第31話 読者の感想


「……。……なんていうべきかな」


 手の平に頬を乗せていたキッドが静かに言った。


「冷静に、全部合点がいった、というべきか」


 キッドが黙りこくるリトルルビィを見た。


「リトルルビィ、ついてきてる?」

「……。……。……」

「……あー、……お前、なんだかんだ言ってもまだ15才だもんな」


 キッドがめちゃくちゃ険しい表情で固まるリトルルビィのほっぺをつつく。


「そうだよな。力が暴走したあのとき、ずっと死んでたかもしれないとは思ってたけど、まさかほんとうに死んでたっていう事実は受け入れがたいよな。現に、今ここでは生きてるし」

「……。……。……」

「ソフィアは?」

「妙だとは思ってました」


 ソフィアが今までのことを思い出したように顎をつかんだ。


「わたし、テリーから言われた言葉で、ずっと忘れられない言葉があるんです。……テリーは覚えてるかな? タナトスで君を誘拐したときだよ。隠れ家のなかで言われたんだ」

「……なんか言ったっけ?」

「二度と外には出られない」


 ソフィアがあたしを見つめた。


「怪盗パストリルは100件の事件を起こして姿を消す。窃盗事件は無くなる。もう二度と貧乏人を救済することはなかった。……怪盗パストリルは整形して、貴族のふりをして、末永く幸せに暮らしたと、人々は信じるようになった。でもそうじゃない」




「あんたは毒に侵される」


 誰にも見つからない。


「このわけの分からない隠れ家で、たった一人で朽ち果てたんだわ」


 誰も助けに来ない。


「あんたの大好きな魔法使いは呪いを振りまく」


 お前を助けたわけじゃない。


「呪いたかっただけよ」


 お前の心が壊れていたから。


「お前は負ける。悪に負けるのよ」



「記憶を失った君が言ってた発言もすごく妙ちくりん。キッド殿下との勝負があったからこそ諦めた宝を、わたしが諦めずに盗んで、それから怪盗パストリルがいなくなって、なに? アルバム集が発売されたって、くすす。そんな話きいたことない」

「……アルバム集?」

「ええ。わたしたちの知らない世界では、怪盗パストリルの盗み撮り写真集なんてものが発売されたそうですよ。テリーが100冊買ったって言ってました」


 キッドが顔をしかめさせ、ソフィアはすごく嬉しそうに頬を赤らめさせ、あたしの両手をにぎった。


「テリー、そんなにわたしのことが好きだったなんて……」

「お黙り。両手をにぎりぎしないで。やめて」

「大丈夫。安心して。君の記憶がもどったって、わたしは忠実な君のイヌだよ」

「あんたはもう少し自分を大事になさい。で、もっといい彼氏を作りなさい」

「テリー、一夫多妻制って知ってる?」

「あんたまだ諦めてなか……」

「っ!!」


 リトルルビィが突然立ち上がった。それだ!!! という顔をして。


「……キッドと結婚すれば……!」

「リトルルビィ、変なこと考えないの。座りなさい」

「……いっぷ……たさいせい……」

「……」


 メニーがリトルルビィの服をつまんだ。


「リトルルビィ、座ろう? ね?」

「……メニーも」


 リトルルビィが座ってメニーを見た。


「その世界のこと、覚えてるの?」

「うん。覚えてるよ」

「……リオンさまと結婚したの?」

「うん。ジャックを抑えるためにね」

「……わたし」


 一番子どものリトルルビィは慎重に言葉を選ぶ。


「メニーに、会ってた?」

「どうだろう」


 メニーが困ったような顔で眉を下げた。


「会ってたとしても、わたしの幼馴染にも、親友にもなってなかった」

「……」

「死んじゃったのはリトルルビィだけじゃないよ。クロシェ先生も……そのとき、変死体で見つかったんだって。血を全部抜かれた状態で」

「はー、なるほど。……それでか」


 キッドが腕を組ませ、あたしに顔を向けた。


「テリー、おばあさまからの助言……」

「こんなこと出会って半年近くのお前に言えるわけないでしょ」

「ああ。言われたところで、あのときはリオンのこともあったし、お前のことも、確実に気が触れてると思ってたよ。たとえ変死体であることを言われてもな。……お前にしては頭の良い選択だ」

