第36話 ピエンロー

キツネ亭では年末のピエンローが定番となりつつある。


もともとは小町が読んでいた、神戸が舞台の漫画からの知識だった。

妹尾河童氏の紹介した中国のお鍋で、白菜を美味しく食べる、

白菜の旬に食べたい鍋である。


まず数時間、干し椎茸を戻す。戻した汁を土鍋にはる。椎茸はいい塩梅で切り分ける。

煮立たせ、白菜の芯をきざんだものから

戻したしいたけ、お揚げさん、かしわ、豚バラ、ごま油を一回し、順番に煮込んでいく。

白菜の柔らかい部分を投入し、煮えたら戻した春雨をいれ一煮立ち。


仕上げにまたごま油を一回し。


手元のおわんに塩、一味唐辛子を適量とり、鍋のスープを取り、つけダレにする。


「ああ、この匂い、年末やなぁって感じるわ」


小町が鍋の匂いを堪能する。


「キツネさん、もう、我慢できません! 」


「そうやな、キツネ君、いただいてええやろうか」


「ええ、それでは」


「いただきます! 」


手を合わせて、鍋を堪能する4人と一匹。


「んー、白菜トロトロやー」


「豚、バラ、旨、鶏、旨」


白菜から堪能する小町、肉から蹴散らす慶子。


「話にはきいとったけど、これは中々旨いなぁ、キツネ君」


「ごま油の効果もあるのか、ホンマに体がぬくぅなりますね……

あ、伏見さん、お酒用意してあるんですよ」


「お、悪いなぁ」


「下戸なんであんまりわからへんのですけど、一応良さげなお酒を、ぬる燗で」


「その、気持が、嬉しいなぁ」


「伏見様、どうぞ」


はっ、と肉を置き徳利を傾ける慶子。


「おおきになぁ」


伏見氏も満面の笑みで酒を堪能し、鍋をつつく。


『お揚げお揚げ』


ダクも、キツネも箸が止まらない。


鍋が一段落して。


「では、一応確認です。締めはおじやでよろしいですか? 」


笑顔でうなずく面々。


「では」


ご飯を入れ、クツクツと煮込む。


「さらに、一応。うちでは基本に忠実に、卵使いません。ご了承ください」


笑顔でうなずく面々。


べったら漬を小皿に盛り、各人に配る。


塩で味を調整し、米がほころんだところで、出来上がり。


熱いおじやとべったら漬がどんどん無くなっていく。


そして、空っぽに。


「いや、ホンマに美味しかった、キツネ君、ごちそうさん」


赤ら顔の伏見氏。


「キツネさん、小町さん、私、こんなに美味しいピエンローは初めてです! 」


慶子も満足げである。


「キツネ、前もおもたけど、にぎやかになってよかったなぁ」


小町は昨年までの、二人だけのピエンロー会を思い出す。

色々あって、他者との接触がうまくできなかったキツネ。

そのことを考えると、今年のピエンロー会は心地よい賑やかさだ。


「ああ、ほんまに。心配かけてばっかりで、ごめんな、小町」


『なんか、きっかけでもあったんか? 』


わざとらしく聞くダク。


「ダク。間違いなく、お前のおかげや」


笑顔でダクの頭を撫でるキツネ。


「年内は、これでおしまいやな」


『そうやと嬉しいです』


「聞こえてるで。ダク」


『冗談でございます』


孤器に入り込むダク。


「まぁええわ。じゃあキツネ君、小町ちゃん、慶子ちゃん、ダク。

今年は色々と世話かけたな、お疲れさん」

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