第18話 アイデンティティーの喪失


 放課後の鐘が鳴り、クラスメイトが掃除を始める。終わり次第、皆クラブ活動へと向かった。


「お姉ちゃん、わたしとリトルルビィは図書室にいるから、何かあったら来て」

「わかった」

「じゃあ……また後で」


 メニーとリトルルビィが廊下に出た。さて、あたしはどうするか。


(糸車クラブにはクレアとサリアとアルテがいる。あそこでサリアの様子を見る、でもいいと思うけど、他にも歩き切れてない場所もあるだろうし、この学校のことをもっと調べるべきかも)


 歩いてみて、気になったところをメニーに調べてもらえばいい。


「お散歩に行かない?」

「猫は散歩に行かないんだ。基本的にずっと寝てる生き物だからね」

「そう。じゃあ寝てれば?」

「寝すぎたら夜眠れなくなる。いいよ。ちょっとした運動がてら、付き合ってあげよう」


 ドロシーがそう言うと猫の姿で隣に立った。


「にゃん」

「さて、どこに行こうかしらね」

「そういえば、あのお金大好きお嬢さんが何かやってるみたいだよ」

「……ローレライ?」


 その現状を見て、あたしは愕然とした。寮に戻ろうとした女子生徒をローレライが止めに入った。


「今、寮は入れないんだぜ! 改築中なんだぜ!」

「あんた何やってるの?」

「おーおー、こいつはロザリーちゃま。お元気? 大層な制服なんか着ちゃってさ。商売人のあたしとは違っていいね。全く。こっちはいつになっても苦労するぜ!」

「何その機械」

「おっと、よく聞いてくださった! こいつはな、セキュリティ万能完璧機! 朝から作りあげてようやく完成した代物だ! こいつの前を通るだけでブザーがぶーーってな!」

(また厄介な機械を作りやがって……)

「こいつの目は人の体温を辿る。ちょっとでも体温が通れば一撃。規定外の時間で寮から抜け出す生徒がいたら、こいつが音を鳴らして、あたしが現れ、お嬢様方をとっつ構えるってわけだ!」

「でも、そしたらあんたの体温だって反応するんじゃないの?」

「心配ご無用。そのためにこれがある」


 ローレライがジャケットを広げると、中に何かを着ていた。


「冷却ベスト! これを着ていると、この機械は全く反応しないんだぜ! だから冷却ベストを着ているあたしは、平気ってわけ!」

「はーん? あんたにしては考えたわね」

「だろう!? お前ならあたしの頭の良さを理解してくれると思ったぜ」


 あたしはGPSの電源を入れた。【全員共有。ローレライが人の体温に反応する機械を寮の出入り口に設置。冷却ベストさえあれば回避できる。リトルルビィ、部屋に帰る前にあたし用に部屋に一着持ってきてくれるとありがたいわ。以上。】あたしはポケットにGPSをしまった。


「ドロシー、ここは工事中みたい。他のところ行きましょう」

「にゃー」

「これで学園の秩序が守られ、ボーナスも受け取れる! ゲスゲスゲスゲス!!」

「可哀想な女」

「たまにはおひねりあげたら?」

「調子に乗るから駄目」

「で、どこに行くの?」

「そうね。昨日の話でもしに行こうかしらね。料理クラブよ」

「料理クラブに行くのかい? わお、そいつはとても良いことだ。今日は猫のご飯を作ってるかな?」

「作ってるわけないでしょ」


 あたしとドロシーは反対方向に歩き始めた。



(*'ω'*)



