第29話 アタッシェケース

社が上司や科研にかけあってもすぐに動いてもらえない。

業を煮やしたシュレンが筒術で社のスマホを取り上げる。


「な、なにを」


無言でスマホを操作し、どこかへ電話を掛けるシュレン。


『あ、八街教授のお電話でよろしいでしょうか?』


「わ、私の声!? 」


『私、京都府警の社と申します。教授の研究室で極秘で開発されているを持ち出してテロまがいの事をしようとしている学生を現在みやこ大学で拘束しております。最終フェーズまで行く手前で警察の力で抑えてますが時間がありません。……アンタの名声と学生4人の命とどちらが大事か、さっさと腹くくってみやこ大学の学食まで来よし』


まくしたてるように社の声で話し、最後は自身の声で電話を終了するシュレン。スマホを操作し、社に差し出す。


『アンタが色々聞きたいのはよう分かるけど、教授が来るまで待ち。どんどん侵食が加速して4人分の制御はかなりキツイ……』


両手を4人に向けて脳内に忍ばせた光の筒を制御しているらしい。


『……このままやと間に合わん……』


「(ダク、教授が動き始めてるんやったら無理やりここに転移さし! )」


『……くっ……』


教授の進行方向に光の筒を出現させ出口を学食につなげるダク。


空虚な空間に人間大の光の筒が現れ、中から八街教授が飛び出す。


「な、こ、ここは」


困惑する八街。


「教授、あの4人です!」


キツネが叫ぶ。ダクは4人の制御に集中している。


「!」


4人の元へ向かう八街。


「社刑事、教授をフォローしてください!! 」


キツネが社に指示を飛ばす。


小型のアタッシェケースから何やら注射器を取り出す八街。

社は学生を支え、教授はそれぞれに注射をする。


「そんな……なぜアレが……」


その場に座り込む八街。


『間にうた……おおきに、キツネ』


制御を解除するダク。


「(ダク、小町連れて一旦家帰るで、これは色々とまずい)」


『承知、筒術・転移』


姿を消すシュレン。


消えた瞬間を目撃し、言葉を失う社と八街。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


キツネ亭。


普段着の姿に戻り、小町と玄関に立つキツネ。


「キツネ、あのシュレンって人、キツネやったんやね」


「小町……スマン。巻き込みとううて……」


懐から顔を出すダク。


『小町ちゃん、ウチらのことはあんまり知られとう無いんよ。

小町ちゃんも内緒にしといてもらえると助かるんやけど……』


ふう、とため息をつく小町。


みたいにならんように、危ないことしたらアカンえ」


キツネの手を取り、見つめる小町。


「約束、できる?今日の騒ぎもホンマはアカンと思うけど……」


手を握り返すキツネ。


「……うん。ゴメンな、心配かけて」


「仲ええとこ、悪いんやけどなぁ」


二人の前に突然現れる、伏見氏。


「わっ!? 」


「キャッ」


手を離し、飛び退く二人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る