第19話 足元にお気をつけ


 アルテはずっと昔に呪われた。

 ずっと昔に飴を舐めた。

 もう手遅れであることは察しがついていた。

 でも、奇跡があるかもしれないではないか。


 いいや、わかっているではないか。


 奇跡なんてない。


 夢物語なんてない。


 仲直りして、仲良くこよしなんて出来るのは子供向けの本だけだ。


 この世は残酷だ。

 理不尽で溢れている。

 好きに生きてはいけない。

 自由に生きる事は出来ない。

 夢は叶わない。

 時間のみ消耗する。

 努力は報われない。

 アルテは報われない。


 わかっていたではないか。


「……」


 わかっていたではないか。


「……。……。……」


 唇を噛み締め、とめどなく溢れる涙を止めようと試みるが、涙は止まるどころか増すばかり。顔を拭く。溢れる。目元を擦る。止まらない。アルテ。


 あたしの友達。


「……霊気が消えた。ふむ。完全に廃墟となったぞ。この城」

「……」

「呪いは解けた。魔力によって支えられていた城に誰もいなくなったということは……」


 クレアが天井を見上げた。


「崩れるな」


 リトルルビィがはっとした。リオンがぎょっとした。ソフィアがきょとんとした。メニーがあたしに歩いてきた。優しく肩を叩かれる。


「お姉ちゃん」

「……」

「ここが崩れる前に出よう? サリアも……気絶しちゃってるし」


 あたしは両手を握り、ピンと櫛に祈った。


(……安らかに)


 城が揺れ始める。クレアが叫んだ。


「撤収!」


 クレアがあたしの腕を引っ張り、無理矢理立たせ……顔を覗いて、言った。


「ロザリー、まだ貴様のやるべきことは残っているぞ」

「……」

「全てはオズだ。偉大なる魔法使い様をなんとかしないと、この輪廻は止まらない。永遠に呪いは続き、新たな中毒者が現れる」

「……なんでこんなことするの」


 アルテは、


「何も悪いことしてないのに……!」

「泣くのは後だ。今は……」


 大きく揺れた。リオンがサリアを背負い、走り出す。リトルルビィがあたしを待とうとするメニーを引っ張った。レックスがあたしに振り返った。


「逃げるぞ」


 ……あたしは黙って頷く。クレアがあたしの手を握り、走ろうとすれば、天井が崩れた。


「っ」


 クレアがあたしを抱き寄せ、石を避ける。レックスが飛び越えた。リトルルビィとメニーが振り返った。


「「テリー!!」」

「二人とも早く!」


 ソフィアの怒鳴り声と共に、石という石が落下し、道は壁となって塞がれる。レックスが顔を上げ、クレアに駆け寄った。


「屋根裏部屋へ!」

「屋根に登って脱出か! なるほど! 確かに迫力が凄いし最高かもしれない! あたくしは賛成だ!」

「急いでください!」


 レックスが走ろうとして……足を止め、あたしに歩いてきた。俯いたあたしの手を握る。驚いて思わず顔を上げると――あたしを見て言った。


「油断していると足元をすくわれます。ですから……足元にお気をつけください」

「……」

「大丈夫。何があっても必ず貴女を守ります。貴女は……」


 あたしの手を、強く握りしめる。


「俺の救世主。そして……俺は貴女の救世主」

「……?」

「ここは危険です。さあ、グズグズしてはいけません」


 レックスがあたしの手を離し、走り出す。


「俺について来てください!」


 クレアがあたしを軽々と抱っこし、走り出した。

 岩が落ちてくる。城が崩れていく。茨が地面に落ちて腐っていく。地面が崩れた。足場がなくなる。レックスが「ふうっ」と息を吸い込むと――体が大量のコウモリとなってバラバラになり、足場となった。クレアがコウモリの上に飛び乗り、蹴飛ばし、地面に着地する。廊下を走り出すと、大量のコウモリも飛んでいき、先頭を飛ぶ。クレアはコウモリについていく。コウモリが高く飛んだ。クレアが階段を駆け上がった。天井から石やレンガが降ってくる。クレアが全てを避け、コウモリの元へと急ぐ。コウモリがまた高く飛び、窓から中へ入った。クレアが扉を蹴飛ばし、中に入った。円型の長い階段が続いている。城が揺れている。クレアが階段を上がり始めた。地面が崩れる。階段と壁に溝が入った。溝はどんどん深まっていき、階段が崩れていく。コウモリが待つ。クレアは駆け上がる。階段が崩れていく。クレアがにやけた。階段に追いかけられる。クレアがとうとう笑い始めた。追いつめられていく恐怖と快感と興奮でおかしくなった。足場も、階段も、地面も、天井も、もろくなり、崩れていき、最上階にある扉を蹴飛ばすと、全ての始まりの――糸車のある部屋に入った。


