第4話 学園七不思議、第五夜


 ローレライが監視カメラを設置した。


「休日だからと油断してるだろ? 残念ながら、あたしに休みは存在しないのさ。これでお嬢様達の顔を特定して、通報すればボーナス獲得! さて、あたしは寝るぜ。ふわああ、朝が楽しみだぜ!」


 リトルルビィがカメラを踏み潰した。


「ありがとう」

「後からついてく」

「ええ。お願い」


 廊下に抜け出すと、旧校舎近くを職員達が歩いていた。


(昨日より警備が厳しくなってる。今日は休日よ?)


「レオ、俺はそっちを見てくる」

「では僕はあちらを」

(あ)


 あたしは壁に隠れる。レオが廊下を通る。


「ふうむ。今宵は良い夜だ。生徒は誰も居ないみたいだし、ひと眠りしててもばれはしないだろう」


 一瞬、寒気が起きると、レオ以外の職員が全員その場に倒れた。悪夢の世界に誘われたらしい。レオがあたしに振り返った。


「さ、どうぞ」

「アルテは?」

「もう君を待ってる。すごいね、彼女。君よりも動きが俊敏だ」

「妙に器用なのよね。あの子」


 職員達が眠ってる間に廊下を駆け走る。アルテが旧校舎の影に隠れて待っていた。


「アルテ」

「今日は警備が厳しいね。多分、しばらくはこうかもしれない」

「見つかる前に行きましょう」

「行きはよいよい。帰りは恐いってね」



 罪滅ぼし活動ミッション、七不思議を追う。五夜目。



 門に仕掛けられた小さな扉から入り、今夜も草原と茨に囲まれる不気味な古城へと歩いていく。アルテがランタンに火を灯し、古城の扉を開け、中に入る。ソーレとルーナの像があたし達を出迎えた。


「予定通り、西棟の動物部屋に行ってみよう。ロザリっち」

(昨日サリアが消えた場所。昨日は突然だったけど、冷静に調べてみたら何かわかるかも)

「塞がられてた道、まだ塞がってるかな? 奇跡が起きて、誰かが退かしてくれてたら楽に通れるとわては思うんだ」

「時間はたっぷりあるわ。……行ってみる?」

「一応ね。確認は大事だと思うんだ」


 そう言って昨日行ってみた道を行ってみると――積み重ねられた椅子は退かされ、真っすぐ進めるようになっていた。


「……あの椅子を一晩で片付ける人がいたなんて、相当な趣味のお持ちだね」

(大半はグレタでしょうね。椅子が奥に投げられたような跡があるもの)

「行こう。ロザリっち」

「ええ」


 昨日よりも楽に西棟の動物部屋へ到着できた。今日も狼の声が聞こえる。近くで遊んでいるようだ。二人でサリアが落ちた床を調べるが、穴は出てこない。アルテが何とも言えない表情で地面を撫でた。


「……」

(トラップを発動させるなら昨日の再現をするのが一番だわ。えっと……思い出せ。どうだったっけ……?)


 ラビとグースと別れて……この廊下に戻ってきて……サリアが曲がり角から歩いてきて……。


(あ、壁は触っちゃいけない。外に戻される)


 あたしはサリアが立っていた場所に立った。


「昨日、サリア先生がいた場所ってここよね?」

「うん。ここで……わてらはその前の……」


 アルテが昨日いた場所に立った。


「ここにいた」

「ここで話をした」

「そうそう。ロザリっちが熱くなっちゃって」

「人のこと言えないじゃない」

「ロザリっちとわては似てるね。カッとしたら手が付けられなくなる」

「二人が同時にカッとしたらどうなるかしらね」

「殴り合いになって友情を築きあったり?」

「素敵。寝そべるのはアトリエの前でいいかしら?」

「あの雑草だらけのところで寝たら葉っぱで指が切れるよ。動物部屋の藁の上にしておこう? あそこなら寝心地最高」

「さらに側に優しい狼がいるし、冬の寒い日は困らないわね」

「……昨日、ここで以外で何かした? スイッチを押したりとか」

「そんなものは見かけなかったとおも」


 突然床が無くなった。


「っ!」

「ロザリっち!」


 足場がなくなったあたしは足元から中へ落ちていく。


(え? え? え?)

