phase55 繋がる線

 瑞希は自分の身体を抱いてガタガタと震えだした。寒いわけでもないのに全身の震えが止まらない。身体が人外の少女に変わっても、心だけは元のままだと信じていたのに、そう思う心自体がニセモノだった。鍵森瑞希なんて人間はとっくにいなかったのだ。


(俺は……)


 身体の芯が凍りつくような恐怖と孤独感。そんなつもりはなかったとはいえ、騙されていたと知ったら幸助達はどう思うだろう。口では慰めてくれるかもしれないが、今までと同じには見てくれないに違いない。目から熱い液体がはらはらと流れ落ちる。己だと思っていた心すら、訳の分からない機械だったなどと──


 その時、瑞希は不意に誰かに抱き締められる。匂いと感触で玲一だと分かった。いつもなら引いてしまうところだが、今はその温もりと柔らかさが嬉しくて心強かった。瑞希は玲一の身体を強く抱き締め返した。


「……ティリアの事は分かった。では我ら稀人まれびとは何なのだ?」

「稀人とは言い得て妙だな。質問に答えよう。世界の変革は決まっていたが、どのような形になるかは実際のところ流動的だった。私はそれに一定のルールを定め、新たな世界の雛型ひながたとなるよう、〈マルチバースサーガ〉を作り上げた」


 瑞希はもうこの先の話など聞きたくなかったが、天野は楽しげに続ける。


「〈マルダリアス〉とは単なるデータではない。『ミトラ』と〈バーサルウェア〉によって生み出された別の世界、別の宇宙なのだ。無論その在り方はこの世界とは全く違うものだがね。時が来れば二つの世界は交わり、全ての物は新たな形にされる。生き物はもとより空も海も砂粒一つまでも」

「それにしては妙ではないか。私には間違いなく鬼島玲一の記憶がある。大半は何の感情も湧かぬ記録でしかないといえど、それは紛れもなく私の一部だ」


 玲一の台詞を聞いた天野は不快そうに鼻を鳴らした。言葉にはっきりと負の感情を滲ませる。


「何事にも想定外は付き物とはいえ、気分が良いものではないな。見ればわかるように今の『ミトラ』は眠っているようなものだ。そんな『ミトラ』の近くに居たことで何らかの悪影響を受け、そのような不完全な状態になってしまったのだろう」

「我らが不完全だと?」


 不機嫌そうな紅美の声がすぐ傍から聞こえた。部屋の温度が下がったように感じ、瑞希は玲一に抱き着いたまま身体を強張らせる。玲一の手が頭を撫でてきた。鋭い爪の生えた指が瑞希の髪を優しくなぞっていく。


「その通り。新たな世界の担い手に旧世界の個人的な記憶など不要。それはこの私だけが持っていれば良いものだ」


 天野の台詞で部屋に緊張が走った。玲一がぴたりと動きを止め、すぐ近くから焚火のような熱を感じる。


「本来ならばこの変革は、とっくにこの宇宙全てに及んでいるはずだった。しかしながら現実はこのちっぽけな田舎町を塗り替えるに留まっている。しかもはなはだ中途半端な形でだ。何故だと思うかね?」

「ティリアの意志。それ以外あるまい」


 玲一の答えを聞いて天野は大きく頷き、わざとらしい溜息まじりに天井を仰いだ。


「その通り。まったくもって皮肉なものだ。『ミトラ』が力を行使する為には人間を取り込む必要があったが、そのせいで肝心の変革が足踏みしてしまうのだから。見てわかるように、今の『ミトラ』は人間の記憶の影響を受け過ぎている。己の使命も忘れ、力と記憶を自ら封じてしまうほどにな。おかげでも今も、余計な手間をかけることになってしまった」

「……『ミトラ』って何なんだよ……誰が何のためにこんなもの」


 幸助が黄金の物体を見つめながら吐き捨てた。


「私とて全てを知るわけではない。だが生命と世界を新たなステージへ昇華させるための存在であることだけは確かだ。出海幸助。君がこの変革の、『仁蓮病』の影響を受けないのは何故か、そろそろわかったのではないか?」

