第30話 紙芝居

 むかしむかし、あるところに、


 クレアというお姫さまがおりました。

 クレア姫は魔力を持っておりましたので、迫害されてしまうことを恐れた王さまとお妃さまが塔のなかにクレア姫を隠して育てておりました。

 後に、クレア姫には弟ができました。国は大喜び。クレア姫は、なんだか弟に愛情を取られたような気がして、非常に愛に飢えておりました。

 そこでクレア姫は考えました。そうだわ、王さまになりましょう。そうして、みんなに愛してもらいましょう。

 クレア姫は王さまになるために、男の格好をして、キッドと名乗ることにしました。

 キッドはむかしからつづいている難解事件、中毒者事件を追いました。解決すればするほど、世界が平和になっていく不思議な事件です。

 キッドは中毒者の研究をお爺さまから引き継ぎ、続けることにしました。毎日毎日研究を重ねては中毒者を追う日々です。

 そんななか、新たな中毒者事件が発生しました。

 キッドは仲間を率いて、持ち前の強さで中毒者に立ち向かいました。

 しかし、キッドはそこで女の子をかばって、中毒者に腹部を刺されて死んでしまいましたとさ。


 おしまい。



(*'ω'*)



 むかしむかし、あるところに、


 リトルルビィという可愛い女の子がおりました。

 リトルルビィはいつも赤ずきんを被った女の子。お兄ちゃんとは仲良しです。

 リトルルビィとお兄ちゃんにはとても優しいお母さんがいましたが、お母さんは病で亡くなってしまいました。

 お母さんがいなくなり、お金も、食べるものもありません。

 リトルルビィとお兄ちゃんは願いました。女神さま、どうか、食べ物を恵んでください。

 すると、親切な魔法使いが現れました。

「この飴を舐めなさい。幸せになれますよ」

 最初にお兄ちゃんが飴を舐めました。お兄ちゃんは赤を求めるようになりました。

 次にリトルルビィが飴を舐めました。リトルルビィを求めたお兄ちゃんが死にました。

 リトルルビィも赤を求めすぎてしまい、力が抑えられなくなり、一人で死んでいきましたとさ。



(*'ω'*)



 むかしむかし、あるところに、


 ニクスという女の子がおりました。

 ニクスは優しいお父さんの元で暮らす貧乏な女の子。

 ある日、二人の親子に鏡がやってきます。その鏡を売ると、なんとお金が手に入ったのです。それだけではありません。鏡は、売っても売っても何度でも親子のもとにもどってくるのです。だから、何度も売って、何度もお金をつくりました。

 やがて、お父さんが鏡に心を奪われてしまいました。

 ニクスは願いました。女神さま、どうかお父さんをもとに戻してください。

 すると、親切な魔法使いが現れました。

「この飴を舐めなさい。幸せになれますよ」

 ニクスは飴をお父さんに舐めさせました。

 お父さんはみるみる大きな雪だるまになり、暴れ始めました。

 お父さんの暴走を押さえることができなくなったニクスは巻き込まれて、死んでしまいましたとさ。



(*'ω'*)



 むかしむかし、あるところに、


 ソフィアという善人がおりました。

 ソフィアは善人の両親に育てられた善人でした。

 ある日、ソフィアの両親は事故で亡くなりました。

 両親が残した借金を返すため、ソフィアは様々なところでお金をつくりました。しかし、それはとても大変なことでした。働いていくうちに、友人をなくし、恋人をなくし、それでも借金は止まらない。ソフィアは願いました。女神さま、どうかわたしを死なせてください。

 すると、親切な魔法使いが現れました。

「この飴を舐めなさい。幸せになれますよ」

 ソフィアは飴を舐め、善人のためにお金をつくる怪盗パストリルとなりました。

 怪盗パストリルは様々なトリックを使い、宝物を盗み、貧乏人のヒーローになりました。

 やがて、怪盗パストリルは力の暴走に耐えられず、孤独に死んでしまいましたとさ。



(*'ω'*)



 むかしむかし、あるところに、


 リオンという王子さまがおりました。

 リオン王子はクレア姫の弟です。

 リオン王子がまだまだ子供のとき、クレア姫の死体が運ばれてきました。それを見た両親は嘆き悲しみ、もっとクレア姫を見張っていればと後悔しました。やがて、一番ショックを受けたお妃さまが、リオン王子をキッドと呼ぶようになりました。