「あだっ!」


 クッションのような柔らかいものに尻が当たり、そのまま壁に背中を押された。


「うわ!」


 滑っていく。


 ――ぎゃああああああああああああああああああ!!!!


 くるんと一回転。また滑る。


 ――ママぁぁぁあああああああ!!!!


 どこかに放り投げられる。


「あだっ!!」


 ……あたしはベッドに埋もれていた。


(……どこ、ここ……)


 上から誰かが降ってきた。


「うぎゃっ!」

「あうちっ!」

「いでっ!」


 アルテがあたしの上に倒れた。


「……うわ、いった……。ここどこ……」

「アルテ……重い……」

「おっと、こいつはなんてこった。痛いと思ったらロザリっちを踏んづけてしまっていたようだ。わては公爵家の娘だというのに。まるで爵位の現れ。上の者が下の者を踏みつける絵」

「友達に爵位は関係ないわ。退いて」

「はいはい。ごめんごめん。今退けるよ。ちょこっと待ってね。よっこいせ」


 アルテがベッドから抜け出し、あたしもベッドから抜け出した。部屋を見回す。壁の模様と言い、レイアウトと言い、昨日まで見てた古城の部屋よりずっと贅沢な作りをしていた。


「ロザリっち、地図」

「場所わかる?」


 アルテが再度ランタンに火を灯し、地図を広げてみる。西棟の動物部屋から繋がっている場所はない。『×』が描かれているがそれだけだ。


「歩いて確認するしかなさそう」

「普通の客室とは違うみたいね。ここ。どこよりも贅沢な作りをしてる。……城の持ち主の関係者の部屋だったりして」

「……王族関係者ってこと?」

「この作り、そうじゃない? ほら、高そうなツボに、埃に被って誰が描かれてるのかわからない絵画。王族でなくとも、王族の親戚とか、特別な客室とか」

(確かに雰囲気が違う)

「ちょっと歩いてみようか。廊下の形とかで特定すれば、地図で見つけられる」


 アルテが扉を開ける。


「行こう。ロザリっち。……廊下も随分と作りが違うみたい。別の場所みたい」

「……旧校舎として使われてなかった場所かもね」

「その可能性は大いにあり得る」


 あたしも廊下に出て、そのゴージャスなデザインの廊下に驚いた。天井には天使の絵が並び、埃に被った赤いカーペットは確かに貴族の歩くためのものだった。扉がいくつも存在し、アルテが一つ一つ開けていく。だが、サリアの手掛かりになるようなものはない。


「ロザリっち、こんなところで授業できる?」

「少なくとも生徒は使わせてもらえないでしょうね。職員の寮として使われてそう」

「確かに。大人はそういうところが狡い。でもわてらももう少しで大人になれる。そうなっちまえばこっちのもん。ここはわてらが使用できるエリアとなるわけだ」

「生徒のうちは無理じゃない?」

「先生になればいいのね。了解、了解。ではわては今夜見る夢では教師として教壇に立つことにしよう」

「担当科目は?」

「睡眠」

「眠たい授業になりそう」

「眠たければ眠ればいい。そういう授業だもの。最高すぎ」

「本当ね。一躍人気の科目になるわ。テストが楽しみ」


 アルテがドアノブを捻った。鍵がかかっているようだ。あたしはマスターキーで扉を開けてみた。中はトンネルのような通路が続いてる。アルテがランタンを向けた。奥まで続いてる。アルテが糸の芯を取り出し――唄った。


 学びを求める子羊よ、

 貴女の夢を叶えましょう。

 朝は太陽神ソーレに祈れ。

 夜は月神ルーナに祈れ。

 薔薇の茨をくぐり抜け。

 塔の頂点に君臨せよ。

 未来を知るのは糸車のみ。


 糸が転がった。トラップはないようだ。


「ゆっくり進みましょう。アルテ」

「賛成」


 糸が止まった場所まで歩き、また糸を転がしてトラップを確認していく。上にも投げてみて、下で転がしてみて、しかし、ここには何もないようだ。奥まで辿り着いた。アルテが扉を開けた。――ドレスと靴とジュエリーが置かれた部屋だった。昔の形のドレスがずらりと並んでいる。それこそ――千年前にもなる形のドレスだった。


