第33話 後の始末

天橋立での、にぎやかな宴が行われる1時間前。


みやこ医科大学の自身の研究室で、八街は参考人として呼び出しに来た警官を表に待たせ、身支度を整えていた。


「私は……私は……」


机からカッターナイフを取り出し、首に当てがう。


その手を、突然現れた手が押さえつける。


「あきません、教授」


シュレンの姿で現れ、キツネが声を出す。


「き、君は……離してくれ! 私は、取り返しのつかないことを……!! 」


『ホンマにそう思うんやったら、あの5人、もういっぺんお日さん見れるようにしてからにしよし』


ダクが声を出す。


「!」


「あの5人をもとに戻せるんは、多分教授だけでしょう? 

そうすることから、罪の償いを始めるべきやないですか? 」


『キツネ』


ダクに促され、キツネは懐からUSBメモリを取り出す。


「それは……」


『アンタが脅される原因になった、との密会動画の入ったメモリや』


「……」


『筒術・二の撃』


光の筒でメモリを包み、高速回転させ出口を宇宙空間に直結させて太陽へと放り込む。


『消・却』


光の筒は消え、メモリは跡形もなくなる。


『研究資金が枯渇する中でが接触してきて。ええように使われた。と関わっとったんが世間にバレたら、アンタの社会的信用は一発で地に堕ちる。あの5人はアイツらに唆されて社会を変えるんや、いうて過激派の救世主気取りで、実験台にされた。』


滾々と語りかけるダク。


『正直、ウチはアンタのこと理解するつもりはない。アンタみたいなんがおるから、これから先クスリで、精神病んだ状態で、肉体強化された兵隊があちこちで、

人殺すんやろ? けったくそ悪い』


キツネの意思で掴まれた八街の手は離されることはなかった。


『でもな。ウチのお人好しの相方が、それでも生かして罪を償わせなあかん、いうて。ホンマにお人好しやろ? 欲のために人の命弄ぶようなクズの命、助けるいうんやで』


「……」


『ウチはなぁ、今度のことで大事な相方を危険に晒すことになったアンタの研究、それにアンタ自身、八つ裂きにして百回殺しても足りひん。許さへん。やから』


「……」


カッターナイフを落とし、泣き崩れる八街。


『百回殺された、おもて、その上でアンタの罪を償いよし』


旋風が起き、シュレンが消える。その刹那。


「教授!あの子ぉらのこと、頼みますよ!! 」


キツネの声が、八街の耳に深く刺さった。


みやこ医科大学、その建物の中で一番高い棟の屋上に、シュレンは転移する。


「ダク」


『ああ、恥ずかし』


「ありがとな」


『フン』


キツネは狐面を取り、屋上から京都の街を見渡す。


「ダク、やらなあかんことがぎょうさんあるな。今回のでお揚げさん代はまたなんとかなるけど……」


『そやな。ようさん稼がなアカンで、キツネ』


「でもその前に」


『ブリしゃぶ、やな』


フッと笑うキツネ。


「おう、仕事完了のお祝いで、小町にも連絡してお豆腐とふとお揚げさん用意してもらおか」


『よっしゃー!』


筒から顔を出し、高らかに両手を上げるダク。


『筒術・転移』


屋上から姿を消すシュレン。


京都の街を照らす夕日は、いつもと変わらない、やさしい色だった。

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