「学びを求める子羊よ、貴女の夢を叶えましょう」


 コウモリが部屋に入った。


「朝は太陽神ソーレに祈れ。夜は月神ルーナに祈れ」


 屋根裏部屋の壁に、太陽と月の絵が描かれていた。


「薔薇の茨をくぐり抜け、塔の頂点に君臨せよ」


 クレアが糸車に近づいた。


「未来を知るのは糸車のみ」


 ――強く蹴飛ばし、地面に倒れた糸車が壊れた。針が光っている。


 コウモリが窓から飛び出していく。クレアも窓に近づき、



 抱き抱えていたあたしを放り投げた。



(は?)



 突然の浮遊感。壁から走ってくる音が聞こえる。あたしは振り返った。――巨大なコウモリがあたしを抱えた。にやけたクレアが外へ身を投げた。巨大なコウモリはクレアを背負い、屋根の上へと飛んでいった。


 平らな屋根に着地し、クレアが下り、あたしを下ろしたコウモリは――レックスに姿を戻した。あたしの口から、ぽろりと出てくる。


「……中毒者……?」

「はい。呪われました」

「……飴を舐めたの?」

「はい」

「……クレアの手下って、貴方のこと?」

「用務員として潜入してました」


 でも、


「貴女が……ここへ来るとは……思いませんでした」

(……こんな人、キッドの『お手伝いさん』の中には……いなかったと思うけど……)


 こんな赤い目の人。


(まるで)


 ――リトルルビィみたい。


「っ!」


 城が揺れる。屋根が大きく揺れる。転がりそうになったあたしをレックスが抱き支えた。クレアが辺りを見回し、頷いた。


「ここが崩れるのも時間の問題。ふむ。ならば崩れる石から石へと渡り、下りていくしかないようだ。あたくし、ジャンプの準備をしておかないと! レックスよ! 美しい女の足に踏まれる役はまだ出来るな?」

「もちろんでございます。殿下」

「ああ、優秀! 流石、あたくのレックス!」


 クレアがレックスを抱き、くるりと回し――あたしからレックスを離した。


「でも、これとそれとは違うからな?」


 クレアが笑みを浮かべる。


「あたくしのダーリンだから」

「……存じてます」


 屋根が揺れる。城が崩れていく。あたしは振り返った。そして――きょとんとした。



 笑みを浮かべた『コネッドオズ』が、しゃがみながらあたしを見ていた。



 言葉を失う。

 コネッドはにこにこしている。

 あたしは口を開けた。

 クレアが銃を撃った。

 コネッドの額に当たった。


「今、お前の心には、一つの気持ちが宿ったはずだ」


 あたしの目玉が揺れる。コネッドは素晴らしい笑顔だ。


「憎い」


 紫は伝える。


「恨めしい」


 紫は喜ぶ。


「この国を呪った人物を、殺してやりたい」


 クレアが銃を構えた


「さて? 今度は出来るかな?」


 クレアが撃った。当たる前に、コネッドの額からにゅるにゅると中身が出てきて、空へと飛んだ。空っぽになった土人形が崩れる。


 オズが宙に浮かび、足を組ませ、あたし達を見下ろした。レックスを見て、片目を動かす。


「なんだい。お前生きてたのかい」

「……」

「気配がないからもうとっくのとうに死んでしまったと思ってた。ああ、そうだったの。……そこにいる姫がお前を隠してたのかえ?」


 クレアが銃を撃った。オズの周りに紫の光が浮かび、弾を吸収した。


「クレア姫、古代の姫との戦争はどうだった?」

「ふむ。非常に良い戦いであった。敵でありながら、ターリア姫はあたくしですら評価してしまうほどの根性と度胸を持っていた。ま……根性と度胸だけでは……あたくしには勝てないがな」