「そうよ。感謝して。あれがなかったらお前の優秀な右腕は存在してない」

「あのときのお前は可愛かったな。びーびー泣きながら助けてくれっておれにだけ言ってきて」

「黙れ」

「今までのつっかかっていた糸が急に解けた気分だ。……いくつか質問してもいいかな?」

「どうぞ」

「じゃあ」


 キッドがきいてきた。


「ギロチン刑にされた気分はどうだった?」


 あたしは靴を脱ぎ、殺気を込めて全力投球した。驚いたリトルルビィが後ろに転がり落ち、メニーに当たる前に笑いながらキッドに受け止められる。


「あははははは! ほんとうなんだ! やーい! ざまあみろ!」

「お黙り!!!!!!!」

「悪いことばっかりしてると本当に罰って当たるんだな! あはははは!!」

「お前なんかにあたしの気持ちのなにがわかるのよ!!!!」

「くくくっ! なるほど。理解できた! だからお前ネズミと会話できるんだろ! 牢屋のなかで話し相手がネズミしかいなかったから!」

「……っ……!」

「だからだろ!」


 今までだれにも知られたくなかった事実を、キッドが笑いながら言った。


「お前がネズミ好きなの!」

「うるさあああああああああい!!」


 あたしは全力で叫ぶ。


「ネズミが好きでなにがわるいのよおおおおおおおおおおお!!!!!」


 チュー。


「すごくめんこいじゃないいいいいいいいいいい!!!」


 あたしはテーブルに伏せて、泣き叫んだ。


「うわああああああああああああああああん!!!」

「テリー!? どうしたの!? どっか痛いの!? 大丈夫!?」


 リトルルビィが慌ててあたしに声をかけ、キッドはきょとんと瞬きする。


「ん? こいつなんで泣いてるの?」

「ばか! 兄さん、なんでテリーが今まで、この話をしたがらなかったと思ってるんだ!」


 リオンがあたしの元に走り、あたしを強く抱き寄せ、キッドに訴えた。


「テリーは、みんなにネズミが好きだって知られたくなかったんだ!!」

「「そこ!?」」


 リトルルビィとソフィアとキッドが声を揃えて立ち上がった。あたしはすすり泣く。


「ぐすっ! ぐすっ!」

「テリー、そんなこと……っ、気にすんなよ!! 別にわたしたち、テリーがネズミを好きでも、なんとも思わないって! わたしも……ネズミ、嫌いじゃないよ! ……血は、たしかにまずいけど!」

「……まさか……恋しい君、……知られてないと思ってたの……!?」

「……いや……あのさ……そんなこと、とっくにみんな知ってるよ。テリーがネズミ好きで……とくにドブネズミが好きだって。……今さらだろ……」

「うるさぁあああああい!!」


 チュー。


「ドブネズミ……大きくて丸くてふっくらしてて……かわいいじゃないいいいいい!」

「テリーも罪を認めてる! 笑うなんてひどいじゃないか!」

「おにいちゃぁああん……!! あいつがぁ! あいつがぁああ……!」

「ニコラ! だれが君をネズミ好きだと責めたって、お兄ちゃんは君の味方だ!! ミックスマックスに誓って!!」

「……ややこしくなってきた。一回全員着席」


 キッドの言葉に、全員椅子に座った。


「テリーは泣いてるし、いじめるのはまた後にしよう。ああ、テリー、安心しろ。お前が大のネズミ好きだってことは、みんな知ってるから」

「なによ……。いまさら、慰めようたって、そうはいかないんだから。……ぐすん、ぐすんっ……」

「真面目な質問をするよ。リオン、……ということは……リトルルビィが死んでいて、……ソフィアも死んでいて、……その前におれが死んで、……母さんがお前をキッドと呼ぶようになった」