 クレア姫が死んでしまったので、リオン王子はなんとしてでも、両親の期待に応えようと思いました。

 しかし、リオン王子はとても不器用な王子さまだったのです。クレア姫のように動くことも、国の将来を考える力もなかったのです。

 それでも、リオン王子は頑張らなくてはいけませんでした。だって、国の王子さまはリオン王子だけですから。

 リオン王子にはどんどん悩みが増えていきました。

 リオン王子は願いました。女神さま、どうかぼくに力をください。

 すると、親切な魔法使いが現れました。

「この飴を舐めなさい。幸せになれますよ」

 リオン王子が飴を舐めると、なんということでしょう。もうひとりの自分が現れました。半分のリオン王子が、半分のリオン王子のできなかったことをしてくれるのです。

 やがて、半分のリオン王子はリオン王子を覆い尽くし、リオン王子となって国の王さまになりました。覆われたリオン王子は、時々、そのすがたを見せ、王国の行く先を見守ったのです。



(*'ω'*)



 むかしむかし、あるところに、


 メニーという心のきれいな女の子がいました。

 メニーは亡くなったお母さんの言いつけを守り、人に思いやりのある優しい女の子になりました。

 ある日、メニーのお父さんが再婚をしてメニーは貴族のお嬢さまになりました。しかし、幸せは長くは続きませんでした。お父さんが事故で亡くなってしまったのです。そしてメニーに訪れたのは労働。再婚相手の継母は、メニーの美しさに嫉妬し、奴隷のように家のことをさせたのです。それは義理の姉も同じ。とくにひどかったのが二番目の義姉でした。彼女はメニーをそれはそれはひどくこき使ったのです。

 メニーは祈りました。負けてはだめ。いつかどこかで幸せになれますように。

 やがて、お城で舞踏会が行われました。継母と二人の義姉は、メニーを置いて自分たちだけ舞踏会に行ってしまいました。メニーは悲しくなって井戸で泣いていると、緑の魔法使いが現れました。

「涙をお拭き。さあ、魔法をかけてあげよう」

 緑の魔法使いはメニーに魔法をかけました。ドレスは宝石のように光り輝き、足元にはなによりも輝くガラスの靴。メニーの足にぴったりです。馬車も心配ありません。かぼちゃとねずみの姿を変えて、立派な馬車の出来上がり! メニーは馬車に乗って舞踏会へと向かいました。

 あまりにも美しいメニーを見て、舞踏会に来たお姫さまたちはびっくりしてしまいます。そして、そこでリオン王子の目にとまったのです。

「なんて美しい人だろう。ぼくと踊っていただけませんか?」

 二人は踊っている最中にこんな会話をしました。

「死んだ姉が残した記録をもとに調べた。この世界は終焉へと向かっている。みんなが知ってるぼくは正気のぼくではない。正気でないぼくはどんな残酷なことだってできる。そしてそれがどんな悪どいことでも正義であると貫き通してしまう。それらは全て呪いのせい。呪いは小さなところから侵食し、すでに世界を覆っている。このままではもう止められなくなってしまう。なぜぼくが君を踊りへ誘ったかわかるかい? 君のそばにいるとずっと正気でいられるからだ」

 なんと、メニーには不思議な力があったのです。その力のおかげで、隠れていた優しいリオン王子が出てきていたのです。

「ぼくはこの世界の終焉を止めるために手を打たないといけない。だから、ぼくと結婚するふりをしてほしい」

「でしたら王子さま、条件があります」

 メニーが提示した条件をリオン王子は承諾しました。こうして二人は結婚を約束したのです。しかし、メニーはその話の続きをすることはできません。魔法は夜の12時を過ぎると終わってしまうのです。このままでは、舞踏会にいる全員に、ぼろぼろの自分の姿を見せることになってしまいますし、家に忘れ物もあったのです。メニーは逃げるようにお城を後にしました。その際に、ガラスの靴を落としてしまいました。リオン王子はメニーを追うためにガラスの靴を手がかりに一軒一軒家を探し回り、ようやくメニーを見つけたのです。

 ガラスの靴を履いたメニーは、リオン王子と結婚して、この世界を救う方法を考えましたとさ。



(*'ω'*)



「……」

「……テリー、紙芝居はまだおわってない。続きを読むんだ」

「……」

「さあ」

「……」



(*'ω'*)



 むかしむかし、あるところに、


 テリーというお嬢さまがおりました。

 テリーは世界は自分を中心に回っているものだと信じているお嬢さまでした。

 テリーには、厳しいお母さんと意地悪な姉がおりました。だからテリーもいつかだれかを虐めてやろう。そう思ってました。そんなある日のこと、お母さんが再婚し、テリーには血の繋がらない妹ができたのです。テリーはこの義妹を自分の遊び相手の人形にしようと考えました。

 しばらくしてから、再婚相手の男が亡くなりました。残された娘は、とても美しかったので、嫉妬したお母さんが屋敷の使用人としてこき扱うことにしました。姉とテリーはそれを見て、ざまあみろと思いました。二人も、義妹の美しさに嫉妬していたのです。それに、テリーにとってその娘はただの人形です。人形をどう扱おうが知ったことではないのです。

