第4話 人魚の呪いとコウノトリ


「アクアー!!」


 まあ、大変! アクアの体が川に落ちてしまい、かっちこっちに動かなくなってしまいました。命からがらキングが助け出したものの、導かれた先は、川だったのです。


「なんてことだ。看板さんの教えてくれた道に進んだら川だったなんて。ここからどうやってエメラルドの都に行けばいいんだろう?」

「にゃー」

「アクア、俺様が油をさしてあげるからね! ちょっと我慢してね!」


 キングがアクアに油をさしてあげましたので、アクアは再び動けるようになりました。唯一エメラルドの都に行ったことのあるアクアがひらめきました。


「川の行く先には、必ずエメラルドの都があるらしい。確かに、僕も川に沿ってここまで来た気がする。どれ。ここは僕がいかだを作ることにしよう」


 そう言いまして、アクアは一晩かけていかだを作りました。あまりにも時間がかかってしまったので、ドロシーとトトとキングは朝日が顔を覗くまで眠ってしまいました。でも大丈夫。ナイミスは脳なしなので、寝る必要がありません。アクアがいかだを作っている間、ナイミスはこの三人が安心して眠れるように、ギターを持って見張っていてくれました。


「ララバイ。おやすみよ。ララバイ。子守歌だぜ。ラララ」


 朝日が昇り、素敵なナイミスの歌声と共に起きた三人はとてもすっきりと目を覚ますことが出来ました。そして、みんなで完成したいかだに乗り込みます。


「出発!」


 いかだは勢いよく進んでいきます。


「この調子ならあっという間にエメラルドの都まで行けそうだね! トト!」

「にゃー!」


 しかし、そうはいかないのが現実なのです。川を泳いでいた魚の様子が、なにやらおかしいではありませんか。


「ぴちぴち」


 魚達がいかだの後ろに集まってきました。


「ぴちぴち」


 美味しそうな匂いがして、トトが振り向きました。


「にゃー?」


 しかし、トトもびっくり! だって、後ろには魚の大群で溢れていたのだもの。


「ふしゅー!」

「トト?」


 ドロシーとナイミスとアクアとキングも振り向きます。みんなびっくらこいた!


「「わーーーーーーー!!!」」

「きゃーーーーー!!」


 キングが誰よりも乙女の声で悲鳴をあげます。魚達はいかだをぐいぐいと押してくるのでした。


「大変だ! これじゃあ、川の流れじゃなくて、魚の流れだよ!」

「にゃー!」

「トト、とりあえず、この魚の大群達に、元気にご挨拶!」


 うーーーん!


「ボンジュール!」

「にゃー!」

「ぴちぴち!」


 魚達はいかだを相変わらず押しやっていきます。しかし、ドロシー達にはなす術がありません。


「こいつは大変だぜ」


 そこでナイミスがオールを魚達に向けました。


「へい! YOU達。このナイスなガイのカカシに免じて、後ろに下がってくれないかい?」

「ぴちぴち!」


 ナイミスが持っていたオールが取られてしまいました。


「おっとこいつはヘビーだぜ」


 オールが服に引っかかり、ナイミスが川の真ん中に立ったまま動けなくなってしまいました。


「あ! なんてことだ! ナイミスが!」

「ナイミスー!」

「にゃー!」

「あわわわわ!」

「ああ、みんながいかだと共に去っていく」


 ナイミスは悲しくなって、泣いてしまいたくなりました。


「さようなら、俺の最高の仲間達。ララバイ。悲しみのララバイ」


 しかし、魚の動きは止まりません。魚達がオールに突進してくるので、とうとうオールが魚の頭で抜けました。ナイミスの服がオールから解放され、魚の足を踏んづけて何とか着地します。


「おっと、こいつはあぶねえ」


 わらが濡れないように、ナイミスは魚の頭を利用して、つかつか走っていかだまで戻ってきました。仲間達はナイミスを喜んで抱き締めます。


「ああ! ナイミス! よかった!」

「にゃー!」

「ナイミス! 助けてあげられなくてごめんよ! しくしく!」

「俺も戻ってこられて良かったよ。みんな!」

「ふっ。本当に良かった。……おっと、涙が……」


 アクアが涙を拭いてしまうと、またブリキが錆びれて動けなくなってしまうので、ドロシーがハンカチで拭ってあげました。


 こうしたトラブルもありましたが、いかだはどんどん流れていき、やがて、川から海へと出たのです。


「トト! 大変だ! エメラルドの都ではなく、海に出てしまったよ!」

「にゃー!」

「あら、お客様だわ」


 人魚達がいかだを囲み始めましたので、キングは再び怖くなって、悲鳴をあげてしまいました。


「きゃー! 魚の女の子だー!!」

「あら、人魚は初めて?」

「くすくす」

「魚達が連れてきたのね」

「こんにちは」

「わあ、人魚だなんて、本の中だけでしか見たことないよ! トト、人魚さん達に元気にご挨拶!」


 うーーーん!


