第25話 オオカミ・クエスト


 白いオオカミがあたしに鼻を押し付けている。


(……ぐっ……)


 体中痛い。いったい何が起きたの。


「……テリー?」


 女の声がきこえた。


「テリー! 大丈夫!?」

「……ん……」


 あたしはまぶたを上げた。そこに白いオオカミと女がいて、あたしを見下ろしていた。あたしは記憶を探る。なにが起きたか思い出そうとする。そして……記憶が整理して、あてはめていって……舌打ちした。


「あいつはどこ……」

「え?」

「メニー」

「メニー?」

「あの女……何もできないって顔して……よくも飛び降りやがって……絶対許さない……」

「……メニーなら……」


 ジャンヌがあたしの隣を見た。


「ここにいるよ」


 あたしは真横を見た。泥だらけになって眠るメニーの手を、あたしがしっかり掴んでいた。


「……」

「よかった、テリー。意識が戻って」


 あたしはジャンヌを見る。ジャンヌが微笑む。間違いない。……この女だ。


(裁判でうそ百発ついてくれた女)


 いや、ジャンヌだけじゃない。アトリの村に住む全員、


(裁判であたしたちの屋敷の使用人だと言っていたやつら)


 だから屋敷にいなかったんだわ。だって、全員アトリの村で平和に暮らしていたんだから。


(でも、この村の連中が、なんでそんなことを……?)


「テリー、どうかした?」

「……ここは……?」

「さあ、どこだろうね」


 激しい濁流の音が聞こえる。あたしはうなりながら起き上がった。くそ、頭が痛い。リチョウが一点を見つめている。あたしもその方向を見た。ここはどこかの屋根の上。そして、まだ事件は終わってない。


 濁流が村を囲う。アトリの鐘はサイレンのように鳴り響いている。そんななか、正しさの鐘の屋根に一匹の人狼がのぼっていた。てっぺんに立ち、叫んだ。


「女神アメリアヌさま! どうか我々に救済を!!」


 ヒョヌが天に両手を伸ばす。


「悪しき者に天罰を!!」

「パパ!」

「……父さん……」


 ジャンヌとリチョウがアトリの鐘を見つめる。


「わたしに力を!!」


 ヒョヌの腕が膨らんだ。


「正義の力を!!」


 ヒョヌの足が膨らんだ。


「正しき道へと導く力を!!」


 ぶくぶく膨らんで、それは風船のように膨らんで、噴水のようにあふれてきて、水に流されていたオオカミたちが磁石のように引っ張られていった。ヒョヌが全部のオオカミを吸収していく。オオカミが重なり合ってどんどん大きくなっていく。ヒョヌはオオカミのなかに埋まっていく。やがて、オオカミによるオオカミでつくられた巨大なオオカミが出来上がった。


「うそつきに天罰を!!」


 空からなにかが降ってきた。キッドとソフィアを抱えたリトルルビィがどこかの屋根の上に着地した。三人は水面に現れた巨大なオオカミを眺める。


「どうする? なんかでかくなってるけど」

「根源はなかにいるようですね」

「目には目を、歯には歯を、中毒者には中毒者を、だ」


 リチョウが屋根から屋根に飛んでいった。そして、キッドたちの後ろに着地した。キッドが振り返らずに声をかけた。


「はじめまして、リチョウ」

「父をなんとかできるか」

「あなたの力を借りたい。なんでも、詩でいろいろ出来るそうじゃないか」


 キッドがオオカミに向けて剣を構えた。


「土砂崩れならぬ、オオカミ崩しなんて出来るか?」

「やってみよう」

「リトルルビィ」

「わかってる」

「ソフィア」

「いつでも」

「リオン」


 リオンが屋根の上に着地した。


「行けるな?」

「ジャックが意気込んでる」

「それではこれより」


 キッドがにやりと笑った。


「ゲーム、スタート!」


 アトリの鐘が響いたと同時に、巨大なオオカミの手がキッドたちのいた屋根に振り下ろされた。屋根が崩れ、水に呑み込まれていく。水は夢に呑まれていく。


「ジャック、ジャック、切り裂きジャック、切り裂くジャックを知ってるかい?」


 リオンが悪夢に笑った。



(˘ω˘)



 モニターの電源をつけると、ピクセルアートのグラフィックが広がった。ピコピコした音楽が鳴り、ゲームタイトルが出てくる。


『オオカミ・クエスト』


【ヒョヌ村長】

 平和を願うアトリの村に、悪の手が伸びている。

 みんなで、村を守るんだ!