「その通り。根性と度胸だけでは強者には勝てない。ならば、訊こう。貴様はどうやってわらわに勝つつもりだい?」

「勝つのはあたくしではない」


 クレアがスイッチを切り替えた。


「俺だ」


 キッド救世主が剣を構えた。


「残念ながら俺は、根性と度胸はない。とても傷つきやすいクリスタルガラスハートの持ち主なんだ。だから自分が傷つかないように、卑怯な手を使おう」

「ほう? わらわに――偉大なる魔法使いに――姑息な手が通用すると?」

「だって、俺はこの勝負、どうなるか知ってるんだ」

「知ってるとは?」

「知ってるんだ。教えてくれたから」

「誰が?」

「うーん。それは……オズ様、貴女かな?」

「わらわが……教えたと?」

「だって、貴女が俺と戦ってなければ、俺はどうやって貴女を倒していいかわからなかった」

「今は、わかると?」

「ええ。わかりますとも」

「倒すとは、封印するということかな?」

「いいえ。『抹消する』という意味です」

「『抹消する』とは……殺すと言うことかな?」

「いいえ。この世界を貴女がいなかった世界にするということです」

「ああ……それは、ああ……非常に残念だ。残念ながら、この世界は、わらわが作った。わらわのいない世界などありえない」

「いいえ? 貴女は作ってない。貴女は派遣されただけ」


 ――オズが顔色を変えた。


「この世界を作った我らが主に、派遣された」


 ただの、


「使い」


 我々はそれを、


「天使と呼ぶ」


 確かに、


「天使と呼ばれてもおかしくない美しさ。動かなければ、とても素晴らしいと拍手が出来る」


 オズが黙った。


「俺は知ってる。貴女が現れ、俺は剣を持つ。そしてその先、貴女の心臓を貫く方法を、俺は教えてもらった」


 知ってるから、ありがたく使わせて頂きます。


「一応訊いておこうか。オズ、呪われた者達へ、謝罪の言葉はあるかな?」

「謝罪なら、わらわが聞きたいくらいだ」

「なるほど。謝罪の気持ちはないと」

「この国の最初、わらわが沢山面倒見てやった。だのに、裏切ったのだ。先にやられたから、仕返しをした。それだけのこと。謝罪とは? 国の連中はわらわに謝罪をしたか? なぜ呪ったんだと文句を言っていただけ。悪いのはどちらだ?」

「代償が重すぎる」

「それほどのことをしたのだ」

「本当にそれほどのことをしなければいけなかったのか?」

「やったのは奴らだ」

「ターリア姫は関係ない」

「生まれなければこんなことにはならなかった」

「悪いのはやった本人、罪人のみ」

「国全体の責任だ」

「果たしてそれは正しいのか」

「わらわが面倒見てやった。国全てを守ってやった。人間はすぐに恩を忘れ、わらわを悪魔と責め立てる。貴様の祖先もそうだった」


 オズがレックスを見た。


「貴様の祖先も」


 オズがあたしを見た。


「気持ちをわからせてやった」

「第三者ならば、どういう気持ちになるか、わかったはずだ」

「その結果」

「わらわを刺して」

「閉じ込めた」

「さて」

「悪いのはどちらだ」

「先にやったのはどちらだ」

「わらわは手を出された」

「喧嘩を売ったのはそちらだ」

「ならば」

「喧嘩を買って」

「やり返すまで」


 止めてと言ったのに。

 助けてと言ったのに。


「手を止めなかったのは、貴様達、人間だ」


 紫色の涙を流すオズの周りを、紫色の光が囲む。


「何が救世主だ。何が天使を殺せる人間だ。なぜ主様はそんなものを作り出したのだ! わらわを裏切ったのは――人間ではないか!!」


 紫色の瞳が憎悪に燃える。


「殺してやる」

「全員」

「一人残らず」


 オズがあたしに言った。


「ああ、安心おし。お前は最後に殺してやるよ。メニーを目の前で殺してから、じっくりとね」


 オズの手が動いた。あたしに向かって紫の光が降ってきた。それをキッドの剣が切り裂く。光が消えた。


「踊れ! 救世主!!」


 紫色の光が飛んでくる。キッドがそれを斬り、また飛んできた光りも斬り、それでもオズが光を生み出し、手を動かせば、凄まじい速さでキッドに向かって落ちていく。キッドが斬る。飛んでくる。また斬る。星が光る。紫色の光が襲い掛かってくる。オズがにやけた。キッドもにやけた。オズが顔をしかめた。


 コウモリがオズに向かって飛んできた。

 オズの光がコウモリへ飛んだ。しかし、コウモリは止まらず加速し、オズに向かって突っ込んだ。オズが消える。コウモリが空振る。あたしが振り返る。屋根に下りたオズがあたしの腕を引っ張った。キッドは構わず光を斬っていく。オズがあたしに光を向けた。あたしは息を呑んだ。しかしキッドは構わず光を斬っていく。オズがあたしに光を当てる前に――その腕を切り落とした。