 アルテが不思議そうにドレスを見つめた。


「布が腐ってない。……ずっと放置されてたみたいだね」

「城下まで持っていけば高く売れそう。部屋ごと美術館に登録行きだわ」

「靴も、ジュエリーも……当時のままみたい。不思議。ここだけ時が止まってる感じがする」

「マネキンが気持ち悪い」

「この時代からあったのね! 何これ、木で出来たかかしみたい! ふひひひ!」

「怖い話によくあるのよね。マネキンが動き出すってやつ。小さい時、姉から聞かされて、しばらくクローゼットを封鎖してたわ」

「ロザリっちは感受性豊かね。でもね、安心して。わてがいると泣き虫メイドが来ないように、おばけもなかなか現れてくれないようだから。きっとわてが好きなんだ。一目惚れして近づけないでいるのよ。あー、わては罪な女。辛いねえ」

(急に動き出す鎧とか、階段を追いかけてくるミイラを見たら、そんなこと言えなくなるわよ。アルテ)

「こっちにも扉がある。扉だらけだな。ここ。目が回りそう」


 アルテが扉を開けて、その先に進んだ。あたしが行く前に扉が閉まった。


(確かに時が止まってるみたい)


 あたしはドアノブを捻った。――開かない。


「……アルテ?」

「ん?」


 ドアの向こうから声が聞こえる。


「ロザリっち?」

「ドアが開かない」

「……本気で言ってる?」


 ドアノブがひねられた。しかしドアは開かない。向こうからうなだれるような声が聞こえた。


「だる……」

「鍵穴もない。マスターキーじゃどうしようもないわ」

「開けられるものないか探してみる。ちょっとそこにいて」

「ありがとう」

「ドア開けていないとか無しよ? そんなの怖すぎる」

「ええ。じっとしてる」

「待ってて」


 アルテの足音が遠くなっていく。あたしはもう一度振り返り、部屋を眺めた。昔のドレスが左右に並び、靴やジュエリーが並び、来た扉、開けてない扉、アルテが出ていった扉がある。来たドアを開いてみる。開けれる。ドアを閉める。触れてないドアに近づいてみる。ドアノブを捻ってみる。


(……これは鍵がかかってるみたい)


 マスターキーを挿そうとすると――突然、騒音が鳴った。


「うわっ! 何!?」


 振り返る。――壁につけられた電話が鳴っている。


(……誰かの悪戯……だったら嬉しいんだけど……)


 ゆっくり近づき、腕を伸ばす。電話が鳴り続ける。受話器を取り、耳にあてた。……黙ってると、向こうからか細い声が聞こえた。


『……その部屋は危ないから早く出た方がいいわ。時が止まってるなんてことはない。今も昔も、時は確実に進んでる』

「……」

『そこは王族の棟。この時間はトラップだらけだから気を付けて。ドアに入れたと思ったら戻れなくなるなんてトラップはそこでは当たり前。マスターキーは役に立たない。ちゃんとその部屋専用の鍵でないと。右棚にある薔薇模様の靴の中に、左のドアの鍵があるはず。予備用に先輩がしまってるのを見たことがあるの』

「……誰?」

『安心して。彼女は無事よ。深く眠ってる。しばらくは大丈夫。でも貴女が危ない』

「サリアのこと言ってるの?」

『大変。後ろを見て』


 あたしは後ろを見た。




 マネキンがあたしを抱きしめようとしていた。




「……っっ……!!」




 腰が抜けると、マネキンの腕からすり抜けた。マネキンの腕が空振る。そして、のっぺらぼうな顔が、確実にあたしに向けられた。


「ひ、ひい!」


 あたしは転がるように走り出し、右の棚を見る。薔薇模様の靴を探す。マネキンが不器用にへんてこに動き出す。ゆっくりと、一歩一歩。


(薔薇模様の靴、薔薇模様の靴、薔薇模様の靴……!)


 ガラスの靴、赤色の靴、青色の靴、黒色の靴、素敵なハイヒール、靴、靴、靴――薔薇模様の靴。


(あった!!)