「……」


 幸助は問いに答える代わりに視線を合わせてきた。その様子を見て天野は満足そうに微笑む。


「そう。が君を守っているからだ。まったく悪い男だよ。私からすれば大事な娘についた悪い虫だな」

「てめえ……」


 幸助は興奮して立ち上がりかけるが、すぐにネジが切れたように動きを止め、力なくソファに沈んだ。痛々しい沈黙が場を支配する中、天野だけが薄笑いを浮かべている。


「……それでおぬしは我らに何を求める」

「知れた事。『ミトラ』の力で新たに生まれる世界で、私は同胞を率いて永遠の国を作り上げる。老いも病も飢えも差別もない国をな。それこそが私に課せられた使命なのだ。君達にはその手伝いをしてもらいたい」


 周囲の視線が集まってくるのを感じて瑞希は身を固くする。正直、そんなことに協力したくなかった。この世界の全てが別のものに書き換えられてしまう、というのだから。確かに自分の不幸を嘆いて世を呪った事はある。だからと言って、本気で全て消えてしまえと思っていた訳ではない。幸助がいたし〈マルサガ〉の仲間がいたからだ。


 それが本物の鍵森瑞希から奪った思い出に過ぎないとしても、今の瑞希にはそれしかないのだから。


「俺は……」

「何を迷う必要があるのかね?原始の海に生まれた生物は弱肉強食と進化の果てに、自らを滅ぼさんとしている。遠くない未来、大いなる破滅が訪れるのは確定しているのだ。たとえ原生動物からやり直したところで何度でも同じことを繰り返す。それが生き物が背負ったなのだ。『ミトラ』よ。君はそんな悲劇の運命を変えるため、偉大なる存在が遣わせてくれた救いなのだ!」


 そんな話をされても瑞希の胸にはまるで響かない。人間が、生き物が、生まれながらの罪のせいで滅びを繰り返すというなら、それも仕方ないと思ってしまうからだ。

 そもそも瑞希は自分達がそこまで超越した存在には思えなかった。天野の言うような世界が出来たとして、同じ事を繰り返さない保証がどこにあるのか。


「大丈夫だ、ティリア」

「サイカ……」


 玲一ではなくサイカが耳元で囁いてくる。サイカもディアドラもロールプレイではなかった。思えば二人は一度として玲一や紅美を名乗った事はなかった。勝手に勘違いしたのは、望みをかけたのは、瑞希の方なのだ。

 本音を言えば違和感を感じてはいた。それでも考えたくなかった。認めたくなかった。玲一と紅美がもうこの世にいないかもしれない、なんてことは。


「理屈はいらん。そなたが今どうしたいか、それだけを考えればよい。どんな道を選ぼうとも私はそなたを支えよう」

「ティリア。私達が信じるのは今の君だ。正体とか事情なんてどうでもいい。君と同じ道を歩けるならこの身が朽ちようと悔いはないさ」

「二人とも……」


 彼女らは玲一や紅美とは別人だ。それはもう認めざるを得ない。でもそれが何だと言うのだろう。二人はもうかけがえのない身内になっていた。同じ境遇だからというだけではない。全てを知ってなお、ずっと一緒に居てくれると言ってくれた。仮に今この瞬間、二人から玲一や紅美の記憶が消えてしまったとしても、育んだ絆が消えることはない。


「俺に難しい話はわかんねえ。でもティリアがやるってんならやるだけだぜ」

「ははっ、アジールらしいな」


 冷え切った胸の内に火が灯った。瑞希は仲間達の顔を一人一人見つめていき、最後に幸助と目を合わせる。先程と違って幸助は逃げなかった。


「……瑞希、すまねえ」

「謝るなよ。謝らなきゃならないのはむしろ」


 きっかけが幸助にあるとしても責任は間違いなく自分にある。幸助はただ助けようとしてくれただけだなのだから。本物の鍵森瑞希がここにいたとしても、きっとそう言うはずだ。それに、幸助の存在がどれだけ救いになっていたかを思えば、感謝こそすれ恨むなんてあり得ない。


