第41話 大晦日
大晦日、夕方。
キツネ亭に集まるいつもの面々。
「小町さん!聴いてください! 」
慶子は何やらご立腹である。
「どないしたん、慶子ちゃん」
「豆乳とお揚げをごちそうになって、別荘に戻ろうとしたら、キツネさんが歩いていけるっていうんで言われたとおりに歩いたんですが……」
慶子の声を聞き、気まずそうな顔をしてコーヒーを持って部屋に入ってきたキツネ。
「もしかして、遠く感じた? 」
「え、もしかしてって……? え、十分遠いじゃないですか! 」
「ごめんな、慶子さん。俺とか小町はそれくらいの距離、時間があるときは普通に歩くんよ」
「え……あの距離、普通に? 」
「今言われて思い出した。他府県の人には不評らしいね。京都の人間のすぐそこはあてにならへんゆうて」
小町の言葉に、キツネが続ける。
「東大路経由せなあかんから、市バス乗ると混むやん?待たされるくらいやったら歩いたほうがええわ、いうて歩いてまうんよ。知恩院さんから三条出たら市バスの5番走ってるけど、もう南禅寺辺りまでやったら、すぐやんか?」
「……」
言葉にならない慶子。
京都人のすぐそこは当てにしない。
彼女の心に強く刻まれた瞬間である。
「ええと、年越しそばとお雑煮用意してるさかい、それで堪忍して」
「うちからも謝っとくわ、ごめんな、慶子ちゃん」
「うう、わかりました、いい勉強になったと思うことにします! 」
『よう考えたら、転移したげたらよかったな』
「……」
ダクの言葉に、無言になる3人。
「……いえ、ダクさんの能力はそんなことに使ってはいけないのです! 」
慶子は頭をブンブン振って自分の考えを打ち消す。
が。
「あ、あの、ダクさん、大変申し訳無いのですが……忘れ物をしたので、別荘につないでいただいても……」
『了解。筒術、転移』
壁に向かって光の筒を展開するダク。
「すぐに戻ります! 」
筒に飛び込み、別荘の冷蔵庫に忘れてきたケーキの箱を持ち、再びキツネ亭に戻る慶子。
「今日お昼に父と母が京都に参りまして、皆さんへのお土産にと預かったキルフェ某のタルトです! 」
「わあ、木屋町のとこ?」
小町が袋を見て笑顔になる。
「あ、お高い、美味しいやつや」
キツネの顔もほころぶ。
「キツネ、先おそば食べて、食後のデザートにいただこか」
「そうですね! 」
「じゃあ、早速買うてきた晦日そばから準備するわ」
「京都の晦日そばって、何か決まり事とかあるんですか? 」
慶子からの質問。キツネが答える。
「知ってる限りでは、特にはないなぁ。いや、ホンマの京都の人はどうかわからへんけど」
「ホンマの京都の人って、え、キツネさん、京都の人じゃないんですか? 」
「まぁ、いろいろあって、親子3代住まなあかんとか、あとは」
「あとは……? 」
「中京以外は京都やおへん」
キツネと小町が声を合わせて答える。
「え……? 」
「まぁ、いろいろあるんよ」
苦笑するキツネ。
「俺がバイトしてるお蕎麦屋さんでは、しっぽくそば……
その店ではかまぼこ椎茸たけのこなんかの具材がいろいろ乗せてある、
大阪とかで言うところのかやくそば、みたいなものの
枚数がちょっと減ったもんやったなぁ」
「え?大晦日なのに、アルバイト、いいんですか? 」
「今年は面子が揃ってたから、夕方であがらせてもらったんよ」
「じゃあ、プロの腕でお蕎麦を作っていただけるんですね! 」
「まぁ、俺、接客やけどな」
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