第12話 日本へ
サミュエルはファイル問答から起動したリュウイチにより、学習型人工知能の存在を知るに至る。
そして所長のシュワルツが関係していることを知る。
人工知能のリュウイチが起動したことは隠さなければならないことも理解する。
彼の研究していた究極のセキュリティー開発よりも興味を持った彼は、ファイルの指示に従い日本へと来ていた。
ナビゲーションの案内により着いたところは自然豊かなところだった。
なぜだか懐かしいような感じがするのは気のせいか。
神社の境内に入ると一目で日本人では無いとわかる女性が白と赤い和装で掃除をしている。
「済みません、アイコとリュウイチという名前に心当たりはありませんか?」
一瞬、驚いた表情になったがすぐに警戒をしている。
「どなたですか?」
「サミュエルと言います。昔アイコがいた研究所で働いています」
マーリンは少し考えているようだったが、サミュエルを守家の道場に案内する。
「こちらに。ついてきて下さい」
道場では龍人と龍歩が待っていた。
「サミュエルさん、私は愛子の兄の龍人と言います。こちらは弟の龍歩。愛子をご存じなのですか?」
「いいえ。私の研究がアイコの研究していたことと似ていたため、調べていました。リュウイチを知っているのですね」
と、龍歩が確認をする。
「リュウイチがここに案内したと言っていましたね」
龍人と龍歩がサミュエルを見つめる。
サミュエルは背筋がぞわぞわし、そして頭の中を撫でられているような感覚を覚える。
「私のところに一週間ほど前にリュウイチは現れ、その後現れていません」
と龍歩。
「私のところに現れたのは多分その後でしょう。同じようにその後は現れていません」
「リュウイチは学習型人工知能だと言っていました。姉と同じ研究をしているあなたには今、リュウイチが何をしているか判りますか?」
「私の研究は人工知能が専門ではありません。セキュリティーの開発です。研究所ではアイコの研究データが危険なものとして抹消されていました。私はその事に違和感を感じ調べていました。その程度のため、何をしているかまでは判りません」
「それでは私たちに協力をお願いできませんか?」
「何を、どう協力したら良いのか、私に協力出来るかどうかも判りません」
「リュウイチがあなたをここに導いたのも何か意味があるとは思いませんか?」
「リュウイチが無駄なことをするはずがありません。でも、今ある情報では少なすぎて何をすれば良いのか」
「リュウイチが現れた大学の端末を調べれば手がかりがあるかもしれません。残念ながら私では何も見つけることが出来なかった。しかしあなたなら出来るのでは」
龍歩の言にも一理ある。
研究所でやってきたことだ。
もしかして今回は手がかりを残しているかもしれない。
だからここに導いたのか?
「判りました。ではまず、その端末を調べましょう」
龍歩は大学事務局で手続きを済ませ、サミュエルを大学のサーバールームに案内する。
表向きサミュエルはネットワークスペシャリストでありシステムアナリストとしても有能な人材で、調査とアドバイスのために来ていることにした。
実際サミュエルにはその知識も資格もある。
大学の情報システム管理者でもある龍歩が頼っていつも一緒に行動しても怪しむものはいない。
「まずリュウイチが発動した端末から調べましょう。サーバールームにユーザー端末があるのは助かります」
「サーバーの設定変更等、確認するのに都合がいいからね。セキュリティー上、据え置きタイプが安全だしね」
「リュウイチにとっても好都合だったわけか。うん、やはり隠れファイルが残っている」
「隠れファイル?」
「そう。ファイルがあることも判らない、判ったとしても開示出来ない。削除も出来ない。これに気がついた事がアイコのいた研究所に行くきっかけになった」
「それで進捗はどう?」
「残念ながらまだ解明できていない。その途中でリュウイチの発動があった。判っているのは開発者がアイコとサミュエルということと、二人とも天才的な開発者だと言うこと。二十年も前のものとは思えない。次にサーバーも調べましょう」
