第8話 残されたヒント


 授業が終わり、あたしは早々に寮に戻ってきた。


(メニーが何か持って帰ってくるって言ってた。どうでもいいものなら容赦しないわよ。あいつ……)


「うぅーん! なんで高額投資して壊れるかなー! あたしが何したってんだ! 全く!」

「ローレライ、邪魔」

「おい、お前じゃねえだろうな! この機械達を壊してるの!」


 睨んできたローレライをさらに睨み返す。


「か弱いあたしがそんなこと出来るわけないでしょ。あんたの買うもの全部が不良品なのよ」

「くっそー……信用できるメーカーから取り寄せたのに……しばらく自力で修理の日々だぜ! 畜生!」

「ローレライ、メニーは帰ってきた?」

「はん? メニー?」

「そうよ。朝早く出かけたでしょ?」

「え、そうなの? 知らないんだぜ! ってことは……」


 ローレライがはっとした。


「メニーが壊した!?」

「あんた大丈夫?」

「もう駄目だ。稼げなくておかしくなりそうだぜ……」

「小遣い欲しいなら情報網でもやってみる?」

「ん? なんだ? 内容によっては高くつくぜ?」

「教えてくれた内容によって高い小遣いになるわよ?」

「お前のそういうところいけ好かねえぜ」


 あたしはカウンターに寄り掛かり、ローレライはカウンターに戻ってくる。


「なんだよ」

「まずはそうね。知ってる範囲で良いわ。……この学園の創立について、何かご存じ?」

「学園は10年前に創立」

「そうよね。そして10年かけて新校舎が周りに建てられた。じゃあ……それまで使われていた旧校舎は、どういう使われ方をしていたかはご存じ?」

「普通に学校として使われていた。ただし夜の出歩きは禁止。罠が仕掛けられていて危ないから」

「そうよね。ならば10年より前はどのように使われていたかはご存じ?」

「知りたいなら旧校舎にある北館の図書室に行くことを勧めるぜ。まあ、入れたらの話だけどな」

「……なんであんたがそんなこと知ってるの?」

「おいおい、お嬢様、あたしの情報網を舐めちゃいけねえよ。誰かに雇われる使用人ってのはいつだって噂好き。それも知ってる顔がいるならば、噂と噂をまぜこぜにして盛って話をするってもんさ」

「サリアから何を聞いたの?」

「すごいでかい図書室があるんだとさ。そこにこの土地の歴史が古代文字で書かれた本がわんさか存在する。そこには血みどろの歴史が長期にわたって記録されていたそうな」

「血みどろの歴史?」

「おいおい、テリー、じゃなかった、お嬢様、ここからはシークレット情報だぜ。聞きたきゃ金払いな」


 小切手を差し出すと、ローレライが0の数を数え――優しく丁寧に受け取った。


「まだこの新校舎が建てられてなかった時代だぜ。あの古い古城には今よりも鋭い棘の生えた茨が、わんさかまとわりついてたんだとよ。で、城には永遠の眠りについた呪われたお姫様がいると噂されていた。目を覚ますには、運命の相手からのキスが必要なんて、おとぎ話あるあるの噂が流された」

(ターリア姫のことね)

「ほら、男ってのは馬鹿だろ? たまに利口な奴もいるけど、昔の時代の男ってのは、勇敢=馬鹿、みたいな単細胞脳で出来た、カモになりやすい男が、今の時代よりも沢山いた。そいつらさ、挑んだんだとさ」

