第3話 お花畑に弱虫ライオン
さて、ドロシーとトトとナイミスとアクアがやってきたのは、お花畑です。ナイミスが落ちてたわらでバスケットを作ってくれたので、これでオズにお花を持って行けそうです。
ナイミスがわらの手を叩きました。
「さあ、みんな、籠いっぱいに花を詰め込むぞ!」
「トト! 行こう!」
「にゃあ!」
「あはは! トトったら!」
「ふっ。最高のブーケにしてみせるさ」
みんなは手分けして花を積み始めます。色とりどりのお花が並び、ドロシーもトトも、アクアもナイミスも、にこにこ笑います。ところが、そんな中で、なんてことでしょう。とてもおかしな花を、ナイミスが見つけました。
「お? こいつは一体なんだろうな? ゆらゆら揺れて、変な花だな。よし、摘んでみて、その美しさをぜひ見てみよう」
そう言って、ナイミスはゆらりと揺れる花をぎゅっと掴んでみますと、鋭い視線を感じました。不思議に思ったナイミスがその気配を辿りますと、なんと、掴んでいたのは花ではなかったのです。
思わず、ナイミスは大きな悲鳴をあげました。
「ぎゃーーーー!」
その悲鳴に、二人と一匹が振り向きます。異変を感じて立ち上がったのはアクアです。
「ナイミス、どうし……」
アクアが声を出したその瞬間、青い光がきらりと光り、唸り声をあげました。
ぐーるるるるーーー!!
アクアも、その正体を見て、悲鳴をあげました。
「ぎゃーーーー!」
「え、何? どうしたの?」
「にゃー?」
「ナイミス! 逃げるんだ!」
アクアの声にナイミスは反応しません。と言うのも、ナイミスがわらの腰を抜かしてしまっていたからです。人間というのは、驚き過ぎてしまうと、腰が抜けて、力が入らなくなってしまうので、ナイミスも力が出ず、ぶるぶる震えるしかありませんでした。
ドロシーとトトが立ち上がり、はっと口を押さえました。
「わあ! 大変!」
ドロシーも驚いておさげを上を上げました。さて、そろそろその正体についてお話をしましょう。なんと、ふさふさの毛がついた、青い目をぎらぎら光らせたライオンが、息を吹いて、みんなを睨んでいたのです。
事の大変さに気づいたドロシーは、慌てて声を張り上げました。
「ナイミス! 逃げて!」
「だめだ! ドロシー! ナイミスは驚き過ぎて力が出ないんだ!」
「にゃー!」
「あっ! トト!」
トトが走り出します。すると青い目がぎらりと光って、ライオンがトトに飛び付きました。
「ぐーるるるるーーー!!」
「にゃーーー!!」
トトは勢いのまま走っていくかと思いましたら、あまりの巨大なライオンに驚いて、慌てて引き返すことにしました。しかし、ライオンはトトを追いかけていきます。
「ぐーるるるるーーー!!」
「にゃー!!」
「トト!」
ドロシーが急いでトトを追いかけますが、走り出す前にアクアに止められます。
「ドロシー! 僕が行くから、君はここにいるんだ!」
「でも、アクア!」
「女の子を危険な目に遭わせるのは紳士じゃない!」
アクアが斧を持って勇敢に走り出しました。
「ライオンめ! 覚悟しろ!」
その瞬間、ライオンがとても大きな口をわっと開け、それはそれは耳が千切れてしまうのではないかという声で叫びまして、アクアのブリキの腰が抜けてしまったのです。
「ひい!」
ナイミスとアクアはぶるぶる震えてライオンを見るしかありません。ライオンはにやりと笑い、二人を見下ろしました。
「いやいや、この程度か? ほれ、よくも俺様の尻尾を触ってくれたな。このわら人形め。どうやって懲らしめてくれようか」
ナイミスとアクアはライオンが怖くて、体が震えてしまい、とても立てません。ナイミスとアクアがめそめそ泣き始めます。
「どうかお許しを。ギターを捧げますから」
「どうかご容赦を。僕達はしがないカカシと女好きのブリキでございます」
