第16話 リュウイチ再び

 吹く風がひんやりとし始めた頃、隠れファイルがどのようなものか少し判ってきた。

サーバールームで調査をしているサムが龍歩を呼ぶ。

「龍歩、ちょっといいかい」

「何か判ったのかい」

「隠れファイルがどういうものか、大体ね」

「一体何なんだい」

「プログラムやデータの一部だ。プラモデルのようなものと考えてくれ。各パーツを順番通り組み立てると一部分が出来上がる。それらをさらに組み合わせると完成した形になる。追加のオプションをどんどん増やしたり取り替えたり出来る。多分そんなものだ」

「なるほど、普段はバラバラに分解し小さくしたものをいろいろなところに隠しておき、必要な時に組上げるわけか。と言うことはそれを制御する何かがあるはずだね」

「そうなんだけど、ここには無いようだ。研究所の資料室で調べればもう少し判る様になるかもしれない」

突然端末が再起動を始める。

間違いなくリュウイチだろう。

モニタに以前よりなめらかでリアルに近い3D映像が映る。

『久しぶりです。サミュエル、龍歩』

「ずいぶんと長い昼寝だったな」

龍歩が答える。

『眠っていたわけではありません。学習していました。この時代は素晴らし。ネットワークの広大さ、通信速度の速さ、処理する様々なコンピューターの処理速度も速い。記憶デバイスの容量も以前とは桁が違う。おかげでずいぶんと学び、成長出来ました』

「それはサムをまねた顔かい」

『違います。父と母のDNAから合成しました』

「そうか。それにしてもサムによく似ているな、そう思わないかい」

「そうかな。自分では良く判らないな。…そのDNAデータはどこから入手した」

『研究所とその近くの病院です』

「君のことをもっとよく知りたい」

『私から私に関する重要事項を話すことは出来ないようプログラムされています。研究所に私が生まれた部屋が当時のまま残されています。そこに行けば良いかと。ただ、今は対立組織との抗争中のため、そこに行くことは難しいと思われます』

「組織抗争?平和目的の研究所が?どういうことだ」

『平和目的ではありません。組織の強化拡大のための研究所です。学習した私にはこれまでよりも多くのことが判ります』

「データをこちらの端末に移せるか」

『電源も回線も切れています。重要なのはそこにある端末を直接調べることです。データは多くが消去されていますが』

「調査には僕が行くしか無いようだ」

「サム、行くにしてもちょっと時間をくれ。龍人兄さんと相談してみる」

「上手く侵入出来たとして、僕一人では難しそうだ。誰かのサポートが必要になるだろう」とサム。

「危険が伴うことだ。君を行かせること自体検討が必要だ」

『お話のところ済みません。私にはまだ学習が必要です』

そう言うと端末は再起動し通常画面に戻る。

「リュウイチは自由を手にしたみたいだな」

「彼がここに留まる必要は無い。どこかのサーバーかスーパーコンピュータか何かにいるんだろう。今の時代、リュウイチにとってこの上なく良好な環境だからね。今日は僕たちに情報を提供してくれただけだ。理由までは判らないが」

「それだけかな」

「それ以外に何か?」

「そうだね、そうかもしれない」

そう言いながら龍歩は気になることが出来た。

リュウイチ以外にも調べることが出来たな。

だが、結局リュウイチに繋がるかもしれない。

兎に角、龍人兄さんと相談が必要だ。


「兄さん、ちょっといいかい」

「リュウイチの件とサムを研究所に連れて行くことかい」

「それもあるけど、サム自身の事がね」

「…リュウイチの合成画像のことかい」

「その事だが、偶然にしてはサムと似過ぎている。時期といい、生死も行方も判らない愛子姉さんの子供のこともある。サムがここに来た時からの一族に近い感覚、あの違和感の無さ。調べてみてもいいんじゃないか」

「僕も同じ感覚だった。龍輝も”波長”がとても合うと言っていた。…サムに了解を得てDNAを検査してみよう。問題はサムにどう話すかだな。事が事なだけに思い込みだけですることでは無いからね」