「何に?」

「何って、決まってる。お姫様の相手だよ」

「キスの相手?」

「我こそはと思った勇敢馬鹿男どもは、茨の城に侵入しようと試みた。しかし、成功者はいなかった」


 そう。誰も居なかった。


「みんな、茨の棘にやられて死んだ」

「城に入ろうとして」

「茨が体にまとわりついて」

「ゆっくりと皮膚に棘が刺さり」

「どんなに頑丈な鎧をまとっても、茨が中へと侵入し、ぶすっと刺さる」

「痛いだろうな。血も流れるだろうな」

「けど、助け出すことは出来ないんだな。これが」

「だって茨に体の自由を奪われて」

「ゆっくりと、ゆっくりと血を流して」

「その血が茨に吸収されて」

「茨は育って、成長し、また蔦を伸ばす」

「そして直接肌という肌が包み込まれる」

「男の体は全身棘穴だらけ」

「痛いだろうさ。それはそれは痛いだろうさ」

「死ぬまで棘の餌食」

「血が水分となり、茨に搾取される」

「痛みが引く時、それはようやく天使からのお迎えが来た時」

「なんて恐ろしい呪われた城」

「それでも挑戦者は現れる。姫を求めて」

「勇敢な男たちは立ち上がる。姫にキスをする勇者となるために」

「しかし、成功者は現れなかった」

「今もずっとお姫様はあの古城で眠っているそうな」

「……ま、もしかしたら成功者がいて、お姫様はもういないかもしれないけど」


 あたしはチップを見せた。ローレライが舌なめずりし、優しくチップを受け取った。


「サリアの姉ちゃんが教えてくれた。お前にも詳しくお話してあげてってさ」

「……サリアが、なんて?」

「近いうちにお前がメニーを連れてくるかもしれないから、今言った噂話を嘘偽りなくお前に話しておいてほしいってさ。自分は」


 ――私は直接、話すことが出来ないと思うの。

 ――なぜって、それは……そうね、どうしてかしら。でも、そんな気がするの。私の考えすぎかもしれないのだけど。

 ――私は……この先しばらく……この状態で、テリーお嬢様に会えないと思うのよ。だから……難解な謎を解くお手伝いは、今回は出来そうにないの。とても残念だけれど。

 ――うふふ。でもローレライ、心配はいらないわ。テリーお嬢様はなんだかんだ、この謎を解けると思うから。

 ――でも、謎を解くにも、ヒントを与えて差し上げないと、いくら優秀なお嬢様でも解けはしない。あの方は、答えは最初に見る人だもの。

 ――だから教えてあげて。この話の後に。


 これは、最大のヒントなの。





「カリスを追いかけてください」


「カリスが全部知ってる」


「そして、ターリア姫はカリスを今でも捜してる」


「城の全員、カリスを捜してる」


「助かったのはカリスだけ」


「生存者はカリスのみ」


「カリスは使いに行ってた。だから助かった。隣村に出かけている時に、あの城は呪われた」


「全員」


「当時、あの城にいた全員」


「今でも」


「カリスを捜してる」




「みんな、生きてる」




「私は、ターリア姫に会いにいってきます」






 ――ローレライが肩をすくませた。


「以上」


 チップを財布の中に入れた。


「機械の修理代になりそうだぜ。ありがとよ」

「……」

「サリアの姉ちゃんって時々おかしなこと言うよな。頭良すぎて考えてることがわかんないぜ。……あ、これ秘密にしろよな! 幼馴染だろ!? そこんとこは頼むぜ! まじで!」

「……有益な情報だったわ」


 金貨をもう一枚カウンターに投げる。


「ありがとう」

「ん? 中入らないの?」

「授業でわからないところがあったのよ。先生に聞きに行かなきゃ」

「あんだよ。ちゃんと学生やってるんじゃねえか。アーメンガード様に報告しといてやるよ。大サービスな! その代わり、サリアの姉ちゃんの悪口言ってたって秘密だからな! バレたらパパに怒られる!」


 あたしは大股で廊下を歩く。その奥から美しい女が歩いてきた。あたしは足を速めた。女は真っすぐこっちに向かって歩いてきた。あたしは真っすぐ歩いた。メニーが歩いてきた。