「黙れ! よくも俺様の尻尾に触ってくれたな! お前達には、とっても痛くて苦しいことをしてやる!」
「ああ、どうかご容赦を!」
ナイミスとアクアが怯えますと、横からトトが勇敢に鳴きました。
「みゃー!」
「なんだ! このチビめ! やろうってのか!?」
ライオンが走り出しますと、トトが慌てて逃げ始めます。ライオンが素早くトトを追いかけました。
「やい! チビめ! 俺様に勝てると思ったか!」
「やめて!」
ドロシーが声を張り上げます。
「トトを虐めないで!」
「にゃー!」
「それそれ! どうだ! へへ! 俺様を怒らせるからだ! どうだ! 逃げ惑っても無駄だ! どこまでも追いかけてや……」
その瞬間、ドロシーがライオンの頰に平手打ちをしました。驚いたライオンが悲鳴をあげます。
「ひゃっ!」
「酷い!」
もう一度、ドロシーがライオンの頰に平手打ちをかましました。それほど、ドロシーは怒っていたのです。
「小さな子を虐めるなんて、最低!」
「あ、ああ……」
ライオンがそっと優しく自分の頬を押さえました。
「何するんだよぉ……」
「トトとナイミスとアクアを虐めるからさ! さあ! 来いよ! 僕が相手になるからな!」
ドロシーはもう一度ライオンの頰に平手打ちをしますと、とうとうライオンが生まれたての赤ちゃんのように泣き始めてしまいました。
「ひ、ひぇえええん……! 痛いことしないでよぉ……。 くすん! くすん!」
「おや、泣いてしまったよ。トト」
「にゃー」
「なんてことだ。アクア、見てみろ。ドロシーがライオンを泣かせているぞ」
「ふっ。流石レディは強しだな。だけどなんだか様子がおかしい」
「しくしく。しくしく。めそめそ。めそめそ」
ライオンがうずくまってさめざめと泣いてしまいましたので、ドロシーとトトとナイミスとアクアがライオンの背中を撫でてあげました。
「ごめんなさい……! 驚かすのはやめるから、もう叩かないで! しくしく! えーん!」
「どうして驚かしたの? 僕達、すっごくびっくりしたんだから! トトだってびっくりさ!」
「にゃー」
「だって、俺様、すごく弱っちょろいんだもん。尻尾をきゅって掴まれたら、まるで死んでしまうんじゃないかって思うほど心臓がぴょんぴょん縄跳びを始めるもんだから、これ以上驚かないように、先に驚かせてしまおうって思ったんだ」
「そうだったのか。いやいや、そいつはすまなかったね。脳なしでも、悪いことをしたら謝らないと。悪かったね。ごめんなさい。ライオン君」
「お、俺様も、ごめんね! もう絶対、驚かせたりしないよ!」
ライオンは涙を拭いて、優しくにこりと笑いました。
「お詫びに、お花のかんむりをあげる!」
ライオンがドロシーとトトとナイミスとアクアに素敵な花のかんむりを作ってくれました。あんまり綺麗な花のかんむりだったので、皆は大喜びです。
「どうだい。俺はまたナイスなガイになったかい!」
「とっても素敵だよ! へへっ! カカシさん、そのギターはあなたのなの?」
「そうさ。ライオン君、君にもこの素敵なギターの音色を聴かせてあげよう!」
そう言って、ナイミスがお礼にギターを弾いてあげましたので、ライオンの青い瞳は感動の涙でいっぱいになりました。あまりにも感動したので、ライオンがナイミスに拍手を送りました。
「くすん! なんて素敵な音色なんだ! 心が潤うようだ! くすん! とっても素敵! くすん!」
「ライオンに涙は似合わない。さあ、このハンカチで涙をお拭き」
「ああ、なんて優しいブリキのきこりさんなんだろう! どうもありがとう!」
ライオンはアクアから受け取ったハンカチを綺麗に折り畳み、丁寧に涙を拭きました。そしてまた丁寧に反対側に折り畳み、自分の懐の中にしまいます。
「ライオンさんの涙が消えたところで、トト、ライオンさんに元気にご挨拶!」
うーーーん!
「ボンジュール!」
「にゃー!」
「あ、は、初めまして。あ、挨拶なんて久しぶりだな。あの、えっと、俺様、あのね」
ライオンはふかふかした毛に顔を隠し、再び顔を覗かせ、蝶々のような小さな声で、ぼそりと自己紹介をしました。
「……キング。……きゃっ!」
ふわふわな毛に顔を隠してしまいますが、ドロシーは元気に自己紹介を始めました。
「初めまして! キング! 僕はドロシー。この子はトト」
「にゃー」
「俺はナイスなガイのナイスミスター。ナイミスだ!」
「僕は水の苦手なブリキのきこり。アクアさ」
「ああ、なんて親切な人達なんだろう。俺様とお話ししてくれるなんて」
「ねえ、キング、君はここで何しているの?」
「ああ、ドロシー、その、あの、俺様ね、お花が大好きなの。だって、お花ってとっても素敵。俺様を傷つけないし、いつだって心をオアシスに変えてくれる。それに、ほら、たくさんのお花達が、俺様を隠してくれるから」
「隠すって、何から?」
「ああ、その、ドロシー、これを聞いて、どうか虐めないでね。俺様、とっても臆病なの。あらゆるものが怖くてたまらないんだっ」
キングがみんなに顔を見せました。
「ほら、ごらん。俺様のつぶらな瞳の下にある隈を。大きな隈だろ? 暗闇になる夜が怖くて眠れなくなってしまったの。おかげで、俺様ね、自分の顔が怖くなっちゃって、鏡も見れないんだ」
「眠れないなら羊を数えればいいさ」
「ひ、羊だって!? やめてよ! そんなおそろしい野獣の名前を言うなんて!」
キングはぶるぶる震え上がり、とうとううずくまってしまいました。
「俺様、前まではこんなんじゃなかったんだけど、とある日を境に、世界の全てが怖くて怖くて堪らなくなっちゃったの!」
「とある日を境に?」
「ドロシー、それはね、あのね、えっとね、ああ怖い。あのね、ああ怖いよぉ。そのね、あのね、紫のその、魔法使いが」
「オズだな?」
「トゥエリー(魔力)だな?」
ナイミスとアクアが言うと、キングは悲鳴をあげました。
「ああ、やめて! 言わないで! おっかなくって、おしっこちびっちゃう!」
「俺はカカシにされてしまったんだ」
「僕はブリキに」
「にゃーあ」
「キング、君はオズに何をされたの?」
三人と一匹が訊くと、キングは指をいじいじと弄りながら、震える声で教えてくれました。
「あのね、俺様、前まではとっても悪戯っ子だったの。怖いもの知らずの暴れん坊。そんなもんだから、この世の中に俺様に敵うものは無いんだって、勝手に思ってたんだけどね、ライオンの着ぐるみを着てお花畑に遊びに来ていた日だよ。オズが花を摘みにやって来たの。これはしめしめ。驚かせてやろうと思って、さっきみたいにオズにばぁっ! ってやったら、ああ、おそろしい。オズがカンカンに怒って、トゥエリーで俺様を本当にライオンの姿にしちゃった。そのまま火だるまにされそうだったから、俺様、反省しますって言ったの。反省する代わりに度胸という名の勇気を差し出しますって言って。そしたらね、オズったら、俺様から勇気を取っちゃった。もうこうなったら反省しないとって思っていたら、もう、勇気が無いもんだから、見えるもの全てが怖くなってしまって、お友達はお花ちゃんだけ」