 靴を両手で掴み、必死に振る。錆びた鍵が地面に落ちた。


「はっ、はあっ……!」


 荒くなる息を繰り返し、鍵を拾い、顔を上げる。マネキンがゆっくりと近づいてくる。


(どうする、どうする、どうする?)


 左右はドレスが並んでいる。マネキンの横をくぐるしかない。


(ドロシー!! ドロシーーーーーー!!)


 手を叩く。あいつは来ない。


(役立たず!!)


 マネキンが近づく。あたしは試しにものを投げてみる。マネキンに当たって物が跳ね返ってきた。あたしはジュエリーのような石を投げてみた。マネキンに当たって跳ね返り、それをマネキンが踏んづけて壊した。……あたし知らない。そのマネキンが壊したのよ。あたしは覚悟を決める。


(こうなったら……)


 自らマネキンに近づく。マネキンの両腕が広がり――あたしを抱きしめようとした。


(今!)


 しゃがみ、マネキンの腕が空振る。その隙に横を潜り抜ける。


「ざまあみやがれ!!」


 左のドアに走り、震える手で鍵を挿す。


「よしよしよしよし!!」


 ドアノブを捻る。ドアが開いた。振り返る。マネキンが近づいていた。


「っ!」


 息を呑み、急いでドアの向こうに転がるように入り、急いでドアを閉め、鍵をかけた。――静かになる。


「……」


 ――ドアが強く叩かれた。


「うわっ! ちょ、本当に、やだ、ここ、もう!!」


 あたしは早々にドアから離れ、……気が付いた。


(……ランタン、向こうの部屋だ。うわ、最悪……)


 辺りを見回す。だからドロシー、ランタン無しでも暗いところ大丈夫な魔法かけてって言ったのに!


(……ん?)


 通路の奥に微かに明かりが見える。


(……アルテ?)


 前も後ろも見えない暗闇の通路を進み出す。今トラップを発動されてもあたしには回避する術がない。ゆっくり、確実に進み、ちょっとした音も逃さず、全体を見て、感じ、前に進む。


 灯りが近づいてくる。


 一歩一歩踏み込み、唾を飲む音も、足音も、集中して聞いて、息を吐く音も、心臓が動く音も、全部、感じて、聞いて、進んで、前へ、進んで、歩いて、進んで、近づいて、近づいて、近づいて――。



 灯りの中へ、入っていく。




「ターリア姫様のご登場です!」



 拍手喝采。手を叩く音。人々の歓声。喜びの声。感動する声。人に紛れ、あたしは顔を上げる。その先に、お辞儀をするプリンセスが、踊り場に姿を見せていた。



 いや、そんなものはない。



 我に返る。

 顔を上げ、瞼を上げると、あたしは広々としたパーティーホールの真ん中に立っていた。窓から月の光が漏れ、ホールを照らす。階段に影が見えた。あたしの足が動いた。階段を上り、踊り場に辿り着くと――紙が落ちていた。覗いてみる。古代文字で何か書かれている。



 ターリア姫様!


 舞踏会デビューおめでとうございます!

 とても美しいお姿で、感動いたしました。

 お化粧直しをするので、きりのいいところで裏の部屋へいらしてください。


 カリス



 あたしは階段に振り返る。階段を上った先に両開きの大きなドアが備わっている。あたしは階段を上り、そのドアの片方をぐっと引っ張ってみると、簡単に開いた。中は柱だらけの円型の空間と、扉が二つ。左側からドアを閉める音が聞こえた。あたしは左側に進み、ドアをノックしてみた。反応はない。ドアを開けてみた。舞踏会によくある、休憩部屋だった。


 中に入ると、テーブルに紙が置かれていた。これも古代文字で書かれている。



 ターリア姫様

 お疲れ様でございます。


 デビュタントはとても大事な日。

 はしゃぐ気持ちはとても大事ですが、疲れたらお部屋でお休みくださいね。

 呼んでいただければ、いつでもカリスが貴女のメイク直しを致します。


 これからも、美しい貴女をお守り致します。


 カリス


 PS.髪飾りを取りに行ってまいります! 申し訳ございません!! 御用があれば、カリスの部屋までお願いいたします! 申し訳ございません!!