 料理クラブ。


「あら、ロザリー、いらっしゃい」

「猫ちゃんもこんにちは。また来てくれたのね」


 ハチミツを持ったメリッタとチーズを持ったフロマージュが笑顔で出迎えた。


「今何を作るか皆で考えてたの。ロザリーも作る?」

「お誘いは嬉しいけど、今日は二人と話したくて来たの」

「何よ。昨日のこと?」

「お喋りしてもいいかしら? なんなら、この子の肉球を触ってもいいから」

「にゃっ」

「肉球付きならしょうがないか~」

「よしよ~し」

「にゃ……」


 良い匂いのする教室の隅に三人で座り、向かい合う。


「ここに編入した日にね、アルテに一緒に旧校舎を冒険しようって誘われて、遊びに行ってるのよ」

「ああ、昨日言ってた七不思議のこと? アルテって人を誘うのね」

「意外と悪戯好きよね。アルテって」

「ええ。確かに。……それで……どこかお勧めのスポットとかないの? ほら、あたし、初めて歩いたものだから」

「わたし達は基本的にキッチンしか使わないから」

「水も出るし、火も出る。食器も使えるから、食材さえあれば自由に使えるのよね。あそこ」

「でもあまり歩かない方がいいわよ。危ない罠とかもあるから」

「ああ……」

「わたし達もリンゴを転がしたりしてあそこまでたどり着いたんだけど、たどり着いたらもう大丈夫。基本的に同じ場所には同じ罠しか仕掛けられてない。その場所さえ覚えてしまえばこっちのもの」

「地図とかないの?」

「旧校舎の地図は見たことない」

「あるとは思うけど、あったとしても行こうとは思わないわね」

「痛い思いはしたくないもの」

「そっ。痛い思いをするのは包丁を指で切ってしまった時だけで十分」

「今夜も行くの?」

「もちろん」

「寝不足にならない程度に」

「眠くなったらその場で寝て、朝方に部屋に戻ればいいのよ」

「管理人が新しい機械を設置してたわ。人の体温に反応する裸身だけど、冷却ベストさえあれば大丈夫みたい」

「ナイス。ロザリー」

「フロマージュ、購買に買いに行きましょう」

「そうね。今のうちだわ」

「ロザリーも行く?」

「……購買、行ったことないわ」

「だったら来るべきね」

「行きましょう!」


 メリッタとフロマージュに連れていかれた先に、購買という名のショッピングモールがあった。ドレスショップやジュエリーショップ、ブランドショップが多数設置されており、学園の生徒が楽しそうに歩いている。


(なるほど。親のお金をここで使って楽しんでるってわけね)


「まあ、可愛いフライパン!」

「メリッタ! こっちの包丁見て! 切れ味抜群!」

「でも、先月買ったばかりなのに……」

「でも、一昨日も買ったばかりなのに……」


 メリッタとフロマージュが溜息を吐いた。


「「はあ~♡ いいわ~♡」」

(げっ。金平糖が置かれてる)

「にゃ」

(げっ、買えって顔してやがる!)

「にゃっ」

「……はいはい。一袋ね。あんたね、甘いものばかり食べて、糖尿病になってくたばったって知らないからね」


 流石生粋の貴族学校。そこら辺の学校とはワケが違う。


(必要なものはここで揃えられそうね)

「ロザリー、この後どうする?」

「猫の散歩に戻るわ」

「そうなの」

「今夜また旧校舎に行くなら、二人で新作ケーキを開発する予定なの。来れるなら味見くらいはさせてあげてもいいわよ!」

「アルテと話してみるわ」

「じゃ、またね」

「じゃあね、猫ちゃん」


 メリッタとフロマージュと別れ、あたしはショッピングモールに振り返った。


「特に怪しいものはなかったわね」

「金平糖ならあったよ。うん。最高だ、ここ」

「書店もある。入ろうと思うけど、あんたはどうする?」

「残念だよ。ロザリーちゃん。ボクと君はここでお別れのようだ。なぜって、それはボクの手に本命が現れてしまったからさ。さあ、ハニー。ボクに食べられてくれるかい?」

「金平糖を口説く猫なんて聞いたことないわ。そこで待ってて」

「わかったから早く行ってきな」


 金平糖の袋を嬉々とした様子で開けるドロシーを視界から外し、あたしは真っすぐ書店内へと入った。本の質を見ればその書店がどういう系統かがわかる。棚の欄を見ると、やはり教育系が多い。歴史となると、国の歴史の本が多い。学園関係のものはなさそうだ。


