第23話 初の依頼

湯豆腐会が散会となり、キツネ亭はキツネとダクだけになる。

キツネが布団を敷いて寝るその横で、座布団に毛布をかぶせてダクが寝床にする。


『キツネ、さっきあんたコーヒー淹れながら、しみじみしとったなぁ』


毛布にくるまりながら首をキツネに向けて話しかけるダク。


「ああ……なんかこのうちに人がぎょうさん来ること、そんなになかったからなぁ」


『うちもこんなにぎょうさんの人に怖がられんと認識されんのは、多分初めてやわ』


「……そうか……ダクもたいへんやったんやな」


『そやなぁ。たいへんやったわ。でも』


ダクは過去のに課されたつらい過去を思い出す。


『でもな。今、うちは、きっと幸せなんやと思う』


「それなら、よかった」


『自分のことがわかってもらえる、それってどんな存在にとっても、必要なことなんやね』


確かに、と豆電球だけになった電灯を眺めてながら物思いに耽るキツネ。


「人間は欲深く、罪深い存在やから……色々と迷惑かけたんやと思う。ごめんな」


『キツネが謝ること、ちゃうて。あんたやっぱりヘンやで。ほんまに……』


「これからも仲良うやっていこな。ダク」


『……うん』


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翌朝、朝の散歩から山上豆腐店へのお揚げさんの受け出しを終え帰宅すると、慶子が家の前で待っていた。


「キツネさん!おはようございます!」


「おはよう、慶子さん」


「(小声で)ダクさん、おはようございます」


『(小声で)おはようさん、慶子ちゃん』


「ウママチキツネコーポレーションに、お仕事の依頼が来ました!」


「はやっ」


『慶子ちゃん、もしかして伏見の方様から回ってきた仕事? 』


「というか、伏見様からしか今のところは来ないですよね」


『うむぅ』


「で、お仕事の依頼の、肝心の内容は……」


「伏見のお稲荷さんの駐車場で、最近薬物のやり取りがされててな」


慶子の後ろから、ぬうっと現れる伏見氏。


「うわっ、伏見さん、もう少し普通に現れてください」


キツネの懐で震えるダク、だが、最初の頃に比べれば震えも小さくなっているようだ。


「薬物……ですか」


動じない慶子。大物なのかも知れない。


スマホで検索をして、ニュース記事を見つけるキツネ。


”神社の駐車場で大麻所持 大学生を逮捕"


「ああ、それや、キツネ君」


伏見がスマホを覗き込む。


「確か……他にも1件、ありましたよね。最近」


夏だったか秋口だったか、確かニュースになっていたのを思い出すキツネ。


「キツネ君、君が思い出すだけで今年だけで2件、これはお稲荷さんの名前に泥塗る行為や。パトロールと背後の調査をお願いしたい」


伏見は腕組をしながらうなずき、キツネを見やる。


「え、でもそれって警察の仕事ですよね? 」


「見事解決の暁には、100万円」


との伏見氏の発言に


「謹んでお受けいたします」


頭を下げるキツネ。


『現金なやっちゃな』


キツネの懐から顔を出すダク。


「現金だけに、ですか? 」


よくわからない発言をする、慶子であった。

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