「言えた義理じゃねえのは分かってるが、これだけは言わせてくれ。俺にとってお前は最高の親友だ。たとえどんな身体になっちまおうがな」

「俺は鍵森瑞希じゃない。お前が言った『最高の親友』を殺して記憶を奪った挙句、本人に成りすまロールプレイしてただけだ。そんな奴を許せるのか?友達って言えるのか?」

「お前はどっからどう見ても瑞希だよ。プライドが高くて意地っ張りで、義理堅くて情に厚い。ガキの頃から何も変わってねえさ」


 一言一句、言葉と共に幸助の目に力が戻ってくる。その迫力に押されて瑞希はたじろいだ。


「何で許せる……どうして信じる」

「お前は殺して奪ったって言ったが、俺はそうは思わねえ。今までずっとお前を見てきたから言える。お前は受け継いだんだよ。あいつの心をな」

「……!」


 その瞬間、瑞希の頭に稲妻のように蘇ったものがあった。それは、この身体になる直前の記憶。今に至るまでまるで思い出せなかったその時の記憶が、つい昨日のことのように脳裏に浮かんだのだ。


(そうだ……確かに俺は、鍵森瑞希は、自分の意志で『とりかえっこ』に応じた……そうなってもいいって……で、でも)


「……同じことだろ。俺の代わりに本物の鍵森瑞希はいなくなったんだから」

「大違いだぜ。何でも無理矢理ってのは良くねえ。そこに同意があるか、意志があるかってのは一番大事だ。人間だろうが、そうじゃなかろうがよ」


 その言葉に瑞希は胸を抉られた気がした。自分にその意志があったとしても、玲一に、紅美に、巻き込まれた赤尾に、亡くなった人々に、そんなものがあったはずがない。


「そのせいで、俺のせいで何人死んだと思ってる!」

「悲劇のヒロイン気取りもたいがいにしとけ」

「だ、誰が!」


 瑞希は顔を真っ赤にして反論する。事実を言っているだけで、自意識過剰の痛い女みたいに言われる筋合いはない。


「話聞く限り、にはどうしようもなかったことだろ。むしろお前以外が選ばれてたら、今頃は全人類どころか地球ごとあの世行きだっただろうぜ」

「……」

「それでもお前が自分を許せねえってのもわかる。だから……俺が許してやる。文句言ってくる奴全員にお前は悪くねえって言ってやるさ。逆に、お前が俺を許してくれなくても、俺はお前に付き合うのをやめる気はねえ。とことん付き合うってとっくに決めてんだからよ」


 幸助はニヤリと笑って拳を突き出してきた。


「サイカに先に言われちまったが、難しく考えるな。お前はお前がしたいと思ったことをすりゃいい。俺達はそれを支えるだけだ。無論、自分の意志でだ」

「……幸助」


 瑞希はその言葉を胸の中で繰り返した。今の自分が鍵森瑞希のニセモノだと知っても、この異変の元凶として何万もの人々を殺した存在と知っても、味方になってくれると。ずっと支えてくれると。


 気づけば震えは完全に治まっていた。瑞希はサイカと頷き合って身体を離し、天野を睨みつけながら立ち上がる。


「三文芝居は終わったかね?」

「待っててくれてありがとう。でも、あんたに協力するなんてお断りだ!幸助!フェリオン!」


 瑞希は幸助と並んで入口に向かって駆け出した。先程のシレニーという女が素早く立ち塞がってきたが、武器も出さなければ足も止めない。勝ち目が薄いことは分かっているし、仲間を信じていたからだ。


「やれやれ。すっかり不良娘になってしまったものだ」

「おらぁぁぁっ!」


 アジールの攻撃を天野は背後に跳躍して回避した。身代わりになった高級なソファが豪快にはじけ飛ぶ。ディアドラはそれを見越して追撃を仕掛けた。だがその瞬間、周囲の空気が一変するのを瑞希は感じた。


