第32話 ブリしゃぶ


『筒術・桎梏しっこく


体の自由を奪われる女。


『自分の歯、何本かズラして舌噛みきれんようにしとくわ。無事に娑婆に出れたら、治してもらい』


光の筒に飲み込まれる女。


『筒術・人間脱水機・改』


目が回って人事不省になったのを確認してから、


『筒術・転移』


女をどこかへと転移させる。


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京都府警、みやこ警察署。


社刑事が仕事の合間に、母親が差し入れてくれた出町の有名な豆餅を食べようと

休憩室の椅子に座った途端。


ガッシャーン!!


机の上を滑るように、とつぜん女性が降ってくる。


唖然とする社。しかし、豆餅は死守。


泡を吹いている女性の額に、細かい文字で罪状を書き詰めた紙が貼り付けてある。


「な、なんなの……一体……」


手に持った豆餅と、湯呑のお茶を見て、女性を見る。


「一旦、落ち着こう、うん」


豆餅を頬張る社。


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天橋立にある南雲家の別荘。


「慶子さん、うちまで呼んでもろうて……」


ダクの力で呼び寄せられた小町を含め、3人と1匹で食卓を囲む。


「そろそろ伏見さんも来はる頃やと」


「お待ちどうさん」


キツネの言葉の途中で襖を開けて現れる伏見氏。


「今日は、ブリしゃぶやて? 」


笑顔で食卓へ向かい、ダクに目をやる。


「じゃあ始める前に、今回の取りまとめを、ダク」


『伏見の方様からのご依頼、無事に完了いたしました。当事者は現在お上で取り調べを受けてます、多分何も出ないでしょう。本拠地と思しきところはようわからへんのですけど更地になってる様子でございます』


「ふむ、ようやってくれた」


「(もともとお稲荷さんの駐車場でやらかしてた連中に対しての処置から始まってドンパチまでやるんやから……)」


キツネが内心思っていると


「神仏に敬意を払わなあかん、いうことやなぁ、キツネ君」


笑顔を向ける伏見氏。


「そ、そうですね」


引きつった笑顔を返すキツネ。


「なんやようわからへんけど、たいへんやったん? 」


小町が小首をかしげる。


「いやぁ、それほどでも、ないんちゃうかな? 」


言いよどむキツネ。


「昼に言うたこと、忘れたらアカンえ? 」


「はい……」


「伏見様、早速のご入金、ありがとうございました」


満面の笑みで伏見氏に礼を言う慶子。


「慶子ちゃんがしっかりしてるから、この会社はもってるんやで。

お稲荷さんへの信心も忘れんようにな」


『今回のは、ちょっと、きつかったです、伏見の方様』


ダクが机に伏せる。


「こんなんそうそうないわ、心配せんとき」


『……ハァ……』


無言で伏見氏を見やるダク。ため息をつき、諦めて再び目を伏せる。


「慶子さん、用事がもう済んでもうたんで、ご飯食べて片付けたら帰ろうかと」


「大丈夫です!小町さんにもさきほどお伝えしたんですが、温泉を引いてあるんです。小町さんと私と、キツネさんとダクさん、伏見様で今日は」


「ワシはちょっと用があるから食べたら帰らせてもらうわ。自分らはゆっくりさせてもらい」


「小町、お店は大丈夫? 」


「親にお願いしてきた、ゆっくりしてきぃって」


「皆さん!寒ブリが来ましたよ! 」


「おお! 」


「おとふとお揚げさん、うちから持ってきました! 」


『はよ食べよ、はよ食べよ』


にぎやかな宴が催される、南雲家別荘であった。

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