キングが手鏡をちらりと覗きましたが、すぐに懐に手鏡をしまいました。
「ああ! なんておそろしい顔なの!」
キングがちらっとお花に止まった蝶々を見ました。しかしその瞬間、びくっと体が飛び跳ね、慌ててナイミスの後ろに隠れます。
「きゃっ! 蝶々だ! ひい! やめて! 俺様、反省したよ! 何もしないからぁ!」
「こいつは重症だぜ。実に憂鬱だ」
ナイミスがぽかんとキングを見つめました。それを見たアクアがドロシーに顔を向けます。
「ねえ、ドロシー、君さえよかったら、キングも一緒に連れて行ったらどうだろう」
「わお! アクア! なんて素敵な提案なんだ!」
ドロシーが手を叩き、キングの背中を撫でました。
「ねえ、キング、これから僕達、オズに会いに行くんだ」
「えー!? オズに会いに行くのぉ!? ドロシー! 危ないよぉ! そんな危険なこと、しちゃいけないよぉ!」
「ナイミスもアクアも、オズに渡したものを返してもらいに行くんだ。もしかしたら、オズは怒ったわけじゃなくて、キングに驚いてしまって、一時的に怒ってたのかも。実はとっても勇気を返したくて仕方ないかもしれないよ。どうかな? 一緒に謝りに行かない?」
「そっか。オズは俺様の大きな体にびっくりしちゃったんだ。それは仕方ないね! うん! 俺様も悪いことしちゃったから、謝りに行く! それで、勇気を返してもらうよ!」
「ふっ。とてもいい子じゃないか」
「よし! そうと決まれば出発の準備だ!」
ナイミスの掛け声と共に、四人と一匹が並びました。
「僕は心を返してもらうため」
「俺は脳を返してもらうため」
「僕達はカンザスに帰してもらうため」
「俺様は勇気を返してもらうため」
「にゃー!」
「さあ、行こう! トト! みんな! 出発だ!」
ドロシーとトトがスキップをし、アクアがブリキの足を動かし、ナイミスはギターを弾きながら足でリズムを刻み、キングは内股で歩いてついてきます。
お花畑に歌声が響き渡ります。
オズの魔法使いに会いに行こう。
オズは誰だい。魔法使いさ。
偉大な魔法使いオズ。
オズは何でも出来るよ。
呪いをかけることも。
人を助けることも。
オズの魔法使いに会いに行こう。
弱虫を連れて会いに行こう。
「……それにしても、なんだか眠くなってきたな」
ドロシーが急に元気をなくしてしまいます。そして、トトまでもお花畑に座り込んでしまったのです。
「にゃあ……」
「ふわあ。一体何なのかな。急に眠たく……」
その瞬間、ドロシーの意識がなくなってしまいました。突然倒れたものだから、ナイミスとアクアはびっくり。
「一体どうしたってんだ?」
「すやあ」
「おやおや、こいつは憂鬱だぜ! 俺達以外、みんな安らかに寝てら!」
寝ているのはドロシーだけではありません。トトも、キングも、まるで安心したように、お花畑で眠ってしまったのです。
「なんてこった。ドロシー、起きてくれ」
アクアがドロシーの肩を叩きますが、ドロシーはまったく起きません。
「こいつは困ったぜ」
「ん? ナイミス、何か聞こえないか?」
アクアに言われて、ナイミスはわらの耳をすませました。なんだか変な音。さっきのキングよりも怖い怖いうなり声と、なんてこと。悲鳴が聞こえるではありませんか!
「助けて!」
誰かが叫んでいます!