「ボンジュール!」

「にゃー!」

「あら、可愛い猫ちゃん」

「こんにちは。人間」

「いかだに乗って何してるの?」

「くすくす」

「あのね、僕達、エメラルドの都へ行きたいんだ!」

「エメラルドの都?」

「ここから結構遠いわよ」

「でも海を渡ればあっという間よ」

「私達が押して差し上げる。なんて言ったって、私達はお優しい人魚ですもの」

「それはいい」


 アクアがすかさず人魚達に目を輝かせました。


「ぜひお願いしてもいいかな。麗しいあなた達が押してくださるなら、移動中、暇にならないように僕は面白いお話をしてみせましょう」

「まあ」

「随分と積極的なお方」

「くすくす」

「僕はアクア。ブリキだから水にはあたれませんが、あなた達の可愛いお顔を覗くことは出来ます。皆さんとても可愛いですね。まるで海に隠されたの真珠のようです」

「まあ、お上手!」

「くすくす!」


 気分を良くした人魚達がいかだを押してくれましたので、しばらくはまたいかだの生活です。ドロシーとトトは怯えるキングの腕に抱かれ、ひたすらキングの頭を撫でる役。ナイミスはアクアと人魚の仲が少しでも仲良くなりますように、ロマンチックなメロディをギターで奏でました。


「ラララ。ラブラブ。どっきゅん。ラララ」


 いかだはやがて、海の真ん中で止まりました。ナイミスが気がつきます。


「おや、人魚達は疲れてしまったのかな? 無理もない。ずっとアクアの喋り相手なんだもの。俺と同じく、口が疲れてしまったに違いない。どれ、少し休憩と行こうか」


 トトが気がつきます。


「にゃ?」


 ドロシーとキングが気がつきます。


「ん?」

「ド、ドロシー?」


 キングがドロシーを抱きしめました。


「俺様達、どうして人魚達に囲まれてるの?」


 海の中心に止まったいかだを、人魚達が囲んでいるではありませんか。何やら、様子も変です。


「ドロシー、怖いよぉ!」

「くすくす」


 人魚達が笑います。だって、人魚達はオズの手先なんですから。オズを狙う一行を捕まえて、いいご気分です。


「ばかね。私達がオズ様のトゥエリーで美しい姿になれたとも知らずに」

「くすくす」

「人間って本当にばか。何でも見た目で決めるのだから」

「私達は元々お魚だったの。そうよ。あなた達が盗んでいくお魚よ」

「人間なんて大嫌い」

「エメラルドの都になんか、行かせるものですか」


 そう言いまして、人魚の一人がいかだを結ぶ縄をほどき始めてしまいました。五人が慌て始めます。


「ああ、なんてこと! やめてください!」

「きゃーーーーー!! 死にたくないよーー!!」

「こいつは憂鬱だぜ!」

「にゃー!!」

「トト! 僕に捕まって! ああ、どうしよう!!」


 このままではいかだが崩れて、みんなが海の中のお魚になってしまいます。


「誰か助けてーーーーー!!」


 キングが叫ぶと、海の上を数羽のコウノトリが通りました。人魚達がしていることを見て、目を丸くします。


「おいおい! お嬢さん方! やめなって! 一体どうしたってのさ!」

「そうだぜ! レディ達! こんな海の上でいかだ一つで身を守ってる弱虫を虐めたって、何にもならないぜ!」


 コウノトリを見て、人魚達がはっとしました。なぜなら、鳥は魚を食べるからです。


「きゃあ!」

「鳥だわ!」

「食べれちゃう!」


 人魚達は一斉に逃げ出します。窮地を救われ、ドロシー達はコウノトリを見上げました。


「コウノトリさん! 助かりました! どうもありがとう!」

「いいってことよ!」

「あんたら運が良かったな! 俺たちゃ、大人の人間は嫌いだが、子供は大好きなんだ!」

「そうさ! そのお嬢ちゃんが子供だから、あんたら助かったんだぜ!」


 五人は親切なコウノトリさんに感謝して、エメラルドの都までの道通りを聞くことにしました。しかし、エメラルドの都に行くと伝えた瞬間、コウノトリ達は、また目を丸くしたのです。


