九章:正しき偽善よ鐘を鳴らせ(後編)

九章 正しき偽善よ鐘を鳴らせ(後編)


 ――リオンさま、




 この日記が読まれている頃、おそらくこの家は差し押さえとなり、あたしたちは生まれ育ったこの家から出ていった後でしょう。


 あなたは、あたしが憎いでしょう。最愛の方に意識不明の重態を負わせたあたしを許すことなど、到底できないと思います。

 メニーの目が覚めて、心から安堵したことでしょう。


 そんなあたしからではございますが、このメッセージを残させてください。


 どうかメニーを幸せにしてあげてください。


 彼女は、この屋敷でひどい目にあってきました。

 これからの光り輝く未来を、あの子に与えてやってください。

 こんなこと、あたしに言う権利はありません。わかっております。

 ですが、申し訳ございません。

 愛しいリオンさま、あたしが大切にしてきたあの子をよろしくお願いいたします。


 テリー・ベックス












 リオンさま、


 申し訳ございません。

 どうか、あたしたちをさがさないでください。


 あの子はあたしが連れていきます。





 震える手が、ノートから離れた。窓から風が吹いた。最初のページに戻った。ノートの表紙の裏に、きちんとしたノートの名前が書かれていた。



『メニーと田舎に行く計画表』




「うそつき!!!!!」


 リオンの胸倉を掴んで、怒鳴る。


「守るって言ったくせに!!」


 リオンは顔を青ざめるだけ。


「テリーはどこに行ったの!?」

「メニー……」

「早くさがしてよ! テリーはどこ!!」

「ぼくは……」

「約束がちがう!!」

「わかった、わかったから……」

「早くテリーを見つけて!! 早くして!!」


 わたしは叫ぶ。


「テリー!!」


 わたしは泣き叫ぶ。


「テリーーーーーーーーー!!」



 わたしの声だけが残る。


 テリーは、どこにもいない。



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