「……思い出したくもない」

「ほんとう?」

「この話は誘拐事件に遡る。キッド、テリーとお前が会った事件のことだ」

「ああ」

「誘拐されたのはテリーの姉のアメリアヌ・ベックスじゃない。……テリー自身だ」


 キッドが黙って話を聞いた。


「キッドの作戦により、誘拐された子どもたちは現場から逃げていった。だけど、テリーが逃げてる途中で足をすべらせて転んだんだ」

「……おれ、それ知ってるな」

「ああ。ジャックが……一度お前にその悪夢を見せた」

「……そうか。あれは……」


 夢じゃなかった。


「ほんとうに起きたことだったのか」

「キッドはテリーをかばった。その際に、中毒者に包丁で刺された」

「……作戦Dの提案がなかったら、同じ道を辿ってたわけか」

「その死体が、だれにも気づかれないように、……城に運ばれた」


 死体を見た途端、父上と母上が言葉を失い、膝から崩れ落ちて、泣き叫んで、嘆いて、後悔して、もう、それはそれは、言葉にできないくらいの――リオンはそこで黙った。これ以上言いたくないという顔で。だから、キッドが返事を返した。


「そうか」

「……」

「……葬式は?」

「……気づかれないように、……姉さんのことを知ってる身内だけで……」

「ビリーは?」

「……」

「おれがいなくなったら、山で暮らすとか言ってた」

「……引っ越す前の家があっただろ。……一度目の世界では、じいやとキッドは引っ越しなんてしなかった。じいやは……しばらくの間……一人であそこに住んでたけど……急に病に伏せて、……あの家で死んだ」

「……」

「お前を追いかけるみたいに、あっけなく」

「……そう」

「それで……母上がずっと後悔してた。城下町で生活させるなんて間違ってた。少しでも自由にさせてあげようなんて考えなければよかった。ずっとお前を塔に閉じ込めていればこんなことにはならなかった。だからじいやもキッドもいなくなった……で、……よくわかんないけど……ぼくをキッドだと思い始めたんだ」