「うっ!?」

「ぬがっ!?」


 天野と交戦していた二人が急にバランスを崩して床に転がる。サイカとフェリオンも様子がおかしくなって立ち止まり、立っていることも辛そうに顔をしかめている。すぐ傍ではシレニーも苦しげな表情を浮かべて床に膝をついていた。一方、瑞希と幸助に異常は起きていない。


「どうしたってんだ!?」

「空気がっ……!?これじゃまるであの日の……」

「なんだ!?ホモサピエンスにも分かるように説明しろ!」


 瑞希とて訳が分からなかったが、己の感覚は間違いなく周囲の異変を感知していた。今ではすっかり慣れてしまい普通だと思っていたが、こうしてみると明らかに異常と言えるほど違う。


「今、この部屋はと同じ状態になっている。本来の力を出すことはできんよ」

「ぐぁっ!?」


 力を振り絞って起き上がろうとしていたディアドラを踏みつけて床に這わせ、天野は愉快そうに笑った。


「この大いなる変革はことわりの違う別の宇宙、別世界との融合と言ってもい良い。我らの力の源泉もまた同じなのだ」

「な、なら何でてめえだけ……」

「愚問だな。私が何のためにこのルインの身体を得たと思っている。最初からお前達に勝ち目などない」

「幸助っ!逃げろ!早く!!」


 瑞希は膝をついたシレニーを無視して反転すると、ディアドラを踏みにじる天野に飛び掛かった。だがそれは簡単に受け止められ、逆に床に突き倒される。すぐさま立ち上がってタックルを仕掛けるが、それも簡単に避けられた上に後ろ手に拘束されてしまった。こうなるともはや身軽さも何もあったものではない。


「あっ!?は、放せっ!!」

「そう嫌がらないでくれたまえ。君にはいずれ私が築く王国の王妃になってもらうのだからな」

「な……」


 わざとらしく優しい口調で伝えられた言葉に、瑞希は頭の中が真っ白になった。言葉の意味が頭に入ってくるにつれ、顔から血の気が引いていく。この男と結婚させられるというのだから。


「ふ、ふざけるな!誰がお前なんかと!!」


 こんな男と結婚するなど、自分がもともと女だったとしても論外だ。瑞希は力の限りに暴れるが掴まれた手首は微塵も揺るがない。


「それが、父親面をしていた男の台詞か!」

「おぬしのような男に、ティリアを渡すと思うてか!」


 ディアドラとサイカが立ち上がって踏み込んでくるが、その動きはいつもとは比べ物にならないほど鈍く弱々しかった。天野に蹴飛ばされたサイカはディアドラにぶつかって絡み合うように床に倒れる。


「うぁっ!?」

「ぐぅっ!?」

「神話を紐解けば珍しい事ではない。そして、これより起こる事はまさに神話となるのだからな」

「ク、ソ、野郎!」


 よろよろと近づいて来たアジールが腕を振りかぶるが、天野は悠々とその足を蹴り払って転倒させる。この状況で天野の力は圧倒的だった。瑞希は弱体化の影響こそ受けていないが、元々の力が違いすぎて勝負にすらならない。天野に拘束されたまま己の非力に歯を食いしばっていたが、幸助がこちらに駆けてこようとしているのを見てハッとする。


「駄目だ幸助!お前が手に負える相手じゃない!」

「ぐっ……!!」


 幸助は部屋の真ん中で立ち往生してしまった。瑞希は自分の甘さに歯噛みする。サイカとディアドラとアジールの三人の力があれば、どんな罠があろうが力づくで突破できる、という油断があった。それがまさかこんなことになるなどと。