(……あ)


 棚の前に止まって本を見ていた女性を見て、あたしはその人に近づいた。


「……サリア先生」

「……あら、こんにちは。ロザリー」


 サリアがあたしに笑みを浮かべた。


「あなたも本を買いに来たの?」

「いいえ。本なら、図書室に沢山ありますから」

「ええ、読み切れないほどの本が山のようにあるわね。でも、図書室にある本は学園の者だから、いずれ返さないといけないでしょう?」

「だから買うんですか?」

「素晴らしい本を見つけたの。手元に置いておきたくて」


 サリアが棚を探す。


「でも、ないみたい。きっと古い本なのね。ここは新しい本しかないから」

「取り寄せしたらどうです?」

「そうね。でも、今はまだいいかしら。ふとした時に、また欲しくなったら、その時は注文してもいいかもしれない」

「どんな本ですか?」

「物語なの。頭の良い女性の話」

「サリア先生、コーヒーを奢りますわ。あたしにその物語を聞かせてくれませんか?」

「そんなことしなくたって教えますよ。私はこの物語を人に話したくて仕方ないの。聴いてくれるかしら?」


 そう言って、サリアが話し出した。


 昔々あるところに、賢いエルシーと呼ばれる娘がいたそうな。娘は大人になったので、結婚してくれる夫を捜していた。ある日、とうとう遠くの町から一人の男性からの申し出があった。結婚には、「賢いエルシーが本当に頭がよくなければいけない」という条件をつけました。なので、エルシーの父親はこう言いました。「うちの娘は沢山、分別がありますよ。」また、「あの子は風が通りを吹いてくるのが見えるし、ハエが咳き込んでいるのが聞こえるんです」とも言いました。さて、そこまで聞いた男性は、エルシーに興味を持ち始めたので、夕食を共にすることにしました。エルシーは母親に言われ、地下室へ行ってビールを取って来ようとしました。地下室へ行き、ジョッキを片手に持って頭上を見上げた時、職人のつるはしが残されていました。それを見たエルシーは泣き叫びました。驚いた家族が地下へ下りてきて、結婚の申し出をした男性は彼女に訊きました。「エルシー、なぜ泣いているんだい?」

「ああ、私の未来の夫様、これが泣かないでいられましょうか。私たちが結婚し、子供が生まれ、大きくなって、たぶんここへ飲み物をとりにやらせ、するとあそこの上に置き忘れているつるはしが、ひょっとして落ちて、子供の頭を打ち砕くでしょう」「ああ、なんてことだ! なんて頭が良いのだ! 私の所帯には十分な価値がある! あんたはそんなに賢いエルシーなのだから、責任もって嫁にもらおう」そう言って、二人は結婚しました。さて、結婚した後、二人は幸せな日々を過ごしていました。夫はパンを焼くための麦を刈っておくよう、エルシーに言いつけてから働きに出ていき、エルゼは美味しいおかゆを作って畑に出かけると、それを食べて、ひと眠りすることにしました。夕方になっても帰ってこないエルシーを心配して、夫が様子を見に行くと、畑の麦は刈られておらず、エルシーは麦の間で眠りこけていました。夫は家に戻り、鈴のついた鳥網を持ってくると、それをエルシーの周りに吊るしました。……夜になってようやく目を覚ましたエルシーは、歩く度に鈴が鳴ることに驚き、自分が本当に賢いエルシーなのかわからなくなり、「私なの? 私じゃないの?」と言いました。「家へ帰って私か私じゃないかきいてみよう。きっとみんなは知ってるわ。」そう思ってようやく帰宅しましたが、家の戸には鍵がかかっていました。エルシーは中にいるはずの夫に声をかけてみました。「夫様、エルシーは中にいるの?」「ああ、中にいるよ」「どうしよう、私はエルシーじゃないんだわ!」エルシーは他の人にも聞いてみようと家々を回りましたが、鈴がチリンチリン鳴る音を聞くと、皆戸を開けようとはしませんでした。エルシーはそのまま村を出ていき、その後、誰もエルシーを見た者はいなかったそうです。