【キッド】

 はっはっはっはぁー!

 おれに立ち向かおうなんざ、100年早いんだよ!

 勇者はかかってこい!

 全員、ぶっとばしてくれるわ!


【ヒョヌ村長】

 勇者よ、行くんだ!

 魔王を倒し、この村に平和をもたらすのだ!


 オオカミに変身できる勇者がオオカミに変身できる仲間を率いて冒険して魔王の城に突入し魔王を前にした。


 キッドが現れた。勇者たちは武器を構えた。そこへリトルルビィがやってきて全員義手の拳でぶんなぐった。

 あなたのパーティーは全滅しました。


【キッド】

 おお、死んでしまうとは情けない!

 勇者よ! 諦めるな!

 何度でも立ち上がり、おれを倒しにくるのだ!


 次のオオカミに変身できる勇者がオオカミに変身できる仲間を率いて冒険して魔王の城に突入し魔王を前にした。


 キッドが現れた。勇者たちは武器を構えた。そこへソフィアがやってきて全員の家族親族友だち恋人大切な人の心を盗んで誘拐してきたので、全員が絶対に反撃できない状況を作った後、一人ずつ銃でぶんなぐった。

 あなたのパーティーは全滅しました。


【キッド】

 おお、死んでしまうとは情けない!

 勇者よ! 諦めるな!

 何度でも立ち上がり、おれを倒しにくるのだ!


 次のオオカミに変身できる勇者がオオカミに変身できる仲間を率いて冒険して魔王の城に突入し魔王を前にした。


 キッドが現れた。勇者たちは武器を構えた。そこへジャックがやってきて、全員を眠らせて悪夢のなかで切り裂いて狼の毛皮でコートと服とパンツとマフラーと帽子と靴をつくってタバコを吸った。


【ジャック】

 オイラ、最高ニカッコイイ!

 ミックスマックスダゼ!


 あなたのパーティーは全滅しました。


【キッド】

 おお、死んでしまうとは情けない!

 勇者よ! 諦めるな!

 何度でも立ち上がり、おれを倒しにくるのだ!


 次のオオカミに変身できる勇者がオオカミに変身できる仲間を率いて冒険して魔王の城に突入し魔王を前にした。


 キッドが現れた。勇者たちは武器を構えた。そこへリチョウがやってきて、詩を読みきかせた。全員にきく。


【リチョウ】

 どうだった? 今の詩は。すごくいいだろ。プロっぽいだろ。


【勇者】

 はい。→いいえ。


【リチョウ】

 死んでしまえ!!


 あなたのパーティーは全滅しました。


【キッド】

 おお、死んでしまうとは情けない!

 勇者よ! 諦めるな!

 何度でも立ち上がり、おれを倒しにくるのだ!


【ヒョヌ村長】

 えーい、みんな、ここは協力してみんなで立ち向かうのだ!


 オオカミに変身できる勇者が全員冒険して魔王の城に突入し魔王を前にした。


 全員の勇者は武器を構えた。しかしそこにいたのは可憐なお姫さまだった。


【お姫さま】

 あたくしは魔王に閉じ込められていたプリンセスです。

 どうか・・・たすけてください・・・。


【勇者A】

 プリンセス! 早くこちらへ!


【勇者B】

 怖かったでしょう!


【勇者C】

 わたしたちがあなたをたすけてあげます!


【お姫さま】

 どうなることかと思いました。

 皆さん、どうもありがとう。


 お姫さまが感謝を込めて、マシンガンを構えて、引き金を勇者全員に向けて引きました。穴だらけになった人狼がその場に倒れてしまいました。


【クレア】

 ジャックばかりずるいわ!

