第17話 サーシャの帰宅

 帰省を兼ねてシャーロットの事業を手伝いに行っていたサーシャが帰ってきた。

「ただいま。龍輝、明日香。これお土産よ。龍輝にはアメリアが企画し、マルガリーテがデザインしたスポーツジャケット。明日香にはシャーロットの新ブランドのドレスよ」

「ありがとう。さすがアメリアさん企画、スポーツウエア並みに動きやすい。それにマルガリーテさんのデザイン、カジュアルジャケットなのに品がいいね。これならどんなシーンにも合いそうだ」

腕や体を回したりしながら嬉しそうだ。

「英国紳士がちょっとした社交場で着るジャケットをヒントにしたみたいよ」

「このドレス、素敵。今度、春名さんのリストランテで食事する時にこれを着ていこう」

「明日香にはまだちょっと早いかも。シャーロットがビジネスディナーに合うドレスをブランドにしたものだから。そういうシーン専用のブランドもいいかもって、思いつきの企画だから」

「どう?”出来る女性”に見えるかしら」

「中身はともかく、見た目はね」

「兄さん、ひどーい。中身も磨いておりますのよ、私。」

と気取ったポーズを取る。

「はいはい。ファッションショーは終わり、二人とも御礼のメール、しといてね。後、着てみた感想もしてあげてね」

「そういえば、アメリアさんの息子、ユリアンさん。プロゴルファーになっていきなり優勝したみたいよ」

「帰りの飛行機のニュースで見たわ。ご主人のアランがキャディをしてたみたいね」

「アランさんも元プロゴルファーで、今では超人気のプロ専任コーチだったよね。これで又、評価が上がるね」

「アメリアがアランにスポーツトレーナーとしてアドバイスしていた時に、プレーヤーよりコーチとしての資質を見抜いたのよ」

「それがきっかけで結婚したんでしょ。何度も聞かされたから知ってるよ」

「お母さんがキューピッドだったんでしょ。アメリアさんから聞いたもの」

「あの二人なら絶対いいなって思えたもの。きっかけを作っただけよ」

「じゃあ私の彼氏も見つけてよ」

「龍人が焼き餅焼くから、だめ。あ、噂をすれば帰ってきたみたいよ」

「ただいま。サーシャ、お帰り」

両手を広げ、ハグを求める。

「今日はいつもより遅いのね」

「うん。久しぶりに小池と山田が揃って練習に来てね。例によって気づかれないように空気密度上げて体力アップさ」

「それじゃあ二人とも、今日はふらふらね」

「それがそうでも無いんだよ。刑事の仕事はハードみたいだね」

「所属部署は違うのよね。確か山田さんは少年課で小池さんが組織犯罪対策課よね」

「うん、たまに連携するみたいだけどね。犯人と格闘する事もあるみたいだから、大怪我しないよう鍛えないと」

「お二人とも十人組み手をするレベルでしょ。一般の人相手なら二十人が一斉に来ても余裕で捌けるわよ。そうそう、これダニエルからあなたにお土産、ワインよ」

「マルガリーテさんのご主人の?」

「曰く、芸術家は良いワインからインスピレーションを得る。らしいから美味しいワインなんじゃない」

「才能豊かな売れ筋作家の選んだワインなら間違いなく絶品だろうね。ロベルトが一番喜ぶかもね」

「きっとそれに合う料理を出してくれるわ」

「ところで手伝いは上手くいったのかい」

「カミルが自らレッスンしてくれたのよ、モデル専門学校の校長がよ。シャーロットが私には厳しくって耳打ちしてたしね。モデルを魅せる手腕は阿吽の呼吸よ。相変わらず気の合う夫婦だわ」

「イベントのプロデュースはマルガリーテさんだろ。そっちの方目当ての観客が多かったのじゃないか?」

「私がモデルじゃ誰も見に来ないって事?失礼しちゃう」

「たとえ素人でも君は素敵だったと思うよ。いや、観客の全員がそう思ったさ、絶対に」

「まあ、半分同窓会みたいなものだから務まったのだけど。…何よあなたたち」

「自分の子供達の前で良くやるよ、こっちが恥ずかしくなる」

「あなたたちも将来、そう言う相手を見つけなさい」

「明日香はずっと家にいていいんだぞ」


 数ヶ月後

「サーシャ。春名がダニエルさんから大量のワインが届いたと言ってるけど」

「マルガリーテからメールが届いたわ。お土産にワイン頂いたでしょ。あのワインに合うおつまみとか簡単な料理のレシピを春名さんとロベルトさんが考案してくれたの。それを送っておいたのね。それをダニエルが気に入ってね、インスピレーションが湧いてあっという間に作成したものがとても高評価でね、それでね、他のワインもって。期待されちゃったみたい。マルガリーテは春名さんとロベルトさんには迷惑だろうからお店で使って下さいって」

「迷惑どころか、二人とも創作意欲が全開だぞ。莉茉も喜んでるよ、今回は手伝いが出来るって。御礼をしておいてって頼まれた。又レシピを送るって」

「良かった。二人には迷惑かけるかなって、私も思っていたから」

「何かお返ししておいた方がいいんじゃないか」

「大丈夫、レシピが一番のお返しよ。創作意欲全開のダニエルを見ている事が、マルガリーテには一番の幸せな時だもの。それより、心配なのはシャーロットとカミルからも依頼が来る事ね。美食家の二人の耳には絶対入っているから」

「春名とロベルトの料理が評価されたって事だろ。二人にとっても嬉しいことさ」

「そうではなくて、起業家のシャーロットよ。レストラン経営に二人を巻き込むかもしれないわ。以前から二人の料理をとても気に入っていたみたいだから」

「一族の料理長がいなくなるのは困る」

「私も料理は得意じゃないから困るわ。その前に手を打っておくわ」

「なんだかおおごとになりそうだな。大丈夫、なのかな。心配になってきた」

「いざとなれば莉茉を人身御供に、って冗談よ」

「目が笑っていないけど」

幸か不幸か、シャーロットからの誘いは来なかった。

「春名とロベルトには一応話してはおいたけど、二人の料理には家の菜園とかここの食材も重要だから行く気は無いってさ、良かった」

「あら、莉茉は将来独立して向こうでやってみたいって言っていたわよ」

「ロベルトが許すと思うかい?」

「あなたと同じでしょうね」

「何がだい?」

「明日香が将来外国で暮らしたいと言ったら?」

「明日香はここに居るのが一番いいんだ。そもそも親父が杏子のカナダ留学を許すから」

「そう言う事よ」

「?」

自分たちの事は棚に上げての娘愛は変わっていない。

守谷一族の日常は、相変わらずの様だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る