 テリーはいやなことがあると、義妹にひどく当たりました。テリーだけではありません。姉も、お母さんも、いやなことがあると義妹にとんでもない意地悪をしたのです。だから義妹は、毎日灰をかぶる生活をしておりました。それを見た姉とテリーは彼女をこう呼ぶことにしました。「灰被り娘」と。

 そんなある日のこと、お母さんが灰かぶり娘のお父さんから権利をもらっていた船が、氷山にぶつかって沈没事故を起こしたのです。賠償金は一度では決まらず、日々増えていき、最終確定したときにはとんでもない額でした。散々お買い物に無駄金を使ってきたテリーの家には、そんなお金はありません。自分たちの会社もありましたが、それも全て倒産してしまいました。ですが、ピンチはチャンスに変わるものです。それは舞踏会の招待状。リオン王子に気に入ってもらい、お妃になれば、この借金をどうにかできると考えたのです。お母さんは姉とテリーにたくさんレッスンをして、豪華なドレスを身につけさせ、舞踏会に臨みました。

 しかし、そこでとんでもなく美しい娘がリオン王子に踊りを誘われたのです。そしてそのまま、結婚の約束まで取り付けてしまいました。チャンスは失った。いいえ。まだまだ。そんなことはないのですよ。翌日、手紙が届いたのです。『ガラスの靴を履いた娘はリオン王子と結婚できる。』それを見て、お母さんは姉とテリーにしっかりと靴を履くように言いつけました。やがて騎士とリオン王子がやってきます。最初に挑戦したのはテリーの姉です。しかし、ガラスの靴はガラス製なので、はまらない足には全くはまりません。姉の足はサイズが少し大きかったのです。なので、



(*'ω'*)



「……。……。……」



(*'ω'*)



 なので、足の指を切ることにしました。お母さんは家にあったナタをもってこう言いました。

「王妃になれば歩かなくても生活できるから平気よ」

 姉の足の指がなくなると、すっぽりとガラスの靴にはまりました。リオン王子は、ガラスの靴の持ち主がほんとうに姉なのか確認するため、一緒に馬に乗って屋敷を一周しました。しかし、指を切ったばかりなので、血が止まりません。ガラスの靴は血だらけになってしまいました。それを見たリオン王子は言いました。

「血だらけということは本人のものではありませんね。だって、本人のものなら、血は流れませんもの」

 姉はガラスの靴を脱ぎました。さあ、次はようやくテリーの番です。テリーもガラスの靴を履こうとしましたが、やっぱり足のサイズが大きかったのではまりませんでした。でも履こうと思えば履けなくもない状態だったので、お母さんが無理やり靴に足をねじこんであげました。すると、その衝撃でテリーの足の爪が全部はがれ、血が出ました。でも、やっぱりかかとが邪魔して入りません。なので、今度はテリーの足のかかとを切ってガラスの靴を履かせてあげようとしました。

 しかし、そこでずっと屋根裏部屋に閉じ込められていた灰被り娘が下りてきて、大声を出しました。

「わたしにも履かせてください!」

 その灰被り娘こそが、ガラスの靴の持ち主だったのです。

 それがわかった途端、テリーにはとんでもない怒りがわきました。今まで人形だと思ってきた義妹が、王妃になって自分よりもしあわせになろうとしているのです。そんなテリーとは反対に、義妹はこの惨状に同情して、手を差し伸べました。

「テリーも一緒に行こう」

 そう誘ってあげました。ですが、これがテリーの怒りの火をつけてしまいました。テリーは姉の血がついたナタで、灰被り娘の腹部を刺したのです。灰被り娘はそのまま眠ってしまい、リオン王子が外へと運び出しました。

 家に残った親子には、もうお金もチャンスもありません。ですが、生活するところは必要です。テリーはお母さんと姉の世話をし、家のなかのものを売ってお金を作りました。しかし、貴族権の剥奪が決まり、強制破産が決まり、テリーたちは家から追い出されてしまいました。

 しかし、悪いことをしてきたテリーたちの困難は、まだここでは終わりません。

 テリーたちはホームレスとなって城下町にい続けました。お金を作るために仕事をしようにも、テリーたちの悪行は国全体に知れ渡っています。それは灰被り娘のことではありません。テリーたちは、自分たちが貴族であることをいいことに、国の人たちを虐めていたのです。だから、いまさら後悔したって遅いのです。悪いことをしてきた報いがきたのです。どこにも雇ってもらえず、盗人になる生活が始まりました。しかし、盗人は捕まるもの。兵士たちに捕らえられてしまいました。