「……?」


 あたしは素直に眉をひそめた。


「サリア先生、意味が分かりません」

「そう。意味が分からない。だからとても面白いの」

「意味がわからないのに、面白いんですか?」

「ロザリー、意味が分からないという言葉を、別の言葉に言い換えるとどんな単語が出てくるか知ってる?」

「不明」

「謎」

「……」

「謎があるなら解けばいい。私はその行為を考察と呼んでいます」


 サリアが棚にある本を眺めた。


「エルシーが頭がいいと言われていた理由は、発想力から。エルシーはもしかしたら何か脳に障害を持っていたのかもしれない。想像力、発想力が豊かだった。そう考えると、冒頭に父親が言っていた「あの子は風が通りを吹いてくるのが見えるし、ハエが咳き込んでいるのが聞こえるんです」の言葉の意味が分かってくる。周囲の人々は、エルシーの想像力に関して、誰も思いつかない発想をする娘。だから頭が良いと言っていたのかもしれない。つるはしだって、危険だと思うなら退かせればいい。なのにエルシーは想像力から泣き叫ぶまでに至った。ある意味、頭が良い子だった。発想力と想像力と妄想力を兼ね備えた娘だった、という方がわかりやすいかしら?」

「そこまでは納得しました。でも、その後です」

「結婚した後の物語ね。ここは私も考えたわ。要するに、「自分が自分なのかわからない」っていうのは、アイデンティティーの喪失を意味しているんじゃないかしら?」

「どういうことですか?」

「今まで彼女は好きなことを好きなだけ出来た。けれど、夫が出来たことによってそれが出来なくなった。好きな行動をすれば夫からは嫌われる。「夫様、エルシーは中にいるの?」「ああ、中にいるよ」「どうしよう、私はエルシーじゃないんだわ!」この流れ、エルシー、という言葉を、奥様にしてみたらどうかしら?「夫様、貴女の奥様は中にいるの?」「ああ、中にいるよ」「どうしよう、私は貴女の奥様じゃないんだわ!」誰かに嫁いで自分を見失う。アイデンティティーの喪失。だからエルシーは去った。自分を取り戻すために」


 サリアがあたしに微笑んだ。


「面白い物語でしょう?」

「……確かに、考えさせられますね」

「でも、ここにはないみたい。残念だわ」

「サリア先生は……」


 訊いてみる。


「結婚、されてるんですか?」

「いいえ。私はまだ」

「ここに来る前は何を?」

「学校にいました」

「……学校?」

「学校で勉強して、教員の資格を取ったの」

「いつですか?」

「ここに来る前よ」

「その間、どこで生活を?」

「学校よ」

「学校代はどこから出ていたんですか?」

「特待生だったから、全部無料だったの。運が良かったわ」

「あの」


 サリアが首を傾げた。


「ベックス家って、知ってますか?」

「……」


 サリアが――きょとんとした。


「それは……キッド殿下の婚約者の一族のことかしら? もちろん知ってますよ。会ったことはないけれど」

「……」

「貴女達はどこかの舞踏会で会う機会があるかもしれないわね」

「……会いたいとか、思わないんですか?」

「私は貴族権を持っていないから、そういうことに関しては、あまり興味がないの。だったら、本を読んでる方が楽しいわ」

「……」

「私の暮らしは、ここで皆に勉強を教えるだけだからまだ良いけれど、貴女達は舞踏会とか、貴族のマナーを学ばなければいけない。とても大変なことよね。アイデンティティーだって喪失してしまいかねない。でもね、自分を強く持てば、自分を失う事は無いわ。多くの妥協は必要だけれど、時には、頑固になっていい場面もあるはずよ」