「助けて!」
「大変だ。誰かが助けを求めてるぜ。こいつは憂鬱だ!」
「来るぞ!」
二人が構えると、何かがぴゅっと飛び出しました。
「助けておくんなまし!」
ねずみがアクアの足元へ飛びついてきました。花畑の奥から追ってきたのは、しがないヤマネコです。しがないヤマネコは、まるでめらめら燃える炎のように瞳を燃やし、ねずみを追いかけていたのです。
アクアは心がありませんが、しがないヤマネコがこんな無害で小さな生き物を殺すのは間違っていると思ったので、ヤマネコが飛び掛ったのを見て、斧をさっと振り下ろし、頭と胴体をぱっかり切り離したのでした。二つに分かれたヤマネコはアクアの足元にごろにゃんと転がりました。
「ああ! 助かりましたわ! どうもありがとっ!」
「礼にはおよびません。無害なレディ。僕は心がないブリキ。助けが必要そうな方はなるべく全て助けるように気を使っているのです。それが君のような、ただのねずみであってもね」
「ただのねずみでちゅって!?」
ただのねずみは憤慨してしまいました。
「わたちは女王でございまちゅ! 全ての野ねずみの、女王なんでちゅのよ!」
「なんですって? おお、それは大変失礼しました。どうかご容赦を」
「まあ。礼儀がなっている方はだいちゅき。よござんちゅ。わたちを助けてくださったから、お礼をさしあげまちゅわ!」
その瞬間、何匹かの野ねずみが小さな足から出る素早さで駆け寄ってきまして、女王に叫びました。
「まあ! 女王様!」
「ご無事でよかった!」
「もうだめかと思いましたでちゅ!」
「こちらの女好きの心なしが、わたちの命を救ってくださったの。ですから今後、この心なしが困っていたら、お前達は必ずこの方を助けてあげますように」
「御意!」
「さあ、心なしさん。何かお困りなことはございませんか。野ねずみ達が何でもしてさしあげますわ!」
「それなら一つ困ったことがあるんだ。僕らの友人達が、この真っ赤に燃える素敵なお花畑でお昼寝を始めて、まったく起きようとしないんだ」
お昼寝と聞いた瞬間、野ねずみ達は息を呑みました。
「まっ! お昼寝ですって!?」
「それは大変でちゅ!」
「この赤い花はとっても危険なのです! うかつにも眠り続けてしまうと、死んでしまうの!」
「大変だわ!」
「すぐに助けてあげなきゃ!」
野ねずみ達はそう言って仲間を呼び、赤いお花畑からドロシー、トト、キングを花のない地面まで運んでくれました。ドロシーは欠伸をしながら起きて、まあびっくり! 野ねずみに囲まれてるわ!
「ふわああ、トト、野ねずみ達にご挨拶。……ボンジュール」
「……にゃー」
「あなた、とっても危険だったのよ。わたち達が助けてあげたんでござんす」
「わお! そうだったの? なんてこった! 助けてくれてどうもありがとう!」
「今度また助けてほしい時は、野原に出てきてお呼びなさい。聞きつけて、お手伝いに参りまちゅわ。それでは、ごきげんよっ! さよならっ!」
「さよならっ!」
野ねずみ達は草の中へと走っていき、女王様も仲間達と一緒に駆け去っていきました。ドロシーは自分達の身に何があったのかをナイミスとアクアから聞き、本当に自分が助かってよかったと、心から思ったのです。その頃、ようやくキングも目を覚ましました。
「ふわわぁ。よく寝たぁ」
「よし、目もぱっちり覚めたところで、エメラルドの都へ出発だ!」
「にゃー!」
お花畑を抜けると、森へと繋がっていました。しかし、この森はね、とても凶暴な野獣がいる噂があったのです。キングはとても臆病ですから、そう言った噂はすぐに耳に入るようでしたので、とても詳しく教えてくれました。
「ジャックっていう巨人がいるんだ。結構前にね、男の子がジャックの大切なハープを盗んでしまったもんだから、それ以来、男の子を探し回って、見つけたら、男の子じゃなくても、食べようとしてくるんだって!」
「ジャックだなんて、とても素敵な名前だね! トトもそう思うだろ?」
「にゃあ」
「ド、ドロシー、駄目だよぉ! 巨人は、とってもとっても怖いんだからぁ!」
「わかったよ。気をつけるね! ありがとう。キング!」
そう言ってドロシーがスキップを続けますと、なんだか全員、とても嫌な予感がよぎりました。だって、何となく、体がふらふらするんですもの。
最初に声を出したのはナイミスです。
「おや、なんだか揺れてないか?」
「おや、何だろうね」
一行が辺りを見回しますと、突然、大きな地震が起きたのです。一行はびっくりして、全員飛び跳ねてしまいます。キングに関しては、心臓まで飛び跳ねてしまいました。
「わーあ!」
「にゃー!」
「ぎゃー!」
「わー!」
「きゃーーーーーーあ!!!!」
一行は驚いて後ろを振り向きますと、なんと、目の前に、巨大な足があるではありませんか。みんな、びっくり仰天。目をまん丸にしてしまいます。
「きゃーーーーーーあ!!」
キングは悲鳴をあげました。
「ジャックだーーーー!!」
キングはドロシーとトトを抱えて、逃げ出してしまいます。
「きゃーーーーー!!」
「わわわわ」
「にゃにゃにゃにゃ」
「こ、こらこら! 待つんだ!」
「僕らを置いていくな!」
一行はすたこらさっさと逃げて行きますが、ジャックは大きな体を動かし、一行の後を追います。キングに抱えられたドロシーが巨人を見上げました。
「何てことだろう! トト! 大きなジャックだ!」
「にゃー!」
「大きなジャックに、元気にご挨拶!」
うーーーん!