(……頭がぼんやりする……。ここは何なの……)


 ――そこは王族の棟。


(……王族の棟……)


 あたしは揺れる意識の中、地図を広げてみた。古代文字が読める目で探してみる。


(……あった……)


 王族の棟。

 これまで来た道を指でなぞってみる。


(これ……井戸の側で拾ったけど……)


 ――『誰が持ってた地図』なんだろう。


 赤い丸が書かれた部屋がある。


(……近い)


 あたしは地図を広げながら、歩き出す。


(道の通りに行けばいい)


 あたしが歩く。耳元で、人々の談笑する声が聞こえる。女の声。男の声。舞踏会のように多く集まった人々の声が頭に入ってくる。足が動く。導かれているように廊下を進む。メイドが歩いている。すれ違う。後ろからも歩いてくる。先にメイドが進む。あたしはついていく。メイドが前から、横から、後ろから、忙しそうに雑務をこなす。


 あたしはドアを無視して階段を上がる。視界が揺れる。階段を上がる。ここはどこだろう。どうでもいい。頭がぼんやりする。知らない景色が知ってる景色のように思えてくる。階段を上がる。思い出す。そういえば、ここには来てはいけないとばあやに言われていた。どうでもいい。あたしはドアを開ける。


 光り輝く糸車が置かれていた。


 それを見た時思った。これ、なんだろう?


「これはね、糸車と言って、糸を生み出すものなのですよ」


 側に立ってた紫色のメイドが言った。


「姫様、良ければお触りになってみますか?」


 あたしは近づいた。


「芯をここに置くのです。そしてくるくる回すだけ」


 あたしは手を伸ばした。


「糸を大切な人へプレゼントしましょう」


 あたしの指が近づいた。


「あ、ちなみに」


 刺さった。


「針があるからお気をつけ。あら、遅かった?」


 視界が歪んだ。様々な色が目の中で爆発する。


「ターリア姫様!」


 あたしは倒れる。


「そんな、ターリア姫様!!」


 まどろむ意識の中、人々の悲鳴が聞こえる。呪われた城の悲鳴が聞こえる。



「ターリア姫様ぁあああああああああ!!!」



 女の泣き叫ぶ声と同時に、時計が止まった音が聞こえた。








 ――あそこは、古代昔に建てられたお城で、まだ、魔法使いも平和に暮らしていた時代。当時、この地域は一つの小さな国だったんだって。優しい王様と綺麗なお妃様がいて、大勢の家臣がいた。小さな国の民は平和に暮らしていた。そんなある日のこと、王様とお妃様に子供が出来たの。民はみんな喜んだ。子供が誕生したら、パーティーを開くことになった。そこで、大切な姫に祈りを捧げてもらおうと、13人の魔法使いをお客様として呼ぶことにしたんだって。でも、当日、食器が一枚足りなくて、12人しか呼べなかったの。すると、招待状を送られなかった13人目の魔法使いが怒って、姫に呪いをかけたの。


 その子が16歳になったら、糸車の針に刺されて死ぬことになる。


 王様も、お妃様も、民も、みんな悲しみに暮れた。けれど、12人目の魔法使いは、まだ祈りを捧げてなかったの。だからこんな祈りを捧げた。


「姫は死にません。眠るだけです。16歳になったら、糸車の針に刺されて、深い眠りにつくことになる。そして、運命の相手からのキスで、目を覚ますことになるでしょう」


 そうして、大切に育てたお姫様が死なないように、王様は国中の糸車を燃やした。糸車は国のどこにも存在しないはずだった。


 でも、お姫様は眠った。16歳の誕生日、13人目の魔法使いに誘われ、自ら、糸車の針で指を刺してしまって。


 国は悲しみに暮れた。そして、お姫様の運命の相手が現れるまで、全員眠ることにした。全員眠ったものだから、畑を耕す人も、仕事をする人もいなくなって、国は封印された。


 そして、古城だけが残された。それが、



「あの旧校舎」






 メニーの声が聞こえた気がして、あたしは目を覚ました。



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