第37話 年の暮れ

鍋も終わり、会もお開きに。


「伏見さん、ホンマにお世話になりました。また、来年もよろしぅお願いします」


「今後ともご贔屓に、来年もよろしぅお願いします」


「伏見様、本当にお世話になりました。来年は一層精進します」


『伏見の方様、ホンマにありがとうございます、来年も、何卒よろしぅお願いいたします』


「玄関まで見送りに来てくれてすまんなぁ……お、これは」


「雪ですよ、雪! 」


「予報通り、雪になったなぁ」


「ピエンローで温もったから、何か気持ちええわ」


『うう、はよ中、はいろ』


「ほな、また来年、良いお年を」


「良いお年を」


キツネ亭からしばらく歩くと、伏見氏の気配が消える。


「慶子ちゃん、これから銭湯行って、キツネ亭に泊まらへん? 」


「え、いいんですか? 」


「ああ、うちは2階に客間があるからそこで二人泊まってくれてかめへんよ」


「もうなんだかお腹いっぱいで幸せで、もう動きたくない、って感じです!

実は、銭湯って初めてなので、これも楽しみです! 」


「着替えは持ってきてるんやったっけ? 」


「はい、京都滞在中はウチの別荘に泊まるつもりで、用意してあります! 」


「じゃあ……」


「わかった、うちで布団敷いて準備しとくさかい、二人で行ってき、一応家の人には言うとくんやで」


「はーい」


洗面器とシャンプー、石鹸、タオルなどを手に、にぎやかに出ていく二人。


「嵐の後の静けさ、って感じやな」


『静かなんもええけど、賑やかなんもええもんやな、キツネ』


「自分の心が置いてかれるような気になっとったんやけどな、ダクと出会うまでは」


『そうなんや』


「小町が一生懸命声掛けしてくれてな、お父さんとお母さんが亡くなって、塞ぎ込んでた頃」


『……』


「このままやと、あかん、って。ちょっとずつ、外出られるようになって、ようやく自分の家のこと考えるようになって、天井見上げたとき板がずれてて。それが」


『ウチとの出会い、っちゅうことか……』


「ダクには感謝してる、それと同じくらい、小町にも無茶苦茶感謝してる」


布団を敷きながら、小町が足繁くキツネ亭に通ってくれていた頃を思い出す。


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「キツネー、ごめんな、悪いんやけど、またお揚げ余ってん、お稲荷さん作ったから、食べんの手伝ってくれへんかなぁ? 」


「……小町……もう、来んといて……悪いし……」


「ごめんな、キツネ、それは聞けへん。ウチもホンマに困ってんねよ。助けると思て」


小町の腕を掴み、押し返そうとするキツネ。


だが、ロクに物を食べてない、フラフラした状態のキツネが小町には勝てない。


押し返し、そのままキツネを抱きしめる


「キツネ、ウチは、なんもでけへん」


「……」


「なんも、でけへん」


「……」


「アンタを、心配することしか、でけへん」


「っ……」


「無力やわぁ……」


小町の頬を涙が伝う。


「アンタに何かあったら、自分の無力さで、多分、今のアンタと同じ様になる、と、思う」


「っ、ぐっ、う……」


「今はウチがおる。ウチがそうなったときに、キツネがいてくれへんかったら」


「ぐっ……うう……」


キツネも涙が止まらない。


「ウチは……いやや」


号泣する、二人。

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