「っ」


 解放されたあたしをキッドが引っ張った。オズの腕が再び生えてくる。キッドを睨んだ。キッドは煽るように口笛を吹いた。オズの両腕が刃となった。真っすぐキッドを狙い、腕を動かした。キッドが剣で防いだ。火花が飛ぶ。剣と刃が弾いた。レックスがあたしを引っ張り、背後に隠した。オズが刃をふるう。キッドが剣を振る。雲が重なってきた。剣が弾く。刃が弾く。オズがキッドの心臓をめがけて突いた。スイッチが切り替わった。


 クレアが刃となったオズの腕の上に乗り、銃を構えた。額に撃たれた。しかし、銃弾は無効化される。オズが空いてる腕を動かした。クレアが飛び降りた。オズの周りに再び紫色の光が集まってきた。そして、クレアに向かって飛んでいく。クレアが銃弾を変えた。構える。光が飛んでくる。全ての光に向かって撃った。光が水となって溶けた。オズが目を見開いた。クレアがにやけた。


「言っただろう? 教えてもらっているのだ。貴女に」


 オズが光を倍増させた。もっと飛んでいく。クレアが笑って銃を撃った。光が水となる。オズが光をレックスに飛ばした。クレアがその光を撃ち、転がり、自分に飛んできた光を避け、撃った。後ろから。撃った。前から撃った。ならば東西南北前後左右。クレアが取り出したマシンガンで全て撃った。しかしオズには当たらない。クレアの攻撃は全て無効化される。オズが近づく。そして――振り返る。


 重なった雲の間から、一つの星が光った。


 ――凄まじい速さで星がオズに向かって飛んでくる。オズが宙に浮かんだ。そのオズの背後に――拳を固めたリトルルビィがいた。


「おや」


 無効化。拳はオズに当たらない。


「からっぽのくせに度胸だけはついたのかえ?」


 リトルルビィが屋根に落ち、着地する。笛が鳴る。強い風が吹くが、無効化される。オズには効かない。オズが屋根から睨むソフィアを見下ろした。


「脳無しの死にぞこない」


 光が飛ばされる。光が生まれたら影が生まれる。伸びた影がオズを悪夢へ誘った。しかし、無効化される。オズは全く眠くならない。剣を構えるリオンをオズが睨んだ。


「泣き虫ライオン」




 メニーとオズの目が合った。




「……裏切り者……」




 メニーが手を叩いた。オズが屋根に落とされた。メニーが手を叩いた。オズの光がオズに向かって飛んでくる。オズが命令した。光がメニーに向かって飛ばされた。リトルルビィが殴り落とした。ソフィアが笛を吹いて吹き飛ばした。光が倍増した。オズが命令する。大量の光が飛んでくる。リオンが剣で切り裂いた。悪夢の世界へ飛んできた光はジャックが鎌で切り裂いた。クレアが銃を撃つ。オズが避けた。キッドがオズを蹴飛ばした。オズが倒れた。キッドがオズを馬乗りし、オズが目を見開いた。


 オズの胸に剣を突き立てた。


「……はっはっはっ。これはこれは……」


 キッドは、紫色の目が怒りに満ちたのを察した。


「やってくれるではないか」


 キッドが剣から手を離し、さっさと離れた。オズが消えた。キッドが剣を拾って――スイッチを変えた。あたしに振り返る。あたしはぎょっとした。メニーが手を叩いた。無駄だ。間に合わない。オズがあたしを抱き、空高く飛んでいく。


「ひゃっっ!!」

「テリーさん!」


 レックスが叫び、コウモリとなって追いかけてくるが、紫色の光が邪魔をした。上に上に飛んでいく。あたしは気持ち悪くなってきた。息が出来ない。血の気が引いていく。地面が見えない。雲で隠れた。耳から声が入ってくる。


