第35話 冬の鍋

京都の冬は寒い。

痛いくらいに寒い。


キツネが京都以外の人と話すときの定番ネタとして、


「夏に東南アジアからの観光客が熱中症で運ばれたらしい」

「冬に北海道から来た人が『京都は寒いねぇ』と言ってたらしい」


というのがワンセット。


本当かどうかわからないが、おそらく本当なのだろう。


繰り返すが、京都の冬は寒い。


寒い冬に欠かせぬアイテムとして、鍋がある。


そして。


「キツネ、”寒くなってきましたね”」


朝から小町から電話がかかってくる。今年も、そういう季節になったか、と考える。


「今晩早速?」


キツネは返事をする。


「もちろん」


「了解」


通話を終了するキツネ。


『キツネ、何か"山、川"みたいなやりとりやったけど』


「ああ、ピエンローやる、定番のやり取りやわ」


『ピエンロー……?』


首をかしげるダク。


すると玄関がバッと開く。


「キツネさん! ピエンローなんですか! ピエンローなんですか! 」


叫ぶ慶子。

新幹線で東京から一日置きに京都へ通うが、来春からキツネたちと同じみやこ大学に編入予定だそうだ。


「私は! 私は! 」


興奮気味な慶子。キツネが思っている以上の、食いしん坊キャラらしい。


『ピエンロー、ネットで調べたけど、美味しそうやなぁ……お揚げさんが入らへんのが残念やけど』


「ああ、"鍋は融通無碍、ええようにしぃ"が鷹来家の家訓やから。心配せんでも小町が持ってくるわ」


『鷹来家の家訓……素晴らしい……』


「では、私は何を!? 」


「小町は毎年ええ白菜が手に入ったら連絡してくるんやわ。いつもお揚げさんセットで持ってきてくれるから、ウチではそれ以外のもん……干し椎茸と緑豆春雨はまだあるみたいやから……かしわのモモと豚バラを適当に買うてきてくれる? 」


「かしわは鶏肉ですね、では早速! 」


「六波羅と、東大路上がったところにスーパーあるわ、観光客気分を味わいたかったら錦行くのも一つかもな」


「わかりました! 近場で済ませます! 」


玄関に引っ掛けてある買い物袋を手に、どこかへ飛び出す慶子。


「一味も塩も大丈夫……ごま油はこないだ買うたし……締めのおじやも……あ」


『べったら漬、か、慶子ちゃんにメッセージ送っとくわ』


「その孤器?……すごいな」


感心するキツネ。


その日の夜。


「キツネー。お揚げさんと白菜、持ってきたえー」


小町が玄関から入ってくる。


「お、小町、寒いしはよ、お入りー」


『はよ、お入りー』


「お待ちしてましたー」


鍋の準備をするキツネ、こたつから出られない慶子、ダク。

各々の体勢で小町を迎え入れる。


「白菜とお揚げさん、切っとくから、おこた当たり」


「そうさせてもらうわ、ホンマ寒なったなぁ、今晩辺り、雪やって? 」


こたつに潜り込む小町。


こたつの上にはカセットコンロ、土鍋、みかんがセットされている。


大皿とボウルに具材を盛り付け、こたつの上に置くキツネ。


「よし。では、伏見さん」


「おお、待っとったで」


玄関に現れる伏見氏。


「今日は、ピエンローやって? 」

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