 止まった。


「隣村には、何かあった?」

「すごい。よくわかったね。わたしが行ってた場所」

「サリアは行動だけじゃない。ローレライに手がかりを残してた」

「やっぱり、サリアはすごいね。中毒者のことを知らないのに、絶対に謎を解くヒントを残してる」

「あの城の連中はカリスを捜してる。それはカリスが唯一の生存者だったから」

「カリスはターリア姫のお気に入りのメイドだった。そしてカリスにとっても、ターリア姫はとても大切な主だった」


 メニーがぼろぼろの手紙を鞄から取り出し、あたしに見せた。


「ありがとう。テリーが持ってきてくれた冊子のお陰で、簡単に手に入れられた。……村の人が、証拠を見せた途端に簡単に態度を変えて……渡してくれたの」


 メニーがあたしに手紙を差し出した。それを受け取り、見てみる。


「古代文字だけど、今のテリーなら読めるでしょう?」


 あたしの目が、文字を辿った。



 ――この手紙を読んだ方へ


 あの古城には入らないでください。

 あの城には、私の大切な主が眠っています。

 キスをしなくても大丈夫。

 100年経ったら目覚めます。

 そして、また100年眠り、また100年後に目を覚まします。

 私が老いてから、紫の魔法使いが全て教えてくれました。

 私の絶望した顔を見るや否や、彼女はとても喜んでいた。

 お前のせいだと、喜んでいた。

 そうです。全ての元凶は私です。


 私が、不注意で金の皿を割りました。


 そのせいで、ターリア姫様は呪われた。

 ばれたくなかった。

 怒られると思ったから。

 けれど、なぜ関係ないターリア姫様がこのような目に遭わなければいけないのでしょう。

 私の罪の代償は、あまりにも大きかった。


 どうかお願いです。

 若い青年達を止めてください。

 あの城にまとわりつく茨の餌食となって死んでしまう。

 これ以上若い方の命を粗末にしたくないのであれば、どうか、ターリア姫様をそっとしてあげてください。


 私ですら、城に入ることはできなかった。

 何度も試してみたけど、地下にも潜ってみたけど、水の中にも潜ってみたけど、どうやっても、あの城の中には入れなかった。


 ターリア姫様、先に楽園へと旅立つカリスをお許しください。

 可哀想なターリア姫様。

 どうかお嘆きにならないでください。

 カリスはいつだって貴女を見守っております。

 ターリア姫様。

 100年後、貴女が目覚めた時、私の死を聞いて絶望しないことを祈ります。


 どうか、カリスの死をもって、呪いが終わりますように。







「呪いは終わらなかった」

「今も……続いてる」


 メニーが首を傾げた。


「サリアは、どうして記憶を失ったの?」

「……ターリア姫に会いに行って、そこで何かが起きた」

「じゃあ、もう目覚めてるんだね」


 100年経ったら目覚めます。


「あの城の人達、みんな、どこかにいるんだ?」


 メニーが微笑んだ。


「どこにいるんだろうね?」


 学園が創立されたのは10年前。


「七不思議の本って図書室にあったけど……誰が書いたんだろうね?」


 サリアは旧校舎に行き来していた。


「ターリア姫に会いに行ってたってことは」


 もう、


「どこかに、紛れ込んでるってことだよね」


 ――母上の元で働いてた元侍女が殺された。

 ――調べてみると、同じような被害が多数存在した。

 ――被害者家族は多額の【支援金】を渡され、黙殺状態にあった。


「わからないのは……、この学園の連中が、なぜ外から、派遣教師を呼ぶのかってことよ。サリアの前に何人か殺されてる。クレアはそれを調べに来た」

「カリスを……捜してるとか?」

「カリスはもう死んでる。もし……理事長が……あの古城にいた人物なら、それはもうわかりきってることじゃない?」

「殺された人の共通点は?」

「みんな派遣教師」

「ってことは直接雇用の先生は生きてる?」

「こういう考えができるわ。直接雇用の教師は全員古城にいた連中」

「……アトリの村みたいだね。怖いなあ」

「サリアはあの古城で、誰かと待ち合わせをしていたみたいよ。それが目覚めたターリア姫だった。会いに行くことをローレライに伝えてたわ」

「それ以外で、わたし達に残したヒントは?」

「カリスを追え。みんな生きてて、当時唯一の生存者だったカリスを捜してる。……カリスについて調べたら、何かわかると思ったけど……もう死んでるなら、これ以上調べようがないわ」