「エメラルドの都だって?」

「あんたら、逆方向じゃねえか!」

「え? でも、看板さんが、こっちの道だって言ったのに」

「ははーん! 嘘つき看板だな?」

「トゥエリーで反対の教えしか言えないくそったれさ! そうだ。相棒、この人方を町に招待しないかい?」

「そいつはいい! お客様は大歓迎さ! ちょっと寒い町だが、エメラルドの都からは近くなるぜ。来るかい?」

「ここにいても死ぬだけさ! ぜひお願いするよ!」


 ドロシーがそう言いますと、コウノトリ達は仲間達を呼んで、ドロシー達を連れて行ってくれました。


 ドロシー達は海を越え、とある国にたどり着きます。


「ここは、一体どこだい?」


 なんと、その国は雪で覆われ、冷たい粉雪が降っておりました。ドロシーがぶるりと体を震わせました。


「ああ、寒い!」

「ドロシー、俺様が温めてあげる!」


 キングがドロシーを抱きしめましたので、これで寒くありません。


「ありがとう。キング。とっても温かいよ!」

「てへへ!」


 雪の国の住人達はドロシー達を歓迎しました。


「ようこそ、お客様」

「雪の王国へ」

「コウノトリ達からとんだ被害にあったと聞きました。お疲れでしょう。歓迎いたしますわ」


 その晩、町では歓迎の宴が開かれました。ドロシーは雪の女王様にお礼を言いました。


「素敵な夕食。温かい寝所をありがとうございます」

「とんでもありませんわ。ドロシー。この国は呪われてしまってから、客人が誰も来なくなってしまったの。だから、今夜はとても楽しかったのよ」

「呪いだって? こんな素敵な国が呪われているの?」

「ああ、ドロシー、お話を聞いてくださいますか?」


 雪の女王様は悲しそうに話し出しました。


「この国は、きちんと四つの季節がやってくる小さな国でした。しかし、ある時、国の者が夏に雪が見たいと呟いたのです。国の者はエメラルドの国にいる最強の魔法使い、オズに会いに行き、雪をもらいに行きました。するとオズは国の者に雪だるまを作ってくれたのです。しかし、季節は夏。国の者は雪だるまが溶けてしまったのはオズのせいだと、怒ってしまったのです。それに対して、さらにオズが怒ってしまい、だったらいっそのこと国を冬にしてしまおうと、トゥエリーを使い、この国を雪の国へと変えてしまいました」

「なんて不幸は話だ」

「ドロシー、どうかお願いです。オズに会ったら、どうか呪いを解くように伝えてはいただけませんか? 国の者はみんな反省しました。どうかお願いします」

「わかった! ここの国の人達はみんな優しい人達だ。僕に任せて! 必ず伝えておくよ!」

「ああ、それは良かった。今夜は温まって体を労わってから、また旅へと戻ってください」


 雪の国はとても楽しいものでした。

 翌日、連れてきてくれたコウノトリにお礼を言って、再び一行は旅に戻りました。国を出た途端、春の風が吹くものですから、やっぱりトゥエリーはおそろしい魔力であるのです。


「さあ、レンガの道が見えてきた。ということは、エメラルドの都までの道はここを辿れば辿り着くはずだ。さあ、行こう」


 アクアが進み、ナイミスが進み、ドロシーとトトが進み、キングが進みます。再び多くの木に囲われ、日が落ちた真夜中のことです。変な鳴き声が聞こえました。


 ――きいきい!


