第3話 龍輝(少年期)

 今日の出来事を一族全員に伝えた。

たった一度の、それもおなかの中にいる時の一瞬のスキャンで御神体までもスキャンし、コントロールを学び自分で発動を制御していたらしいと言うこと。

天賦の才を有していること。

「私を気遣ってくれたのね。守家の心も受け継いでくれているのね。嬉しいわ。でも、一体龍輝はどんな大人になるのかしら」

サーシャがふとつぶやく。

「あの子は守家の子供だ。正しく成長してくれる、必ず。僕は信じているよ」

そう言って龍人はサーシャのおでこにキスをする。

それだけで安心できたサーシャだった。

「驚くべき事にあの子は、たまに我々の能力の制御方法をスキャンしていたようだ。それも一族の誰にも気づかれないよう。実際、誰も気がつかなかった。一族の有りようも変わらざるを得ないな」

龍造の言葉に皆うなずく。

「とにかく、これからの訓練のやり方を改めなければ」

「いや、その必要は無いだろう。慣れないやり方より、これまでのやり方のレベルを高めた訓練の方がいいだろう。ただ、まだ3歳だと言うことだけには留意の必要がある」

「龍歩のこれまでの訓練が参考になるじゃろう」

「俺、自信なくしちゃうよ」

「兎に角、進めてみよう。特に体術は体が年相応だからそのギャップに気をつけねば。」

「了解。やるしか無いね」

一同覚悟を決めたようだ。

「門下生が増えたから、一般の練習道場に大学の武道館を借りておいて良かったな」

「備品はこちら持ちだから大学の方も経費削減になるのさ。使用代も払っているしね」

「龍輝はこちらの道場で遠慮無く訓練出来る。ただ、シールドを強化しないとね」


 子供の成長は早い。龍輝は八歳になっていた。

三歳の頃よりも、年相応に振る舞うようになっていた。

乳児期頃からのスキャンにより大勢の意識が混同していたものが、年と共に自我を形成したようだ。

訓練方法は正解だったようだ。

ただ、能力が桁違いなだけで。

それだけに慎重に訓練を続けてきた。

訓練が終わると二つ年下の妹、明日香のところに飛んで行きかわいがってくれていた。

妹の誕生も、自我の目覚めには役立ったのかもしれない。

周囲のみんなにも気遣いをしてくれる。心も優しく育ってくれたようだ。

なんとか義務教育の年齢には間に合い小学校に通っていた。

龍輝は授業参観の日が大好きだった。

外国生まれの美しい自分の母が周りの注目を集めることが嬉しいらしい。

友達も多少は出来たようだ。

ただ、自分の家に友達を招くことは無く、友達の家に少し寄り道してすぐに山に遊びに行ってしまう。

龍輝は山で遊ぶことが多かった。

訓練も兼ねてのことだが、自然と接することは大事だと、龍人の経験からも判っていたため好きにさせていた。

自然は時として不条理だ。

だからといって介入すればバランスを崩し、一度崩れたバランスが戻るまでに気の遠くなる時間を要することになる。

自然こそ最高の芸術だ。

手を入れては台無しにしてしまう。

自然は自然のままに。

自然と一体になったかのような時間は心地よい。

龍輝も自然の中が一番落ち着ける様だ。

いろいろなことを学んでくれるだろう。


 中学に通う頃、龍輝が龍人に

「お父さん、少し話をしてもいい?」

「いいよ、何だい」

「昨日、伊藤君が亡くなった。門下生で仲も良かった。学校から帰る途中、車道にいた子猫を助けようとして車にひかれたんだ。病院に運ばれたけど、だめだった」

「優しい子だったんだな」

「うん、いいやつだった。僕のことも気にかけてくれて学校でも、道場でも話しかけてきてくれた。友達が増えたのも彼のおかげだ。…今日、通夜なんだ」

「行って、お別れをしてきてあげなさい」

「僕が力を使っていれば助けられたかもしれないのに。外では使わないようしていたから気づきもしなかった。何も出来なかった」

目に涙をためている。

溢れて流れ出す。

「なぁ、龍輝。確かに我々一族には能力がある。それを使えば伊藤君は助けられたかもしれない。でも、不幸な事故とか、事件に巻き込まれてしまう人は世の中に少なからずいる。

力を使って助けるにしても、あの子は知っているから助ける。あの子は知らない子だから助けない、と言うことは出来ない。助けたいならみんな助けなければならなくなる。我々は万能の神では無いんだ。二十四時間、町じゅうの人を見守って何かあれば助ける。そんなことが出来ると思うかい。もし、出来たとして、他の街の人はどうするんだい。そう考えると際限が無くなってしまう。我々はヒーローでは無い。ヒーローになってはいけないのだ」

「それは判るけど、身近な人だけでも助けられれば助けたい。それはいけないことなの?」

「いけない事では無いさ、人として普通の感覚だと思う」

「力を気づかれないよう使えばいいんだよね」

「それはだめだ」

「どうして」

「おまえは山遊びが好きだったろう?自然から学ばなかったのか」

「お父さんの言うことは判るよ。でも、人には本能だけじゃ無く、知恵がある。そこから来る感情だってある」

「知惠も感情もあるから、では説明にならないか?感情にまかせて行動しては誰か他人を巻き込むかもしれない。その一方、知恵があるから人は身を守る工夫もする。そこに介入するのは不自然なのだよ。我々一族は、人が懸命に生きることが出来るようお役目にのみ、力をフルに使う。伊藤君は一生懸命に生きたのだろう?そのことはおまえが一番知っているんじゃ無いのか?」

「そうだね。短すぎる一生だったけど」

「いい機会だ。おまえ自身そのことについて良く考えなさい。答えは出なくてもいい。出した答えが納得のいかないものでもいい。何も考えず、言われたことだけをするよりは」

「うん、そうしてみる。少し落ち着けた」

「伊藤君は残念だったけど、おまえは良い友達を持ったな。彼等からもっと多くを学ばせて頂きなさい。思考の選択肢が増えることはおまえの人生も、心も豊かにしてくれるはずだ」

「彼等、だけじゃなく彼女達もいるよ」

「ははははは、思考の選択肢はものすごく増えるな。龍輝、友達を思いやるおまえを誇らしく思う。明日の葬儀にも参列して見送ってあげなさい」

「もちろん、そうさせてもらうよ」

そのことをサーシャに話すとサーシャは涙を流して喜んだ。

「あの子、もうそんなことを考えるようになったのね。心配したけど、本当にいい子に育ってくれた」

「君が導いてくれたんだよ。ありがとう」

「私だけじゃ無い。みんなに見守られているのだわ。でも彼女達って友達?気になるわね。今度連れてこさせようかしら」

母親にとって息子は特別な者らしい。

龍人も娘の明日香には甘い、と周りから指摘されているのだが。

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