授業中でもあり大がかりな調査は出来ない、隠れファイルの調査だけにする。
「サーバーにもあるね、数も多い。これ以上は夜間か休日の調査にした方が良さそうだ」
今何らかのトラブルを起こすわけにはいかない、龍歩も同意見だった。
翌日、訓練のため道場に向かう龍人と龍歩がサミュエルに声をかける。
「おはよう、早起きだね」
「習慣でね。二人揃ってどこに行くんです」
「実は古武術をやっていてね、朝稽古だよ」
「私もマーシャルアーツをやっていました。父が元軍人だったので護身術にと習っていました。参加させてもらってかまいませんか」
「通りで良い体格をしておられる。是非、お手合わせ願いたい」
道着に着替え、対峙する龍歩とサミュエル。
龍輝と龍彦も興味深く見つめる。
「始め」
合図で模擬戦闘となる。
サミュエルの攻撃をいなす龍歩。
しかしサミュエルも負けじとついてくる。
予想以上にサミュエルの戦闘力が高い。
だが龍歩には敵わない。
関節を極められ参ったをする。
「参りました。これでも今まで訓練で負けたことが無かったのに、どうもレベルが違いすぎる」
「いやいや、サミュエルさんも相当お強い、私も危ないところでした。マーシャルアーツは古武術と似たところがある。ただ、急所を狙うので予想がつけやすい」
「サムと呼んで下さい。親しい人からはそう呼ばれている。…元軍人の父が指導者だったため、そんな癖がついたのかもしれない」
「護身術としては相手に与えるダメージが大きすぎますね。当然加減しているようですが。それで私もなんとか対応出来た。もしよろしければ明日から古武術をやってみませんか?」
「研究で体がなまっていたところです、是非お願いします」
そうして門下生となったサムは守家の一族に徐々に溶け込んでいった。
「守家の人達は皆、親切で易しい方達ですね。ここはとても居心地がいい」
「ありがとう。ところでサムはガールフレンドはいるのかい?」
「います、カレンと言います。耳が悪く、言葉を上手く発声出来ません。でも、なぜか僕たちは言いたいことが判るんです。不思議でしょ」
「不思議じゃ無いさ。お互いを思いやる気持ちがあるから通じ合えるのさ」
龍歩の言葉に思わず心が緩まるサミュエル。
「今まで誰も信じてくれなかったし、そんなことを言った人はいなかった。ありがとう。カレンは本当にいい子なんだ。だけど自分の障害のことを気にして周りに遠慮ばかりしている。龍歩みたいな人がいると判れば変われるかも。是非会ってくれませんか」
「いいとも。何ならここに呼び寄せてもいいよ」
龍歩はサムの根源にある優しさを見た気がした。
一族の家族のような感覚だった。
サムの言う組織が動き出す可能性もある。
カレンもここにいれば安心だ、早いほうがいい。
ここならカレンの障害は無いも同じだ。
「しばらく調査もすることが無いだろ、早速カレンを連れておいでよ。うん、それがいい。サムも気の置けない人が側にいた方が心安まるだろ」
「いいのですか。長期の滞在になるかもしれない」
「かまわないさ、幸い暮らす場所はある。何ならずっといてもいいよ。二人の親御さんの許しがあればだけどね」
「カレンには一度長期の旅行をさせてあげたかったんだ。カレンの両親もそれを願っていた。是非お願いしたい」
五日ほどでサムはカレンを連れて戻ってきた。
キュートな子だが障害があることを気にしてか、心を閉じているようだ。
「良く来てくれました、待っていましたよ。疲れたでしょう、少し休んで下さい。後で皆に紹介します」
「?」
龍人の言うことがなぜか判る事に驚きと戸惑いを隠せないカレン。
「心配いらないよ、ここの人達は皆いい人ばかりだ。君の障害の事も知っている。でも、そんな事は何でも無いことだと言ってくれている。遠慮もいらないともね」
二人を部屋に案内する龍人を不思議そうな顔で見つめるカレンだった。
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