 あたくしも、毛皮ほしい!


 お姫さまが皮をナイフで引き裂いて、素材を手に入れました。


【素材「人狼の皮」Get】


 二足歩行のネコを連れて、人狼の肉を日で炙った。愉快な音楽が流れ、頃合いを見てお姫さまが肉を火から離した。


【上手に焼けました!】


 あなたのパーティーは全滅しました。


【キッド】

 おお、死んでしまうとは情けない!

 勇者よ! 諦めるな!

 何度でも立ち上がり、おれを倒しにくるのだ!


【ヒョヌ】

 なんてことだ!

 勇者がいなくなってしまった!


【アウローラ】

 あなた、きこえますか。

 わたしの声がきこえますか。


【ヒョヌ】

 この声は、数年前に天国へと旅立った我が妻の声!


【アウローラ】

 あなたが村を救うのです。

 お願い。リチョウとジャンヌを・・・救い出して・・・。


【ヒョヌ】

 こうなったら、わたしがいくしかない!


 オオカミに変身できる村長が冒険して魔王の城に突入し魔王を前にした。


【ヒョヌ】

 女神アメリアヌさま、どうかわたしに天の力を!


 村長は聖なる力に包まれた。

 攻撃力が100アップ。防御力が100アップした。


【ヒョヌ】

 わたしがみんなの仇を取り、

 悪を正しき道へと導く!


【キッド】

 むむむ! 

 こいつはちょっとやそっとじゃ太刀打ちできん!

 こうなったら、奥の手だ!


 魔王が呪文を唱えた。


【キッド】

 聖女メニー!

 我に力を与えよ!


 魔王は聖なる力に包まれた。

 攻撃力が9999999999999999999アップ。防御力が9999999999999999999アップした。


【キッド】

 えーい!


 魔王が人狼を斬った。あなたのパーティーは全滅しました。

 しかし女神アメリアヌの祈りにより、人狼は蘇った。魔王は人狼が棺のなかで眠っている間に、おばあさんの格好にして、ベッドにくくりつけた。


【ヒョヌ】

 こ、これはなんだ!?


【赤ずきんちゃん】

 おばあさん、おばあさんはどうしてそんなに目が大きいの?


【ヒョヌ】

 それはね、お前をよく見るためだよ。


【赤ずきんちゃん】

 おばあさん、おばあさんはどうしてそんなに口が大きいの?


【ヒョヌ】

 それはね、お前を食べるためさ!!


【赤ずきんちゃん】

 お前、おばあさんじゃないな?

 このうそつき。


 赤ずきんのマントを翻したリトルルビィが、ヒョヌのはらわたを引き裂いた。


【ヒョヌ】

 ぎゃあ!


 あなたのパーティーは全滅しました。

 しかし女神アメリアヌの祈りにより、人狼は蘇った。


【ヒョヌ】

 おや、夢だったようだ!


【笛吹き】

 勇者よ、約束通りネズミを追い払いました。

 報酬を下さい。


【ヒョヌ】

 ネズミ? 報酬?

 一体なんのことだ?


【笛吹き】

 報酬を払わないというのですか?

 せっかく村全体のネズミを追い払ってやったのに。

 このうそつき。


 ソフィアが笛を一吹きすると、ヒョヌのはらわたが引き裂かれた。


【ヒョヌ】

 ぎゃあ!


 あなたのパーティーは全滅しました。

 しかし女神アメリアヌの祈りにより、人狼は蘇った。


【ヒョヌ】

 ひぇっ!?


【切り裂きジャック】

 ネエ、オイラノコト知ッテル?


【ヒョヌ】

 知るわけないだろ!

 だれだ、お前は!


【切り裂きジャック】

 オイラハ切リ裂キジャック!

 ハロウィンノオバケダヨ!


【ヒョヌ】

 き、切り裂きジャック!?

 おい、人をバカにするのも大概にしろ!

 あれはただの都市伝説だ!

 切り裂きジャックなんていないんだ!