「……サリア先生は、自分を失ったことはありますか?」

「……そうね」


 サリアが考える。


「失ってたとしても……今の私には、ここでの暮らしがあるし、毎日忙しくて、目まぐるしいから……取り戻す必要性も、あまり感じないわね」

「……」

「失ったものを取り戻したければ、取り戻したいと思った時に取り戻せばいい。人間は忘れる生き物だから、必要なことは、ふとした時に思い出すものなのよ」

「サリア先生」


 あたしの足が止まると、サリアの足も止まった。


「一つ。なぞなぞを出してもいいですか?」

「なぞなぞ?」

「主人の娘が使用人のスカートを破きました」


 あたしは首を傾げた。


「なぜでしょうか?」

「……私ね、その手のなぞなぞは大好きなの。ヒントはある?」

「もちろん」

「主人はお金持ち?」

「はい。その主人と娘は、お金持ちです」


 サリアが質問する。


「その使用人は悪いことをした?」

「いいえ。使用人は悪いことはしておりません」


 サリアが質問する。


「使用人が娘の気分を害したの?」

「いいえ。使用人はむしろ、娘から気に入られました」


 サリアが質問する。


「破いたのはスカート?」

「はい。使用人のスカートを破きました」


 サリアが質問する。


「使用人は女?」

「はい。女性です」


 あたしは微笑んだ。


「質問はここまでです」


 あたしの微笑む目を、サリアが見つめる。


「答え、見つかりましたか?」

「……これは、今すぐ答えた方がいいのかしら?」

「いいえ。じっくり考えてもらって構いません」

「わかりました。じゃあ……時間をくれる?」


 サリアが肩をすくませた。


「今すぐ答えられる謎じゃないみたいだから、ちゃんと理由をつけて答えを出します」

「楽しみにしてます。……それと」

「ん?」

「アイデンティティーを失って、それを取り戻しに行ったエルシーは、とても素晴らしい人間だと思います。もしあたしがエルシーに会っていれば」


 あたしは、


「彼女が彼女自身を取り戻すための手伝いを、全力ですることでしょう」

「……それはとても素敵な意見ね。ロザリー」

「……用事を思い出しました」

「そう」

「これで失礼します」

「さようなら。ロザリー。廊下で転ばないようにね」

「……はい。サリア先生」


 あたしは書店から出ていった。そのまま行こうとすると、ドロシーが気づき、金平糖とどこかにしまって急いで追いかけて来た。あたしは廊下をずかずか歩いていく。ドロシーがとうとう箒に乗った。すいすい進んでいく。あたしはドアをノックした。向こうから返事が聞こえれば、そのドアを開けた。


「ごきげんよう」


 中に入り、ドアを閉める。


「ソフィア先生」


 書類仕事をするソフィアの前に立つ。眼鏡をかけた金色の瞳があたしに微笑む。


「こんにちは。ロザリー。……と、ドロシー。元気?」

「にゃあ」

「どうしたの?」

「今夜、友達と素敵な冒険ごっこをしに行くの。良ければ先生もどうかと思いまして」

「それは素敵な招待だね。でも、ごめんね。生徒からの招待に、教師はのってはいけないの。追放されちゃう」

「それは残念ですわ。ところで、怪盗パストリル様ってご存じでしょうか? あの素敵な方にあたしを盗んでほしいっていう手紙を書いたの。でも渡す相手がいないから、先生にお渡しするわ」

「へえ、それはどうもありがとう。素敵な果たし状だね」

「サリアはアイデンティティーを喪失してる。誰かに奪われた。だったらあたしが取り返す」


 サリアはあの旧校舎に行っておかしくなった。


「パストリル様、あたしを奪いたければあの旧校舎はとても素敵なところよ。邪魔な警察も探偵もいないのだから」

「……お伝えしておくね。お嬢様」

「丑三つ時。一時に行く。それじゃあ、ソフィア先生、あの素敵な怪盗様にどうかお伝えしてちょうだいね。さようなら」


 ドロシーを抱えるあたしが再びドアを開け、にやけるソフィアを残してドアを閉めた。


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