……一気に神経を辿って脳まで到達する。


 吹き出る血。魔女の笑い声。逃げ出す視界。驚いた顔のローランド。


 ――お母さんが追いかけてくる! 私だと思って妹を殺したの! バレたら、私が殺されてしまう!

 ――逃げよう! デイジー!


 手を繋ぎ合った恋人達。しかし追いかけてくる闇。影。女の悲鳴。瞼を閉じ、自らを封印した。


 花となった。


「……」

「テリーさん?」


 レッドがあたしの手を握りしめた。


「大丈夫?」

「……自分で自分を封印したんだわ」

「え?」

「この花がデイジーよ」

「ええ?」


 レッドが花を覗き込んだ。しかし、花はただの花に見える。どこかに心臓と、血管があるだけの。


「一体どうやって花になったんでしょう?」

「飴を舐めたとか」

「……」

「オズは追い詰められた人間の元に現れる」


 あたしは杖を構え、強くイメージする。封印を解きたいの。この女に用がある。呪文を教えて。しかし、いくら聞いても魔力を答えない。


(……あたしには無理だってこと?)

「……ん?」

(だけど、じゃあ、どうやってこの封印を解けばいいの? 中毒者の薬を入れる? ……いや、そうじゃないと魔力が言ってる気がする。ということは……中毒者ではない……?)

「……」

(はー……困ったわね……。どうしたもんかしら……)


 あたしが花とにらめっこしている間に、レッドがそっとあたしから離れ、コウモリとなって飛び出した。空を高めに飛び、辺りを見回し、発見し、その場所へ突っ込むように飛び降りた。


「うわぁ!!」

(ねーえ……ここは城下町よ……? なんか呪文教えてよー……)

「うぉあ!! いって!!」

「あん?」


 振り返ると、ルンペルシュティルツヒェンの首根っこを掴んだレッドが立っていた。


「うわっ、ちょっと、レッド!」

「お菓子を盗もうとしてたから!」

「またてめえらかよ!! ほんの一袋だけじゃねえか!!」

「レッド、こんな面倒くさい奴、拾ってくるんじゃないの」

「誰が面倒くさいだ!」

「ごめんなさい……」

「テメェも謝るな!」

「あんたいつもいるのね? そんなに魔法使いって暇なの? いい加減、持ち場に戻れば?」

「うるせえ! 普段はいるんだよ! 俺様が出掛けた時に限って現れやがって!」

「テリーさん、町の外に追い出しますか?」

「待ちなさい。レッド。ついでだわ。ルンペルシュティルツヒェン、はい、こっち注目」

「あん?」


 ルンペルシュティルツヒェンに花を見せた。


「これがなんだって?」

「封印を解きたいんだけど、呪文が出てこないの」

「はっ! そりゃそうだろうな! こいつはこの花になった人間の心が満たされないと解けない魔法だからな。俺様ならともかく、お前みたいなもどきには無理だろうさ!」

(デイジーの心が満たされないと解けない魔法……? ローランドが何か知ってるかしら……?)

「なんだぁ。お困りかぁ? おい、テリー・ベックス。何だったら俺様が手助けしてやろうか?」

「は?」


 絶対に言いそうにない小人からありえない言葉が出てきた。あたしは冷たい視線をぶつける。


「何が目的?」

「そもそも俺様がわざわざ城下町に来た理由を教えてやろう。この人の量。少し女の尻を触ったところで気付かれないし、罪に問われない」


 つまりだ。


「俺様はな、性欲に溢れてるんだよ! 一発ヤラせろ! それで一回手助けしてやる! 二回助けてほしいなら、二発だ! どうだ、お困りなんだろぉ? テリー・ベックス! 運がいいことに、お前の顔と尻の形は俺様の好みだ。どうだ? 悪い条件じゃないだろぉ? 本物の魔法使い様に抱いていただけて、なおかつ助けてもらえるんだ。おら、わかったらさっさと宿の部屋取りやが……」


 鼻息を荒くさせたルンペルシュティルツヒェンがあたしに近付いた瞬間、レッドの白目が充血し、瞬間移動でルンペルシュティルツヒェンの背後に回り、首を噛んだ。ルンペルシュティルツヒェンが絶望の悲鳴をあげた。