【切り裂きジャック】

 ・・・オイラノコト知ッテタノニ・・・知ラナイッテ言ッタナ・・・?


【ヒョヌ】

 な、なにをするつもりだ!


【切り裂きジャック】

 ケケケ。

 コノウソツキ。


【ヒョヌ】

 や、やめろ!


【切り裂きジャック】

 ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!


【ヒョヌ】

 やめろおおおおおおおおおおお!


 ジャックが両手に握ったナイフで、ヒョヌのはらわたを引き裂いた。


【ヒョヌ】

 ぎゃあ!


 あなたのパーティーは全滅しました。

 しかし女神アメリアヌの祈りにより、人狼は蘇った。


【ヒョヌ】

 助けて! 助けてくれ!


【ジャンヌ】

 オオカミが出たぞーーー!


【ヒョヌ】

 ほら、うそつきがいるぞ!

 あんなところにうそつきがいるぞ!


【リチョウ】

 春の風。出会う四季。真実の愛はそこにある。


【ヒョヌ】

 ほら、ないものをあると言ってる者がいるぞ!

 うそつきがいるぞ!

 あんなところに、うそつきがいるぞ!


【キッド】

 このうそつき。


【リトルルビィ】

 このうそつき。


【ソフィア】

 このうそつき。


【ジャック】

 コノウソツキ。


【ヒョヌ】

 違う! わたしはうそつきじゃない!

 村のために頑張ったんだ!

 わたしが村を支えてるんだ!

 村の者たちだってわかってる!

 だから飴を舐めたんだ!

 願いが叶う素晴らしい飴だ!

 わたしはみんなのために!

 わたしは、わたしは、わたしは、

 正しき道へと導くために!!




「父さん」











 ヒョヌがはっとした。

 顔を上げると、リチョウが立っていた。


「リチョウ……?」


 ヒョヌが自分を見た。


「これは一体」

「父さん」

「なにがあったんだ、わたしは……」

「父さん、おれ……」

「リチョウ? ああ、お前、もどってきたのかい。どこに行ってたんだ。全く」

「父さん」

「また森に行って詩でも書いてたんだろ。……なにか思いついたかい?」


 リチョウがヒョヌに抱きついた。

 ヒョヌは微笑み、リチョウを抱きしめ返す。


「父さん、おれ、すごく後悔しているんだ。本当に、おれはだめな息子だった。父さんが倒れたのに、なにもできなくて……」

「ああ、お前は詩のことしか目のない社会不適合者だからな。当然だろう」

「おれ、ちゃんとするよ。これからは、この村を守って……」

「馬鹿者」


 ヒョヌがリチョウを叱った。


「お前なんぞに任せたら、アクア王が築き上げたものが崩壊しかねん」

「それじゃ……、……ジャンヌに村を任せる気か?」

「あんなじゃじゃ馬娘に村を任せるだと? リチョウ、お前はやっぱり見る目がないな。はっはっはっはっ!」

「それじゃあ、それじゃあ……」

「お前たちはこれからの時代の者たちだぞ。こんな古ぼけた村にとらえるなんて、いけない」


 ヒョヌが優しく、息子の肩をたたいた。


「リチョウや、いろんな経験をなさい。様々な喜怒哀楽を経験なさい。そうすれば、いずれ正しき道が開けるはずだ」

「父さん」

「こもってばかりでは体に毒だ。たくさん体を動かして、いろんなものを見て、関わって、経験して、そうすれば誰もが感動する詩も出来上がる」

「と、父さん……」

「楽しみだ」


 わたしの机の上に、お前の詩集が置いてあるんだ。疲れたときには、その詩を読んで、お前が体験したことを頭のなかで想像する。どんな気持ちでこれを書いたのか、どんなものを見てこれを書いたのか。