「おや、なんだか変な声が聞こえるぞ」

「一体、何の音だ?」


 みんなは周りを見回しました。キングはドロシーの背中に隠れます。


「怖いよお! 怖いよお!」

「キング、大丈夫さ!」

「にゃあ!」


 キングの頭を撫で、ドロシーが見上げます。


「でも、一体これは何の音だろう?」


 その時です。木の間から、コウモリ達が飛び出して来たではありませんか。


「ひえっ!」


 みんなは目を丸くして悲鳴をあげます。キングに関しては、とても大きな悲鳴をあげます。


「きゃーーーーーーー!!」


 悲鳴の音を聞きつけたように、コウモリ達が過ぎ去っていきます。すると、その後ろから、大きな影が見えました。気付いたナイミスが叫びます。


「みんな、伏せるんだ!」


 声を聞いたみんなが伏せますと、影はみんなの上を飛び越しました。みんなが慌てて振り向きますと、そこにはマントを羽織る吸血鬼が空を飛んでいたのです。


「くっくっくっ。オズ様に会いに行こうとしている厄介者は、貴様らのことだな?」


 吸血鬼がマントを広げました。


「我輩こそ、オズ様の崇高なる手下。ヴァンパイア一族のドラキュラである!」

「ヴァンパイア、カラス達から聞いたことがあるぞ。なんでも、人の血を吸うそうじゃないか!」

「えーーーー!? 人の血を吸うだなんて、なんて怖い人なの!」


 ナイミスの説明に、キングは顔を真っ青にして、ドロシーを背中に隠しました。


「どうしよう! 怖くて、もう一人でおトイレに行けなくなっちゃうよぉ!」

「ヴァンパイアを見るなんて初めてだ! トト! ドラキュラさんに元気に挨拶!」


 うーーーん!


「ボンジュール!」

「にゃー!」

「ほう。銀のパンプスを履いている小さな女の子。間違いない。お前がドロシーだな? 我輩は、お前の処分を命じられているのだ」

「僕の処分?」

「その命をもらうということだ!」


 ドラキュラがみんなに襲い掛かってきます。ナイミスはわらの手を使ってドラキュラを沢山叩きました。アクアも負けずに応戦します。自分のもつ斧を振り回し、ドラキュラに抵抗します。ドラキュラは空を飛び、ドロシーに狙いを定めて戦いますが、ドラキュラはドロシーに手を出せませんでした。なぜなら、ドロシーは白い魔法使いのキスによって、守りの魔法がかけられていたからです。


 それでも何としてもドロシーを殺したいドラキュラはドロシーに狙いを定めて一直線に飛んでいきました。


「危ない! ドロシー!」


 キングがドロシーを抱きしめて、目を瞑りました。すると、木の間からコウモリの大群がドラキュラを襲いに来るではありませんか。これにはアクアとナイミスも驚いてしまいました。


「くそ! コウモリ共! 何をするんだ!」


 叫んでも、コウモリ達はドラキュラへの攻撃をやめません。ドラキュラはマントで自分を包んで体を隠しますが、ドラキュラに大変強い強敵が現れました。


「しまった! 太陽だ!」


 朝日が昇り、山々から姿を見せたのです。


「ヴァンパイアは、太陽の紫外線で体が溶けてしまうんだ! やめろ! やめてくれえ!」


 逃げ出すドラキュラに、コウモリ達が逃げ道を隠します。


「畜生! 退きなさい! 退きなさい!」


 朝日がドラキュラに当たりました。


「ぎゃあーーー!!」


 ドラキュラは灰になって消えてしまいました。再び朝が訪れ、誰も怪我はありません。ドロシーも無事です。ナイミスも、アクアも、キングも、一安心です。アクアがブリキの胸を撫でおろして、つい、呟きました。


「ああ、びっくりした。ヴァンパイアって、なんておそろしい生き物なんだ。僕はこの先、人間に戻ったとしても、ヴァンパイアになるのだけはごめんだね」


 ドロシーが助けてくれたコウモリ達を見上げました。


「コウモリさん、助けてくれてどうもありがとう!」

「にゃあにゃあ」

「トト、コウモリさんに元気に挨拶!」


 うーーん!


「ボンジュール!」

「にゃーあ!」

「きいきい。なんてことございません。きーきゅるるる」


 コウモリの一頭がドロシーの目の前に下りてきました。


「ドロシー、私はあなた達を助けました。そこで、一つお願いがございます。どうか話を聞いてくれませんか?」

「なんてことだろう。トト、このコウモリさん、とても困ってるみたいだ。話を聞いてあげよう」

「にゃあ」

「お話をどうぞ!」

「ああ、なんてお優しい人なんだろう。では、失礼しまして、よござんすか。きーきゅるるる。実は、ええ。コウモリの中には勇敢な娘がおりまして、コウモリ娘はコウモリの中でとても正義感溢れるコウモリです。実は、そのコウモリ娘が西にいるとっても邪悪で意地悪な魔女に捕まってしまったのです」