「うぎゃああああ!! 何しやがる、このクソガキぃーーー!!!」

「もう少しナンパの仕方覚えたら? あたしが美しくて好みのレディなのはわかりみ深いけど、それでも紳士が一発ヤラせろだなんて、下品にも程がある。言葉の勉強をすることをお勧めするわ」

「俺様は魔法使いだ!!!」

「レッド」

「あーーーわかった! わかった! これは貸しだ! 体以外でいい! 見合った報酬を差し出せば手助け……」

「お前の手助けはいらないわ」

「へ?」


 星の杖をくるんと回すと、間抜けた顔のルンペルシュティルツヒェンとレッドが吹き飛ばされた。何事かとルンペルシュティルツヒェンがあたしを見ると、あたしの手にはさっきまで自分が所持していたヴァイオリンが盗まれていた。


「あら、素敵なプレゼント。ありがたく頂戴するわ。どうもありがとう」

「ふげっ! 俺様のヴァイオリン! このクソ女! 返しやがれ!」

「邪魔だったのよねー。これ。どこかで聞こえたら、踊りなんて覚えたことのないレッドが華麗な舞を見せるものだから、かっこよくて舞踏会のエスコートに誘ってしまいかねないもの。いけないわ。まだ仮成人でもないレッドに手を出してしまったら、あたしは一度目と同じ牢屋行き。というわけで、本当に素敵なプレゼントどうもありがとう。魔法のヴァイオリンだなんてロマンチック。そのセンスは最高。レッド、もういいわ。そのスケベ小人、あたしのお尻に触らないように、遠くに飛ばしておやり。思い切りやっていいわよ」

「黙ってれば調子に乗りやがって! ふざけんな! 俺様のヴァイオリン返しやが……」


 レッドの赤い目が大きく見開かれ、体を大きく回し、言われた通り、思い切りルンペルシュティルツヒェンを遠くに飛ばした。


「ちくしょーーーー! 覚えてやがれ! もどき女とコウモリのクソガキーーー!!」


 太陽の光に反射したルンペルシュティルツヒェンが光となって空へと消えた。


「レッド、あんたはああなっては駄目よ。あんたはね、リトルルビィのお兄ちゃんとして恥ずかしくない振る舞いをする男になりなさい。人はね、それを紳士と呼ぶの」

「紳士って、貴族の男の人のことじゃないの?」

「レッド、あの男の人を御覧なさい。あのゴロツキっぽい人よ。あのままだと『輩』と思われておしまい。でもね、例えば」


 あたしは杖をくるんと回した。男の近くにいた女の足にトラップを仕掛けた。すると女が転びかけた。だが、地面につく直前、男が女の腕を掴み、強く引っ張った。


「きゃあ!」

「あぶねえ! お嬢さん、大丈夫かい!?」

「ああ、驚いた! 人に押されてしまったみたい! どうもありがとう!」

「おっと、こいつは……」

「まあ、素敵なお人……」


 頬を赤らめた二人を見たレッドが、あたしに視線を戻した。


「貴族だけじゃない。礼儀やマナーを心得ている殿方を紳士と呼ぶ。レッド、あんたの目の前にはこのテリー・ベックスがいる。お家に帰る前に、礼儀作法のレッスン時間を設けてもいいと思わない?」

「僕、紳士には向いてないと思う。だって……こんな見た目だし」

「あの人だって、見た目はただのゴロツキよ。あ、なんかいちゃつき始めた。駄目よ。レッド、見ちゃ駄目。とにかく、礼儀の一つや二つ、覚えて帰ったって未来には何の影響もないわ。むしろ、礼儀を知ってたら女の子にモテまくるわよ?」

「僕、礼儀じゃなくて、遊んでたほうが楽しい」

「礼儀だって覚えちゃえば楽しいわ。ゲームだと思えばいい。そうすれば覚えられるから」

「んー……」

「さて、ここにいても何もできないみたいだし、ローランドを捜しましょう。レッド、ローランドがどこにいるか見える?」

「んー……捜してみます。ちょっと待って」


 レッドの赤い眼が動き出した。右左、左右と高速で動き出す。あたしには見えない広い視野と人の匂いでレッドが捜索していく。こっちか。あっちか。どこだ。こっちにいそうな気がする。ぐるりと目玉を回し、レッドの首が動いた。


「あっち」

「でかしたわ。流石はあたしの救世主」

「貴女は僕の救世主。案内します」


 レッドと手を握り、人混みの中へと入っていった。


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