第38話 暮れの朝

銭湯からキツネ亭に戻る小町と慶子。


「お風呂行ってきました~」


「キツネさん!銭湯って、すごいですね! 」


慶子は何やら興奮気味である。


「熱めの、大きな湯船に、水風呂、電気風呂に、サウナ!

お風呂上がったら小町さんがフルーツ牛乳をご馳走してくださって! 」


「もう、慶子ちゃん、大はしゃぎで大変やったんよ」


小町は苦笑しながら、玄関から中に入ってくる。


「慶子さん、そんなに良かったんやったら京都引っ越してきたら毎日行けるえ」


子供のように喜んでいる慶子に、キツネは声をかける。


「それもいいかも知れませんね~! 」


小町に続いて中に入る慶子。


「寒かったやろ、湯冷めせんうちに二人とも、はよ寝よし」


「そやな、慶子ちゃん、二階はよ上がろ」


「はーい、では、キツネさん、ダクさん、おやすみなさい! 」


「キツネ、ダクちゃん、おやすみ~」


「ゆっくりおやすみ~」


『おやすみ~』


二人が銭湯に行っている間に布団の準備から鍋の片付け、自身らの入浴も終わり、

こたつでコーヒーを飲むキツネとダク。


『キツネ、寝る前にコーヒー飲んで大丈夫なんか? 』


「ああ、逆にリラックスして眠なるねん」


『やっぱりあんたヘンやで』


「そうかなぁ」


静かな時間が続く。


『ホンマに……』


「ん? 」


『長い間封印されとったから時間の感覚がおかしいかも知れんけど、

年の暮れ、こんな満たされたん、自分の意識が生まれてから初めてやと思うわ』


「そうか。それやったら、よかった」


優しい笑顔でダクを見るキツネ。


『改めて、キツネに出会えたこと、その前にキツネを支えてくれてた小町ちゃんに感謝やわ』


「俺も、ダクに出会えてよかった。出会えるきっかけを間接的にくれた小町に、感謝やな」


『そうやな』


「それに、世界を広げてくれた伏見さん、慶子さんにも」


『感謝、やな』


「さて、俺らも寝よか」


『そやな』


1階の寝室で休むキツネとダク。


翌朝。

散歩の習慣で早くに目が覚めるキツネ。

台所に向かうと小町が腕を組み、なにか考えている。


「お早う、小町」


「キツネ、おはようさん」


「どうしたん? 」


「せっかくやし、なんか作ろうかと思ったんやけど……

慶子ちゃん来てるから、朝の散歩がてら、パン屋さんにパン買いに行かへん? 」


「ああ、住むからには京都の朝を体感してもらおうってこっちゃな」


「そうそう」


「買うてきて、ここで食べよか」


「じゃあ慶子ちゃん起こしてくるわ」


「ダクと準備して、玄関におるわ」


10分後。

キツネ亭前に集まる面々。


「噂には聴いていたのですが!京都の朝はパン食が多いと!

本当だったのですね! 」


朝からテンションが高い慶子。食べることが絡んでるからなのだが。


「ほな、行くえ」


キツネが先頭に立ち、目当てのパン屋を目指す。

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