 テリーたちは裁判にかけられました。そこで、いろんな人たちの様々な証言から、テリーたちの悪行は全て明るみになり、証言が出れば出るほど罪が重くなっていき、もう、そこまでの罪の重さを流すには、死刑しか残っておりません。テリーとテリーの姉は、王妃となった灰被り娘に懇願しました。どうか許してくださいと必死に謝罪したのです。なので、灰被り娘は彼女たちにとっていい選択をしました。

「囚人たちが働く工場に入れましょう。あそこなら整った生活ができます」

 テリーたちは、その工場に入りました。そこで毎日働いて、生活をしました。やがて、気が狂ったお母さんが死に、病気のような虚言癖をもってしまったがために、姉が死刑になって死んでしまいました。

 一人ぼっちになったテリーは、19年間、工場で働き続け、過去と現在を呪い、生き続けた末、死刑となりましたとさ。



(*'ω'*)



 この世界には、いつの頃からか、

 呪いを止めるために、世代ごとにたった一人だけ、救世主が誕生するそうです。

 その救世主は、縁が縁を巡って、必ず呪いに鉢合わせ、必ず呪いを止めようとするそうです。

 呪いの根源に立ち向かえるのは救世主のみ。

 救世主が呪いを止められなければ、救世主が死ぬ前に、また新たな救世主が誕生する。

 救世主であったクレア姫は死んでしまいました。

 次の救世主が誕生するのはずっと先のこと。いいえ。誕生するかもわかりません。

 つまり、呪いを止める者はだれもいないのです。

 オズは、呪いを広げました。

 世界は終焉へと向かいました。

 リオン王子は、残された記録をもとに、たった一つの方法を見つけました。

 それは、宇宙の一巡。

 一度全てを終わらせ、新たな世界をつくり、もとにもどし、自分たちの人生をやり直す。このまま終わってしまうのならと、最後の悪あがきを思いついたのです。

 この方法は、とても難しいものでした。生き残ってる数少ない魔法使いをかき集め、時間を進ませないといけません。それも、自分たちがいる時代まで。

 クレア姫がいない今、この方法しかありませんでした。

 しかし、呪いの根源であり、魔法使いの王であるオズに気づかれてしまったら、止められてしまい、もう二度とこの世界は作り出されないでしょう。自分たちの人生をやり直すこともできません。

 だから、気づかれないように、オズでも騙されるような話題をつくりました。

 リオン王子とメニー王妃に、それ以外の選択肢は見つかりませんでした。

 チャンスは一度きり。国一番の嫌われ者を死刑にするタイミング。オズは面白がって見ることでしょう。

 だから、それがわかっていたから、死刑を確定した。


 テリー・ベックスは死刑になった。

 ギロチン台に頭をつけて、首が切られるその瞬間、

 魔法使いたちは魔法を発動した。


 宇宙は一巡されました、とさ。



(*'ω'*)




「いかれたつくり話だと思うでしょ?」

「あたしも最初は夢だと思った」

「変な夢でも見てるんだって」

「でも、今まで毎日が新しいことだったのに、その記憶を思い出してから、そうじゃない気がした」

「昨日まであたしは大人だった」

「そんな気がして大人しく話をきいてたら、ママがこれから一度目の世界と同じようなことをしでかしそうじゃない」

「リトルルビィならどうする?」

「そうよね」

「あたしも止めたの」

「それはもう必死に死にものぐるいで」

「あんなみじめな死に方するくらいなら、ここでいっそ死んでやるくらいの勢いで」

「みんなから発狂しておかしくなったって言われても構わない」

「メニーに嫌われたら一巻の終わり」

「絶対に嫌われないように振る舞えば違う未来に行きつく」

「だからあたしは抗った」

「生きるために」

「今度こそ、その女が歩んだ未来よりも素晴らしい未来をつかむために」

「そしたら」

「10才のとき、キッドに会った」


 キッドは死ななかった。


「11才のとき、リトルルビィに会った」


 リトルルビィは死ななかった。


「12才のとき、ニクスに会った」


 ニクスは死ななかった。


「13才のとき、ソフィアに会った」


 ソフィアは死ななかった。


「14才のとき、リオンに会った」


 リオンがジャックに支配されることはなかった。


「15才のとき、クレアに会った」


 クレアが死んでないから、スノウさまの気が触れることもなかった。


「16才のとき、無理矢理船に乗った」


 船が沈むことはなかった。


「17才、メニーがガラスの靴を履くことはなかった」


 未来は変わった。ここにいないはずの全員が、語り手と目を合わす。


「ここは二度目の世界。オズを止めるために、人生をやり直すためにわざわざ早送りしてもどった世界」


 もう必要ないから、あたしは紙芝居を折り割って、捨てた。



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