 頭のなかでたくさん想像するんだ。


「楽しみだなあ」


 呪いで覆われた体をリチョウが見つめる。

 その身はもはや、原型を保っていない。

 人には寿命が存在する。

 ヒョヌの体調が呪いの力でも改善されなかったのには理由がある。


 寿命だったのだ。


「リチョウ、もう行くのかい?」


 息子の両手を握りしめる。


「正しく生きなさい。悪いことはしてはいけない。長旅に出てもいいが……」


 息子に微笑む。


「時にはジャンヌを守ってやりなさい」

「ごめんなさい」


 リチョウがうつむいて、涙を流した。


「ごめんなさい、父さん」


 してしまった罪は、永遠に残る。


「そんな体にしてごめんなさい」


 呪いがまとわりつく。


「ごめんなさい、父さん、ごめんなさい」


 何度謝っても、懺悔しても、罪は消えない。


「ごめんなさい」


 ヒョヌは笑顔で息子を見つめる。

 ヒョヌの後ろに、青い光が見えた。

 青い光はまっすぐに狙いを定め、


 ヒョヌを突き刺した。





「消毒!!」




(*'ω'*)




 ヒョヌのうなじに注射器の針が刺さった。ヒョヌが目を見開く。薬が体内に入っていく。ヒョヌのなかで薬が駆け巡り、毒を浄化していく。ヒョヌが白目を剥いた。悲鳴をあげた。筋肉が暴れだした。体が勝手に動き出す。全身に痛みが沸き起こる。


「ワオーーーーーン!」


 月に向かって叫ぶ。


「ワオーーーーーン!」


 頭を押さえてふらついた。


「ワオーーーーーン!!」


 足場がもうない。


「ワオッ」


 ヒョヌが背中から濁流に落ちた。


「キャンッ」


 ダムから放水された水はまだまだ流れてくる。ヒョヌは流される。


「ワオーーーーン!!」


 沈んだ。起き上がる。


「キャオーーーーン」


 もう一度沈んで、流されて、もう、水面に浮かぶことはない。


(……ん?)


「ジャンヌ」

「……パパ……」

「なんか、……水、増えてない?」

「え?」


 どんどん水が屋根にのぼってくる。あたしはぞっとして、ジャンヌに顔を上げた。


「時間の問題よ! 高いところに避難するのよ!」

「……どうやって?」

「え?」


 あたしたちは屋根に取り残され、そこから動けない。高いところと言えば、……遠くに見える、山の上?

 サイレンのようにアトリの鐘が鳴った。


「ジャンヌ……どうやってここまできたの?」

「兄さんに乗せてもらって……」

「リチョウ!!」


 あたしは大声で叫び、両手を振った。


「たすけてー!」

「ごめんなさい……。父さん……」

「いや、うん! 謝罪は大事だわ! でも、ほら、そんな場合じゃないでしょ! ほら、早く助けに来て!」

「リチョウ、協力してくれてありがとう」

「……おれがこの村を変えてしまった。少しは……罪を償えただろうか……」

「ねーえ! それどころじゃないのよ! わかってるでしょ! そうだ、……リトルルビィー!」

「あんま、……気落とすなよ」

「……年下の少女に慰められるとはな。……これも人生の一興か」

「ソフィアー!」

「リチョウ、まだ間に合うかもしれない。もう少しで中毒者の毒を消す薬を作ってる人が来るはずだから、人間に戻る手は、まだ残されてる」

「人に……戻れるのか……!?」

「おにいちゃーーん!」

「少し苦しいかもしれないけど、試して見る価値はある」

「……ありがとう……!」

「それどころじゃねえっつってんだろうが! おい! てめえら! 気付け! このあたしが頼んでるのよ! おい! てめえら!!」

「テリー!」


 水が屋根を登ってきた。ジャンヌがあたしに振り返る。


「水が!」

「ほら! ねえ! ジャンヌが大変よ! ねえ! 余韻にひたってないでさっさと助けに……!」


 その瞬間、大きめの波がやってきて、あたしたちの上に覆いかぶさってきた。


「テリー!!」

「ドロシードロシードロシードロシー! こうなったらお前だけが頼りよ! メニーも気絶してるし今だけお前をドロシーさまって呼んでやるわ! 金平糖は100袋でも買ってあげるわ! おら、やれ! 今すぐにあたしたちをたすけっ」




 あたしたちは波に呑み込まれた。



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