第15話 抗争の始まり
久しぶりに昼時の予定が空いたシュワルツが、ボディーガードを伴い車でレストランに向かっている時だった。
突然オートバイが追い抜きざまに銃を撃ち込む。
弾丸は防弾ガラス通過せず止まっている。
次の瞬間、弾丸を中心に防弾ガラスは渦を巻くようにゆがみ大きな穴となる。
弾丸が動き出しはじめ、シュワルツに向かう。
レーヴェがそれを阻止し、弾丸をはじき出す。
車を急加速させ、バイク毎相手をはね飛ばそうとするが、逆に車がへこむ。
オートバイの男は再びシュワルツに銃を向ける。
引き金が引かれる直前、バイクの前輪をレーヴェはロックし転倒させる。
オートバイの男に直接攻撃が効かない場合を考慮したレーヴェの的確な判断だ。
バイクが勢いよく回転し街路灯にぶつかる。
それに伴い乗っていた男も飛ばされる。
それでも起き上がり銃を車に向ける。
街路灯にぶつかり破損したバイクが浮き上がり、勢いよく飛んでゆきバイクの男を弾き飛ばす。
車はそのまま加速し、離れて行く。
「こちらの行動情報が漏れているのか?調べろ。今のはリストラード流挨拶の様なものだろう。返事が必要だな。例の部隊を使う」
「よろしいのですか?」
レーヴェが確認する。
「部隊の運用はおまえに任せる」
「指示は出しますが、私はあなたを護衛します」
「任せたと言っている」
「では、こちらもまず刺客を送ります。それで相手の組織力と能力者のレベルを確認します」
「研究所から”ツール”の持ち出しを許可する」
「では、催眠ツールをお借りします。実戦での作動確認も兼ねて。情報はできるだけ楽に、正確なものを集めたいので」
「幹部クラスを捕獲できれば良いのだかな。そう簡単にはいかないだろう」
「何も無いよりは良いかと」
「そうだな、できるだけ丁寧な返事を伝えてやれ」
昼食の邪魔をされ少し不機嫌なシュワルツだった。
今日のお勧めランチのスペシャリテが何だったのかに思いを馳せる。
「リストラードも無粋なやつだ」
つい愚痴が声に出る。
「これでシュワルツも本腰を入れてくるだろう。情報戦ではこちらに分があると判ったはずだ。…特殊戦闘部隊の準備状況はどうか?」
「すでに展開終了しています」
「こちらの情報を直接確認に来るはずだ。丁寧にお迎えしろ」
食事を邪魔され、機嫌を損ねているシュワルツが目に浮かぶようだった。
二人のゲームは始まったばかりだ。
賭けるのはお互いの命なのだが、二人とも楽しんでいるかのようだ。
シュワルツの拠点が研究所と知られているのに対し、リストラードの拠点は判明していない。
テレポートで爆弾等の武器を送られかねない。
そのためシールドを張り、絶えず研究所内には通過出来ないよう守らなければならなかった。
その不利な状況を早急に対処するため、レーヴェは強行策をとった。
相手の拠点が判れば、そのような攻撃はただの消耗戦になる。
お互い続ける意味は薄くなる。
三十数人の能力者部隊を七つに分け、四,五人対一人の体制でリストラード側の能力者を強襲させた。
幹部と思われる人物には能力者のボディーガードがついているはずだ。
多くても三人程度だろう。
目立った行動をしている、そんな幹部を探す。
(見つけた。多分リストラード側の人物だ。能力者二名。二チームで対処しろ)
部隊のリーダーが指令を出す。
高級仕立屋から出てきて車に乗り込む男の後をつける。
タイミングを合わせて攻撃をかける。
路上駐車してある車が突然リストラード側の人物と思われる男を乗せた車の前に出て来る。
急ブレーキをかけた瞬間その車のドアが開きちぎれる。
先ほどの車が上から落とされる。
しかし幹部の乗った車両は潰れること無く、落ちてきた車は後方へ飛ばされる。
車両を発進させようとするが、今度はいきなりエンジンルームを潰されてしまう。
幹部と思われる人物を護るようにボディーガードが車の外に連れ出す。
「九人も居やがる。応援を呼べ」
しかしテレパスはブロックされる。
シュワルツ側の能力者を念動力で直接”破壊”を試みるがガードされる。
続けざま引きちぎられたドアを飛ばし、ぶつけようとするが空中で止められ逆に自分に向けて飛んでくる。
シールドで弾くが体の動きを念で止められる。
「ぐっ」
声も出せない。
能力の発動も抑えられている。
幹部の守護をしていた男もテレポートをブロックされている。
幹部を安全にテレポートさせるため車外に出て、発動がほんの少し遅れただけだった。
同様に動けなくされる。
九人の能力者が役割を決めて適切で確実な対処をした当然の結果だった。
「その男はこちらに来て頂こう」
幹部を小型トラックのカーゴルームに押し込む。
「君たちの能力もそこそこだったが付く相手を間違えたな」
そう言うとボディーガード達の体はあちこちがねじれ絶命する。
小型トラックはゆっくりと走り出す。
部隊のリーダーがカーゴルームに入れられた男の顔に球体状のものを近づける。
流体状のものはチカチカと、いろいろな色の点滅を始める。
それを見ている幹部はうつろな表情となる。催眠ツールが効き始めた様だ。
「まず名前を聞いておこう」
「コステロ」
「リストラードの組織での役目は」
「必要なものを調達している」
「調達したものをどこに運ぶ」
「○○カンパニーの倉庫だ」
「その後はどこに運ばれる」
「知らない」
「○○カンパニーと組織の繋がりは」
「組織が運営する企業の一つだ」
「他にはどんな企業がある」
「知らない。××カンパニーの人物を○○カンパニーで見かけた事はある」
「ボディーガードが二人な訳だ。どうやら組織の幹部クラスでは無いようだな。重要な情報は知らないようだ。今の話をレーヴェ指令に連絡しておこう。我々は○○カンパニーを調べてみよう」
再び催眠ツールを幹部の顔の前に近づけ、
「おまえはこの車から降り、五分経ったらこの銃を頭に当て引き金を引け」
「判った」
車から降りた5分後、男は通行人がいる街中で命令を実行した。
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