「主は過ちを犯した。この世界を作ったこと。人間を作り出したこと。そして……」


 それは恨みの声。


「わらわを片付けるために、お前をこの世界へ飛ばしたこと」


 オズが止まった。あたしは咳をした。オズが腕の力を緩めた。あたしは目を丸くした。


 落 と さ れ た 。




 オズの顔だけが――あたしの目に入り――遠くなり――紫色の――光が――あたしに向かって――飛んできた――。




 星が光る。

 飛んでくる。

 流れ星がやってくる。

 オズが無効化した。

 杖をくるんと動かした。

 星がオズの前で爆発した。


 その隙に、


 ドロシーがあたしを受け止めた。


「っ」


 あたしは息を呑んだ。ドロシーが杖をくるんと回した。緑の光が紫の光とぶつかりあった。オズが姿を消す。瞬きすると、既に目の前にいる。ドロシーの銀の靴が光った。オズが飛ばされた。オズが指を鳴らした。ドロシーとあたしが飛ばされた。ドロシーが杖を振った。緑の光がオズに飛んで爆発した。オズが手を叩いた。紫の光がドロシーとあたしに飛んできたが、ドロシーの箒がそれをすいすいと避けていき、爆発する前に逃げだした。オズが光を飛ばした。ドロシーが光を飛ばした。ぶつかって大きく爆発した。


 オズがドロシーを睨んだ。


「これ、お前、ルールはどうした? 魔法使いの違反者の罪はとても重いとわかっているではないか」

「ボクが何もしてないと思ったら大間違いさ。ここの土地の管理は誰だと思って随分と聞いて回ったよ。全く、愚かだね。君はそこまでしてこの土地の人達を呪いたかったのかい?」

「ルールの違反者は」

「忘れたのかい? 君の魔力とボクの魔力は同じものさ。この土地を管理している魔法使いはいない。君が姿を変えて、管理する魔法使いだと言って回った。そして君は眠った。封印された。この土地は忘れ去られた。呪われた者達は、呪われたまま時間だけが過ぎていった。そして君が……目覚めて……」


 ――お可哀想に。この飴をお舐め。


「彼らの前に、再び現れた」

「よって、この地はわらわの支配下にある」

「ならば、この地はボクの管理下にある」

「元々はわらわのトゥエリーだ」

「元々はボクの親友のトゥエリーさ。お前のじゃない」

「その親友を生み出したのはわらわだ」

「そして殺したのはお前だ」

「部外者が見ていればよいものを」

「もう部外者じゃない。ここまで来てしまった」

「アメリアヌが近くにおるな」

「グリンダは見ているね」

「全員お前の味方か?」

「少なくとも、アメリアヌは君を止めたいみたいだね。昔馴染みだからかな」

「わらわを殺すか?」

「今一度訊こう。オズ。これ以上の呪いまじないを許されない。この土地で最後とするならば、ボクは君を追わない。そして君に干渉しない。そしてこの世界はこのまま続いていくだろう。オズ、人を呪うのをやめてくれるかい?」

「なぜ呪いが起きると思う? 先に手を出す者がいるからだ。わらわはやられたからこそ、仕返しをしただけ。何が悪い。悪いのはあやつら」

「オズ」

「たかだか魔力を持っただけの長生き猫が、でしゃばるな。わらわを誰と心得る」

「ボクの相棒ならば、こう言うだろう。偉大なる魔法使いだろうが、天使だろうが、人間だろうが、君は君だ。君に訊いている。君の呪いは、やっている行動は、『度を越えている』」

「恐怖を与えて人間は従う。ようやくな」

「オズ、ボクはまだやり直せると思う。魔法使いは生きている。ボク以外の魔法使いが、まだ沢山……」

「この世界にやり直しなどない。壊して、新たな世界を作った方がいい」

「そして君は家に帰る」

「そうだ。あの方を殺しにな」

「だから精霊は救世主を呼んだ。君を止めるために」

「トト、お前にならわかるだろう?」

「そうだね。その気持ちはわかるよ。でも、ボクは呪いなどしない。恨みなどしない。それが魔法使いだ。何もせず、見守り、本当に困った人がいれば、手助けをする。相棒なら絶対そうする」

「お前は家に帰りたくないのかえ?」

「ボクは自分の運命を受け入れた」

「ならばどうする?」

「ボクもアメリアヌと同意見だ」

「ならばどうする?」

「手を止めるつもりはないんだね」

「わらわは支配者。恐怖を与え、世界を支配する王よ」

「よくわかったよ」


 高く、高く――飛んできた、影が見えた。影は抱いてた人物を空へと投げ飛ばした。


「残念だ」


 ドロシーがあたしを落とし――雲の中にいたリトルルビィが悲鳴を上げるあたしを受け止め――リトルルビィに飛ばされたキッドを、箒に乗せた。


 そして、オズに向かって星の杖を向けた。


「終わらせよう。オズ」


 箒がオズに向かって、動き出した。



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