「ボンジュール!」
「にゃーあ!」
「きゃーーーーーー!!」
ジャックがどしーん、と歩きます。地面が揺れて、ナイミスとアクアとキングが飛び跳ねました。
「わあ!」
「わあ!」
「ぎゃーーーーーーー!!!!」
三人は必死に逃げますが、ジャックが歩いていくごとにどんどん地面が揺れ、とうとう地割れが起きてしまいました。
地面と地面の間に、穴が出来てしまいます。
「あっ! 大変だ!」
ナイミスが思わず止まります。その背中にアクアがぶつかり、アクアの背中にキングがぶつかります。しかし、流石キングです。ドロシーとトトだけは上に持ち上げ守り抜きます。
「どうしたんだ? ナイミス」
「こいつはいけねえ! 見てごらん! 道の間に穴が空いて、とても渡れない!」
こういう時、下を覗き込んではいけません。これはお約束です。なぜなら、とっても怖くなってしまうからです。キングのように、体が震えてしまうのです。
「きゃーーーーー!!」
キングがドロシーとトトを抱きしめました。
「ど、どどどど、どうしよぉ……!」
「落ち着くんだ。キング。何かいい方法があるはずさ!」
「にゃー!」
「そ、そんなこと言ったって……。めそめそ。しくしく」
こうしている間にも、巨人はどんどん近づいてきます。ドロシーが指を鳴らしました。
「よーし! ここはみんなで知恵を絞るんだ! さ、輪になって!」
一行は丸くなり、話し合いを始めることにしました。
「道は向こうにあるけど、渡るためには橋がいる。ねえ、みんな、どうしたらいいと思う?」
「だったら、一つ俺に提案がある!」
「おや、脳なしのナイミス、一体どんな提案だい?」
「アクアに長い長い木を切ってもらったらどうだろう!」
「ああ、どうしてそのことに気付かなかったんだ! わかった! 僕は木を切ろう。任せてくれ! だがね、しかし、木を切るのにも時間がかかる。巨人から気を逸らす必要がある。誰か、巨人と鬼ごっこをしてくれないか?」
「よし、手分けして巨人の囮になるんだ!」
「お、お、お、おとり……!?」
キングが泡を吹いて倒れてしまいます。
「ぶくぶくぶく……」
「にゃー!」
「キング! しっかりして!」
「キング、お前も男だろ! アクアを助けると思ってやろうじゃないか!」
「う、うん、でも、俺様、大丈夫かな……。とっても怖がりだし……」
「よし、ここはみんなで協力しあおう! トトと僕もやるよ!」
「にゃー!」
ドロシーがキングの肩を叩きました。
「キング、これは遊びさ! さあ、遊ぼうよ!」
「で、でも、相手はジャックなんだよ? 俺様、とってもとってもおっかなくって!」
「大丈夫! 君は一人じゃない! 僕達だっているんだから! ね、トト!」
「にゃあ!」
「さあ! ジャックが来たぞ! みんな、位置につくんだ!」
ドロシーとトトが走り始めました。
「さあ! ジャック! ここまでおいで!」
「にゃー!」
ナイミスがギターを弾き始めました。
「俺のララバイ。ララバイララバイバイ」
キングが木に隠れました。
「ぶるぶるぶるぶる!」
三人の自由な行動に、巨人のジャックは目を回します。だって、まるで小さなアリ達が自由に行動しているようなのですもの。ジャックもびっくりみっくすまっくす。
一方、アクアはとんちんかんちんと斧で木を切ります。
「倒れるぞー!!」
木が倒れ、橋になりました。
「さあ! 行こう!」