「「西の魔女だって!?」」


 ナイミスとアクアとキングが飛び上がり、体を震わせました。


「ドロシー、西の魔女はいけねえな」

「どういうことだい?」

「ふっ。ドロシー。よく聞くんだ。西の魔女っていうのは、この世界で一番悪い魔女のことさ」

「そんな人がいるの?」

「にににににににしの、まままままままじょだなんて……! がくぶるがくぶるがくぶる!」

「でも、そのコウモリ娘はどうして西の魔女なんかに捕まってしまったの?」

「元々、私達は西の魔女に捕まっていたのです。西の魔女は私達を食べるつもりでいましたが、隙を見てコウモリ娘が私達を逃がしてくれたのです。しかし、ああ、なんという悲劇でしょう。コウモリ娘ったら、私達を逃がすことを優先にして、自分のことを考えていなかったのです。なんという間抜けなヒーローでしょう。しかし、そのおかげで私達は助かりました。今度は私達が彼女を助ける番です。ドロシー、ここは一つ、あなた達の力をお借りしたい。みんなで力を合わせれば西の魔女にも立ち向かえるはずです。どうかお願い。この通り。願いの報酬が足りなければ、私達が森で取ってきた食料をあげます」


 コウモリ達が木の実を落としました。木の実はわらの中に入り、ブリキで弾かれ、キングの頭に落とされます。


「いだだだだだだだ!! ふええええん! 痛いよー!」

「コウモリさん、僕に良い提案があるんだ。僕達、これからオズに会いにエメラルドの都へ向かうんだ。オズは最強の魔法使いだから、きっと西の魔女もどうにか出来ると思うんだ」

「オズだって? いえいえ、そんなまさか。冗談はおよしてくださいませ。我々を捕まえた西の魔女を作り出したのは、紛れもない、オズですよ。西の魔女は、オズがトゥエリーで作り出した、いわば、オズの分身のようなものです。そんなこともあるもんですから、昔ならともかく、今のオズは信用できません」

「なんてこった。君達が危ない目に遭ったのはオズが原因だったのか」

「ドロシー、こうしている間にも、コウモリ娘の命が危ない。どうかお願い。コウモリ娘を助けて」

「よし、ドロシー、ここは作戦を練ろう!」


 ナイミスの声掛けと共に、五人は丸くなって作戦を立て始めました。


「まず説明しておこう。ドロシー。西の魔女ってのは、オズが自分の手下として作り上げた極悪人だ。話し合いでは絶対に解決はしない」

「ふっ。しかし、ドロシー、これも説明しておこう。我々はただのか弱き者達ではない」

「アクア、その通りだ。俺はカカシで」

「僕はブリキのきこり」

「お、俺様は、ライオン……」

「俺達ならなんとか出来るかもしれない」

「そうさ。今までだって何とかなったじゃないか」

「た、確かに、俺様達、巨人のジャックにも勝てたし!」

「人魚の罠にも勝てた」

「ドラキュラにも勝った」

「どちらにしろ、僕達の向かう道は一つしかない。そうだよね。トト」

「にゃー」


 ドロシーが頷いた。


「みんなで戦えば、きっと西の魔女にも勝てるさ。コウモリ娘を助けに行こう!」

「そうこなくっちゃな!」

「ふっ! 戦う乙女は実に勇敢だ」

「お、俺様も、た、戦うよ!」

「おや、キング、お前やれるのか?」

「おおおお、俺様も、ドロシーを守るんだい!」

「にゃあ」

「トトのことだって、守るよ! 本当だよ!」

「かっこいいじゃないか! キング!」

「ふっ。名前にふさわしい顔つきになってきたな」


 みんなが決意を決め、コウモリに振り向いた。


「西の魔女の元へ!」

「ありがとう! ドロシー! さあ、こちらです!!」


 コウモリ達が日光を避けながら森を進んでいきます。ドロシー達もその後を追いました。エメラルドの都がどんどん反対方向へとなっていきますが、気にしません。太陽の沈む西の方角へと進んでいきます。地面はだんだんでこぼこな坂道になってきました。どうやら西の国の地面は誰も耕していないようです。やがて森から抜けると、コウモリ達は日光が苦手なため、日が落ちてから合流することになりました。コウモリよりも足の遅い五人が先に西の国へと向かいました。


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