「……全然ちがうのにな」

「ほんとうだよ」

「父さんは?」

「母上が死ぬまでは今まで通りだった」


 キッドが目を丸くし、信じられないという顔で、ゆっくりときいた。


「……死んだの?」

「首吊って自殺した」

「……母さん……が……?」

「……ラプンツェルの花を取りに行ったときあるだろ。母上は毒で死んだわけじゃなくて……自殺したんだ」

「……」

「そうだよ。ぼくが毎日母上を病院に呼んでただろ。母上の様子を見るために必要だったんだ。どうだ。ようやくぼくの努力がわかったか。もう人にマザコンとか言うなよ」

「……母さんが死んだ後、父さんがどうしたって?」

「とんでもない死刑狂いになった。なにかあれば死刑。逆らえば死刑。母上がだれかに殺されたとでも言いたげに毎日死刑判決の嵐」

「……人間、本気出せばそんなに変わるもんなんだな。おれの知ってる父さんは……虫も殺せないのに」

「世界がおかしくなってたんだ。……結局、それも父上が中毒者になって、自制ができなくなったのが原因だった」

「……なるほど」

「だけど、……唯一、メニーのことはすごく可愛がってた。クレアにできなかったことを、メニーにしてあげてた」


 キッドがメニーに顔を向けた。


「メニーはそのこと覚えてる?」


 メニーがこくこくとうなずいた。


「そっか」


 キッドが微笑んだ。


「父さんが面倒かけたな」

「……魔力があったから、そばにいると落ち着いたんだと思います」

「ああ、だろうな」


 キッドがメニーにきいた。


「メニーはおれのこと、知ってたの?」

「キッドさんのことは知りませんでした。……ゴーテルさまはキッドさんのことではなく……クレアさんの話をされていたので」

「……」

「だから、……正直、……ずっと警戒してました。誰なんだろうと思って」

「おれがクレアだとは思わなかった?」

「そうだと思っても、キッドさんはそれを隠し通しました。ドロシーすら気づかなかったみたいですし」

「ああ、やっぱり見てたんだ。そうだよな。あの時期妙な寒気したもんな」


 キッドがドロシーに笑顔を浮かべた。


「ドロシー、おれ、すげーだろ」

「君、魔法使いを相手にしても絶対に気づかれたくなかったんだね」


 瞬きをしてまぶたを上げると、ドロシーがキッドの前で寝そべっていた。


「ボクが何度挑戦しても、君はその姿以外見せることはなかった」

「おれ、プライベートなことを覗かれるのはすごく嫌なんだよ」


 スイッチが切り替わった。


「あたくしでは王にはなれない。キッドでなければ意味がないんだ」


 スイッチが切り替わった。闇に近い青い目が再びリオンを見る。


「リオン、物知り博士たちはどうしたんだ?」

「研究チームは解散。何度か抗議に来てたけど、キッドがいなくなってからじゃただの変人の集まりだ。追い出されてた」

「じゃあ、……ほんとうに中毒者を止める奴がいなかったのか」

「ぼくがキッドの残した記録に気づいたのは、ジャックに体を奪われてしばらくしてからだ。体を奪われたことすら気づいてなかったから、気がついたら時間が経過してることをおかしく思ったんだ」

「お前は鈍いからな」

「ああ。……薬の影響だと思ってたけど……ぼくの知らない間に事が進んでる。知らない人からは恐れられ、敬われ、一体何のことだかわからない。それで、……ある日、夜中に目が覚めて……姉さんの塔に散歩に行ったんだ。そしたら……」

「どの記録だ?」

「じいさまが残した記録を元に、お前が研究したものが残されてた」

「魔法に打ち勝つ方法の?」

「それと、中毒者について書かれてたもの」

「あれか」

「暗闇のなかで読んで、ぼくはぞっとした。自分のやってしまったことの大きさにようやく気づいた。ジャックにばれないように、ぼくは記録を塔に隠し、部屋に戻った」

「それで?」

「中毒者のことを知ったぼくは、それからも目が覚めるときに自分なりに調べてみた。そしたら、研究室からたくさんの資料が出てきた。物知り博士たちがいざというときのために、残してくれてたんだ」

「そんなお前に心強い味方ができた」

「メニーと目があった瞬間、ジャックが急に引っ込んだ。だから……」

「交渉したのか。そばにいさせるために」

「……そうするしかなかった」

「……メニー」


 キッドがメニーに顔を向けた。


「ありがとう。よくがんばったな」

「……」

「愛のない結婚ほどむなしいものはないだろ。……それに、ベックス家では……おれは正直、嘘みたいな話だと思ってるけど……ほんとうのことなんだな?」

「……」

「……。王妃の生活、どうだった?」

「……毎日が」


 メニーが、言葉をつまらせながら話しだす。


「精一杯でした」

「だれがついた?」

「先生が」

「そうか。……バドルフは生きてたか」

「ええ」

「急に政治のことを言われてもわかんなかっただろ」

「わたしが来たときには、もうすでに中毒者が城に紛れ込んでるときでした。だから、……ずっと気が抜けなくて……」

「先生は?」

「先生は……正気でした。……五年……くらいは」

「……そうか。……正気の奴らはまだ残ってたか?」

「はい。ただ、いつだれが正気でなくなるかわからない状況でした。リオンさま……、……リオンもずっと不安定なので、彼がちゃんと正気でいられるときでしか、中毒者の話はできません」

「深刻な状況がつづいてた。それで? 正気の者たちがいるなら、中毒者にならないようにリオンとメニーならしたんじゃないか?」

「ええ。それがさっき話に出てきた」


 メニーが言った。


「囚人たちが働く工場です」


 ……あたしの目が動いた。


「社会復帰するために、刑務所から選ばれた囚人たちが行く場所、……という名目で建てられた、正気の人たちを集めた施設でした」

「というのも、もう、刑務所に閉じ込められた人たちしか、中毒者になってない人がほぼいない状況だったんです」

「一般の方には、看守役になっていただくか、薬の研究をしていただきました」

「施設の下にはもう一つ地下があって、そこで生活していただいていたので、囚人は気づかなかったと思います」

「……リオンが事前にこういうことになると想定して作ったものでした」


 あたしは耳を疑った。キッドは首を傾げた。


「だとしたら気になるな」

「なにがでしょう」

「メニーは知ってたの? ベックス一族の呪いの話」

「……去年、……訓練のとき、……クレアさんからきいて……初めて知りました」

「……ほんとう?」

「あの話をきいて納得したんです。……どうして飴を舐めてないテリーが、日に日におかしくなっていったのか」


 メニーがテーブルを見つめた。


「お母さまとアメリアヌは……、……多分、船が沈んだ辺り……あの時期から、……カドリング島にも帰れなくなったから……おそらく、飴を渡されたんだと思いますけど……テリーは絶対に飴を舐めなかったんです。……何度か勧められてるところを見ましたけど……必ず、まずいって言って吐いてたから」

