八章:泡沫のセイレーン(前編)

八章 泡沫のセイレーン(前編)


 ハープは奏でる。

 音色を奏でる。

 愛を奏でる。

 演奏者は彼女。

 美しい彼女。

 彼女に恋した巨大な男。

 彼女が愛した貴族の男。

 自分の醜さなどわかっている。

 彼女が自分に振り向かないことなどわかっている。

 ならば、

 せめて、

 彼女のものを、自分の側に。

 魔法のハープよ。奏でておくれ。さすればオラは意地悪にならない。

 魔法のハープよ。奏でておくれ。さすればオラはお前を愛そう。

 魔法のハープよ。癒やしておくれ。さすればオラは大人しくしよう。

 意地悪なオラを癒やす、唯一の魔法のハープ。でかい鼻を近づければ、彼女の匂いがする魔法のハープ。


 ウンディーネ。

 オラの愛しい人。



「なんて素敵な音色のハープだ。これをお母さんに持っていけば、きっと喜んでくれるに違いない!」



 返せ!! それはオラの魔法のハープだぞ!! 畜生、人間め、ぶっ殺してやる!! どこだ! 人間! 返せ! 


 それは大切なハープだ! オラのハープだ!


 オラのハープを返せ!!


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