第5話 レイモンド
レイモンドは父親の生業が嫌いだ。
二人の兄には性に合っているかもしれないが、彼には嫌悪すら感じる。
古くからこの町に暮らす人々からは畏敬と尊敬、そして信頼を得ている。
そして父の周囲の者たちはドン・ジョルジオと片膝をつく。
レイモンドの家族は皆、身体能力に恵まれている。
多分混血が良い影響をしているのだろう。
二人の兄は幼い頃からけんかでは負け知らずだ。
彼は他人とのトラブルは避けてきたのだが兄弟げんかはしてきた。
負けず嫌いのためか気がついたら兄たちと互角になっていた。
そんな自分自身も嫌悪し、周囲から離れて自分の殻に閉じこもった時期もあった。
そのため今でも他人との友好関係を構築することが苦手だ。
友人を作らなくとも、没頭できる学習に充てる時間が自然と多くなった。
幸い父の周囲にもインテリがおり、教えを請うこともあったが、彼らから紹介された優秀な教師たちに恵まれ、知識を得る喜びを知ることが出来た。
おかげで大学に通う頃には特別プロジェクトのメンバーに選出されることとなった。
しかし、やはりと言うかプロジェクトメンバーの中でも浮いた存在となっていた。
プロジェクトの進め方が複数のグループでそれぞれのアプローチで研究するスタイルであったため、メンバーから浮いていたレイモンドは一人で研究していた。
そんなある日、日本人が研究所のメンバーとして加わることになった。
数日たった頃、新メンバーの日本人が話しかけてきた。
「各チームの研究テーマを一通り目を通したけど、あなたはあれを一人でやっているの」
レイモンドの目をのぞき込むように見上げる新メンバーの日本人女性は西洋人とのハーフなのか彼の知っている東洋人とは少し違っていた。
「僕のアプローチは独特すぎて彼らには受け入れがたいものらしいからね」
「あら、そうなの。でも、私は一番面白いと思うわよ」
社交辞令かと思えたが、彼女の真っ直ぐな目はそうでもないようだ。
「それなら一緒にやるかい」
断られるに違いないと思って軽い気持ちで、いや、彼女と一緒に研究したい気持ちが強かったから出た言葉だったが、言ってすぐに後悔した。
他のメンバーから私の情報はインプットされているだろうから。
「そのつもりであなたに会いに来たのだけれど」
人は予想外のことが起きると言葉が出なくなるとこの時初めて体感した。
「返事はイエス?ノー? この後所長に申請を出さないといけないから答えてほしいのだけれど」
しばらくの間の後、彼女からの問いに答えることが出来た。
「もちろん、イエス。でもいいのかい。他のメンバーから僕のことをいろいろと聞いているだろう?」
「彼らは自分たちが、世界で一番優れていると思っているだけよ。そういった意味では日本人で新人の私もあなたと同じよ。彼らのグループに入ってもきっと私の意見など聞いてくれないと思うわ。でも、あなたは違うでしょ」
「君に会ったばかりの僕が君の意見を取り入れると、なぜ言い切れるんだい」
「感よ、直感。でも、私の感はあたるのよ。それに、これでも人を見る目はあるつもりよ。それに私の研究テーマはあなたのそれととても近いの。私の研究ノートを見てもらえればお互いのプラスになると理解してもらえると思うわ。自己紹介がまだだったわね、私は愛子。これからよろしくね」
そう言って渡されたノートに、彼の独特なアプローチと同じ発想で書かれていた内容は彼に刺激を与えるには十分なものであった。
「僕はレイモンド。レイと読んでくれたら嬉しい」
そのノートと彼女の微笑む顔を見たレイの直感も、彼女とならうまくやっていけるだろうと告げていた。
「よろしく、レイ」
他人との距離を置いてきたレイが、愛子と研究する時間を心地よいものと感じることに不思議な感覚があった。
それは家族といても感じることが出来なかった、初めての感覚だった。
お互いの考えを話し合い、方向性を持たせることで研究は一人の時よりもかなり質が高まっている。
毎日が心地よい刺激と新しい発想で今までにない高揚感に満たされていた。
この時間が永遠に続くことを願わずにはいられない満ち足りた日々を過ごしていた。
研究も終盤にさしかかっていたが、研究を完成させる最後のピースがなかなか見つからない。
以前なら苦悩し自分自身を罵っていたが、それすらも愛子との時間は楽しくさえあった。
二人の研究所でのテーマは、未来型コンピューターの社会における貢献のあり方と永続的有効稼働というものであった。
処理能力の高いスーパーコンピューターで、天気予報や災害予知に活用するグループ。
人工知能のデータ解析精度と処理速度にスポットを当てたグループ、ハッキングの監視やコンピュータウイルスの判断を人工知能に見分けさせるプログラム開発をしているグループ等いろいろあるが、レイと愛子も人工知能を研究しているが、成長を考えてきた。
人工知能は成長するものと捉え、それを正しい方向に向かわせることが重要だと考えた。
ロボット3原則の人工知能版をどのような原則とするか、そしてどのように厳守させるか。
また、それを外部から変更できないようどう対処させるか。
得た情報の善し悪しの判断をどうさせるか、等々画一的にならず、多方面から検討と検証をアプローチしなければならない。
メンバー二人で開発するには大変な作業だが、思いのほかスムースに進んだ。
二人の思考とアプローチがとてもよく似ており、お互い細かな説明なしにどうしたいか、どのようにしたら良いかがすぐに共有出来たからだろう。
他のグループも研究に行き詰まっているようであった。
それぞれのグループリーダーが他のグループリーダーに牽制をかける。
あからさまな白人至上主義のグループのリーダーであるシュワルツが進捗報告に向かう途中に声をかけてきた。
「一人で研究していた君に物好きが一人参入したようだが、君の独特なアプローチで完結できるのかい。いや、そもそも日本人とのペアでは質の高い研究などほど遠いだろうね。そんな研究が完成しても、果たして評価に値するレベルではないだろうがね」
「どうだろうね。君のグループの研究、進捗が遅れているいるようだね。それに実際の稼働にはコストがかなりかかるのではないかい」
「進捗報告の内容だけで、君に何がわかるというのだ。私のグループのメンバーは皆優秀な者ばかりだ。私に解決できない問題などありはしない。遅れもすぐに挽回する」
「ここのプロジェクトに参加しているメンバーは優劣なく男女とも皆優秀だと思うよ。もちろん僕の研究メンバーの日本人女性もね」
「ふん、君たちは後悔することになるだろう」
「希望はあっても後悔はないと僕たちは思っているよ」
相変わらずのシュワルツの憎まれ口であった。
彼が愛子を私のところに行く様進めたと知ったときは意外だった。
シュワルツが自分のチームメンバー以外に気にかけることなどないと思っていたからだ。
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