第39話 ヴェノアと年の瀬

「ウチのお父さんが左京区にあった施設におった頃、近所にあったベーカリーで一番好きやった、いうてたのが」


ベーカリーでパンを色々と見ている一行。


「この、ヴェノア。最近ようある塩バターパンとかとちごうて表面に塩が少しかかってて周りがしっかり硬いんやけど、中が柔らかい、で、してへん」


それをトングでつまみ、トレーに乗せる。


『(キツネ、ウチもそれ食べたい)』


ダクが小声でキツネに伝える。


「ウチも、キツネに教えてもろうてから好きになったんよ、ウチも欲しい」


「もちろん、私も食べます! 」


「ほいほい」


「たまごサンドがゆで卵のものと、焼き卵のもの、2種類あるんですね~」


「だし巻きサンド、みたいなのがテレビで紹介されるようになってから気づいたわ」


「ウチも小さい頃は普通にゆで卵のたまごサンド食べてたなぁ」


「クリームパン、アンパン、ミックスサンドに~♪」


『(慶子ちゃん、朝からよう食べるなぁ)』


「たまごロールいっとこかな」


「キツネ、牛乳ある? 」


「うん、あるで」


「全然忘れてましたが、小町さん、お家のお手伝い、大丈夫なんですか? 」


「大口の顧客のとこに年末のご挨拶行く、言うてるから大丈夫よ」


「大口の顧客、まぁ、そうか。おじさんとおばさんによろしゅう言うといて」


『(お揚げさんもらいにいかなあかんな)』


「朝ごはん食べたらみんなで行こか」


「あの、ぜひ、店先で豆乳をいただいてみたいです! 」


気がつくとトレイ山盛り2枚分のパン。会計を済ませるキツネ。

この一行は朝からどれだけ食べるのか。


店を出ると近所のスーパーの前には年末大売り出しのチラシが貼られている。


「だんだん、年末らしい感じになってきたなぁ」


慌ただしくなりつつある町並みを見やり、ボソッと呟くキツネ。


「あの、私、元旦の初詣まで京都に残って、それからまた東京の親元のところに帰ろうと思ってるんですが……! 」


「それやったら大晦日から元旦まで、またこのメンバーで一緒に過ごそ、キツネ」


「賑やかでええなぁ、じゃあ晦日そばと元旦朝のお雑煮までうちで用意しよか」


「京都のお雑煮!実は初めてです! 」


『今更やけど、ホンマに慶子ちゃん、食べんの好きやなぁ』


「ダクさんに言われたくないですぅ! 」


『なんやて…… 』


「お揚げさん75枚食べるのは、なかなかなもんやで、傍から見てたら」


「ええ食べっぷりやもんなぁ」


「ほらほら~」


『あれは!小町ちゃんとこのお揚げさんが美味しすぎるのがアカンのや』


「まぁまぁ、俺らかてご飯食べへんかったらアカンのと同じ、ダクもそれだけの量食べへんかったらアカンのやさかい」


「……すみません、ちょっと言い過ぎました」


しょぼんとする慶子。


『ええで、そんな軽口言い合えるんわ、仲の良え証拠やもんな』


「お、ダク、大人の対応やな」


『年齢だけで言うたらアンタらよりずっと上やからな』


少しでも上のところを見つけて威張るのが大人の対応か、甚だ疑問ではある。



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