「ベックス夫人が死んだのは?」

「過労と見せかけた、呪いによるものです」

「アメリアヌが死刑になったのは?」

「呪いが体にまわり、穢れた血は全てを侵食して……もう正気ではありませんでした。言葉巧みに嘘を吐き、……刃物を隠し持ち、いつテリーを襲ってもおかしくない状態でした」

「テリーは」

「わたしの魔力と……開発した薬で……正気を保ってました」


(……)


 あたしは腕に打たれていた注射針を思い出した。


「それしか、もう、手がなかったんです」

「よく開発できたな」

「抗体をもってた、イザベラさんがいたんです」

「……イザベラ?」

「イザベラ・ウォーター・フィッシュ。……あの人は、今でこそ歌手を続けてますが、一度目の世界ではマーメイド号で完全体の人魚の肉を食べて、永遠の命を持った人でした」

「……へえ」

「イザベラさんは、普通取り入れたら毒になる麻薬を大量に摂取しました。そして、人魚の肉による呪いの細胞。それによって、呪いの抗体ができたんです」

「なんだかウイルスみたいだね」

「わたしもそう思いました。呪いなのに病気みたいって。でも……テリーにはよく効いたんです。打てば……テリーは正気に戻った」

「それが効かなければ」

「わたしが直接行って、魔力で抑え込みました」

「……それを、19年間?」

「……」

「メニー……きいてもいいかな?」


 いくら優しいメニーでも、不思議なんだ。


「さっき、言ったとおり、おれは信じられないよ。……お前は前の世界で、……ベックスの家でひどい目にあってきた」

「……はい」


 メニーが頷いた。


「間違いありません」

「灰を被ってた?」

「……どうしてそんなことをするのか、子供のときは理解できませんでした。だけど、気づいたんです。お母さまは愛を持ってお父さんと結婚したわけじゃなかった。……お金目当てだったって」

「二人の姉からさんざん虐められた?」

「もう、……恨みを通り越して、……涙も枯れて、……呆れるため息も出ないくらい」

「憎い?」

「……感情も忘れるほど」

「恨めしい?」

「……呪ってないと言えば……うそになります」

「テリーを施設に入れたのはなぜ?」


 メニーが、静かにキッドに視線を合わせた。


「あの紙芝居がほんとうなら、テリーもメニーを虐めたんだろう?」

「……キッドさん、……リトルルビィもいますので」

「テリーがやったことは変えられない。テリーはメニーに酷いことをしてきた事実は存在する。だから結果的にそれが自分に返ってきただけ。だろ?」

「ええ。……面白いほど返ってきてました」

「そのまま刑務所に入れておけば、テリーをもっと苦しませて殺せたんじゃないか?」

「クレア姫さま」


 ――そこにいるのは、存在していたはずの王妃。


「どうしてわたくしが、宇宙を一巡させたと思います?」


 自分の人生をやり直したかったため?


「いいえ。わたくしはリオンのように、そんな浅はかな気持ちを持ったことはない」


 世界の終焉を食い止めたかったため?


「いいえ。わたくしは世界が終わろうが始まろうが、どうだっていい」


 人々を救うため?


「いいえ。わたくしは、顔の知らない他人のことなんてどうだっていい」


 わたくしが宇宙を一巡させた理由は一つだけ、


「リオンとの結婚を承諾した条件」


 それは、









 風が吹いた。

 あたしの前髪が揺れた。

 あたしは隣を見た。



 腕にだきつくメニーがいた。






「テリーの笑顔を守りたかったから」





(*´∀`*)







「クレア姫さま」

「わたくしの偉大なるお師匠さま」

「尊敬すべきお義姉さま」

「残念ですが」

「大変恐れ入りますが」

「テリーはあなたのものではありません」

「あなたは、所詮、浮気相手なんです」

「おわかりですか?」

「二番目の女、なんです」

「と、いうのも……」






 メニーが微笑んで、言った。









「テリーは、わたくしと愛し合っているんです。ずっと前から」


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