「金の食器を割った本人。……全ての始まりとなった要因の人物」

「まさかと思うけど、100年後に目覚めたターリア姫に対して、オズが呪いの飴を勧めたりしてないでしょうね?」


 あたしは後ろにいた人物に訊いた。


「ドロシー」

「可能性は大いにあると思うよ」

「あんた、管理してる土地が違うからって、とんでもない呪いの歴史に目を背いてくれたわね。お陰で調べるのに苦労したわよ」

「お陰で状況がまとまってきた。オズに何か言われてるとすれば……それを理由に、古城の住人は魔力持ちに近づいてほしくなかった。だから魔力持ちのみ拒むことのできる結界を貼った」

「クレアの存在に気づいてるなら、その事についてもオズに何か言われてる可能性が高いわね。でも、だとしたら……余計にわからないわね。クレアに頼んだらなんだかんだ解決してくれそうじゃない?」

「オズにこう言われていたら? 『クレアを殺したら呪いを解除してあげるよ』」


 あたしとドロシーの目が合った。


「きっと、邪魔だったんだろうね。サリア。彼女はとても頭が良いから、周りの違和感に唯一気づいてしまったんじゃないかな。それに……彼女は過去、誘拐された魔法使いに触れてるしね。魔力のことも……なんとなく察してたのかもしれない。わからないけどね」

「……」

「その手紙によれば、カリスっていうメイドが何度か城に入ろうと挑戦してたみたいだね。でも茨が邪魔で入れなかった」

「城の連中はカリスを捜してる。しかも……前に拾った手帳を見る限り、あまり良くは思われてない」

「知ってか知らずか、カリスも城に戻ろうとしていた」

「流石にカリスが死んだってことをわかってるのよね? なんで今も捜してるなんて、サリアは言ってたわけ?」

「捜してるんじゃないかな?」

「どうして?」

「ターリア姫が、会いたがってるから」


 メニーがあたしの手にある手紙を切なげな眼で見つめた。


「わたしが……ターリア姫で……もし、テリーがカリスなら……きっと、同じこと思うと思う」


 死んでるなんてわかってる。


「でも、魂はどこかにいるかもしれない」


 そこでさ、例えば、カリスが死んだことを受け入れられないくらい心が乱れて、悲しみに暮れていたとしたら、


「おかしくないよね」


 願いを叶える紫の魔法使いが目の前に現れたって。


「何もおかしいことない。飴を舐める事で呪いを解除できるとか、呪いの力で外から来た人を殺せばカリスにまた会えるとか言われたら、冷静な判断が出来ない状況なら、舐めるよね」