「出海幸助。もはや君に用はない。このまま帰るなら無事に帰してやるし、なんなら土産もつけてやろうじゃないか。私と彼女の結婚式の招待状をな」

「て、てめえ!」

「サイカ、二人をっ!」


 再び立ち上がったディアドラが身を挺して天野を抑えにかかる。しかし圧倒的な力の差で足止めすらできず、打ち倒されてしまった。


「諦めたまえ。同胞を痛めつけるのは私の本意ではない。いずれわが臣民となるのだからな。彼女の傍に居たいのなら側室として迎え入れてやっても良いぞ」

「はっ……笑えない冗談だな……貴様と比べれば、あの半魚人の方がいくらかマシだ」

「反吐が出るわ、下種が。そこの人形でも相手にしておれ!」

「これ以上の無礼は、許しません」


 天野に挑みかかろうとしたサイカにシレニーが体当たりする。二人は勢いのまま床に倒れ、激しく揉み合いながら転がった。


「おのれ!邪魔立てを!」


 気づけば立っているのは天野と幸助、無力な囚われの身となった瑞希だけになっていた。天野が余裕の笑みを浮かべて幸助に迫り、幸助はじりじりと後ずさりする。


「ど、どうせ後で殺す気だろうが!だったらちょっとだけでも楽しんでやる!」

「えっ……」


 幸助はサイカとキャットファイトを繰り広げていたシレニーに飛び掛かり、抱き着いた。錯乱したとしか思えない行動に瑞希は困惑する。いくら勝ち目がないからってそれはないだろう、と。しかし長い禁欲生活や先程の様子を考えると、やりそうな気もしてしまう。


「な、何を……やめなさい!」

「ふへへへ!へぶぇっ!?」


 幸助はシレニーに肘打ちを食らって情けない悲鳴を上げるが、めげずに纏わりつこうとする。あまりにも情けない有様を見せられて、瑞希はむしろ違和感を覚えた。長い付き合いだからこそわかる。こういう時の幸助はたいてい何か考えているのだ。


「……何という下劣な男だ。見たまえ。君が使命を先延ばしにしてまで守ろうとした男の正体を」


 天野は瑞希を解放すると、つかつかと歩み寄って幸助を力づくで引き剥がした。その場で始末をつけなかったのは、シレニーに返り血がかかる事を嫌ったためか。


「この際、お前でもいい!死ぬ前にちょっとだけでも!」

「……あ゛?」


 幸助が台詞を吐いて駆け寄って来た時、瑞希は自分の予想が間違っていないことを確信した。幸助の手が胸元に伸びてくるのに合わせて意識を集中する。ごつい指が胸元に触れたと思った瞬間、幸助は後ろに引っ張られてひっくり返った。


「たっ、たた助けてくれぇぇぇっっ!!」


 床に投げ飛ばされた幸助は悲鳴を上げながら部屋中を逃げ回った。それを天野が追う。その気ならあっという間に追いつけるだろうに、あえて醜態を見せつけようというのだろう。やがて部屋の隅に追い詰められた幸助は、背を向けてガタガタと震えていた。


「このようなクズが『ミトラ』をたぶらかし、偉大なる計画を遅らせていようとはな。だがそれもここまでだ」

「やめろっ!!」


 瑞希は天野の背中に飛びつき、首筋に思い切り噛みついた。自分とルインには比べるのも馬鹿らしいほどの差があるのは分かっているだけに、それは半ばヤケクソだった。


 しかしそこで予想外の事が起きる。瑞希の牙が天野の皮膚を貫いて肉を穿ったのだ。口の中に広がる血の味と共に瑞希の頭に疑問が広がる。


「つっ!?放せっ!」

「ぷぁっ!?」


 顔面に拳を食らって瑞希は意識が飛びかける。それでも根性で天野の背中にしがみついていたが、ついには引き剥がされて床に叩きつけられた。


「こっ……は」


 完全に技をきめられていると軽業の効果が発動しないようで、瑞希は強い衝撃に悶絶する。痛みと息苦しさでまともに呼吸が出来ない。ここまでなのかと絶望に涙が溢れた時、すぐそばから囁くような声が聞こえた。


「よくやった。あとは、任せな」


 意識を失う直前、瑞希は目の前で煌めく光を見た気がした。

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