アクアの掛け声と共に、キングが一目散に渡り、ナイミスがギターを弾きながら渡り、ドロシーとトトが渡ります。しかし、ジャックまで歩いてきました。このままでは、ジャックも橋を渡ってしまい、ドロシー達を捕まえに来るかもしれません。
そこでアクアは考えました。ドロシーとトトが渡りきった瞬間を狙って、橋を切り落としたのです。
「あっ! 何するんだよ!」
ジャックが落ちていきます。
「オラのハープ返せーーー!」
「ふう。間一髪だったね! トト!」
「にゃー」
「ありがとう! アクア!」
「なんてことはないさ」
「巨人は撃退した! さあ、エメラルドの都に向かって歩こう!」
一行は旅に戻ります。ドロシーとトトはスキップをして、ナイミスはギターを奏でて、アクアは斧を担いで、キングは尻尾を揺らして森を歩いておりますと、その場で跳ね飛んでいる看板を見つけました。
「きゃっ!」
びっくりしたキングがアクアの後ろに隠れてしまいます。
「看板がぴょんぴょん飛び跳ねてる! きゃー!!」
「ドロシー、その看板にエメラルドの都の方向が書かれているかもしれない」
「そうだね! アクア! トト! 看板を見よう!」
ドロシーとトトが飛び跳ねる看板を覗きますと、看板が腰を曲げました。
「なんだい? あんたら。迷子かい?」
「わお! なんてことだ! トト、看板が喋ったよ!」
「にゃー!」
「なんだい? 看板が喋っちゃ悪いのかよ」
「とんでもない! 看板が喋れるなんて、とても素敵さ! トト、看板さんに元気にご挨拶!」
うーーーん!
「ボンジュール!」
「にゃー!」
「はいよ。どうも。うるせえな。なんだってんだ。全くさ。方向なら教えるよ。あっちあっち」
「あっちなの?」
「こっちかも」
「こっちなの?」
「知らねえよ。どうせ信じないんだろ」
この看板はひねくれていたのです。なぜって? それは、誰もこの看板を信じてはくれないからです。
「アタシがあっちと言えばこっちに行って、アタシがこっちと言えばあっちに行く。ふん。もういいよ。知らねえよ。その代わり、どうなっても知らないぜ」
「看板さん、僕らは君を信じるよ。なんてったって、僕はエメラルドの都に行くのは初めてだから」
「俺も初めてだ」
「僕もここからは初めてだ」
「俺様もわかんない」
「にゃー」
「お願いします。看板さん、僕らをオズの元へ導いてくれませんか?」
ドロシー達がお願いしますと、看板はまたぴょんぴょん跳ねました。
「そいつはだめだな」
「どうして?」
「アタシはトゥエリーで口が聞けるようになったもんだから、オズ様には感謝してんだ。あんたら、オズ様に会って酷いことをしないだろうね?」
「僕ら、オズに許しを乞いに行くのさ!」
「許しを乞うだって?」
看板はげらげら笑います。
「そいつはいい! 罪を認めてオズ様に会いに行くなら手を貸そう。あっちさ」
「ありがとう! 看板さん!」
「にゃーあ!」
「実に有意義だぜ。どうもありがとうよ」
「ありがとう。看板君」
「こ、怖がってごめんねぇ! ぴょんぴょんしてるの、可愛いね!」
ドロシー達は看板の横を通り過ぎました。
みんながいなくなった頃、看板が言いました。
「ちなみに、アタシはトゥエリーで逆のことを言ってしまうから、アタシの導く方向の逆を行くんだぜ。これ、お約束」
看板がぴょんぴょん飛び跳ねますと、ドロシーの悲鳴が響き渡りました。
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