「……つまり……」

「ターリア姫とカリスが再会しない限り、この輪廻は終わらない。姫の眠りから始まり、大きく膨らんだ呪いはずっと繰り返される」

「つまり」

「永久にサリアは戻ってこない」


 だから、


「カリスを追わなければいけない」

「……」

「テリー、まだ七不思議は終わってないんでしょう?」


 メニーがあたしに近づいた。


「サリアが七不思議を追っていたということは、きっと、その先に何かが見えたんだよ」

「でもカリスは死んでる。寿命でもう何百年も前に亡くなってる。これ以上何を追えって言うの? ターリア姫がどこかにいるとして、どうやって死人に会わせればいいわけ?」

「七不思議を追えば」

「あんなのただの言い伝えでしょ」

「ところでテリー」

「何よ」

「泣き虫メイドには会った?」


 ――あたしは息を呑んだ。


「あそこにいると、泣いてるメイドのおばけが追いかけてくるんだって」


 ごめんなさいって言いながら、追いかけてくるんだって。


「七不思議第七夜、誰も居ない城をうろつくメイドの影が時々現れる」


 肉体は滅んでも、その人魂は壁をすり抜け、おばけとなって――あの城に戻ってるかもしれない。


「テリー、まだ七不思議は終わってない」

「サリアも見つけてない」

「なら行くべきだと思う」

「今宵も、アルテと一緒に」


 ――一つ、思い出した。


「……そういえば、アルテが変なこと言ってた」

「変なこと?」

「カリスの部屋にあった髪飾り、自分のものだって言ってたのよ」

「……どういうこと?」

「自分の国で失くしたものが、カリスの部屋にあったっていうの」

「……」

「アルテが気味悪がってた。ただ……不思議よね。あの城に遊びに行ってる生徒はみんな泣き虫メイドに遭遇してるみたいだけど……アルテは唯一……メイドに会ってないのよ」


 まるで、


みたいに」

「……」

「……確かに、アルテが側にいる間は、あの古城で変な現象ってそこまで起きないのよ。本当に、不思議なことに」

「……テリー」

「アルテとあの古城が何かしら関係があるとは思えないけど」

「魔力は引き付けられるもの。関係ある人物なら、特に」

「どうかしらね。だけど……そうね。確かに……七不思議は終わってない」


 メニーに目を向ける。


「今夜、あんたも来なさい。北棟の図書室に何かないか調べて」

「図書室?」

「古代文字で書かれた本が沢山あるんですって。あんた、読書好きでしょ? 何かないか調べて」

「わかった。じゃあテリーは」

「その間に七不思議を追う」


 サリアが追いかけていたのだから、


「その先に、何かがある」















「アルテ」


 ――アルテが振り返った。扉には、クレアが立っている。アルテが微笑み、糸車を再び回した。


「ああ、こいつは先生。どうもこんにちは」

「ランチは食べた?」

「ええ。美味しかったですよ。先生の顔に見立てて、フォークでぶっ刺して食べる野菜達はとても美味でした。ふひひひ。ねえ、全く、先生ったら意地悪なんだから。わてが古文苦手なの知ってるくせに」

「最近勉強熱心だから、わかると思ったのよ」

「ええ。先生が単語を教えてくださってるお陰で、わての脳には皺が増え続ける一方です。感謝してますけどね、ああいうのはよろしくない」

「うふふ。そう拗ねないの」


 クレアが机に寄り掛かった。


「ヘーリオス先生が反省文を書くように言ってたわよ」

「あら、まあ、今なんておっしゃった? 反省文ですか?」

「そうよ。運の悪いことに、真夜中抜け出してるところを発見されてしまったものだから。この後エスペラントさんにも伝えに行かなきゃ」

「ああ、旅は道連れ、世は情け」

「意味わかって言ってる?」

「クレア先生」

「なーに? アルテ」

「この学園、どう思います?」


 糸車が回る。


「わたくしは、やはり何かおかしいと思います」


 ペダルを漕ぐ。


「あの城の中で、とある髪飾りを見つけたのです。先ほど母に連絡しましたが、やはり……それは、わたくしのものである可能性が高いのです」

「……まあ、アルテったら。貴女は以前に……あの古城に入ったことがあるの?」

「いいえ」

「そうですか」

「でも、髪飾りはあった。失くしたと思ったわたくしの髪飾りが、まるでずっとそこにあったかのように落ちていたのです」


 窓から優しい風が吹いた。


「わたくしね、先生、今、エスペラントさんととても仲が良くて、一緒に寮を抜け出して、夜に出歩いているんです。ああ、どうか最後まで聞いてください。そこで、わたくし達、冒険してるんです。気味の悪いあの城に言い伝えられた、七不思議を追いかけているのです」

「きっと、何かあると思うんです」

「サリア先生が追っていたのです」

「七不思議を」

「きっと……何かあるんです」

「呼ばれている気がするんです」


 あの気味の悪い城に、何かがあると思うんです。


「クレア先生、反省文は書きます。でも、どうか今夜も見逃してください。あと二つ残ってるんです。それが終わるまでは……わたくしも、この学園から出られない。……出るわけにはいかないのです」

「……茨の棘で怪我をしないようにね。アルテ」


 糸車に設置された芯には、十分すぎる糸が巻かれていた。



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