第14話 再会
スイスにある研究所の近郊にある街のレストラン。
シュワルツは”顧客”との商談を食事を取りながらしていた。
他のもお客はいるが、各自の連れとの食事と他愛の無い会話で、周囲のテーブルの会話など気にしてもいない。
密室でするよりも商談はそのような場所の方が怪しまれることは無いようだ。
今回の”商品”は研究所で開発された特殊な検索ツールだった。
検索したいワードを入力すると、世界中に繋がるネットワークからそれに関連するものを表示する。
あらゆる国の機密情報をもハッキングしてしまう。
そしてその痕跡も残さず、ツールが起動している場所の特定も絶対にされないというソフトウエアだ。
「君のところの他にもほしがっている組織はある。一番高額で購入してくれる組織にしか提供は出来ない。金額を提示してくれ。数週間後には返答をする」
「判っている。良い返事を待っているよ」
「言っておくがその”商品”を使用しても、私の組織と研究所の情報を得ることは出来ない。当然のことだが、一応伝えておくよ」
他愛の無い会話の後、握手をして相手を見送る。
「あんなものはただの”道具”だ。使い方次第で役にも、逆に己を傷つける事にもなる。果たして彼等に使いこなせるかは疑問だな」
シュワルツがテーブルで食後酒を楽しんでいると、男が一人近づいて来る。
ボディーガードに手のひらを向け、威圧する。
シュワルツがその男に気がつき、ボディーガードに許可を出す。
男はシュワルツと向かい合って座る。
「久しぶりだな、シュワルツ」
「何年ぶりになるかな、レイモンド君」
「今はリストラードだ」
「…」
「今の時代、情報を得ることは重要だが、情報を与えないことも重要なのだよ。判っているとは思うが」
「探しても無駄だと言うことは判っていたよ。君から連絡があるだろうと言うこともね」
「わざわざ会いに来た理由は判るな。…なぜ愛子を殺した。」
「…あれは事故だ」
「そんな言い訳が通用するとでも思うか?あのプログラムが原因だろう」
「君があれをバラバラにして隠さなければあんなことにはならなかった」
「外部接続できる回線を引き込んでくれていたからな。外に逃がすことが出来た」
「起動ディスクは見つけてね、立ち上げようとしたら0と1で上書きしてしまった。やられたと思ったよ。後の祭りだったがね」
「組織にあのプログラムを渡すわけが無いだろう」
「しかし、君たちがあのプログラムを消去するわけが無い。どこに隠した」
「たとえ見つけたとしても起動は出来ない。起動パスワードは愛子しか知らないのだから」
「おかげで私の組織は今も活動できている訳か。皮肉なものだ」
「その組織を潰す。それを直接おまえに伝えるためここに来た」
「そうかい、出来るかな」
「その力を得るため今日まで生きてきた。言葉の意味は判るな」
「宣戦布告という訳か。…無事にここから帰ることが出来るかな」
「今死にたくなければやめておいた方がいい」
「手は打ってあると言う訳か。どんな手か知りたい気もするが、今日のところはやめておこう。又会える日を楽しみにしているよ」
「次に会う時はどちらかの葬儀の時だ」
そのまま席を立ち、店から出て行くリストラード。
彼の背を無言で見送るシュワルツ。
その時からすでに戦いは始まっていた。
リストラードが店を出、車に乗るとその前に銀色の髪と金色の目をした男が立ち塞がる。
その男がリストラードに向け、手をかざそうとすると、その途端何かにはじかれれた様な衝撃があり道路の端まで飛ばされる。
すれ違いさまリストラードが車中から金色の目を持つ男に無表情な顔を向ける。
立ち上がり服の汚れを手で払い、店の中に入っていく。
「報告は不要だ。レイモンド、いやリストラードも君の同類を部下にしているようだな」
これまでシュワルツの組織は敵の情報を事前に入手することにより優位に立っていた。
それが今回は出来ないと認めざるを得ない。
「さて、今回はかなり面倒なことになりそうだ。しばらく”商談”は出来そうにないな」
そう言いながら天井を見つめ、自嘲する様に微笑むシュワルツだった。
しばらく天井を眺めていたシュワルツは銀色の髪と金色の目を持つ男に視線を戻す。
「おまえが父の命令で研究所に来たことが始まりだったな」
「あの時のボスはあなたの行動を不審に思っていた。だから私をあなたの下に寄越した。私はボスに拾われた犬だった。貧民街で生まれまだ子供の頃、能力も弱く少しだけテレパスが使えた。生きるため、それを使い金を盗んでいた。周囲の大人にそそのかされ、大金を持つボスを狙った時にボディーガードに捕まった。幼かった私は愚かだった。能力のことを知られ、ボスにそのまま拾われ”餌”をもらうようになった」
「父は部下を狩りの猟犬のように扱うことしかしなかったからな」
「そしていろいろな命令を受け、実行するたびに能力は強くなった。そしてあなたのところへ行き真意を読めと命じられた。…あなたはボスとは違っていた。私を犬では無く人として接してくれた。名前を持たない私にあなたは名前を下さった、レーヴェと。名前で呼んで同じテーブルで食事をしてくれた。あの時に私は組織では無くあなたに忠誠を誓った」
「後にお前の能力を知った時は焦ったよ。しかしおまえは報告しなかった。返答を還さないおまえに業を煮やした父が新たに猟犬を送り込んだ。そいつに愛子を殺された。逆に腹をくくったよ、父からこの組織を奪おうとね」
「愛子の思考は私にも読むことは出来なかった。さらう必要があった。しかし彼等はミスをした。愛子に逃げられ猟犬が愛子を殺してしまった。そしてあなたの意思を私が代行し、愛子を殺した男を始末した」
「愛子を逃したのは私の意思か、おまえの油断か。今更どちらでもいい。…本当はこの手で愚かな猟犬の始末したかったが、あの時はまだ私は無力だった。おまえの力を利用し目的を果たした。そして組織も手に入れた」
「組織が強く、大きくなったのはあなたの手腕です」
「それはレーヴェ、おまえが私を護ってくれそして力も貸してくれたからだ」
「私の忠誠は今もあなたに対してです。シュワルツ様のなさりたいことを出来るよう行動するだけです」
「ありがとう。これからも頼む」
(あの頃のあなたは純粋で、そして孤独だった。私が組織から送られたと知りながら無防備だった。名前を持たない体の大きな私を、獅子の様な強さと尊厳を持ってるとレーヴェと呼ぶようになった。どのような思いでいたかは判っていた。だから私は忘れない、忘れはしない。弟を守るのが兄の役目だ。たとえあなたが忘れても私は決して忘れない)
これからも頼むと言うシュワルツに頷くレーヴェだった。
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