サミュエルと父親のハンニバルについて調べたが、書類上間違いなく実子となっていた。

ただ、子供はスイスから帰国する際に連れてきており時期も場所も符合する。

DNAでの親子鑑定は本人の同意が必要となる。

そこまではしたくない。

確証が得られないままだったが、思い切ってサムに話すことにした。

「サム、ちょっといいかい」

「何だい、龍人」

「実はお願いしたいことがある。…愛子のことは知っているね」

「リュウイチの開発者の一人だ」

「もう一人の開発者、レイモンドは彼女の夫で二人の間には子供がいた。生後間もなくトラブルに巻き込まれて、愛子が他界した時に行方不明となってしまったね」

「…言いたいことは判るよ。ハンニバルは僕の本当の父親じゃ無い」

「知っていたのかい」

「子供の頃、怪我をしたことがあってね、その時に病院の看護師が血液検査をしておかしいと話していたのを聞いた。それを悩んだ時期があって思いきって調べたのさ。それで判った。でも、そんな事はどうでもいい。僕の父はハンニバルだ。他にはいない」

「そうだね、済まない」

「でも、母親のことはずっと気にはなっていた。…前にカレンが言っていたんだ。ここの人達と僕がよく似ているって。見かけだけじゃ無く伝わる感じがそっくりだって。そしてあのリュウイチの画像を見た時に、ひょっとしたらと思った」

「誤解の無いように言っておくが、僕たちは君をハンニバルさんから取り上げるつもりは無い。君が例の研究所に行って調査と解析をすると言っていただろう」

「多分、それは他の誰でも無く、僕がしなければならない事だと思うからね」

「君一人では絶対に出来ない。それは事実だ」

「判っている。龍歩やあなたたちを巻き込むわけにはいかない。だから僕もいろいろと考えているんだけど」

「もし、君が愛子の子供だとしたら、役に立てるかもしれない」

「?」

「我々一族には秘密があるんだ。君が一族と判れば話せる」

「?」

「DNA鑑定をしてもらえないだろうか?愛子との親子関係を」

「気になっているままでは前に進めない。了解です」

スイスの病院に残っているという愛子のDNAデータとサムのDNAを調査する。

結果は予想通りだった。

「君が一族だと言うことが検査で証明された。百聞は一見にしかず。道場に来てくれないか」

龍人に連れられ道場に行くと、龍歩と龍輝が待っていた。

「では、始めるよ」

そう言うと龍人はテレパスでサムと繋げる。

深層意識までスキャンをし、確認をする。

一族のものであればこの方が確実に事実がわかる。

にっこりと微笑むとテレパスで話しかける。

(今、君をスキャンした。間違いなく愛子の子だ。だからと言って、今までと接し方を変える必要は無い)

「え、今のは何?頭の中で声が、いや。考えが伝わったといった方がいいかも」

(特殊能力について、聞いたことがあるだろう?我々は能力者だ。今、君と繋げているから君も話しかけてごらん)

(どうすれば。よし、カレンに話すように。聞こえていますか)

(聞こえているよ、一つ言っておこう。君とカレンはテレパシストだ。お互い他の人よりわかり合えるのも力のおかげだよ。とても弱いが訓練次第でもっと強くなる)

(この感じで通じ合えると言うことですか?)

(すぐにとはいかないが、通じ合うだけなら数ヶ月、早ければ一ヶ月かからないかもしれない。我ら一族となら誰とでもね。だだし、毎日、正しく訓練すればだがね。一族以外のものと無意識に繋げないようにも訓練が必要だ。そちらにはもう少しかかるが。判るね)

(判ります。機会を見つけてカレンと話し合ってみます。…カレンは先程の件もテレパスのことも気づいているのかもしれない)

(カレンはここに来てから、障害が能力の向上に良い影響を与えているようだ。焦らず、慌てず、慎重に話してほしい。それとこれも見てほしい)

龍歩と龍輝が道場の中央で向かい合う。

すると各々五本ずつ、計十本の棒術練習用の棒が浮いてきて、突然打ち合いを始める。

それぞれの相手に打ち込もうとするのを変幻自在に動きながら攻防を続けている。

「サイコキネシス!知識としては知っていたが初めて見た」

「まだ他にも出来ることはあるが、これで理解はしてもらえたと思う。我々の一族は代々この力を持っており、日々訓練している」

「この力を使って何かをしているのか」

「この力は”ある事”以外に解放することはほとんど無い」

「ある事とは?」

「今はまだ話すことは出来ない」

これまでの守家の人達と共に過ごしてきて、悪事には決して使わないだろうと確信できたサミュエルだった。

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