第25話 濡れ衣

『拘束完了』


木刀を片付けるとシュレンは若者に近づき、目を観察する。


『この薬物のことはようわからへんけど、昔からあるアヘンとかと同じで、依存が過ぎて色んなものが抑えられんようになった、っちゅうことやろうか』


「た、橘……」


困惑していた学生が拘束されている若者に近づく。


『あんた、薬物の取引の首謀者か? 』


シュレンは近づいてきた学生を見やる。


「ち、違います……橘に誘われて、軽い気持ちで遊びに来たら……おまわりさんたちが急に現れて……気づいたときには橘が暴れだして、もうどうしていいかわからなくなってしまって」


かすかに震えている学生。


「(ダク、ちょっと話を聞きたい、声出すで)」


ダクはキツネの声帯に見えない筒をあてがい、声をシュレン、というか、ダクの声に聞こえるよう変換する。


『薬物は身を滅ぼす、いうて最近は学校でも注意喚起しとるんやろ、なんで……』


「橘が最近活動的になって、どうしたんだ、って聞いたら体に害のないタバコみたいなものを吸ってから最近調子がいいんだ、と」


『そんなもん、あるわけないやろ』


「でも、大丈夫だからって言われて……伏見稲荷は最近人が多いから駐車場で何をしても気づかれないって」


『最近のニュースでも、ここで大学生が逮捕されたってやっとったやろ』


「政治経済のニュースはサイトで見るんですが、そういうのは興味なくって……」


「(これ以上は情報はなさそうやな、ダク、光の筒解除する前におまわりさんの手錠を左手と左足で一個、右手右足に一個で拘束できるよう拝借して転移して、俺らは消えよ)」


小声でダクに伝えるキツネ。


身動きがとれないよう手錠で拘束されたことを確認すると、靴下を脱がせて口に突っ込む。


『そこのお友達、お巡りさんに、この子が舌かまんよう気ぃつけて連行したって、って言うたってな』


つむじ風が巻き上がり、姿を消すシュレン。


若者が見た狐面の怪人は、120cmほどの姿であったという。


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キツネ亭。シュレンの姿から部屋着に戻るキツネ、こたつの上のダク。


『昔から酒やら薬やら、人間が依存して壊れていく話はようあったけどな』


「……もちろん、薬物のこととかに詳しいわけではないけど……ちょっと極端やなぁと……」


『欲求とその制御のバランスが一気に崩れた、とかやろか』


「わからん話ばっかりや、一旦置こう、で、寝るで」


キツネにとってはもはや別次元の話で、理解が追いつかない。


室内灯を豆球にして、そのまま寝てしまう。


翌朝。


「キツネさん!キツネさん!起きてください!!」


キツネ邸の前で慶子が新聞を片手に慌てた様子で戸を叩く。


キツネがゴソゴソと部屋着のまま、眠そうな顔で玄関の戸を開ける。


「おはようさん、どうしたん、そんなに慌てて」


「これ、これ見てください!」


京都の地元紙、みやこ新聞の朝刊。社会面を開けてキツネの顔に近づける。


「……!? 」


  京都・学生薬物

  被疑者 意識不明の重体

   狐面の不審者? 目撃される

  

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