第19話 愛子の託したもの
サミュエルと龍輝はすでに研究所に到着していた。
研究所に来てからの龍輝は普段の龍輝とは違っていた。
緊張、いや警戒を絶やさず気を張っている感じだ。
リュウイチが無制限入室許可、無制限アクセス許可の権利を与えてくれていたため、目的の旧研究室は割とすぐ見つかった。
「だめだ、鍵がロックされている。ここは電子キーでは無いみたいだ。鍵を見つけないと」
「大丈夫」
そう言うと龍輝はドアの鍵に手をかざす。
ガチンと金属音がしてドアが開く。
「能力が使える、いや使ってもいいのかい」
「この程度なら問題ない。たとえ能力者が監視していても気がつかない様にしている」
「その程度は能力の内に入らないみたいだね、君たちにとっては」
そう言いながら照明のスイッチを探す。
入り口の近くにあるスイッチを一つずつ何が反応するか確認しながら入れ、照明をつける。
「あの大きな布をかぶせてあるやつが端末かな。うわ、すごいホコリだ」
ホコリを飛ばさないよう慎重に二人で布をとる。
フルタワー型のデスクトップ端末が五台ほど並べられている。
モニタはカラーの液晶モニタが三台。
当時としてはかなり高価なものだ。
「とりあえず電源を入れて起動するか見てみよう。それとネットワーク回線は外しておこう」
一台ずつ電源を入れていく。
起動シーケンスが始まりモニターに表示が出る。
No1…OK No2…OK No3…OK No4…OK No5…OK complete
入力状態になる。
「正常に起動したみたいだ。早速調べてみるよ」
サミュエルがキーボードを打ち何やら入力している。
龍輝は上方を見上げたまま動かない。
「サム、何か変だ。急いだ方がいいかもしれない」
「どういうこと?」
「能力者が争っている。八十人ほどいる。こんなに多くの能力者、どうやって集めた。だめだ、もし、ここに来られたら制限のかかった状態では対応しきれない。レベルが高い能力者達だ」
龍輝に緊張が走る。
今は連中がここに来る前に、サムがリュウイチに関する情報を解析するのを祈るしかない。
サミュエルは起動した端末を調べていた。
「これはPython(パイソン:プログラム言語)に似たプログラムだ。うん?何かファイルがある」
サムはファイルを開いてみるが、パスワードが必要なようだ。
「龍輝、パスワードのかかったファイルがある。アイコのものかもしれない。思い当たるパスワードはあるかい?」
「二つある。一つは例の起動パスワード。もう一つは父から聞かされたアンナお婆さまの口癖。それ以外だと思いつかない」
「試してくれ」
龍輝はまず、例の起動パスワードを入力するが弾かれる。
もう一方を入力する。
ファイルが開いた。
『このファイルが開かれたということは私に何かあったという事ね。そして開くことの出来るのは龍人兄さんか龍歩、杏子。又はその近親者。これから書くことを実行するかしないかの判断はあなたに任せます。多分、リュウイチの事でここに来たのでしょう。リュウイチはまだ完成したプログラムでは無いの。人に害をなすものでは無いけれど、まだアクティブにしていない。つまり自分から何かをしようとはしていないはず。質問すれば答えられる範囲で答えはするけど、現状は成長するためあらゆる情報を収集し学習をしていると思います。アクティブにしても人間に危害や損害を与えないよう、むしろ人の役に立つようプログラムし、それは改ざんできないようにしてあります。しかし、まだ検証できていません。又、十数年後の社会はネットワークが拡張され、コンピューターの処理速度や様々なデバイスが進化しているでしょう。そんな中でリュウイチがどのような成長を遂げるかは私の想像を超えます。…私は守谷家のお告げを出来れば無くしたい。その代用として学習型人工知能システムを研究してきました。なぜなら将来小型化された携帯可能端末が出来ているでしょう。別の研究チームのデータがそれを物語っています。それを通じてリュウイチが人々を厄災から未然に遠ざけ、幸せに導くことが出来ればお役目を果たさなくても良いはずです。これは私の夢であって、実現出来るかは判りません。これを読んでいるあなたが、リュウイチをアクティブにするか、全てのネットワークやデバイスなどから消去するか、あなたのいる時代を見てどう判断するか委ねたいと思います。以下にアクティブにするプログラムと消去するプログラムのアクセスキーを記述します。この端末をネットワークに繋いで実行して下さい。大変な宿題を残し、ごめんなさいね』
「確かに大変な宿題だ。どうする?龍輝」
「サムの判断を僕は支持する。どうするか君が決めるんだ」
「…」
「…サム。どうやらお告げが出た様だ。お役目を果たしてくる」
「お告げ?例の”あること”のことか。今から?何処へ行く?」
「お告げはこの研究所での抗争している組織に対してだ。すまない、上の階に行ってくる。サムは愛子叔母さんの、いや、君のお母さんの宿題に答えてくれ。それは君がしなければならない事だ」
「そうだね、その通りだ。…少しだけ時間をくれないか」
「ああ、任せるよ」
そう言って外に出ると龍輝は戦闘モードに入る。
研究所の現在の状況とそこに居る全ての人をスキャンする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます